EPAが人を幸せにする?――日本人女性医療福祉職者での検討

 魚を食べると幸せになれるかもしれない――。日本人女性を対象に行った研究から、魚油に多く含まれている「エイコサペンタエン酸(EPA)」の血中濃度が高い人ほど、幸福感が高いという関連が報告された。ただし、同じように魚油に多く含まれている「ドコサヘキサエン酸(DHA)」については、やや異なる結果が示された。両者はいずれもオメガ3(ω3)脂肪酸という必須脂肪酸だが、メンタルヘルスへの影響は同等でない可能性がある。

 この研究は、金沢大学医薬保健学域の坪井宏仁氏らが、女性医療福祉職者を対象に行ったもので、詳細は「Nutrients」に11月11日掲載された。ω3脂肪酸には心臓血管系の保護作用があることが知られているが、メンタルヘルス上のメリットも指摘されている。しかしそれらの研究の大半はEPAとDHAを区別していない。EPAの血中濃度はDHAよりも低く、脳を構成する脂質はほとんどがDHAとアラキドン酸であるが、神経系への影響はDHAよりも強い可能性が基礎研究から示されている。そこで坪井氏らは、両者を区別したうえで、主観的幸福感や、やり甲斐との関連を検討した。

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 研究の対象は、静岡県内の複数の医療関連施設の女性看護師および介護福祉関連職員、計140人。年次健診に合わせて、主観的幸福感(Subjective Happiness Scale;SHS)とやり甲斐(Visual Analogue Scaleで評価)を調査した。乳び血清のためω3脂肪酸の測定に影響が生じる可能性のある参加者などを除外し、133人のデータを解析対象とした。

 解析対象者の平均年齢は45.4±13.2歳で、閉経前の人が53.4%を占め、ω3脂肪酸濃度はDHAが414.7±150.5μmol/L、EPAが184.5±113.1μmol/Lであり、体内でDHAやEPAに変換されるα-リノレン酸(ALA)は81.8±30.8μmol/Lだった。なお、以下に記す結果について、論文中ではω3脂肪酸濃度を多価不飽和脂肪酸に占める割合(%)との関連で述べているが、坪井氏によると実測値で検討しても同様の関連が認められるという。

 年齢、BMI、閉経前か後か、身体活動習慣、間食習慣で調整した上で、ω3脂肪酸と幸福感や、やり甲斐との関連を解析。その結果、DHAとEPAは、幸福感ややり甲斐と有意な正の相関が認められた。一方、ALAは幸福感との相関はなく、やり甲斐とは有意な負の相関が認められた。幸福感に対する相関係数は、DHAがr=0.20、EPAがr=0.27であり、EPAの方が相関が強かった。なお、やり甲斐に対する相関係数は、DHAがr=0.21、EPAがr=0.20であり、ALAはr=-0.30。

 次に、幸福感を従属変数とする回帰分析を施行。すると、EPAとの相関はβ=0.25(P=0.03)で引き続き有意だったが、DHAはβ=0.13(P=0.19)となり、有意性が消失した。また、月経のある参加者は閉経後の人よりも、幸福感が高かった。

 以上のように、本研究ではEPAとDHAとでは幸福感との関連に差が存在することが示された。このような差が生じる背景について、著者らは、中枢神経系における両者の作用機序の違いを述べている。EPAの代謝物は、幸福感を高めるカンナビノイド受容体への親和性がDHA代謝物より圧倒的に高いこと、また神経機能を阻害する炎症に関わる接着分子(VCAM-1やICAM-1)の働きを低下させる機能が影響しているのではないかと考察している。

 著者らは今回の研究を、「幸福感とDHA、EPAの関係を個別に検討した初めての解析」と位置付けている。そして、横断研究であるために因果関係は不明なものの、「EPAがわれわれの幸福感の維持に多少なりともメリットがあるかもしれない」と、今後の研究に期待を示している。

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HealthDay News 2020年12月21日
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