幼少期の被虐体験が高齢期の医療費増加の一因――東京医科歯科大学

幼少期に虐待を受けた人は高齢になってからの医療費が1年当たり11万円以上高いとする推算結果が、「JAMA Network Open」1月8日オンライン版に掲載された。日本全体では、年総額約3,330億円の医療費負担につながっているという。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の伊角彩氏らは、日本老年学的評価研究(JAGES)のデータと健診および診療報酬請求データを用いて、高齢者の医療費を幼少期の被虐体験の有無で比較検討した。研究対象はJAGESに参加しているある政令指定都市の要介護認定を受けていない65~75歳の住民のうち、幼少期の被虐体験に関する質問に回答した978人(平均年齢70.6±2.9歳、うち男性が43.6%)。

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幼少期の被虐体験は、家庭内暴力の目撃、身体的虐待、心理的ネグレクト、心理的虐待の4項目を評価した。例えば「父親が母親に対して暴力を振るっていた」という質問に「はい」と回答した場合は「家庭内暴力の目撃経験あり」、「親から愛されていると感じていた」に「いいえ」と回答した場合は「心理的ネグレクトの経験あり」と判定した。
対象者978人のうち、4.5%が家庭内暴力の目撃、1.9%が身体的虐待、10.6%が心理的ネグレクト、5.7%が心理的虐待を経験していて、18.0%は何かしらの被虐体験があった。幼少期の被虐体験がある人はない人に比べ、教育歴が短く、主観的健康感が低く、腎疾患や筋骨格疾患などの有病率が有意に高かった。
幼少期の被虐体験の有無別に年間医療費(歯科医療費を除く)を試算すると、被虐体験がない場合は41万3,013円、被虐体験ありでは54万9,468円で、その差額は13万6,456円に上り、有意差が認められた。年齢と性別で調整すると差額は11万6,098円に縮小したものの引き続き有意だった。
虐待の種別に見ると、身体的虐待については経験なしで43万1,106円、経験ありで72万6,254円、差額29万5,148円、心理的ネグレクトは経験なしで41万2,082円、経験ありで57万3,481円、差額16万1,400円で、これらの差はいずれも有意だった(年齢と性別で調整後は非有意)。家庭内暴力の目撃の有無や心理的虐待の有無では有意差は認められなかった。
前述の11万6,098円という差額を基に、国内の前期高齢者医療コスト全体への影響を計算すると、歯科医療費を除いて年間約3,330億円の医療費が幼少期の被虐体験により発生していると推計された。
これらの結果を踏まえ研究グループでは、「幼少期に虐待を受けることが高齢期の医療費にまで影響する可能性が示された。児童虐待を未然に防ぐことや、早期に発見・介入することが重要だと考えられる。さらに、虐待を減らす取り組みは個人だけでなく社会全体の負担軽減にもつながるのではないか」とまとめている。

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