薬剤師による運動介入でフレイル予防

 処方薬を受け取りに薬局を訪れた慢性疾患のある高齢者に対して、薬剤師が運動に関する簡単な情報提供を行うことが、フレイルの予防につながる可能性が報告された。一般社団法人大阪ファルマプラン社会薬学研究所の廣田憲威氏(研究時点の所属は武庫川女子大学薬学部臨床薬学研究室)らによる研究によるもので、詳細は「BMC Geriatrics」に4月7日掲載された。

 フレイルはストレスに対する耐性が低下した状態で、介護リスクの高い「要介護予備群」。介護が必要な状態になってからの回復は困難なことが多いが、フレイル段階であれば、運動や食事の習慣を改善することで元の状態に戻ることができるため、早期介入が重要とされる。他方、地域の薬局には近年、調剤業務にとどまらず、地域住民の健康を支える機能が求められるようになってきた。フレイル予防に関しても、薬局での栄養評価などの試みの報告がなされてきている。ただし、運動介入の報告はまだない。今回の廣田氏らの研究は、以上を背景とするもの。

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 この研究は、大阪府内の11の薬局における無作為化比較試験として実施された。対象は、処方薬の受け取りのため薬局を毎月訪れる慢性疾患のある70~79歳の高齢者。無作為に2群に分け、1群に対しては、服薬指導に加えて「ナッジ」を利用した運動の勧めを行った。ナッジとは、わずかに後押しする行為のことで、本人の気づきを促し行動変容につなげることを狙うもの。本研究では、薬局を訪れるたびに、自宅でできる簡単な運動の方法(4分の1スクワット、つま先立ちなど)が書かれたプリントを手渡したり、運動を行っているか確認したりした。ただし、実際に運動を行うか否かや、どのような運動を行うかは、患者の判断に任せた。一方、他の1群に対しては、通常の服薬指導のみを行った。

 2021年1~3月の間に薬局を訪れた患者のうち103人が研究参加に同意した。骨粗鬆症・がん・メンタルヘルス疾患・認知症の治療薬やステロイド薬が処方されている患者、BMI30以上または低栄養、医師から運動制限が指示されている患者は除外されている。評価項目は、登録時点と6カ月後の体組成計で測定した筋肉量と、椅子立ち上がりテスト(椅子に座って立つという動作をなるべく速く5回繰り返す)の所要時間の変化など。

 研究登録時点で両群間に、年齢や性別の分布などに有意差はなかった。研究期間中に、介入群の15人、対照群の18人が受診間隔の延長などの理由で脱落し、解析は介入群46人、対照群24人を対象に行われた。

 6カ月間での筋肉量の変化は、介入群が1.08±7.83%(95%信頼区間-1.24~3.41)、対照群は-0.43±2.73%(同-1.58~0.72)であり、介入群において増加傾向があったものの有意でなく、群間差も非有意だった(P=0.376)。それに対して椅子立ち上がりテストについては、介入群の65.2%で所要時間の短縮が認められ、対照群ではその割合は29.2%であり、群間に有意差が認められた(所要時間短縮のオッズ比4.48、P=0.00563)。

 椅子立ち上がりテストでは介入効果が示唆されたのに対して筋肉量には有意差が生じなかったことについて著者らは、「サンプルサイズが小さすぎたこと、ナッジを利用するのみでは介入期間が短すぎたことなどが理由として考えられる」と述べている。論文の結論は、「フレイル予防が社会的な課題となる中で、地域の薬局薬剤師によるナッジを利用した簡単な運動介入が、高齢者の行動変容につながる可能性を示すことができた」とまとめられている。また著者らは、「高齢者が毎月医療機関や地域薬局のサービスを利用することが、社会とのつながりを維持する上でいかに重要かを裏付けるものであり、地域薬局が高齢者の『通いの場』として活用できる」と付け加えている。

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参考情報:リンク先
HealthDay News 2023年6月5日
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