小児精神科初診患者の幻聴体験は自殺の行動化と関連――国内横断研究

小児精神科を受診する初診患者が幻聴体験を有する場合、受診時点での自殺行動との関連性が高いことを示すデータが報告された。横浜市立大学大学院医学研究科精神医学科の藤田純一氏らの研究によるもので、詳細は「Child and Adolescent Mental Health」に8月25日掲載された。
これまでの研究から、若年の精神科患者においては幻覚や妄想をはじめとする精神病体験が自殺リスクと関連することが示唆されている。ただしその関連性は、評価基準(希死念慮、自殺企図、自殺未遂など)により異なる可能性があり、さらにさまざまな精神病体験の中で多数を占める幻聴体験と幻視体験を分けて検討した研究はわずかしかなく、不明点が多く残されている。そこで藤田氏らは、小児精神科患者の自殺の前段階としての自殺計画と、実行した結果の自殺企図との関連性を、幻聴体験や幻視体験の有無別に比較検討する横断研究を行った。

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研究参加者は、2015年4月~2018年3月に神奈川県内の3カ所の小児精神科外来を受診した10~15歳の初診患者のうち、知的障害がなく研究参加の同意が得られた1,248人(平均年齢は12.6歳、男児51.6%)。自記式質問票を用いて、受診前2週間での精神病体験(幻聴体験もしくは幻視体験)の有無、自殺行動(自殺企図、自殺計画)の有無を把握し、また「こころとからだの質問票(PHQ-9)」により抑うつ状態のレベルを判定した。
179人(14.3%)は精神病体験に関する質問に回答せず、精神病体験の有無を把握できたのは1,069人。そのうち230人(21.5%)は何らかの精神病体験があると回答し、その内訳は幻聴体験が158人(14.8%)、幻視体験が157人(14.7%)、幻聴体験と幻視体験の両方が85人(8.0%)だった。またPHQ-9が27点中14点以上を「大うつ病エピソード」と定義すると、全体の27.0%がこれに該当した。精神病体験を有する患者はそうでない患者よりも、大うつ病エピソードの有病率が有意に高かった。
自殺企図の認められる患者の割合を精神病体験の有無で比較すると、幻聴体験ありでは31%、なしで11%、幻視体験ありでは35%、なしで11%、両者の体験ありでは45%、両者なしで12%であり、いずれも有意差が認められた(全てP<0.01)。同様に、自殺の計画についても、幻聴体験ありでは15%、なしで3%、幻視体験ありでは14%、なしで3%、両者の体験ありでは21%、両者なしで3%であり、やはりいずれも有意差が認められた(全てP<0.01)。
年齢と性別、および、大うつ病エピソードで調整後、幻聴体験もしくは幻視体験いずれかの精神病体験がない群を基準に比較すると、自殺の計画は幻視体験のある群、自殺企図は幻聴体験のある群で、以下のようにオッズ比(OR)の有意な上昇が認められた。自殺の計画については、幻視体験ありの場合にOR2.5(95%信頼区間1.5~4.1)で有意、幻聴体験ありの場合はOR1.4(同0.8~2.4)で非有意だった。自殺企図については、幻聴体験ありの場合にOR2.8(同1.3~6.1)で有意、幻視ありの場合はOR1.8(同0.9~3.8)で非有意だった。なお、それぞれの自殺行動と幻視体験および幻聴体験の関連に、有意な交互作用効果は認められなかった。
著者らは本研究により、「小児精神科外来初診患者の5人に1人が精神病体験を有すること、幻聴は自殺企図と関連し、幻視は自殺の計画と関連していることが明らかになった」とまとめ、「精神病体験の中でも特に幻聴が認められる場合は自殺の行動化と関連性が高い可能性があることに、臨床医は注意する必要がある」と述べている。

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