補聴器で難聴の人の認知機能低下が緩やかに――日本人での縦断的検討

中等度の難聴の人が補聴器を使うと一部の認知機能の低下が抑制される可能性のあることが、日本人対象の研究から明らかになった。国立長寿医療研究センター耳鼻咽喉科の杉浦彩子氏らが行った縦断的研究デザインでの検討結果であり、詳細は「PLOS ONE」に10月13日掲載された。
難聴と認知機能低下との関連は多くの疫学研究で示されており、補聴器の使用が認知機能低下を抑制するとの海外からの研究報告も見られる。ただし、それを否定するメタ解析の結果も報告されている。また、補聴器の使用率は国によって異なり、例えば日本では多くの自治体で70dB以上の高度難聴者に補聴器費が助成されるために中等度難聴者の補聴器使用率は低く、患者対象の異なる海外での研究結果が日本人にも当てはまるとは限らない。これを背景として杉浦氏らは、中等度難聴のある地域在住高齢者を、補聴器使用の有無で2群に分け認知機能の変化を縦断的に検討した。

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解析対象は、同研究センターが行っている「老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の参加者のうち、参加登録時に中等度難聴を有していた40~79歳の407人。平均年齢は74.6±5.3歳、男性が68.6%で、良い方の耳の聴力が45.0±5.8dB、教育歴は10.5±2.5年だった。なお、認知症の既往のある人や研究に必要なデータが欠落している人は解析対象から除外されている。中等度難聴は日本聴覚医学会の判定基準(良い方の耳で測定した500Hz、1,000Hz、2,000Hz、4,000Hzでの平均が40~69dB)に基づき定義した。
追跡期間は平均4.5±3.9年で、その間に2年ごとに追跡評価が行われ、認知機能の評価回数は平均2.9±1.7回だった。追跡期間中に補聴器を使用した人は128人であり、31.4%を占めていた。
ベースライン時において、補聴器使用群は非使用群に比較し、年齢が若く、聴力が低く、教育歴が長く、うつレベル(CES-Dスコア15点超の割合)が低いという有意差が存在した。ウェクスラー成人知能検査スケールの簡易版で評価した認知機能の下位尺度のうち、絵画完成と数字記号置換のスコアは補聴器使用群の方が有意に高かったが、一般的知識や類似性判断のスコアは有意差がなかった。
認知機能に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、教育歴、喫煙習慣、肥満、高血圧・糖尿病・脂質異常症・虚血性心疾患・脳卒中の既往、うつレベル、婚姻状況、聴力、職業、収入)で調整後、追跡期間中の認知機能は、絵画完成を除く3つの指標はいずれも有意に低下していた。また、ベースライン時に存在していた、絵画完成と数字記号置換のスコアが補聴器使用群で高いという有意差は、引き続き維持されていた。補聴器の使用と時間経過の相互作用には、一般的知識において有意差が認められた(P=0.040)。
得られたデータを基に、長期的な認知機能の変化を予測したところ、一般的知識は補聴器を使用した場合には12年後にも有意に低下せず(P=0.066)、一方、補聴器を使用しない場合は12年後に有意に低下し(P<0.001)、スコアの低下速度に群間差が生じると計算された(P=0.040)。類似性判断、絵画完成、数字記号置換のスコアの低下速度には、有意な群間差は生じないと予測された。
これらの結果から著者らは、「中等度難聴のある高齢者では、補聴器の使用が一般的知識の低下に対する保護効果をもたらす可能性がある」と結論付けている。また、そのメカニズムの考察として、「中等度難聴患者は情報を十分に取り入れられていない可能性があり、補聴器の使用によりそれが解消され、一般的知識が保持されるのではないか。ただし、補聴器使用者は絵画完成、数字記号置換などで把握される流動性知能(新しい環境に適応するために重要な能力)が高い傾向が示唆されており、この点も一般的知識の保持に影響した可能性がある」と記している。

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