HFpEFはHFrEFよりフレイルが多い――YOSACOI研究

 左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)患者は、左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者よりも、フレイル該当者が多いことを示すデータが報告された。高知大学医学部老年病・循環器内科学の濱田知幸氏、北岡裕章氏らの研究によるもので、詳細は「ESC Heart Failure」に3月30日掲載された。

 フレイルとは、さまざまなストレスへの耐性が低下していて、要介護リスクが高い状態のこと。要介護への進行を防ぐために、早期発見と運動や食事などへの介入が必要とされる。近年、心不全患者はフレイルリスクが高い可能性を指摘した報告が増えている。他方、心不全はかつて、心臓の血液を送り出す力(左室駆出率)が低下した状態「HFrEF」が大半を占めると考えられていたが、高齢化などを背景に、左室駆出率が保たれているにもかかわらず心不全症状の現れる「HFpEF」が増加し注目されている。しかし、HFrEFとHFpEFとでフレイルリスクに差があるのかは明らかでない。

心不全に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

 北岡氏らはこの点について、高知県で行われている急性非代償性心不全患者レジストリ「YOSACOI研究」のデータを用いた解析を行った。YOSACOI研究は2017年にスタートした同県での多施設共同研究であり、1,061人が登録されている。今回の検討では、フレイルに関するデータが欠落している患者、左室駆出率が軽度低下(40~49%)したHFmrEF患者などを除き、645人の心不全患者〔年齢中央値81歳(四分位範囲72~87歳)、女性49.1%〕を解析対象とした。

 左室駆出率50%以上をHFpEFとすると、61.2%が該当した。一方、左室駆出率40%未満のHFrEFは38.8%だった。両者の臨床像を比較すると、HFpEF群は高齢で(中央値84対76歳)、女性が多く(61.0対34.8%)、ヘモグロビン値が低い(同11.1対12.7mg/dL)などの有意差が見られた(いずれもP<0.001)。一方、BMIや高齢者栄養リスク指数(GNRI)で評価した栄養状態は有意差がなかった。

 長谷川式認知症スケール(HDS-R)で評価した認知機能スコアは、HFpEF群の方が有意に低かった(26.0対27.0点、P=0.049)。ただし、認知的フレイル(HDS-R20点以下で定義)の割合は有意差がなかった。このほか、HFpEF群は、高血圧、慢性腎臓病、貧血の有病率がHFrEF群より有意に高かった。

 身体的フレイルの判定には、日本版CHS基準(握力、歩行速度、身体活動状況、疲労感、意図しない体重減少の5項目で評価)を用いた。評価項目の該当数は、HFpEF群が中央値3個、HFrEF群が同2個であり、有意差が存在した(P=0.026)。結果として、身体的フレイル有病率はHFpEF群55.2%、HFrEF群46.8%と、HFpEF群が有意に高かった(P=0.043)。フレイル判定の評価項目を個別に見ると、握力は男性(P<0.001)と女性(P=0.041)ともにHFpEF群が有意に低く、歩行速度はHFpEF群が有意に遅かった(P<0.001)。

 身体的フレイルに独立して関連する因子を多変量解析で検討した結果、HFpEFとHFrEFでは異なる因子が抽出された。具体的には、HFpEF群では年齢〔1歳ごとにオッズ比(OR)1.03(95%信頼区間1.010~1.050)〕が抽出され、反対にアルブミン値とは負の関連が認められた〔1mg/dLごとにOR0.334(同0.192~0.582)〕。一方、HFrEF群では年齢やアルブミン値は有意な関連がなく、女性〔OR2.150(同1.030~4.500)〕と貧血〔OR2.840(同1.300~6.230)〕の2つが、それぞれ独立して身体的フレイルに関連していた。

 なお、心不全の重症度の指標である左室駆出率やBNP、NYHAステージ、および、糖尿病、虚血性心疾患、慢性腎臓病といった心不全リスクを高める疾患は、いずれも身体的フレイルに関連する有意な因子として抽出されなかった。

 著者らは、「HFpEFはより高齢患者に多く、HFrEF患者よりも身体的フレイルの有病率が高い。また、心不全の重症度ではなく、アルブミン低値や貧血などが身体的フレイルに関連していることが明らかになった。心不全患者の身体的フレイルの抑止には、それらが介入標的となるのではないか」と述べている。

糖尿病のセルフチェックに関する詳しい解説はこちら

糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。

糖尿病のセルフチェックに関連する基本情報

参考情報:リンク先
HealthDay News 2022年4月25日
Copyright c 2022 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
記載記事の無断転用は禁じます。