カラオケで認知機能と嚥下機能が改善――理研

カラオケを練習すると認知機能が改善する可能性が報告された。さらに、食べ物や飲み物をうまく飲み込めなくなる嚥下障害の予防も期待できるという。理化学研究所バトンゾーン研究推進プログラム(BZP)の宮﨑敦子氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」2月24日オンライン版に掲載された。
認知機能訓練の1つとして、文章を声に出して読み上げたり計算問題を解いたりする「学習療法」と呼ばれる手法がある。カラオケは歌詞を声に出して歌うため、学習療法に似た側面を持つ。また、舌や呼吸筋の訓練にもなり、嚥下機能や呼吸機能を維持・改善する可能性もある。宮﨑氏らは、カラオケの持つこのような特徴が、実際に効果を発揮するのかどうかを調べるために、高齢者対象の介入試験を行った。

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研究の対象は、都内2カ所の介護施設に居住する65歳以上の高齢者26人。カラオケの練習をする群(14人)と、カラオケの練習はしないかわりに認知機能訓練にもなると言われているスクラッチアートをする群(12人)に分け、12週間介入した。ベースライン時の年齢、教育歴、FABスコア(認知機能の指標)、舌圧(舌の機能評価の指標)、呼吸機能、SMI(骨格筋量指数)などに群間の有意差はなかった。
カラオケの練習には、歌詞と歌い出しのタイミングがモニターに表示される機器ではなく、歌詞カードを見ながら歌う方式を用いた。その理由は、モニタータイプはコスト面から高齢者の個人所有に支障があること、および、歌い出しのタイミングを覚えることが認知機能の訓練につながる可能性があるため。
カラオケ群の被験者には週に1時間、プロの指導者の下で練習してもらうほか、週に1曲、課題曲を示し個人的に練習してもらった。対照のスクラッチアート群に対しても週に1回、教室形式で練習してもらい、課題として週に1枚を完成してもらった。
12週間の介入による両群の変化について、まず認知機能を比較すると、カラオケ群ではFABスコアのうちの葛藤的指示への反応(指示された内容と正反対のことを瞬時に実行できるかどうか)が0.46点上昇、対照群では0.30点低下し、群間に有意差が認められた(P=0.003)。また、抑制制御(指示された内容のうち実行しなくてよいものを瞬時に判断できるかどうか)は同順に0.69点、0.10点それぞれ上昇し、カラオケ群でより大きく改善していた(P=0.013)。
次に、身体機能関連の変化を比較すると、舌圧はカラオケ群3.71kPa(キロパスカル)増加、対照群は1.55kPa減少していた(P=0.050)。また、呼吸機能のうち吸気1秒量(1秒間で吸い込める空気の量)は同順に0.18L増加、0.29L減少で、群間に有意差が認められた(P=0.036)。
これらの結果を踏まえ、研究グループでは、「カラオケの練習は認知機能訓練の学習療法と同様の効果があることが示された。また、舌圧や呼吸機能を改善したことから、嚥下機能の維持・向上も期待できる」とまとめている。
なお、本検討では、カラオケによってFABスコアの葛藤的指示への反応が改善したが、学習療法の効果を検討した先行研究では、有効性が示されていない。学習療法ではなく、カラオケの練習で効果が得られた理由について、宮﨑氏は「歌詞カードを見て正しいタイミングで歌い出すには、不適切な行動の抑制(間違ったタイミングで歌わないこと)が必要であり、その訓練が効果発現につながったのではないか」と述べ、「モニターにナビゲーションが表示されるカラオケで、同様の効果を得られるかは不明」としている。
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