自然災害後の血糖管理に影響する因子とは? 熊本地震で被災した糖尿病患者を対象に調査


熊本大学大学院糖尿病・代謝・内分泌内科講師の近藤龍也氏らの研究グループが「Journal of Diabetes Investigation」7月6日オンライン版に発表した。
大規模な自然災害後には糖尿病患者の血糖コントロールが悪化することが数多くの研究で報告されており、熊本地震でも余震が続く中、長引く避難所生活や車中泊による健康への悪影響が懸念されていた。
研究グループは今回、熊本地震で被災した糖尿病患者を対象に、被災前後のHbA1cやグリコアルブミン(GA)などの血糖指標の変化と血糖コントロールに影響を及ぼす因子について調査を実施した。
研究では、同大学病院を定期的に外来受診していた糖尿病患者727人のうち基準を満たした557人を対象に、熊本地震で被災した前後それぞれ13カ月間の血糖指標などのデータを収集し、解析した。

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また、自記式質問紙調査により地震に関連した被害や被災後の生活習慣の変化を調べたほか、心的外傷後ストレス障害(PTSD)も評価した。
なお、対象患者の内訳は、1型糖尿病患者が55人、2型糖尿病患者が449人、その他の特定の機序や疾患による糖尿病患者が53人であった。
その結果、1型糖尿病およびその他の特定の機序や疾患による糖尿病患者では、観察期間を通して、HbA1c値とGA値には大きな変動はみられなかった。
この理由には、約3割の1型糖尿病患者が環境の変化に応じて、自己判断でインスリンの投与量を調節していたことが挙げられたという。
一方で、2型糖尿病患者ではHbA1cの平均値は、被災前の7.33%から被災から1~2カ月後には7.22%に低下したが、その後は徐々に上昇し、GA値でも同様の傾向がみられた。
また、被災後のHbA1c値の低下には「早期のライフラインの復旧」と「十分な睡眠の確保」が、その後の血糖コントロールの悪化には「糖尿病治療薬の供給不足」「食料不足」「家屋の倒壊」「職場環境の変化」が影響していたことも明らかになった。
以上の結果から、研究グループは「糖尿病患者の血糖コントロールには、被災直後では迅速なライフラインの復旧などの環境整備が、その後の復旧・復興期では薬剤や食料の十分な供給が重要な可能性がある。
また、被災による被害が長引くほど患者のストレスは増大し、血糖コントロールにも悪影響が出ることから、自宅や職場の環境整備も重要になる」と述べ、これらの因子を管理するには社会全体で包括的なケアを行うことが求められるとしている。

糖尿病とは?血糖値や症状に関する基本情報。体内のインスリン作用が不十分であり、それが起因となり血糖値が高い状態が続いていきます。症状など分類別に解説しています。