アルツハイマー病治療薬に「包括的プログラム」追加で効果7.5倍

アルツハイマー病が進行すると、着替えや入浴といった日常生活に必要な基本的な動作が難しくなる。しかし、個々の患者に合わせた行動療法や介護者のサポートなどを組み合わせた包括的な個別化プログラム(以下、包括的プログラム)を薬物療法と併用することによって、こうした機能を取り戻せる可能性が米国で実施された小規模なランダム化比較試験で示された。しかも、その効果は薬剤のみによる治療の約7.5倍に達していたという。
この試験は、2003年に報告されたアルツハイマー病治療薬メマンチンの臨床試験の論文の筆頭著者である米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン医療センターのBarry Reisberg氏が率いたもの。アルツハイマー病協会国際会議(AAIC 2017、7月16~20日、英国・ロンドン)で結果が発表された。
試験の対象は、中等度~高度のアルツハイマー病患者とその介護者20組。このうち10組をメマンチンに加えて包括的プログラムを実施する群(包括的プログラム群)に、残る10組をメマンチンと一般的な地域でのケアを実施する群(通常ケア群)にランダムに割り付けた。期間は28週間とした。

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包括的プログラムは、アルツハイマー病患者は子どもが発達する過程とは逆の順序で日常生活に必要な機能を失っていくという“retrogenesis”と呼ばれる仮説に基づき計画されたもの。Reisberg氏らは、その機能を初めて獲得した年齢に合わせた訓練を行えば、再びその機能を取り戻すことができると考えているという。具体的なプログラムの内容としては、専門スタッフが患者の自宅を訪問し、個々の患者に合わせて認知機能や身体機能の活性化につながる訓練や、患者の介護者に対する指導などが行われた。
その結果、28週間後に日常生活に必要な機能の評価スコア(FAST)が通常ケア群では3ポイント向上したのに対し、包括的プログラム群では6ポイントも向上していた。また、その差は3ポイントだが、以前Reisberg氏らが実施したメマンチンの臨床試験ではプラセボ群と比べたメマンチン群における同スコアの改善効果は0.4ポイントだったことから、同氏は「包括的プログラムとメマンチンの併用療法によるアルツハイマー病患者の機能を改善する効果は、メマンチン単独の7.5倍」と説明。「薬物療法は重要だが、それだけでは不十分であるのは確かだ。薬剤の効果は比較的小さいが、今回検討したプログラムの追加による効果は極めて大きいと考えられる」との見方を示している。
米国のアルツハイマー病患者数は500万人を超えており、介護のほとんどは家族により行われている。老年医学の専門家である米ノースウェル・ヘルスのGisele Wolf-Klein氏は「患者を助けるだけでなく、疲弊する介護者の負担軽減のためにも、行動療法や支援サービスのさらなる拡充が必要とされている」と話す。また、特に進行したアルツハイマー病患者向けのサービスは少ないことから、同氏は「今回検討された包括的プログラムは進行した患者をターゲットとしているという点が注目される」としている。

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