歩行速度の低下は認知障害のサイン?

年齢を重ねるにつれて、高齢者の動作が少しずつ遅くなるのは珍しいことではない。しかし、高齢者の歩行速度の低下は認知障害のサインである可能性が、米ピッツバーグ大学疫学部のAndrea Rosso氏らによる研究で示唆された。この研究結果は「Neurology」6月28日オンライン版に掲載された。
Rosso氏は「通常、医師は患者の歩行速度の低下に気づいても身体機能の問題と考え、理学療法を勧める場合が多い。しかし、脳の病態が歩行速度の低下に関与している可能性も考慮し、認知機能の評価についても検討する必要があるかもしれない」としている。
今回の研究は、研究開始時に認知機能が正常だった70~79歳の男女175人を対象に実施された。14年間以上にわたって複数回、歩行速度を評価したほか、研究開始から10年後または11年後にはMRIにより脳の特定の領域の容積を測定。さらに14年後には認知機能を評価した。

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その結果、追跡期間中に歩行速度が低下した高齢者では、14年後に認知障害がみられる可能性とともに、脳の右側の「海馬」と呼ばれる領域が萎縮する可能性が高いことが示された。この領域は記憶のほか、安静時や運動時に空間に対する姿勢を制御する空間識を司っているという。
Rosso氏らは「歩行速度の低下は、追加の検査を必要とする認知機能の低下を示す兆候である可能性があるため、医師は高齢患者の歩行速度を時々チェックして、変化がないかどうか確認すべき」と指摘。また同氏は「認知症の予防と早期治療は全世界で課題となっているが、現在行われているスクリーニング法は侵襲性が高く、費用も高い。それに対し、今回われわれが検討した検査法はストップウォッチとテープ、18フィート(約5.5m)の廊下があれば実施でき、年1回5分ほどの時間しかかからない」と強調している。
さらに同氏は、「認知機能の低下に早期に気づくことができれば、その進行を遅らせる治療がある。また、患者や家族にとっても、余裕をもって将来必要になるかもしれない介護の準備をする時間を確保できる」と話している。

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