脳心血管疾患リスクの高い職業が明らかに――労災病院入院データの解析

職業と脳心血管疾患リスクとの関係が報告された。東海大学医学部基盤診療学系衛生学公衆衛生学の深井航太氏、立道昌幸氏らが労災病院グループの入院患者データを解析した結果であり、詳細は「Scientific Reports」に12月14日掲載された。男性では、飲食物調理従事者、自動車運転者、漁業従事者、土木作業従事者、運搬作業従事者などは脳血管疾患(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)のリスクが高いこと、脳血管疾患と心筋梗塞ではリスクの上昇・低下と関連する職業の傾向が異なることなどが明らかになった。
仕事と疾患リスクとの関連はこれまでにも複数の研究結果が報告されている。しかし、職業の大分類や職業的な地位との関連を解析した研究が多く、実際の疾患予防対策への応用が難しい。それに対して、深井氏らの研究では、職業の詳細分類をターゲットとして疾患リスクとの関連を性別に検討し、職業特異的な未知の潜在的リスクの検出を試みた。

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研究デザインは複数施設の大規模症例対照研究で、対象者は2005~2015年の全国の労災病院〔34施設、約1万3,000床以上(当時)〕の20歳以上の入院患者のうち、無職者や学生、主婦などを除いた56万2,902人。入院時に、脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血、急性心筋梗塞のいずれかが診断された患者2万3,792人(男性75.2%)を脳心血管疾患群とし、それ以外の理由により、同時期に同一施設に入院した患者53万9,110人(同62.4%)を対照群として設定。この2群を比較することにより、職業ごとの脳心血管疾患リスクを解析した。
検討対象とした職業は、総務省の「日本標準職業分類」でコード化されている80種の職業分類に準拠した。年齢、入院年度、喫煙、飲酒習慣、高血圧の有無、交代制勤務の有無の影響を調整した条件付きロジスティック回帰分析により、以下の結果が得られた。
まず、脳梗塞のリスクが統計学的有意に高い職業として、男性では医師・歯科医・獣医・薬剤師〔オッズ比(OR)1.56〕、著述家・記者・編集者(OR1.62)、自動車運転者(OR1.32)などが浮かび上がり、女性では建設機械運転従事者(OR4.55)のオッズ比が高かった。なお、男性の管理的公務員(OR0.51)と林業従事者(OR0.59)は、オッズ比が有意に低かった。
次に、脳内出血のリスクが高い職業として、男性ではサービス職業従事者〔飲食物調理従事者(OR1.88)や接客・給仕職業従事者(OR1.56)ほか〕や、商品販売従事者(OR1.65)、農業従事者(OR1.43)、漁業従事者(OR1.66)、自動車運転者(OR1.41)、船舶・航空機運転従事者(OR1.74)、建設従事者(OR1.69)、食料品製造作業者(OR1.65)などでオッズ比が高く、女性では建設従事者(OR2.51)のオッズ比が高かった。なお、女性の保健師・助産師・看護師(OR0.65)は、オッズ比が有意に低かった。
続いて、くも膜下出血のリスクが高い職業として、男性では専門的・技術的職業従事者〔農林水産技術者(OR4.72)、美術家・デザイナー・写真家・映像撮影者(OR4.32)ほか〕、外勤事務従事者(OR8.86)、介護施設サービス従事者(OR3.84)、漁業従事者(OR2.39)、自動車運転者(OR1.97)などでオッズ比が高く、女性では飲食物調理従事者(OR1.39)のオッズ比が高かった。なお、女性の営業・販売事務従事者(OR0.36)は、オッズ比が有意に低かった。
急性心筋梗塞のリスクに関しては、前記3つの脳血管疾患とはやや異なる結果が見られた。例えば男性では、調整因子の影響を除外後にも急性心筋梗塞の有意なリスク上昇が認められた職業は「その他の管理的職業従事者」というカテゴリー(OR1.46)のみだった。そして、農業従事者(OR0.82)や採掘作業者(OR0.59)などは、オッズ比が有意に低かった。
一方、女性の急性心筋梗塞リスクは、会社・団体等管理職(OR3.64)、外勤事務従事者(OR3.13)、商品販売従事者(OR1.49)、家庭生活支援サービス職業従事者(OR2.04)、販売類似職業従事者(OR1.71)、漁業従事者(OR2.43)、化学製品製造作業者(OR3.08)などの多くの職業でオッズ比上昇が認められた。この点に関して著者らは、「これらの職業では男性よりも女性の方が、精神的ストレスの負荷が大きい可能性がある」との推察を加えている。なお、女性の急性心筋梗塞リスク低下と関連している職業は存在しなかった。
これらの結果を深井氏は、「本研究は、産業保健の観点から、高リスクとなった職業における脳心血管疾患発症リスクのさらなる要因を検討し、予防プログラムを実施する上で、重要な情報になると考えられる」と総括している。

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