温泉療法・水中運動で痛みが改善する

 温泉などの入浴や、さらにそれに運動などを組合せた治療法(spa therapy)によって慢性疾患による痛みが軽減し、生活の質(QOL)が改善することが、国内外のランダム化比較試験のシステマティックレビュー(メタ解析を含む)の結果から確認された。東京農業大学大学院農学研究科環境共生学専攻の上岡洋晴氏らによる論文が、「International Journal of General Medicine」7月22日オンライン版に掲載された。

 温泉浴や水道水を用いた一般的な入浴を活用した統合医療は、多くの国で行われており、その効果を検証するランダム化比較試験が多数報告されている。それらを対象としたシステマティックレビューも報告されているが、さらにそれらに基づき全体としてはどうなのか、ということをオーバービュー(総括)した研究はほとんど実施されておらず、上岡氏らはその最新の取りまとめを行った。

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 対象論文の採用基準は、何らかの疾患の治療として温泉療法や入浴療法が施行されており、プラセボまたは他の異なる治療介入を対照としたランダム化比較試験に対してメタ解析を実施したシステマティックレビューで、2000年~2019年11月20日までに報告されたもの。アップデートされたシステマティックレビューについては新しい方を採用した。治療対象疾患は限定せず、国際疾病分類11版(ICD-11)にある全ての疾患を含めた。検索に用いたデータベースは、PubMed、CINAHL、Web of Scienceなどで、「温泉療法」「温泉医学」「入浴」などのキーワードを用いた。

 最初の検索でヒットした論文は40編で、そのうち採用基準を満たすものは18編だった。ICD-11に基づき治療対象疾患を分類すると、「筋骨格系および結合組織の疾患」が8編(44%)、「症状、徴候または臨床所見で他に分類されないもの」が5編(28%)、「循環器系の疾患」が4編(22%)、「神経系の疾患」が1編(6%)となった。

 これらの一次転帰を見ると、「痛み(疼痛)」に関しては、入浴に水中運動をプラスしていたか否かを問わず、14編の論文のほぼ全てが有効と報告していた。また「QOL」について検討した5編の論文の全てが有効と報告していた。「体力」や「身体機能」に関しては、筋力やバランス能力、有酸素性能力などが検討されており、入浴に水中運動をプラスして介入した検討では、ほぼ全てが有効性を報告していた。

 一方、水中運動を行わず、温泉浴(浸かる)などだけでは、体力や身体機能への有効性はほとんど認められなかった。「心不全」に関しては2編の論文があり、そのうち1編が有意な効果を報告していた。その他、慢性静脈不全、リンパ浮腫などへの介入効果の検討結果が報告されていたが、いずれも有意な改善は認められていなかった。

 著者らは本研究を、「温泉療法と水中運動のランダム化比較試験を対象とし、2000年代の最新のシステマティックレビューをオーバービューした初の研究」と位置づけ、一連の結果から「温泉療法は、筋骨格系疾患や結合組織の疾患による疼痛緩和に有効であり、QOLを改善することや、何より患者から受け入れられやすいことが特徴である。入浴だけでなく、水中での運動を付加することで、さまざまな疾患の患者の体力と身体機能を改善する可能性がある」とまとめている。

 また、今回の研究により温泉療法や水中運動に一定の有効性が確認されたことから、まだ臨床研究が十分に実施されていない疼痛を伴う慢性疾患における痛みを軽減する効果を発見し得る可能性があることに言及し、それを正しく評価するために「適切にデザインされた研究プロトコルで介入研究を実施する必要がある」と、今後の研究の方向性を述べている。

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参考情報:リンク先
HealthDay News 2020年9月14日
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