冠動脈疾患と末梢動脈疾患の患者像は、かなり異なる

下肢の末梢動脈疾患(PAD)は心血管疾患(CVD)の1つの病型であるが、リスク因子に関するデータがまだ少ない。そのため、CVDの中で比較的研究が進んでいる冠動脈疾患(CAD)のエビデンスを援用し、それを根拠にリスク管理を行っているのが現状だ。しかし、PADとCADの患者像は、実際にはかなり異なることを示す日本人対象の研究結果が、「Cardiovascular Diabetology」11月15日オンライン版に掲載された。

 大阪大学大学院医学系研究科糖尿病病態医療学寄附講座の高原充佳氏、関西ろうさい病院循環器内科の飯田修氏らは、日本心血管インターベンション治療学会が行っている全国規模の多施設レジストリ(J-EVTおよびJ-PCI)のデータを基に、PADとCADの患者像やリスク因子の異同を検討した。解析対象は、2012~17年にJ- EVT、J- PCIに登録された患者145万813人。このうち11万7,697人がPADに対する血管内治療(EVT)施行症例、133万3,116人がCADに対する血管内治療(PCI)施行症例。

心血管疾患に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

 まず患者背景を見るとPAD群はCAD群に比較して有意に高齢(73.5±9.3歳対70.0±11.2歳)であるほか、糖尿病患者と透析患者の割合が有意に高いという特徴があった(PAD群の糖尿病はCAD群の1.96倍、透析は6.39倍)。糖尿病や透析患者が多いというこの特徴は、治療の緊急性が高い重症下肢虚血(CLI)と急性冠症候群(ACS)とを比較した場合により顕著になった(CLI群の糖尿病はACS群の3.12倍、透析は18.7倍)。CLIとST上昇型心筋梗塞(STEMI)との比較ではさらにこの差が明確になった(CLI群の糖尿病はSTEMI群の3.59倍、透析は40.1倍)。

 脂質異常症など、他のリスク因子についてもPAD群とCAD群では差異を認めた。PAD群の脂質異常症の割合はCAD群の0.60倍と、CAD群の方が割合が高かった。なお、脂質異常症によるPADへの影響は高コレステロール血症と高トリグリセライド血症で異なると考えられるが、これが区別されなかったことは著者らも本研究の限界点の1つに挙げている。

 次に、患者像の異質性をロジスティック回帰分析によるC統計量(ROC曲線下面積)で検討した。C統計量は比較する2群が全く異質の場合は1、全く同質の場合0.5になる。

 その結果、PADとCADのC統計量は0.725であり、かなりの異質性が示された。また前記と同様にCLIとACSを比較するとC統計量は0.833、CLIとSTEMIでは0.855と明確な異質性が見られた。なお、STEMIと膝下動脈病変によるCLI群を比較した場合のC統計量が0.886で最も高値だった。

 これらより、PCIに比較しEVTは、高齢で糖尿病があり透析を施行しているなど、よりリスクの高い患者をターゲットとして行われていることが明らかになった。研究グループは、「EVTが施行されたPAD患者とPCIが施行されたCAD患者は、年齢の分布と心血管リスク因子の保有状況がかなり異なることが確認された」と結論づけるとともに、「これらの相違は、今回の検討で評価されていない交絡因子によって説明できるかもしれない。各CVDの発症メカニズムを明らかにする今後の研究が必要」と付け加えている。

治験に関する詳しい解説はこちら

治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

治験・臨床試験についての詳しい説明

参考情報:リンク先
HealthDay News 2019年12月2日
Copyright c 2019 HealthDay. All rights reserved.
SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
記載記事の無断転用は禁じます。