犬を飼ったことがある人はフレイルになりにくい?

犬を飼ったことがある人は、フレイル(要介護状態の予備群)になりにくい可能性が、日本人の高齢者を対象とした検討から示された。東京都健康長寿医療センター研究所の谷口優氏(現在の所属は国立環境研究所)らのグループの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」12月9日オンライン版に掲載された。
この研究は、東京都大田区の住民を対象に行われている「大田元気シニアプロジェクト」の一環として実施した縦断調査。2016年に登録された65歳以上のフレイルでない地域住民7,881人のうち、2018年の追跡調査で再評価が可能だった6,197人(平均年齢73.6±5.3歳、うち女性53.6%)を対象とした。フレイルの定義は、Friedらの虚弱指標に対して併存的および予測的妥当性が確認されている日本人高齢者向けの指標によった。

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ベースライン時点で犬や猫を飼っていたのは870人(14.0%)、過去に飼ったことがあるのは1,878人(30.3%)で、3,449人(55.7%)は犬・猫いずれも飼った経験がなかった。犬や猫の飼育経験がある人はない人に比べて年齢が若く、同居する家族や配偶者がいる割合、学歴、所得、生活体力指標(MFS)が高い傾向があった。一方、脳卒中や心疾患、呼吸器疾患、糖尿病、高血圧、脂質異常症の既往者率、運動習慣の有無、老年期うつスケール(GDS-5)に有意差はなく、喫煙者率は犬や猫の飼育経験者の方が高かった。
2年間の追跡期間中に918人(14.8%)がフレイルを発症した。年齢、性別、居住地域で調整し、犬や猫の飼育経験がない人を基準にフレイルの発症リスクを検討すると、過去に飼っていた人はオッズ比(OR)0.85(95%信頼区間0.71~0.99)で有意にリスクが低く、現在飼っている人はOR0.90(0.72~1.13)だった。調整因子に、世帯規模、収入、脳卒中の既往、食事の多様性、GDS-5スコア、飲酒・喫煙習慣を追加した多変量調整モデルでも、過去に犬や猫を飼っていた人はOR0.84(0.71~0.98)で引き続き有意だった。
犬の飼育者と猫の飼育者を分けて解析すると、過去に犬を飼っていた人のフレイル発症リスクはOR0.82(0.69~0.99)で有意であり、現在飼っている人のORは0.81(0.62~1.07)だった。一方、猫の飼育経験とフレイルの発症リスクの間には有意な関連はみられなかった。
以上の結果から著者らは、犬を飼うことで散歩などによって運動量が増えることがフレイルリスクの低下に関連していると仮定し、年齢、性別の他にMFSスコアと運動習慣を調整因子として加えて解析。すると犬の飼育経験によるフレイルリスクの低下は有意でなくなった。また、犬の散歩によって近隣住民と会話をする機会が増えることが想定されることから、隣人との付き合いの深さ(接触なし、挨拶のみ、会話をする、より重要な関係で層別化)を調整因子に追加したところ、やはりリスク低下の有意性は消失した。
これら一連の検討をもとに谷口氏は、「犬を飼育する経験は身体活動量と屋外で過ごす時間を増やすため、高齢者の身体的・社会的機能を高く維持することにつながり、フレイルリスクを抑制する上で重要な役割を果たす可能性がある」と述べている。

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