血漿量の変化が全死亡やがん死リスクと関連――特定健診データの解析

血漿量の変化が、全死亡、心血管死、非心血管死(主としてがん死)のリスクと有意に関連するとの研究報告が、「PLOS ONE」に7月13日掲載された。山形大学医学部内科学第一講座の大瀧陽一郎氏、渡邉哲氏らが、特定健診のデータを解析して明らかになった。
血漿量は従来、主に心不全との関連で重視されているが、血漿量の正確な測定には侵襲を伴う煩雑な手技が必要なため、臨床ではあまり測定されていない。代わりに、ヘモグロビン値とヘマトクリット値、体重から血漿量を推算する方法が提案され、研究が行われるようになった。大瀧氏らも既に、この計算式から推算した血漿量と、理想血漿量との乖離の大きさが、死亡リスクと相関することを報告している。計算式による一時点の評価には、正確な血漿量との誤差が大きいとの指摘がある一方で、侵襲がわずかで繰り返し測定できるという利点がある。

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今回の研究では、2008~2011年に20都道府県で2年続けて特定健診を受診した人のうち、データ欠落のない13万4,291人(平均年齢65±7歳、男性38%)を解析対象とした。1年間での血漿量の変動幅は正規分布しており、平均は0.19%だった。
血漿量の変動幅を五分位に分けると、第1五分位群は変動幅が-6.20%以下、第2五分位群-6.19~-1.99%、第3五分位群-1.98~1.69%、第4五分位群1.70~6.35%、第5五分位群6.35%超となった。上位五分位群は下位五分位群に比較して、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心血管疾患の既往者が多く、男性の割合やフラミンガムリスクスコアが高い傾向があった。
中央値3.9年(最長6年)前向きに追跡したところ、1,221人が死亡した。死因は心血管死が220人、非心血管死が1,001人(うち718人はがん死)だった。カプランマイヤー解析の結果、血漿量変動幅の第5五分位群は、全死亡、心血管死、非心血管死のリスクが他群に比較し有意に高かった。また、Cox比例ハザード解析の結果、年齢、性別(男性)、喫煙とともに血漿量変動幅は、全死亡、心血管死、非心血管死、がん死の全てに対して、有意なリスク因子であることが分かった。
例えば全死亡については、年齢、男性、喫煙以外では、糖尿病、および血漿量変動幅〔ハザード比(HR)1.281(95%信頼区間1.225~1.338)〕と、理想血漿量との乖離の大きさ〔HR1.469(同1.289~1.658)〕が有意なリスク因子であり、高血圧や脂質異常症、フラミンガムリスクスコア、貧血、心血管疾患の既往は有意でなかった(血漿量変動幅以外は全て1年目の評価結果に基づいて解析。以下同)。
心血管死については、高血圧、フラミンガムリスクスコア、心血管疾患の既往、および血漿量変動幅〔HR1.166(同1.036~1.313)〕が有意なリスク因子であり、糖尿病や脂質異常症、貧血は有意でなかった。
非心血管死については、糖尿病、フラミンガムリスクスコア、および血漿量変動幅〔HR1.301(同1.241~1.364)〕と、理想血漿量との乖離の大きさ〔HR1.491(同1.298~1.712)〕が有意なリスク因子であり、高血圧、脂質異常症、貧血、心血管疾患の既往は有意でなかった。
がん死については、糖尿病、フラミンガムリスクスコア、心血管疾患の既往、および血漿量変動幅〔HR1.373(同1.304~1.446)〕と、理想血漿量との乖離の大きさ〔HR1.332(同1.129~1.569)〕が有意なリスク因子であり、高血圧、脂質異常症、貧血は有意でなかった。
これら一連の結果を著者らは、「血漿量の1年間の変化が、全死亡、心血管死、非心血管死と関連している」とまとめ、「血漿量が大きく変化している患者は、がんや心血管疾患などの重篤な疾患の精査が必要な可能性がある」と述べている。

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