PPI使用は糖尿病患者の腎機能低下と関連しない 日本人患者約3,800人を解析

日本人の糖尿病患者において、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用はアルブミン尿の発症や進展、推算糸球体濾過量(eGFR)の低下といった腎機能の低下と関連しない可能性があると、天理よろづ相談所病院(奈良県)内分泌内科部長の林野泰明氏らの研究グループが発表した。

詳細は「Diabetes Research and Clinical Practice」2月3日オンライン版に掲載された。

これまでの疫学研究で、PPIの使用は大腿骨近位部骨折や市中肺炎、急性間質性腎炎、急性腎障害の発症と関連する可能性が示されている。また、最近の海外の報告では、PPIの使用はeGFR値の低下や慢性腎臓病(CKD)の発症と関連する可能性が示されているが、糖尿病患者においてPPIの使用による尿中アルブミン排泄量の増加への影響は明らかにされていない。研究グループは今回、大規模な日本人糖尿病患者レジストリーから得た患者の縦断データを用いて、PPIの使用とアルブミン尿の発症や進展、eGFR値の低下との関連を前向きに調べた。

対象は、2011年12月から糖尿病の心理社会背景と糖尿病アウトカムに関する前向きコホート研究(Diabetes Distress and Care Registry at Tenri;DDCRT)に参加した1型および2型糖尿病患者3,875人。対象患者のうち95.4%が2型糖尿病であり、平均年齢は65.7歳、男性が約60%、平均BMIは24.5、平均HbA1c値は7.5%(NGSP値)であった。また、対象患者のうち385人がベースライン時にPPIを使用していた。

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まず、ベースライン時に正常アルブミン尿を呈した患者群(1,711人)を対象にPPIの使用とアルブミン尿の発症〔微量アルブミン尿または顕性アルブミン尿への進展と定義〕との関連について解析したところ、中央値で4.0年の追跡期間中に599人が微量アルブミン尿を発症した。プロペンシティスコアで調整したモデルを用いた解析で、PPIの使用とアルブミン尿の発症との間には有意な関連は認められなかった(ハザード比0.88、95%信頼区間0.77~1.01、P=0.058)。

次に、ベースライン時に微量アルブミン尿を呈した患者群(1,279人)を対象にPPIの使用とアルブミン尿の進展との関連を解析したところ、中央値で3.7年の追跡期間中に290人でアルブミン尿の進展がみられたほか、中央値で3.8年間の追跡期間中に257人でeGFR値の40%以上の低下が認められた。傾向スコアで調整したモデルを用いた解析の結果、PPIの使用はアルブミン尿の進展(同1.24、0.87~1.79、P=0.236)、eGFR値の低下(同1.05、0.81~1.34、P=0.973)のいずれとも関連しなかった。

研究グループは、今回は観察研究であるためPPIの使用と腎機能低下との間には他にも関連因子が存在する可能性があることや単施設で登録した糖尿病患者データの解析であるといった研究の限界点について指摘。「さらなる研究が必要とされるが、今回の研究では日本人糖尿病患者において、PPIの使用はアルブミン尿の発症や進展、eGFR値の低下とは関連しなかった」と結論づけている。

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参考情報:リンク先
HealthDay News 2018年2月13日
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