ネット検索語句から自殺者数変動を迅速に予測できる

インターネット検索サイトの検索語句の分析から、自殺者数の変動を予測できるとする研究結果が報告された。京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻の平和也氏らの研究によるもので、詳細は「JMIR Public Health and Surveillance」12月号に掲載された。同氏は、「迅速な予測が可能であることから、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックで自殺者数の増加リスクのある、現在のような局面での有用性が高い」と述べている。
自殺者数に関する公的な統計として、厚生労働省の人口動態統計や警察庁の自殺統計があるが、いずれも自殺発生を後方視的に把握したもの。そのため一定のタイムラグが存在し、社会情勢の変化に伴う自殺者数の変動を加味した、タイミングの良い自殺予防策の立案に役立てることは難しい。

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一方、ネット検索サイトでの自殺に関連する単語の検索頻度が、自殺率の変動と相関するとする研究結果が、これまでに報告されている。ただし、それらの研究はパンデミック以前に行われたものであり、また、自殺行動に直接関連するキーワード(例えば自殺の方法など)との相関を検討したものが多い。よって、自殺企図の前段階に当たる希死念慮に関連する語句の検索頻度から、自殺者数の変動を予測し得るかを検討する必要がある。仮にそのような予測が可能であるなら、自殺リスクのある人が既遂に至るのを防ぐ対策の策定に、ネット検索情報が有用な情報となり得る。
このような視点から平氏らは、自殺行動を目的とした検索語句ではなく、希死念慮の高まりに関連する可能性のあるフレーズや単語の検索頻度と自殺者数の変動との関連を探った。具体的には、「虐待」「仕事/行きたくない」「会社/辞めたい」「離婚」「お金がない」の5つ。これらの検索語句が2016年1月~2020年12月に「Yahoo!JAPAN」で検索された回数と、警察庁統計による2016年1月~2021年3月の自殺者数との相関を検討した。
ベクトル自己回帰モデルという手法で検索語句の使用頻度を基に自殺者数の変動を予測し、実際の報告データとの乖離を検討。その結果、性別にかかわらず自殺者数の予測値と報告値が一致して変動することが明らかになった。以上の結果から著者らは、「自殺を直接的に意味する語句ではなく、自殺に関連する可能性のあるフレーズの検索頻度も、自殺者数の予測に有効」と結論付けている。
なお、性別に見ると、男性では特に「離婚」、女性では「お金がない」という語句の検索回数による予測能が高かった。パンデミック下で国内でも女性の自殺者数の増加が報告されており、その背景としてシングルマザーの経済的困難の存在が指摘されているが、本研究でもその裏付けが得られた。また、本研究の解析対象期間には含まれていないが、男性ではリーマンショック時に自殺率が上昇したことが明らかになっている。
著者らは、これらの知見からの考察として、「COVID-19パンデミックは女性により深刻な影響を及ぼしており、自殺抑止のため経済的な対策が必要とされる。また今後の研究では、『貧困』や『失業』などにつながるフレーズと自殺者数の関連を検討し、より実用的な予測モデルを開発したい」と述べている。

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