1日1回のアスピリンに重篤な妊娠合併症の予防効果

妊娠中に毎日アスピリンを使用することで、重篤な妊娠合併症の1つである妊娠高血圧腎症を予防できる可能性を示した研究結果が胎児医学財団年次学術学術集会(FMF、2017年6月25~29日、スロベニア)で発表された。また、詳細は「New England Journal of Medicine」6月28日オンライン版に掲載された。
妊娠高血圧腎症は、母体だけでなく胎児あるいは出生児に深刻な合併症をもたらし、死亡の原因となる場合もある。これまでにも複数の研究で低用量(50~150mg/日)のアスピリンによる妊娠高血圧腎症の予防効果が報告されており、これらの研究データのメタ解析では10%前後のリスク低減が示されていた。これに対し、今回の研究ではより高用量のアスピリン150mg/日を使用した結果、妊娠高血圧腎症のリスクは62%も低下したという。
今回の研究は、英キングス・カレッジ病院のKypros Nicolaides氏らが実施したもの。対象は、英国やスペインなど欧州の5カ国およびイスラエルの産科施設13カ所で登録された、妊娠高血圧腎症のリスクが高い妊婦約1,700人。このうち798人をアスピリン(150mg/日)使用群(アスピリン群)、822人をプラセボ使用群(プラセボ群)にランダムに割り付けた。なお、妊娠高血圧腎症のリスクは、妊娠11~13週に母体の因子や動脈圧、胎盤成長因子などを組みあわせたアルゴリズムに基づき評価した。アスピリンまたはプラセボの使用期間は妊娠11~14週から妊娠36週まで、または出産が早ければ出産までとした。
その結果、妊娠高血圧腎症により妊娠37週までに分娩となった妊婦の割合は、プラセボ群の4.3%に対してアスピリン群では1.6%と有意に低かった(オッズ比0.38、95%信頼区間0.20~0.74、P=0.004)。また、妊娠高血圧腎症により妊娠34週までに分娩となるリスクは、プラセボ群に比べてアスピリン群で82%の低下が認められた(同0.18、0.03~1.03)。一方、アスピリンの使用による重篤な副作用はみられず、胎児の有害事象も認められなかった。ただし、アスピリンは出血リスクを増大させるため、妊娠中の使用については医師に相談する必要がある。

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Nicolaides氏は、「アスピリンが母体から胎盤への血流を促進する可能性がある」と説明している。一方、米ハンティントン病院のMitchell Kramer氏は、「この研究から、アスピリンの使用によって正期産の妊婦における妊娠高血圧腎症だけでなく、妊娠高血圧腎症による早産の頻度も低減できる可能性が示された。早産は児にとって危険であるため、これは重要な点だ」と説明。さらに同氏は、低用量アスピリンは子癇の発生率を低減するのにも有効である可能性があると指摘している。
なお、米国産科婦人科学会(ACOG)では既に、妊娠高血圧腎症リスクが高い妊婦に対し、妊娠12~28週に低用量アスピリン(81 mg/日)の使用を開始することを推奨しているという。