タンパク質摂取量と腎機能低下に関連なし――日本人高齢者での縦断研究

 日本人高齢者では、タンパク質の摂取量と腎機能(eGFR)の低下速度との間に有意な関連はないとする研究結果が発表された。さらに、慢性腎臓病(CKD)の高齢者では、タンパク質摂取量が多いことが腎保護的に働く可能性もあるという。大阪大学大学院医学系研究科総合ヘルスプロモーション科学講座/森ノ宮医療大学の関口敏彰氏らの研究によるもので、「Geriatrics & Gerontology International」に2月10日、論文が掲載された。

 タンパク質の過剰摂取は腎臓に負担をかけるため、CKD患者にはタンパク質摂取量を控える指導が長く行われてきた。しかし近年、高齢者人口の増大とともに筋肉量が低下した高齢患者が増加し、そのような場合には筋肉量の維持のためにタンパク質をしっかり摂取することが重要であると認識されるようになっている。ただし、それにより腎機能低下が加速されるという懸念は払拭されておらず、高齢者のタンパク質摂取量を巡る議論が続いている。

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 このような背景を基に関口氏らは、東京都と兵庫県の地域住民対象に行われている高齢者長期縦断研究(SONIC研究)のデータを用いて、タンパク質摂取量と腎機能変化との関連を縦断的に検討した。SONIC研究は2010~2013年に参加登録が行われ、69~71歳1,000人、79~81歳973人、89~91歳272人、計2,245人が登録されている。本研究ではそのうち、登録時にCKDステージ5以上(eGFR15mL/分/1.73m2未満)、透析治療中、解析に必要なデータの欠落者などを除外し、1,160人を解析対象とした。

 研究参加時に行った食事調査からタンパク質摂取量を割り出し、全体を四分位で群分けすると、第1四分位群のタンパク質摂取量は1.01±0.16g/kg/日、第2四分位群は1.32±0.07g/kg/日、第3四分位群は1.59±0.08g/kg/日、第4四分位群は2.07±0.30g/kg/日だった(P<0.01)。eGFRは平均69.15±14.4mL/分/1.73m2であり、群間に有意差はなかった。

 平均2.53年の追跡期間中のeGFRの変化は-1.89±2.98mL/分/1.73m2であり、有意な群間差はなかった。その一方で、体重はタンパク質摂取量の少ない群の方が大きく低下しており、有意差が認められた(P<0.04)。より具体的に、フレイル(要介護予備群)の診断基準に含まれている「1年当たり4.5kg以上の体重減少」の該当者の割合を比較すると、第1四分位群は47.6%と半数近くに及び、第2四分位群も42.9%を占めるのに対して、第3および第4四分位群は4.8%に過ぎなかった(P<0.01)。

 次に、腎機能低下に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、収縮期血圧、HbA1c、non-HDL-C、尿酸、高血圧・糖尿病・脂質異常症・脳卒中・心不全の既往、腎機能を評価した季節)を調整後、ベースラインの腎機能で層別化して解析を行った。

 その結果、ベースラインで腎機能が保たれていた群(eGFR60mL/分/1.73m2以上)では、タンパク質摂取量と腎機能変化量との間に有意な関連が認められなかった。一方、ベースラインで腎機能が低下していた群(eGFR60mL/分/1.73m2未満)では、タンパク質摂取量と腎機能変化量に正の相関が認められ(β=0.98、P=0.02)、タンパク質を多く取ることによる腎保護作用が示唆された。続いて、タンパク質を植物性と動物性に分けて検討すると、動物性タンパク質の摂取量に関しては、上記の総タンパク質摂取量の解析結果と同様の結果が得られた。

 以上の検討に基づき著者らは、「地域在住高齢者のタンパク質摂取量はeGFRの低下とは関連がなく、さらにCKDステージ3~4の場合には、総タンパク質および動物性タンパク質の摂取量が多いことが、eGFRを維持するように働く可能性がある。CKD患者を含む日本人高齢者には、タンパク質摂取制限をすべきではないと考えられる」と結論付けている。

 なお、高齢CKD患者ではタンパク質摂取量が多い方が腎機能の維持に有利であることの機序としては、「加齢に伴い増加するフレイルやサルコペニアでは、貧血を含む種々の因子が相互に影響を及ぼし、腎機能をはじめとするさまざまな身体機能が低下する。高タンパク食は、そのような病態の悪循環を抑制するのではないか」との考察を加えている。

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参考情報:リンク先
HealthDay News 2022年3月22日
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