幼少期の育てられ方と成人後の慢性疼痛が有意に関連――九大

幼少期の被養育スタイル(育てられ方)が、成人後の慢性疼痛の発症や心身医学的観点での治療の必要性に関与する可能性が報告された。慢性疼痛を訴える人には、養護的ではない過干渉な育て方をされた人が多いという。九州大学病院心療内科の細井昌子氏、九州大学医学研究院の柴田舞欧氏らの研究によるもので、「Medicine」7月17日オンライン版に論文が掲載された。
慢性疼痛は傷病による直接的な影響のみでなく、心理的因子や社会学的因子などが複雑に関係して発症し難治化することがある。他方、成人後の慢性疾患の一部は、幼少期の体験との関連が認められ、例えば幼少期に親を失うことや虐待を受けた人は虚血性心疾患、消化器疾患などのリスクが高いことが報告されている。しかし、幼少期の被養育スタイルに焦点を当て、成人後の慢性疼痛の難治化との関連を明らかにした研究はこれまでなかった。

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細井氏らの研究は、慢性疼痛患者および一般住民を対象として、幼少期の被養育スタイルに関するアンケート調査を行い、その結果を解析したもの。調査対象は以下の4群。慢性疼痛治療のため九州大学病院心療内科を受療中の入院患者50人、同外来患者50人、および、地域住民対象コホート研究である久山町研究の参加者のうち慢性疼痛のある人100人、慢性疼痛のない人100人。いずれも35歳以上とし、精神疾患のある人や日本語を理解できない人は除外し、年齢と性別がマッチするよう調整した上で、コンピューター生成乱数により抽出した。
被養育スタイルは、親子関係の調査に頻用されるPBI(Parental Bonding Instrument)を用いて対象者自身に16歳までの体験を評価してもらい、養護因子および過干渉因子をそれぞれスコア化した。慢性疼痛は「過去3カ月以上続く痛み」と定義し、過去1週間の痛みの強さをビジュアルアナログスケール(VAS)で評価してもらった。
被養育スタイルのうちの養護因子スコアを前記の4群で比較すると、慢性疼痛のない地域住民、慢性疼痛のある地域住民、外来患者、入院患者の順で点数が低くなるという有意な関係が認められた(父親についてと母親について、ともに傾向性P<0.001)。それとは反対に過干渉因子スコアは、同順に点数が高くなるという有意な関係が認められた(父親と母親ともに傾向性P<0.001)。
次に、養護因子スコアと過干渉因子スコアを、既報に基づく以下のカットオフ値でそれぞれを2群に分類した。養護因子については、父親は24.0点未満、母親は27.0点未満を「低養護」と判定、過干渉因子については同順に12.5点以上、13.5点以上を「過干渉」と判定。その上で、「低養護かつ過干渉」に養育された人の割合を検討したところ、慢性疼痛のない地域住民、慢性疼痛のある地域住民、外来患者、入院患者の順に、その割合が増えるという有意な関係が認められた(父親と母親ともに傾向性P<0.05)。
続いてロジスティック回帰分析により、年齢、性別、配偶者の有無、教育歴、疼痛レベル(VASスコア)を調整の上、慢性疼痛のない地域住民を基準に、「低養護かつ過干渉」に養育された確率のオッズ比(OR)を算出した。その結果、母親については、慢性疼痛のある地域住民がOR2.76(95%信頼区間1.06~7.16)、外来患者がOR5.79(同1.71~19.61)、入院患者がOR6.77(同1.74~26.25)であり、いずれも「低養護かつ過干渉」に該当する確率が有意に高かった。一方、父親については、慢性疼痛のある地域住民がOR1.83、外来患者がOR3.05であったがともに有意でなく、入院患者のOR4.43(同1.24~15.84)のみが有意だった。
これらの結果を細井氏は、「16歳までの幼少期に受けた養育体験が、中年期以降の慢性疼痛の有無や、それによる心身医療の必要性に影響している可能性がある」とまとめている。なお、本研究の限界点として、疼痛の原因や持続期間を調査していないため、それらの影響が不明であることを挙げ、「この仮説の確認のため、さらなる研究が必要とされる」と述べている。

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