健康経営と企業の業績の関連性

 労働者の健康を重視することで生産性の向上を期待するという「健康経営」が、実際に企業収益を押し上げている可能性を示唆するデータが報告された。滋賀医科大学社会医学講座公衆衛生学部門の矢野裕一朗氏らの研究によるもので、詳細は「Epidemiology and health」に9月23日掲載された。

 バブル崩壊以降続いている日本の競争力の低下の一因として、労働者の生産性の低さが指摘されている。労働者の生産性の向上には、健康で安心して働ける環境が必要と考えられることから、経済産業省は「健康経営」の普及を推進しており、例えば「健康経営銘柄」の選定などを行っている。ただし、従業員の健康への投資がその企業の業績向上に結び付いているのか否かは不明。矢野氏らは、経産省の健康経営に関する年次調査のデータと、企業が公表している財務指標との関連を調べるという手法で、この点を検討した。

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 調査対象は1,593社だった。その内訳は、2017年度の経産省調査と2017~2020年度の財務指標データの双方を得られた842社、および、2018年度経産省調査と2018~2020年度の財務指標データの双方を得られた751社。業種は、専門サービスが12.7%、電気通信12.4%、小売11.2%、金融サービス8.7%、卸売7.3%、電気製造5.9%、建設4.3%、化学4.1%、輸送機器3.8%、海運3.5%、食品3.3%など。これらの企業の従業員数は合計435万9,834人で平均年齢40.3±3.4歳、女性25.8%、勤続年数は14.2±4.9年だった。

 財務指標を基に従業員1人当たりの利益の増加が大きい上位25%の企業を“業績良好(=利益あり)”と定義し、それと関連性の強い健康経営調査の項目を抽出した上で、利益が上昇している企業を特定するためのモデルを作成。統計学的解析の結果、正確度0.997、精度0.993、再現性0.997という予測能の高いモデルを得られた。このモデルの中で、健康経営調査の各項目の重要度(企業利益ありに対する寄与度)をシャープレイ値(SHAP値)という指標で評価したところ、以下のように、健康経営指標と、従業員1人当たりの利益の増加との関連が明らかになった。なお、SHAP値は数値が大きいほど重要性が高いことを意味する。

 従業員1人当たりの利益の増加に最も強い関連のある健康経営指標は、現在の喫煙者の割合の低さであり、SHAP値は0.121だった。2位は従業員1人当たりの医療サービスコスト(SHAP値0.084)で、そのほかは、よく眠れる従業員の割合(同0.055)、定期的に運動する習慣がある従業員の割合(0.043)、1人当たりの年間福利厚生費(0.041)などだった。

 著者らは、本研究が観察研究であり因果関係の証明にはならないこと、例えば、企業業績が良好なために福利厚生に力を入れているという結果を表している可能性があることなどを、解釈上の限界点として挙げている。その上で、「企業従業員のライフスタイルに関連する健康リスク要因と、企業の収益性との間に関連があることが実証された。労働者の生産性を引き下げる健康上のリスクを特定して対処するという投資が、将来的な収益改善に貢献する可能性が想定される」と結論付けている。

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参考情報:リンク先
HealthDay News 2022年12月15日
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