“バブルボーイ”の治癒に光、新たな遺伝子治療で有望な成績


このことから米国ではSCIDの患児は「バブルボーイ」と呼ばれることもある。
この極めて重篤な疾患の治療法として、新たに開発された遺伝子治療が有望であることが、米セント・ジュード小児研究病院のEwelina Mamcarz氏らによる臨床試験で示された。
同試験でこの治療を受けた7人のうち6人が自宅で家族とともに通常の生活を送れるようになったという。
この結果は米国血液学会(ASH 2017、12月9~12日、米アトランタ)で発表された。
SCIDの患児は細菌やウイルスなどの病原体に感染しやすく、風邪さえも命取りになることがある。
SCIDの中でも最も頻度の高いX連鎖SCID(X-SCID)は男児にのみ発症し、米国では5万4,000人に1人の割合でみられる。X-SCIDの患児は生まれつき免疫細胞であるT細胞やB細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞を適切に産生できない。
治療しなければ2歳までに死亡し、現時点で最善の治療法である造血幹細胞移植を受けても約30%が10歳までに死亡するという。

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Mamcarz氏とともに研究に参加した同病院のBrian Sorrentino氏によると、新たな遺伝子治療は不活化したHIVをベクター(遺伝子の運び屋)として用い、患者の骨髄細胞の遺伝子を変化させるというもの。
それによって3種類の免疫細胞を全て産生できるようにする。
ベクターにHIVを選んだのは、このウイルスがヒトの免疫細胞に容易に感染する性質を持つためだという。
これまではマウス由来の別のウイルスを利用していたが、細胞のがん化を活性化し、白血病を誘発する傾向があるという問題があった。
HIVを用いた方法では同様の副作用はみられないとしている。
この治療を乳児に行う際には、あらかじめ抗がん薬のブスルファンを投与する必要がある。
今回の臨床試験には関与していない米ハーバード大学医学部のJonathan Hoggatt氏によると、骨髄移植を行う場合は事前に化学療法や放射線の全身照射により免疫系を死滅させる処置を行うことが多い。
ただ、乳幼児に抗がん薬を使用することによる有害性を懸念する研究者は多く、SCID患者は免疫細胞を持たないため、抗がん薬投与の必要もないと考えられていた。
しかし、抗がん薬を投与せずに遺伝子治療を行った患児では、T細胞の産生は認められたものの、B細胞とNK細胞の産生は認められなかったという。
今回の試験では、コンピューターで患者ごとの必要最低限の用量を計算してブスルファンを投与し、遺伝子治療を実施した結果、3種類の免疫細胞の全てが産生されるようになった。
一部の症例では、骨髄細胞の60%以上に正常な遺伝子の導入が認められたという。Mamcarz氏らは今後も追跡を続け、副作用のない安定した状態が維持されるかどうかを確認するとともに、ワクチンを接種した時の反応についても調べる必要があるとしている。
なお、学会発表された研究は査読を受けて医学誌に掲載されるまでは予備的なものとみなされる。

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