生活保護を受けている高齢者は自殺リスクが高い可能性

 近年、国内の自殺者数は一時期よりは減少したものの、高齢者では高止まりしている。そしてさらに、生活保護を受給している高齢者の自殺リスクは、非受給者よりも有意に高いことを示すデータが報告された。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科健康推進歯学分野の木野志保氏(研究時の所属は京都大学大学院医学研究科社会疫学分野)らが、日本人高齢者を対象に行った調査の結果であり、詳細は「Journal of Epidemiology and Community Health」に7月20日掲載された。

 高齢者の自殺リスクを高める主な原因は、健康問題と貧困の二つと考えられている。生活保護を受けることは貧困を意味しているが、これまでのところ、生活保護を受給している高齢者の自殺リスクは十分に検討されていない。そこで木野氏らは、全国の自治体が参加して行われている「日本老年学的評価研究(JAGES)」の2019年調査の回答者のデータを用いて、横断的な解析を行った。

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 データ欠落者などを除外後、65歳以上の高齢者1万6,135人を解析対象とした。このうち202人(1.25%)が生活保護を受給していた。生活保護受給者は非受給者に比べて、男性が多く、同居者数が少なく、教育歴が短く、世帯収入が低い傾向があった。また、老年期うつ病評価尺度(GDS15)で評価したうつレベルが高く、複数の疾患に罹患している人が多かった。

 「今までの人生の中で、本気で自殺をしたいと考えたことがありますか」との質問により自殺念慮を抱いた経験の有無を把握し、また、「今までに自殺しようとしたことがありますか」との質問によって自殺未遂経験の有無を把握した。その結果、自殺念慮を抱いた経験がある人は772人(4.8%)、自殺未遂の経験のある人は355人(2.2%)だった。なお、質問に「答えたくない」と回答した人は解析対象から除外されている〔自殺念慮については1,100人(6.30%)、自殺未遂については861人(4.93%)〕。

 生活保護受給状況別に比較すると、非受給者は自殺念慮の経験ありが4.6%であるのに対して、受給者は14.9%に上った。また自殺未遂の経験ありの割合も同順に2.1%、9.9%と、後者の方が高かった。自殺リスクに影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、世帯員数、教育歴、世帯収入、うつ症状(GDS15スコア5以上)、手段的日常生活動作(IADL)、併存疾患数、居住している自治体など〕を調整後も、生活保護受給者は自殺念慮や自殺企図の経験のある割合が有意に高かった。

 具体的には、生活保護受給者で自殺念慮を抱いた経験のある割合は非受給者より47%高く〔有病率比(PR)1.47(95%信頼区間1.02~2.13)〕、自殺未遂経験のある割合は91%高かった〔PR1.91(同1.20~3.04)〕。生活保護の受給以外では、うつ症状を有することが自殺念慮(PR4.00)と自殺未遂(PR3.26)の経験の双方と有意な関連があった。また、併存疾患が三つ以上あることは自殺念慮の経験と有意な関連があった(PR1.25)。

 一方、教育歴の長さは、自殺念慮や自殺未遂の経験が少ないことと有意な関連があり、同居している家族の多さは、自殺念慮の経験が少ないことと有意な関連があった。なお、性別は、自殺念慮、自殺未遂のいずれとも有意な関連がなかった。

 著者らは結論として、「国内で生活保護を受けて暮らしている高齢者は自殺リスクが高い可能性がある。今後はその要因を特定し、エビデンスに基づく政策立案に反映させていく必要がある」と総括している。なお、「この研究は生活保護の受給の有無と自殺念慮や自殺未遂経験とを同時に調査しているため、両者の因果関係は分からない点に注意を要する。生活保護を受けている状況が自殺のリスクとなる可能性もあるし、自殺のリスクが高まるような状況が生活を困窮させ、生活保護に至る可能性もある」と付け加えている。また、両者の関連のメカニズムについて、既報研究を基に以下のような考察を述べている。

 まず、生活保護受給者に対しては根強い偏見や差別が存在するため、差別的な扱いを受けてメンタルヘルスを悪化させやすい可能性が考えられるという。また身体的な疾患は自殺の大きなリスク要因であることが知られているが、生活保護受給者などの社会経済的なストレスを抱えている人は大量飲酒や喫煙など、健康に悪影響のある行動の頻度が高く、慢性疾患の有病率が高いことが報告されており、そのため自殺リスクも高い可能性も考えられるとしている。

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HealthDay News 2022年10月11日
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