嗅覚の刺激で視覚が変化――レモンでは動きが遅くなり、バニラでは速くなる

嗅覚を刺激することで、動く物のスピード感覚が変わることが明らかになった。レモンの香りを嗅ぐと物の動きが遅く見え、バニラの香りでは速く見えるという。国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の對馬淑亮氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Neuroscience」に8月2日掲載された。
ヒトは視覚、聴覚、嗅覚などの、いわゆる五感を通して外界の情報を得ている。例えば、映画を見ているときは視覚と聴覚、料理をしているときは嗅覚と味覚などを同時に使っている。それら複数の感覚器からの情報は、互いに影響を及ぼし合うことが知られており、「クロスモーダル現象」と呼ばれている。

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嗅覚の刺激によるクロスモーダル現象として、例えば、香水により自身や相手の気分を変える効果や、アロマセラピーによるリラクゼーション効果などが挙げられる。しかし、このクロスモーダル現象がどのように生じるのかという詳細なメカニズムは明らかでない。
このような背景のもとで行われた今回の研究からは、香りで映像のスピード感が変わるという、これまで知られていなかったクロスモーダル現象が発見された。著者らは、「特別な訓練をすることなく嗅覚を刺激することで、脳内の他のモダリティの低次の情報処理にも影響を与え得るという新たな知見であり、学術的意義が大きい」と述べている。
研究ではまず、視力と嗅覚が正常な14人(平均年齢33.28±6.74歳)に対する心理物理実験を行った。これは、被験者がレモンまたはバニラの香りを嗅いだ時に、ディスプレイに表示される点の動きの速さをどのように感じるかというもの。レモン100%、同50%、バニラ100%、同50%、および無臭という5つの条件で、1人に対して計525回施行。ディスプレイ上の点が動く時間は1秒間で、スピードは7段階。香りの種類と点の動くスピードは無作為に変えられた。
その結果、レモン100%の香りを嗅ぐ条件では無臭条件に比べて、点の動くスピードが有意に遅く感じられ、反対にバニラ100%の香りを嗅ぐ条件では、有意に速く感じられることが明らかになった。レモン50%やバニラ50%の条件では、無臭条件と有意差がなかった。
続いて、視力と嗅覚が正常な12人(平均年齢21.05±6.55歳)に対し、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて同様の実験を行った。その結果、レモンの香りを嗅ぐ条件では視覚野の脳血流量が有意に低下し、反対にバニラの香りを嗅ぐ条件では脳血流量が有意に上昇していた。
一連の結果について著者らは、「香りで映像のスピード感が変わることを世界で初めて実証した。この知見は学術的に意義深いだけでなく、VR(仮想現実)やエンターテーメント領域をはじめとする、さまざまな産業への応用も期待される。また、香りによってなぜ映像のスピード感が変わるのか、詳細なメカニズムを引き続き調べていく必要がある」と述べている。
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