コロナ禍で大学新入生の希死念慮が増大?――岐阜大

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック前からの3年間にわたり、大学新1年生のメンタルヘルス状態を継続調査した結果が報告された。2020年度の新1年生は学業ストレスが高かったことや、2021年度の新1年生には希死念慮が強い学生が多かったことなどが明らかになった。岐阜大学保健管理センターの堀田亮氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS ONE」に12月12日掲載された。
この研究の対象は、2019~2021年度の岐阜大学の新1年生。各年の4~5月にオンライン調査を行った。回答者数は、2019年度は440人(回答率30.3%、男性48.6%)、2020年度は766人(回答率59.2%、男性54.7%)、2021年度は738人(回答率58.3%、男性50.5%)。大学生の心理カウンセリングのために開発された指標(CCAPS)の日本語版を用いて、過去2週間のメンタルヘルス状態を評価した。

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なお、CCAPSは8つのサブスケール(抑うつ、食事関連の懸念、家族関係のストレス、飲酒習慣、学業ストレス、全般性不安など)と、4つの重要な項目(現実感のなさ、希死念慮、暴力的行動など)から成る、55項目の質問で構成されている。回答者が「全く当てはまらない」~「かなり当てはまる」の5段階から選択した結果を、0~4点のリッカートスコアとして判定する。本研究では、0点を低リスク、1~2点を中リスク、3~4点を高リスクと分類した。
解析の結果、抑うつ、全般性不安、学業ストレスのレベルについて、以下のように年度による有意な変動が認められた。抑うつレベルは、2019年度の新1年生が0.89±0.72、2020年度は0.71±0.61、2021年度は0.88±0.70(F=15.89、P<0.001)、全般性不安は同順に1.02±0.63、0.92±0.63、1.05±0.69(F=8.30、P<0.001)であり、この2項目はいずれも2020年度に比較し2019年度と2021年度が高かった。一方、学業ストレスは1.23±0.77、1.47±0.79、1.15±0.71(F=35.24、P<0.001)であり、2020年度の新1年生が最も強く感じていた。
次に、CCAPSの4つの重要な項目については残差分析の結果、現実感のなさと希死念慮の高リスク者の割合が、以下のように年度により大きく異なることが分かった。現実感のなさの高リスクに該当する新1年生の割合は、2019年度は9.3%〔調整済み標準化残差(asr)=-0.12〕であるのに対して、2020年度には11.2%とその割合が増加し(asr=2.14)、2021年度は7.7%へと低下していた(asr=-2.05)。希死念慮については、2019年度の高リスク者が5.2%(asr=-0.24)、2020年度は4.3%(asr=-1.79)であるのに対して、2021年度は6.8%(asr=2.01)と増加していた。
これらの結果を基に著者らは次のような考察を加えている。
まず、学業ストレスが2020年度に最も強く2021年度には低下したことに関して、パンデミック直後にはeラーニングの導入などにより学習環境が大きく変わったものの、1年が経過してその環境に慣れた学生が増えたためではないかと推測している。また、現実感のなさについても、パンデミック直後の環境の急変による影響が、時間の経過とともに減弱したと考えられるという。
抑うつレベルも同様に2020年度に上昇し2021年度は低下していた。しかし一方で希死念慮の高リスク学生の割合は、2020年度は前年度より少ないものの、2021年度には増加していた。この点については、パンデミック初期に自殺者数がやや減少し、その後に反転して増加しているとする既報論文のデータを挙げ、大学新入生にもそのようなリスクの変化が生じている可能性があるとしている。
結論として著者らは、「COVID-19パンデミック発生前の2019年度と比較し、2021年度には大学1年生のメンタルヘルスは、平均値上は元に戻った(差がない)ように見受けられる。その一方で希死念慮のあるハイリスク学生は増加している。メンタルヘルス関連のリスクが高い学生を早期に見いだし支援する体制の確立が求められる」と述べている。

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