旅行者の心筋梗塞、迅速治療が生存率向上の鍵 順天堂大静岡病院の研究グループ

旅行中に心筋梗塞の症状が現れたら、すぐに救急車を呼べるように、緊急の電話番号を控えておいた方がよいようだ。旅行先で心筋梗塞を発症しても、迅速に治療を行えば長期生存率の向上につながることが、順天堂大学静岡病院循環器内科の西尾亮太氏らの研究から分かった。研究結果の詳細は、欧州心臓病学会(ESC)急性心血管治療会議(3月2~4日、スペイン・マラガ)で発表された。
旅行者の自然死の主な原因は心血管疾患であるが、旅行中に心筋梗塞を発症した患者の長期予後については明らかになっていなかった。そこで、西尾氏らは今回、1999~2015年に同病院で、迅速な経皮的冠動脈インターベンション(PCI)によるステント留置を受けた心筋梗塞患者2,564人を対象に、最大で16年間追跡し、地域住民と旅行者の長期にわたる転帰を比較検討した。なお、同病院は、富士山に近い人気の観光地である伊豆半島に位置し、地域のPCI治療の中心を担っている。

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対象者の7.5%(192人)が心筋梗塞発症時に旅行していた。分析の結果、心筋梗塞を発症した旅行者は、地域住民に比べて年齢が若く、ST上昇型心筋梗塞の有病率が高かったほか、心臓の主要な動脈が閉塞した重症度の高い患者が多いことが分かった。
中央値で5.3年の追跡期間中、全死亡率は旅行者の16.7%に対し地域住民では25.4%と有意に高いことが明らかになった。地域住民ではがんによる死亡率が高かった。また、心臓を原因とした死亡率には、旅行者と地域住民の間で差はみられなかった。さらに、年齢や性、高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病(CKD)、喫煙習慣、心筋梗塞の既往などで調整した解析でも、旅行者の心筋梗塞は、地域住民のものよりも長期にわたる全死亡リスクが42%低いことも分かった。
今回の結果を踏まえ、西尾氏は「旅行や出張中に心筋梗塞を起こした場合でも、迅速に治療を受ければ長期的な転帰は良好であることが分かった。また、心筋梗塞から生還したら、生活習慣の改善や予防薬の服用など、どのように二次予防を行うべきかについて医師に確認することも重要だ」と述べている。
また、心筋梗塞を発症した時点で高齢である人、心筋梗塞の既往やCKDがある人では、追跡期間中に死亡する確率が高いことも明らかになった。そのため、西尾氏は「これらのリスク因子がある人や、高血圧、喫煙習慣、肥満などの他のリスク因子がある人は、自宅でも旅行先でも緊急の電話番号を調べておく必要がある」と述べ、「旅行中に胸部や喉、首、背中、腹部、肩の痛みが15分以上続く心筋梗塞の症状が現れた場合には、躊躇せずにすぐ救急車を呼んで欲しい」と呼び掛けている。
なお、学会で発表された研究結果は、査読つきの専門誌に掲載されるまでは予備的なものとみなされる。
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