
クローン病の治療方法について
できるだけ早く症状を落ち着かせ、寛解状態が継続できるように治療を行なっていくクローン病。実際にはどのような治療方法があり、どのように行われているのでしょうか。


クローン病治療指針とは
クローン病といっても、患者さんによって病状はさまざまです。しかし、まだ完治できる治療法がないということもあり、医師が治療方法を検討する際の基準として、クローン病治療指針がつくられています。
クローン病治療指針は、軽症〜中等症、中等症〜重症、重症の3段階に分かれ、それぞれの時期における治療方法のほか、
- 寛解維持療法
- 肛門病変の治療
- 狭窄/瘻孔の治療
- 術後の再発予防
- 外科治療(手術)が必要になる場合と手術治療
についてまとめられています。
クローン病の治療方法は薬物療法と栄養療法が基本となり、中等症〜重症では血球成分除去療法の追加、重症では外科治療も検討します。まずはできるだけ早く寛解導入できるようにし、寛解状態になったら寛解状態を長く維持できるように治療を行なっていきます。クローン病は若い患者さんも多く、学業や仕事など社会生活にできるだけ影響しないようにしっかり治療を行なっていくことになります。病気がコントロールできていれば外来治療で経過をみていきますが、重症化した場合には入院治療となり、肛門に病変がある、腸管が狭くなっている、腸管にトンネルのような穴ができているなどの場合には重症度の分類関係なく外科治療も行います。
クローン病は炎症を繰り返すと、腸の機能低下や変形を起こしやすくなってしまいます。また、のちにがんが発生する可能性もあります。ですから、患者さんの状態に応じて初期から強い治療を行うこともあります。
次に、クローン病の治療方法について1つずつみていきましょう。
薬物療法
クローン病における薬物療法では次の薬を使って治療を進めていきます。
5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤
クローン病の治療においてよく使われる薬です。炎症を引き起こす物質に働きかけて炎症を抑えます。この薬は、寛解導入・寛解維持どちらにも使われます。クローン病の薬物治療において問題となりやすい副作用である免疫機能の低下がないので安心して使えます。内服薬のほか、病変部に直接薬を届かせることで効果を高める坐薬と注腸もあります。
ステロイド剤
ステロイド剤は、炎症を早く抑えられるという特徴を持っています。5-ASA製剤での効果が得られないときや、5-ASAの使用で副作用が出てしまった場合、そして寛解導入で使われます。炎症が強いときには、最初からステロイド剤を使うこともあります。長期的な効果は期待できません。また免疫機能が低下しやすい副作用があるので短期での使用に限ります。ステロイド剤は内服のほかに、注腸があります。
日本では2016年11月にブデソニドがクローン病治療薬として発売が始まりました。この薬はもともと気管支喘息の治療薬ですが、副作用が出にくいステロイド剤ということで注目されています。
チオプリン製剤
チオプリン製剤は、免疫の異常をコントロールする薬です。炎症に関係する白血球やタンパク質の合成ができないようにします。基本的には寛解維持療法で使われます。チオプリン製剤の6-MP散剤は保険適応がありません。免疫機能に作用するため、効果が期待できる一方で感染しやすい傾向になることがあります。
タクロリムスとシクロスポリン
タクロリムスとシクロスポリンは、免疫を抑制する効果があります。タクロリムスは素早く高い効果が得られるため、重症度の高い患者さんの寛解導入で使われます。この薬は、服用するうえでの注意点が多く、ほかの薬や食事に影響を受けやすいという特徴があります。また血中濃度が高くなりすぎると副作用の出現率が上がってしまうため、血中濃度が高い時には使用量を減らしたり、中止したりします。
シクロスポリンも重症度が高い患者さんへの使用となりますが、この薬は保険適応がありません。タクロリムスもシクロスポリンも、感染への抵抗が弱くなる副作用が出やすいため、短期での使用となっています。
抗TNF-α抗体製剤
この薬は、体の中で炎症が起こるときに作られるサイトカインという物質の1つで、クローン病の患者さんはこのTNF-αが大量に作られています。よって、抗TNF-α製剤を使うことでTNF-αを作りにくくし、それと同時にTNF-αの働きを抑える効果があります。寛解導入にも寛解維持にも使えますが、その使用は今までの治療で効果があまり得られなかった場合に限られています。薬にはインフリキリマブ(点滴)とアダリムマブ(皮下注射)の2つがあります。
これらのほか、大腸の病変が中心の患者さんや肛門に病変がある患者さんには抗菌薬を使うこともあります。
栄養療法と食事療法
クローン病の患者さんにとって、栄養療法は重要な治療法の1つとなっています。食事は活動期ではなく寛解導入されてからになり、重湯やおかゆの上澄みなどからスタートします。
栄養療法は、中心静脈栄養療法と経腸栄養療法があります。中心静脈栄養療法は、栄養管理を点滴で行い、経腸栄養療法は鼻から胃まで細い管を入れて、そこに栄養剤を流すことで栄養を取り込みます。
中心静脈栄養
腕や首、鎖骨の下に点滴の管を入れ、そこに輸液を接続することで栄養成分が得られるようにしたものです。点滴での管理が長期にわたるときには、皮膚の下に「ポート」を埋め込みます。ポートからは細い管が血管の中を通って心臓まで到達するようになっており、点滴の針をポートに刺すことで持続的に輸液を流せるようになっています。
- 低栄養状態で下痢がひどい
- 腸管が狭くなっている(狭窄)
- 腸管に穴が空いている(穿孔)
- 大量出血がある
- 重度の肛門病変がある
というときには絶食になるため、点滴で栄養管理を行います。
経腸栄養療法
消化がほとんど要らない成分栄養剤や消化する負担が少ない栄養剤(半消化態経腸栄養剤)を摂取することで寛解導入や寛解維持を目指します。細い管を鼻から胃まで入れ、その管を栄養剤のボトルにつないで栄養剤を流していく場合と、水分と同じように口から摂取する場合があります。
クローン病の栄養療法では、タンパク質は含まず、脂肪は最低限の量のみとなっています。成分栄養剤より半消化態経腸栄養剤の方が高脂肪ですが、そのぶん飲みやすい味になっているので服用しやすく、続けやすいといわれています。

血球成分吸着除去療法
血球成分吸着除去療法は、炎症に関係しているとされる血液成分(顆粒球・単球)を除去することで炎症を抑えることを目的としています。この治療方法は、透析のように一旦血液を体外に出し、血液をカラムと呼ばれる濾過部分を通すことで活性化しすぎた血液成分のみを除去します。
頭痛や吐き気、寒気や微熱などが起こることもありますが、薬物療法に比べて副作用が少なく安全な治療法とされています。クローン病における血球成分吸着除去療法は、それまでの治療が効果的でない場合などの条件ある場合に選択されます。この治療法は保険適応になる回数が決められています。
クローン病の寛解維持療法
活動期のクローン病から寛解へと導入できたあとは、できるだけ長く寛解状態を維持できるように「寛解維持療法」を行います。退院後は外来に通院しながら薬物療法と在宅経腸栄養療法を併用していきます。手術を繰り返していることで腸が短くなっている方や、下痢が多くて生活に支障が出るような方は、在宅経腸栄養療法よりも在宅中心静脈栄養を選ぶこともあります。活動期に入り、再び腸管の炎症が強くなってきた場合には入院し、改めて寛解導入を行うことになります。
クローン病で外科治療となるときは
クローン病において、以下の状態にあるときには手術治療が選択されます。
- 複数の場所から出血している、または大量出血がある
- 腸管の狭窄がある
- 中毒性巨大結腸症
- 腸管や肛門に瘻孔(ろうこう 穴が空いていること)や膿の溜まりがある
- がん化の可能性がある
- 薬物療法・栄養療法でなかなか改善しないとき
手術は患者さんの状態に応じて様々な方法をとります。たとえば、一部分のみの狭窄(狭くなる)があるときには狭窄している部分を腸管に沿って開き、開いた部分を縦に合わせるようにして縫い合わせます。狭窄部分の状態によって術式は複数ありますが、これらの手術は狭窄形成術と呼ばれています。
狭窄が広いときや瘻孔・膿瘍・がんの発生があるときには、その部分を切除してつなぎ合わせます。この手術方法も、患者さんによってさまざまな方法がとられます。肛門付近の病変で手術になる場合には、一時的もしくは永久的な人工肛門をつくることになることもあります。
まとめ
クローン病の治療方法は、基本的に薬物療法と栄養療法になります。まずは寛解導入を目指し、寛解導入されたら寛解維持療法に切り替えます。クローン病は治療計画をしっかり守らないと再び炎症が起こりやすくなります。炎症を繰り返すことで合併症も起こりやすくなり、手術になってしまうこともあります。
クローン病は治療のガイドラインがありますが、それはあくまで基準。患者さんひとり一人の検査結果や栄養状態、そして生活スタイルに合わせて治療を計画していきます。治療薬、治療方法によっては保険適応外のものもありますので、医療機関とよく相談して治療を受けるようにしましょう。

クローン病は難病指定されている病気であり、治療は一生の付き合いになるため、国が医療費の助成を行なっています。ここでは、クローン病の医療費助成についてどのように定められているのか解説していきます。