潰瘍性大腸炎の診断プロセス

下痢や血便、腹痛などお腹の症状が主訴となる病気は数多くあります。似たような症状が現れるさまざまな病気の中から、医師はどのようにして確定診断へと結びつけていくのでしょうか。
ここでは、炎症性腸疾患の1つである潰瘍性大腸炎について、確定診断までの診断プロセスについてわかりやすくご紹介します。
  1. 潰瘍性大腸炎の診断プロセス まずは問診と身体観察
  2. 潰瘍性大腸炎の診断プロセス 潰瘍性大腸炎の診断基準とは
  3. 潰瘍性大腸炎の診断プロセス 除外すべき病気
  4. 潰瘍性大腸炎の分類
  5. 潰瘍性大腸炎は確定診断が難しいことも
  6. まとめ

潰瘍性大腸炎の診断プロセス まずは問診と身体観察

問診と身体観察はどのような病気であっても欠かさず行う診察の基本となるものです。患者さんから直接話を伺うことで、患者さんがどのような病気にかかっているのか、考えられるものをある程度絞ることができます。

  • いつからどのような症状があるか
  • 症状の経過はどうか
  • 身近に似たような症状が出ている人がいるかどうか
  • 生活環境、生活習慣、渡航歴について
  • 体重の変化

これらのほかにも、既往歴やアレルギーの有無、女性であれば妊娠の有無などの情報を得ておきます。病気に直接関係のないような情報かと思われるかもしれませんが、のちに潰瘍性大腸炎と診断された場合、その後の治療法を選択するための重要な情報となります。

問診が終わったら身体観察です。潰瘍性大腸炎のようにお腹の症状がメインとなる病気ではお腹を直接観察し、聴診と触診を行っていきます。

お腹の病気の中には腸の音が特徴的なものもあります。そのような病気の可能性を考えるとともに、腸が動く音を聴くことで現在の腸の具合を知ることもできます。

触診では、お腹全体に触れることでお腹の固さをみるとともに、触れることでお腹に痛みが出るかどうか、痛みの変化があるかどうかなどを確認します。

問診、そして視診・聴診・触診を行うことで多くの情報が得られます。しかしまだ潰瘍性大腸炎であるかどうか判断できません。

そこで、ここからは潰瘍性大腸炎の確定診断に向けて行われる検査についてみていきます。

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潰瘍性大腸炎の診断プロセス 潰瘍性大腸炎の診断基準とは

潰瘍性大腸炎は国が難病として指定している病気です。難病に指定された病気はその克服を目標として、国によって調査研究班がつくられています。

潰瘍性大腸炎の診断プロセスについては、難治性炎症性の腸管障害に関する調査研究班が診断基準を定めています。いったいどのような内容となっているのか、調査研究班による「潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準 治療指針(2015年改訂版)」の内容をわかりやすくまとめました。

潰瘍性大腸炎の診断基準

臨床症状
粘血・血便が持続している、粘血・血便が出たり出なかったりを繰り返しているかどうか。または過去にその既往があるかを確認します。

内視鏡検査と注腸X線検査
内視鏡検査は細い管の先にカメラのついたものを肛門から挿入し、大腸のはじまりから終わりまでをモニターを通して観察する検査です。医師は直接大腸粘膜の状態を観察できるので、粘膜表面の状態や出血の有無など細かな部分も把握することができます。

注腸X線検査は、造影剤と空気を肛門から注入し体の向きを変えて大腸全体に行き渡らせるようにしたのちにレントゲン撮影を行います。

内視鏡検査と注腸X線検査を行うことで、以下のような大腸に潰瘍性大腸炎の特徴がみられるかどうかを観察します。
  • 大腸粘膜は広範囲にわたって炎症が起き、粘膜に異常が起きている
  • 炎症がひどいことにより大腸粘膜の血管が見えない
  • 炎症によって大腸粘膜に凹凸ができる
  • 表面に細かい粒ができているようにザラザラしている
  • 大腸粘膜がもろく、出血しやすい
  • 大腸粘膜に粘液に血液や膿が混ざったものが付着している
  • 粘膜のただれや潰瘍、粘膜がポリープのように盛り上がっている状態があちこちにみられる
  • 腸が狭くなったり短くなったりしている
  • 大腸のひだがなくなっている

生検組織学的検査
生検組織学的検査とは、内視鏡検査を行ったときに粘膜の組織をわずかに採取し、それを顕微鏡で観察することで粘膜細胞の様子を確認する検査です。一般的には生検、または組織検査と呼ぶことが多いです。

潰瘍性大腸炎では、生検組織学的検査で粘膜細胞を顕微鏡で観察し、炎症が起きていることを表す細胞の有無や正常とは異なる状態を示す細胞があるかどうかなどを確認します。

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潰瘍性大腸炎の診断プロセス 除外すべき病気

先にご紹介した潰瘍性大腸炎の診断基準では、確定診断を行うことができる条件として、以下の病気について除外できることを挙げています。

  • 細菌性赤痢
  • アメーバ性大腸炎
  • サルモネラ腸炎
  • カンピロバクター腸炎
  • 大腸結核
  • クラミジア腸炎

など、感染によって起きる腸炎のほか

  • クローン病
  • 放射線照射性大腸炎
  • 薬剤性大腸炎
  • リンパ漏胞増殖症
  • 虚血性大腸炎
  • 腸型ベーチェット病

など

これらの病気を除外するために、これまでにご紹介した診察内容や検査のほか、血液検査の結果と便の培養検査で細菌の確認をします。

潰瘍性大腸炎の分類

潰瘍性大腸炎は、病変が拡がっている範囲や炎症の強さ、全身症状の状態など、さまざまな分類があります。診察・検査を行いながら患者さんごとにどの分類に当てはまるのか判断していきます。以下に分類の一部をご紹介します。

病変の拡がりによる分類

  • 全大腸炎型
  • 左側大腸炎型
  • 直腸炎型
  • 右側あるいは区域性大腸炎型

病期(病期の活動状況)による分類

  • 活動期
  • 寛解期
寛解期は、血便がなくなり、内視鏡検査で大腸粘膜の状態が改善していると確認できた状態です。

重症度による分類
排便回数や血便の状態、発熱など6つの項目から判断します

  • 軽症
  • 中等症
  • 重症

潰瘍性大腸炎は確定診断が難しいことも

どの病気にもいえることですが、症状の現れ方は人それぞれです。潰瘍性大腸炎は症状や検査の結果によってはすぐ確定診断を行うことが難しい場合もあります。その場合には定期的に検査を行い症状の変化をみていきます。そして潰瘍性大腸炎に特徴的な症状があらわれたところで確定診断を行います。

まとめ

潰瘍性大腸炎の診断プロセスは、厚生労働省のもとにある難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班によって診断基準が設けられています。医師はその潰瘍性大腸炎の診断基準に沿って診察や検査を進め、潰瘍性大腸炎の確定診断へと進めていきます。

潰瘍性大腸炎の予防法に関する詳しい解説はこちら

潰瘍性大腸炎の発症因子についてはいくつかの説があがっています。そこで、潰瘍性大腸炎の発症に関わると考えられている要因から、潰瘍性大腸炎の予防方法として期待できると考えられるものをまとめました。

潰瘍性大腸炎の予防方法

参考文献・サイト:
医学書院 medicina 2015年9月号 p.1714~p.1716
診断と治療社 消化器研修ノート p.375~p.380
参考サイト1参考サイト2参考サイト3
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