子宮内膜症の疫学データ・統計に関連する基本情報
子宮内膜症は、決して珍しい病気というわけではありません。ひょっとしたら近所に住んでいる人や職場の人の中に、発症中もしくは発症後に完治させたという人がいてもおかしくありません。上手くいけば、有益な情報を交換し合える可能性もあるのです。
子宮内膜症の罹患率の把握と実態
子宮内膜症は、その症状の性質上どうしても実際の発症患者数を正確に把握することは難しいです。政府統計と、推測される患者数には相当な乖離が生じています。
政府統計による子宮内膜症患者数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/10syoubyo/dl/h26syobyo.pdf
政府統計によれば、平成26年度10月の推計患者数は4,7000人であるとされています。これは昭和59年と比較すると約2倍の数値になります。平成26年度の総患者数は54,000人だとされています。
日本子宮内膜症啓発会議の見解
http://www.jecie.jp/jecie/wp-content/uploads/2014/01/bf32e43950a8bd66920b77f82acc3477.pdf
しかし、「日本子宮内膜症啓発会議」の見解によれば、2013年時点での子宮内膜症患者数は推計260万人以上であるとされています。政府統計との乖離の原因は「子宮内膜症の症状」です。
子宮内膜症は、生理周期に伴う生理痛の悪化や不妊といった症状です。しかし、症状は劇的に変化するわけではなく、「生理痛が重くなった」という軽い自覚が中心となります。そのため、子宮内膜症を自覚して婦人科を受診する女性が少ないのです。
子宮内膜症患者が増加しているとされている理由
先ほどの政府統計にもありましたが、平成に入ってから子宮内膜症の患者数は増加傾向にあります。その理由は「女性のあり方」が、ここ数十年で大きく変化したことにあります。
女性の社会進出とライフスタイルの変化
子宮内膜症の罹患率が上昇傾向で推移している最大の原因は「女性の社会進出」と、それに伴う「女性のライフスタイルの変化」です。1990年代から、女性の社会進出が顕著になり、それまでの「女性は家庭に入る」という考えが少しずつ見直されました。女性の多くが会社等で働くようになり、ライフスタイルもそれに応じて変化しています。
晩婚化・晩産化による子宮内膜症リスクの増加
その最大の影響は「晩婚化」と「晩産化」です。社会進出するようになったことで女性の結婚および初婚の年齢が一昔前より高くなりました。さらに、社会進出による女性に対するストレスの増加も危惧されています。
晩婚化と晩産化が子宮内膜症に及ぼす影響は「月経回数の増加」です。子宮内膜症の詳しい発症原因は特定されていませんが、月経が深く関係し、月経を経るごとに症状が悪化するということは判っています。そのため薬物療法として偽閉経療法や偽妊娠療法がとられることがあるのですが、晩産化によって若年層の月経回数が増加したことによって月経に関係する病気の発症リスクが高まってしまったのです。
同様に、「子宮筋腫」「子宮頸がん」「子宮腺筋症」といった女性特有の病気の患者数が増加したり、若年層に多く見られるようになったという変化を起こしています。
子宮内膜症と癌化のリスク
子宮内膜症は、それ自体が命を脅かすことはありません。しかし、子宮内膜症には「癌」に変化するリスクがあります。
チョコレート嚢胞と卵巣癌
子宮内膜症の症状の一つに「チョコレート嚢胞」が挙げられます。これは卵巣内に子宮内膜症の症状が見られることで、古い血液が溜まってチョコレートのように見えることからそう呼ばれています。
子宮内膜症患者の中で、特にこのチョコレート嚢胞が見られる人の場合、約0.7%の頻度で「卵巣癌(粘液性腺癌、類内膜腺癌、明細胞腺癌など)」が発生するとされています。そのため、検査でチョコレート嚢胞が確認された場合、卵巣癌の合併や共存についても懸念する必要があります。
40代以後は特に注意が必要
卵巣癌の厄介なところは、子宮内膜症と違って「閉経後に萎縮しない」ということです。卵巣癌と子宮内膜症の合併は特に40歳以降にそのリスクが高くなります。閉経が近い年齢であるため子宮内膜症についてのリスクは減少しますが、卵巣癌の発生リスクはむしろ高くなります。
まとめ
子宮内膜症は、その症状が目立ったものではないことで自覚されないことが多いです。推計される患者数が多いことから、定期検査等で子宮内膜症を発見することの重要性が理解できると思います。
女性の社会進出によってその頻度を高めた子宮内膜症は、これからの女性にとってそのリスクを念頭に置くことが健康的な社会生活を促すものであると言えます。自覚症状が無いという人でも、定期的に婦人科で検査を受けることをお勧めします。時には、子宮内膜症以外にも命の危険を伴うような病気の発見につながることもあるのです。
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