女性は日常的な飲酒でHDLコレステロールが低下?
大規模な保健医療データを用いて、40~64歳の日本人女性の習慣的な飲酒とHDLコレステロール(HDL-C)の関連を検討する研究が行われた。その結果、飲酒量が中等量以上の女性では、HDL-C値が10年間で有意に低下していることが明らかとなった。日本女子大学家政学部食物学科 臨床医学・代謝内科学研究室の関根愛莉氏らによる研究結果であり、「Cureus」に3月4日掲載された。
HDL-Cは善玉コレステロールと呼ばれ、HDL-Cが低いことはメタボリックシンドロームの診断基準の1つである。一方で、HDL-Cが極端に高いことは、心血管疾患による死亡に関連することも報告されている。適度な飲酒を行うことでHDL-Cが上昇することを示す研究もあるが、飲酒の影響は、性別や年齢、飲酒期間などにより異なる可能性がある。国内外の研究では、男性のみ、あるいは両性を合わせた研究がほとんどであり、女性の習慣的な飲酒とHDL-Cとの長期的な関連については不明な点が多い。
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そこで著者らは、厚生労働省の「レセプト情報・特定健診等情報データベース」のうち、関東1都6県で特定健診を受けた40~64歳の女性のデータを用いて後方視的コホート研究を行い、ベースライン(2008年度)から10年後(2018年度)の血清HDL-C値の変化と、飲酒量や飲酒頻度などとの関連を評価した。1回あたりの飲酒量(エタノール量換算)で、少量(23g/日未満)、中等量(23~45g/日)、多量(46g/日以上)に分類した。なお、エタノール量23gは、ビールの中瓶1本(500mL)やワインのグラス2杯(240mL)に相当する。
対象期間中に飲酒量・飲酒頻度が大きく変化した人や、ベースラインのHDL-Cが基準値(50~90mg/dL)から外れていた人、最初の2年間または最後の2年間にHDL-Cが10%以上変化した人などを除く、9万53人を解析対象とした。
ベースラインの飲酒量は、少量の人の割合が74.2%、中等量が21.5%、多量が4.3%だった。10年後のHDL-C値について、10mg/dL以上低下した人の割合は11.3%、10%以上の低下は17.9%であり、10mg/dL以上の上昇は17.3%、10%以上の上昇は25.6%だった。
次に、影響を及ぼす可能性のある因子(年齢、BMI、生活・運動習慣、脂質異常症に対する薬物療法、脂質・糖代謝などの血液検査値)やベースラインのHDL-Cを統計的に調整して、HDL-C低下と飲酒量の関連を解析した。その結果、中等量以上の飲酒は10年後のHDL-C低下と有意に関連することが明らかとなり、10mg/dL以上の低下に対するオッズ比(少量の飲酒と比較)は、中等量が1.15(95%信頼区間1.08~1.22)、多量が1.23(同1.10~1.39)で、10%以上の低下では同順に1.09(同1.04~1.15)、1.23(同1.11~1.36)だった。今回の検討では、飲酒頻度については、HDL-C低下との関連は認められなかった。
さらに、人工知能(AI)を用いて、HDL-C低下(10mg/dL以上)に対する正の寄与因子を検討した。その結果、影響の大きい順に、ベースラインのHDL-C高値(77mg/dL以上)、LDL-C高値(133mg/dL以上)、BMI高値(23.1kg/m2以上)、脂質異常症に対する薬物療法、トリグリセライド高値(70mg/dL以上)、年齢44~64歳、喫煙と続き、飲酒量はその次の8番目の因子であることが判明した。
以上の結果から著者らは、「日本人の中高年女性における中等量以上の習慣的な飲酒は、10年後のHDL-Cを有意に低下させる可能性が示されたが、HDL-Cの有意な上昇は引き起こさなかった」と結論。一方、日本人の中高年男性を対象とした結果では、中等量以上の飲酒はHDL-Cの低下と同時にHDL-Cの上昇とも関連していたことから、飲酒量とHDL-C低下に関連するメカニズムやその性差については、さらなる研究が必要だとしている。
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