男性はストレスで腎機能が低下?――J-MICC研究データの横断解析

 日本人対象の研究から、男性では自覚ストレスの強さが、腎機能の低下と有意に関連していることを示すデータが報告された。佐賀大学医学部社会医学講座予防医学分野の古賀佳代子氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に1月7日掲載された。意外なことに、ストレスに対する対処行動を表す一部の指標のスコアが高いことも、男性あるいは女性のいずれかにおいて腎機能の低下と関連が見られたという。

 腎機能低下のリスク因子としては、加齢のほかに糖尿病、高血圧、肥満症などの疾患や、喫煙、飲酒、運動不足などの生活習慣が挙げられる。これらの既知のリスク因子に加えて近年、精神的ストレスが腎機能低下と関連している可能性を示唆する研究結果が報告されている。ただし、結果に一貫性がなく、また、ストレスに対する対処行動と腎機能との関係については、ほとんどエビデンスが存在しない。そこで古賀氏らは、「日本多施設共同コーホート研究(J-MICC研究)」の参加登録時データを用いて、自覚ストレスおよびストレス対処行動と腎機能の関係を横断的に解析した。

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 解析対象は、J-MICC研究参加者から、腎疾患既往者、血清クレアチニンが0.2mg/dL未満または2.0mg/dL超、およびデータ欠落者を除外した7万642人(男性が44.9%で56.0±9.2歳、女性は55.2±9.2歳)。自覚ストレスの強さは、「最近1年間にストレスを感じましたか」との質問に対し、(1)全く感じなかった、(2)あまり感じなかった、(3)多少感じた、(4)おおいに感じたという4種類から選択してもらい、(1)と(2)はストレスレベルが「低」、(3)は「中」、(4)は「高」と判定した。またストレスへの対処行動は、ストレスコーピング尺度(GCQと日本語版Brief COPEから5つの項目を抽出)という指標で評価した。

 性別の比較から、女性は男性よりも自覚ストレスを強く感じていることが示された(ストレスレベル「高」の割合が男性は20.6%に対して女性は30.0%)。一方、ストレスに対する対処行動の中で、肯定的解釈(ストレスを前向きに解釈しようとする姿勢)や、支援希求(親しい人に相談し励ましてもらう)は女性の方が強く、積極的問題解決(問題を解決しようとする姿勢)は男性の方が強かった。腎機能(eGFR)は男性76.3±14.0mL/分/1.73m2、女性80.0±14.9mL/分/1.73m2だった。

 重回帰分析にて腎機能に影響を及ぼし得る因子(年齢、飲酒・喫煙、身体活動、睡眠時間、摂取エネルギー量、BMI、地域、対処行動の各項目)を調整後、男性では自覚ストレスが強いほど腎機能が低いという有意な負の関連が認められた(β=-0.27、傾向性P=0.017)。この関連は、高血圧・糖尿病・脂質異常症の既往を追加して調整すると弱まる傾向が見られた(β=-0.23、傾向性P=0.042)。女性ではストレスと腎機能との間に有意な関連は認められなかった。

 男性の腎機能低下が自覚ストレスの強さと有意な関連があるという結果について、著者らは、ストレスの負荷が視床下部-下垂体-副腎系あるいは交感神経活性を亢進させ、血圧や血糖の上昇などを介して、腎機能に影響を及ぼす可能性があると考察している。また、女性では有意な関連が見られなかった点については、女性では男性に比べて、ストレスが視床下部-下垂体-副腎系あるいは交感神経活性へ及ぼす影響が抑制されることが、既報研究から示唆されているという。

 次に、ストレス対処行動と腎機能との関連については、前記の重回帰分析の結果、男性では積極的問題解決の姿勢が強いほど腎機能が低く(β=-0.45)、女性では肯定的解釈の姿勢が強いほど腎機能が低いという(β=-0.43)、いずれも有意な負の関連が認められた(傾向性P値はいずれも<0.001)。

 この点について著者らは、「どちらの対処行動もストレスに対する前向きな姿勢であるにもかかわらず、腎機能低下との有意な関連が認められたことは予想外の結果だ」と述べた上で、「そのメカニズムは基本的に不明」としている。ただし、本研究では、男性の積極的問題解決志向は握力と正相関するという結果が得られた。握力の強さはテストステロンレベルと相関するとの報告があり、テストステロン高値が男性の腎機能低下に関連している可能性があるという。

 また、肯定的解釈の姿勢の強さは、インターロイキン-2(IL-2)レベルの低さと関連するという報告があり、IL-2低値が免疫能への影響を介して女性の腎機能低下に関係している可能性が考えられるとしている。ただし、「いずれも仮説のレベルに過ぎず、今後の追試やメカニズム解明のための研究が必要とされる」とまとめられている。

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参考情報:リンク先
HealthDay News 2022年3月28日
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