人には聞こえない音が食後の血糖上昇を抑える可能性

 人の耳には聞こえない超高周波が含まれている音が流れている環境では、ブドウ糖負荷後(日常生活では食後に相当)の血糖値の上昇が抑制される可能性が報告された。国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第七部の本田学氏、国際科学振興財団の河合徳枝氏らの研究によるものであり、結果の詳細は「Scientific Reports」に11月2日掲載された。

 メンタルヘルス関連の病気だけでなく、糖尿病や高血圧などの身体疾患の病状にもストレスが深く関与していることが知られている。そのため、ストレスを抑制する心理的なアプローチが試みられることもあるが、ストレスの原因や効果的な対処法は人それぞれ異なることから、実用性は限定的。一方、脳の情報処理メカニズムに着目し、音や光などの刺激を用いた新たな治療法の確立を目指す、「情報医学・情報医療」という研究が続けられている。

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 本田氏らは今回、人の耳には聞こえない20kHz以上の超高周波を含む音による糖代謝への影響を検討した。なお、同氏らは既に、そのような音が、脳内の報酬系神経回路の血流量を増やし、ストレスホルモンを低下させ、免疫能を高めることを報告している。また、超高周波は自然環境の音には含まれているものの、都市環境やデジタル音源にはほとんど含まれていないという。

 研究参加者は、糖尿病治療を受けていない健康な成人25人(平均年齢57.6±7.5歳、女性が12人、HbA1c5.52±0.41%)。設定した研究室内の環境音は、以下の3通り。超高周波が含まれている熱帯雨林の自然環境音、その自然環境音から超高周波を除去した音、および無音(研究室のファンの音などの雑音のみ)。血糖値への影響は、糖尿病の診断に用いられている経口ブドウ糖負荷試験(75gのブドウ糖溶液を飲んだ後、2時間にわたり血糖値の変化を見る検査)で評価した。なお、試行前日の夜からは絶食(水のみ摂取可)とし、3回の試行の時間帯は一致させ、全ての試行を10日以内に完了した。また、血糖値は静脈採血ではなく、間歇スキャン式持続血糖測定器(isCGM)で測定した。

 ブドウ糖負荷後の血糖値は、超高周波が含まれている音の環境では低値で推移していた。超高周波が除去された音の環境との比較では、血糖レベルが有意に低く(P=0.025)、ベースラインからの血糖値の上昇幅も有意に少なかった(P=0.000012)。無音条件との比較では、血糖レベルは有意差がないものの(P=0.16)、ベースラインからの血糖値の上昇幅は有意に少なかった(P=0.0018)。

 血糖上昇曲線下面積(AUC)の比較では、超高周波が含まれている音の環境はそれが含まれていない環境より有意に低値であり(P=0.039)、無音条件とは有意差がなかった(P=0.13)。また、超高周波の音が含まれていない環境と無音条件も有意差がなかった(P=0.66)。

 HbA1cの高低で二分して検討すると、超高周波が含まれている音による血糖上昇抑制効果はHbA1c5.5%以上の群でのみ認められた。また、年齢の高低で層別化した場合は、59歳以上の群でのみ、その効果が確認された。

 著者らは本研究の限界点として、血糖値を静脈血漿値で測定していないこと、主観的なストレスの変化との関連を検討していないことなどを挙げている。その上で、「高周波を含む音が耐糖能障害リスクのある人の糖代謝を改善し得る可能性が示された」と結論付け、「糖尿病患者の血糖管理や糖尿病発症予防への有用性を、大規模なサンプルで検証する必要がある」と、今後の展望を語っている。

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HealthDay News 2022年12月26日
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