主観的な記憶力の低下が自動車事故リスクに独立して関連

 主観的に記憶力が低下したと感じている高齢者は、客観的な認知機能低下の有無にかかわらず、自動車運転中の事故リスクが高い可能性を示すデータが報告された。国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センターの栗田智史氏らの研究であり、論文が「JAMA Network Open」に8月25日掲載された。

 高齢期は、買い物や人に会いに行くなど、自立した生活を送る上では自身で車を運転できることが望ましいが、加齢とともに車の運転に必要な視聴覚機能や認知機能が低下し、自動車事故が発生しやすくなることが報告されている。そのため、事故リスクを早期に把握し、何らかの対策を取ることが重要と考えられる。国内では既に、高齢ドライバーの免許更新時に認知機能検査を実施し、認知症の疑いがないかを判定している。

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 一方で、認知症でなくても、主観的な認知機能(記憶力)と歩行速度の低下により判定される「MCR(motoric cognitive risk syndrome)」と呼ばれる状態は、将来の認知症のリスクが約3倍高いと報告されている。このMCRは、評価のために専門のスタッフを必要とせず、比較的容易な検査で判定できるという特徴がある。MCRと自動車事故との関連が認められれば、自動車事故のリスクを把握するための実用性の高い新たな手段になる可能性があることから、栗田氏らは、MCRと自動車事故やヒヤリハット経験の有無との関連を検討した。

 この研究は、国立長寿医療研究センターによる大規模コホート研究「National Center for Geriatrics and Gerontology-Study of Geriatric Syndromes(NCGG-SGS)」の横断データを用いて行われた。2015~2018年に愛知県大府市などで実施した高齢者機能健診に参加した65歳以上の高齢ドライバー1万2,475人(平均年齢72.6±5.2歳、女性43.1%)を解析対象とした。

 主観的な記憶力は、「記憶に関して問題を抱えているか」、「以前より、物を置いた場所を忘れることが増えたか」、「親しい友人、知人の名前を忘れることがあるか」など5項目の質問に対して一つでも「はい」と回答した場合に「低下している」と判定した。歩行速度の低下は、NCGG-SGSのデータベースから算出した基準値により判定した。また、自動車事故は過去2年間の有無、ヒヤリハット経験は12項目について過去1年間の有無を評価した。このほか、同センターが作成した認知機能評価ツールを用いて、認知機能低下の有無を客観的に評価した。

 解析は、主観的な記憶力の低下および歩行速度の低下の有無を組み合わせて全体を4群に分類して行った。4群の対象者特性を比較すると、眼疾患の既往、難聴、日中の過度な眠気は主観的記憶低下のみ群、MCR群(両方とも低下している群)において有意に多く、客観的認知機能低下については健常群(主観的認知機能の低下と歩行速度の低下がともにない群)、主観的記憶低下のみ群、歩行速度低下のみ群、MCR群の順で多く見られた。

 結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、教育歴、眼疾患や難聴の有無、服薬数、睡眠時間、日中の眠気、客観的な認知機能低下の有無)の影響を調整したロジスティック回帰分析の結果、自動車事故、ヒヤリハット経験ともに、健常群を参照すると、主観的記憶低下のみ群、MCR群においてオッズ比が有意に増加した。具体的なオッズ比は、自動車事故に対しては主観的記憶低下のみ群がOR1.48(95%信頼区間1.27~1.72)、MCR群がOR1.73(同1.39~2.16)、ヒヤリハット経験に対しては同順にOR2.07(1.91~2.25)、OR2.13(1.85~2.45)であった。

 これらの傾向は、4群をさらに客観的認知機能低下の有無により8群に分けて解析した場合においても同様であり、歩行速度のみ低下している群においては、客観的認知機能低下を伴う場合に自動車事故のオッズ比が有意に増加した。

 これらの結果より、高齢ドライバーにおける主観的記憶低下、MCRの状態は、客観的に評価した認知機能低下の有無を問わず、過去の自動車事故、ヒヤリハット経験と関連することが示唆された。本研究は横断研究であり、主観的記憶低下、MCRの評価を自動車事故のリスク把握に適用できるかを検討するためには、縦断研究や主観的記憶力低下に伴う症状の探索により、本研究で得られた知見を確証する必要がある。

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HealthDay News 2023年10月23日
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