Long COVIDの倦怠感・ME/CFSにフェリチン高値が関与?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)急性期以降に症状が遷延する、いわゆる「long COVID」における筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に、高フェリチン血症が関与している可能性を示唆するデータが報告された。岡山大学学術研究院医歯薬学域総合内科学の大塚勇輝氏、山本幸近氏、大塚文男氏らの研究結果であり、詳細は「Journal of Clinical Medicine」に7月18日掲載された。

 Long COVID患者の多くが倦怠感を呈するが、その一部は、強い症状のために日常生活にも支障が生じて、ME/CFSに類似した状態に移行することがある。一般人口におけるME/CFSの有病率は1%未満であるのに対して、long COVID患者では16.8%に上るというデータもある。ME/CFSの原因として、感染症、免疫応答の異常、内分泌機能不全などが想定されているが詳細は未解明であり、臨床医にとってME/CFSの診断は容易でない。Long COVID患者のME/CFSに何らかの特徴を見いだせれば、それを手掛かりとしてME/CFSの診断・治療へとつなげられる可能性が広がる。

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 一方、COVID-19の急性期ではその重症度とフェリチンとの間に関連があり、long COVIDでもフェリチンの上昇が臨床的特徴の一つになり得ることが示唆されている。フェリチンは鉄貯蔵のマーカーだが、感染症や炎症によって高値となることも知られている。これらの知見を背景として大塚氏らは、岡山大学病院総合内科・総合診療科のコロナ・アフターケア(CAC)外来の患者データを用いて、フェリチン値を含めた臨床検査指標とME/CFSとの関連を横断的に解析した。

 解析対象は、2021年2月22日~2022年5月31日のCAC外来受診者312人から、COVID-19罹患後4週間未満のlong COVIDの診断基準を満たさない患者、COVID-19罹患以前から高フェリチン血症だった患者などを除外した234人。このうち139人(59.4%)が倦怠感を訴え、さらにその中の50人はME/CFSの診断基準を満たした。95人(40.6%)は倦怠感を訴えていなかった。なお、ME/CFSは、国内外で用いられている3種類の診断基準を全て満たす場合と定義した。

 ME/CFS群、ME/CFSの基準を満たさないが倦怠感のある群(非ME/CFS群)、倦怠感なし群を比較すると、年齢や性別の分布、BMI、COVID-19急性期の重症度には有意差がなかった。ただし、COVID-19罹患から受診までの期間は有意差があり、ME/CFS群が最も長く中央値128日、倦怠感なし群は106日、非ME/CFS群は最も短く73日だった。6種類の自覚症状評価スケールの評価結果は全て、ME/CFS群が最も重度であり、非ME/CFS群、倦怠感なし群の順に軽度となることを示していた。

 血液検査値に着目すると、貧血の有無や重症度を表すヘモグロビン、炎症マーカーのCRPや白血球数、凝固マーカーのDダイマーやフィブリノゲン、腎機能、肝機能、アルブミンなどの検査値には有意差は認められず、フェリチンのみME/CFS群が有意に高値であった(ME/CFS群は中央値193.0、非ME/CFS群98.2、倦怠感なし群86.7μg/L)。またフェリチン値は、6種類の自覚症状評価スケールのうち3種類(FASという倦怠感評価スケールなど)のスコアとの有意な相関も認められた。なお、フェリチン値を性別で比較すると女性の方が低値だが、ME/CFS群と非ME/CFS群との比較では、女性で群間差がより顕著で(中央値68.9対43.8μg/L)、男性は群間差が非有意となった。

 このほか、内分泌学的検査からは、成長ホルモン(GH)がME/CFS群は倦怠感なし群より有意に低いこと(0.22対0.37ng/mL)、インスリン様成長因子I(IGF-I)とフェリチン値との間に有意な負の相関(r=-0.328)があることなどが示された。

 これらの結果を総括して著者らは、「long COVIDに伴うME/CFSの特徴としてフェリチン高値が特定された」と結論付けている。なお、フェリチンは感染症や炎症で上昇するが、本研究の対象はCOVID-19罹患から長期間経過後であること、およびフェリチン以外の炎症マーカーは上昇していないこと、さらにCOVID-19急性期の重症度とME/CFSリスクとの間に関連がないことなどから、「急性期の炎症が遷延しているだけとは言いにくく、long COVIDに伴う鉄代謝への影響や、高血圧、睡眠障害、抑うつ、ホルモン分泌の変化などが病態に関連している可能性がある」との考察が加えられている。

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HealthDay News 2023年10月23日
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