• 漢方薬による偽アルドステロン症、高血圧や認知症と関連

     漢方薬は日本で1500年以上にわたり伝統的に用いられているが、使用することにより「偽アルドステロン症」などの副作用が生じることがある。今回、日本のデータベースを用いて漢方薬の使用と副作用報告に関する調査が行われ、偽アルドステロン症と高血圧や認知症との関連が明らかとなった。また、女性、70歳以上などとの関連も見られたという。福島県立医科大学会津医療センター漢方医学講座の畝田一司氏らによる研究であり、詳細は「PLOS ONE」に1月2日掲載された。

     偽アルドステロン症は、血圧を上昇させるホルモン(アルドステロン)が増加していないにもかかわらず、高血圧、むくみ、低カリウムなどの症状が現れる状態。「甘草(カンゾウ)」という生薬には抗炎症作用や肝機能に対する有益な作用があるが、その主成分であるグリチルリチンが、偽アルドステロン症の原因と考えられている。現在、保険が適用される漢方薬は148種類あり、そのうちの70%以上に甘草が含まれている。

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     今回の研究では、「医薬品副作用データベース(JADER)」を用いて、漢方薬による偽アルドステロン症と関連する臨床的要因が検討された。同データベースには、患者背景、使用薬、有害事象に関する自己報告データが含まれている。2004年4月から2022年11月までの期間に報告された有害事象から、保険適用の漢方薬148種類に関する報告を抽出。不完全な報告データを除外して、有害事象のデータ2,471件(偽アルドステロン症210件、他の有害事象2,261件)が解析対象となった。

     解析の結果、偽アルドステロン症では他の有害事象と比べて、漢方薬に含まれる甘草の投与量が有意に多く(平均3.3対1.5g/日)、漢方薬の使用期間が有意に長いことが判明した(中央値77.5対29.0日)。偽アルドステロン症の報告で最もよく使用されていた漢方薬は、「芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)」(90件)、「抑肝散(ヨクカンサン)」(47件)、「六君子湯(リックンシトウ)」(12件)、「補中益気湯(ホチュウエッキトウ)」(10件)などだった。

     さらに、偽アルドステロン症と関連する因子を検討した結果、女性(オッズ比1.7、95%信頼区間1.2~2.6)、70歳以上(同5.0、3.2~7.8)、体重50kg未満(同2.2、1.5~3.2)、利尿薬の使用(同2.1、1.3~4.8)、認知症(同7.0、4.2~11.6)、高血圧(同1.6、1.1~2.4)との有意な関連が認められた。また、甘草の1日当たりの投与量(同2.1、1.9~2.3)および漢方薬の14日以上の使用(同2.8、1.7~4.5)も、偽アルドステロン症と有意に関連していた。

     著者らは、今回の研究は自己報告のデータを対象としており、過少報告の可能性や臨床的背景の情報が限られることなどを説明した上で、「漢方薬による偽アルドステロン症の実臨床における関連因子が明らかになった」と結論付けている。ただし、今回の研究では抽出された関連因子と偽アルドステロン症との因果関係については検証できず、今後の課題だという。著者らはまた、関連因子のうち、高血圧を特定できたことの意義は大きいとしている。さらに、「複数の因子を持つ患者に対して、甘草を含む漢方薬が14日以上処方される場合は、偽アルドステロン症を予防するために注意深い経過観察が必要である」と述べている。

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    HealthDay News 2024年2月13日
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  • 富士登山で高山病になる人とならない人の違い

     富士登山で高山病になった人とならなかった人の血圧、心拍数、乳酸、動脈血酸素飽和度、心係数などを比較した、大阪大学医学部救急医学科の蛯原健氏らの研究結果が、「Journal of Physiological Anthropology」に4月13日掲載された。測定した項目の中で有意差が認められたのは、心係数のみだったという。

     毎年20万人前後が富士登山に訪れ、その約3割が高山病を発症すると報告されている。高山病は一般に標高2,500mを超える辺りから発症し、主な症状は吐き気や頭痛、疲労など。多くの場合、高地での最初の睡眠の後に悪化するものの、1~2日の滞在または下山により改善するが、まれに脳浮腫や肺水腫などが起きて致命的となる。

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     高山病のリスク因子として、これまでの研究では到達高度と登山のスピードの速さが指摘されている一方、年齢や性別については関連を否定するデータが報告されている。また、心拍数や呼吸数の変化、心拍出量(1分間に心臓が全身に送り出す血液量)も、高山病のリスクと関連があると考えられている。ただし、富士登山におけるそれらの関連は明らかでない。蛯原氏らは、高地で心拍出量が増加しない場合に低酸素症(組織の酸素濃度が低下した状態)となり、高山病のリスクが生じるというメカニズムを想定し、以下のパイロット研究を行った。

     研究参加者は、年に1~2回程度、2,000m級の山を登山している11人の健康なボランティア。全員、呼吸器疾患や心疾患の既往がなく、服用中の薬剤のない非喫煙者であり、BMI25未満の非肥満者。早朝に山梨県富士吉田市(標高120m)から車で登山口(同2,380m)に移動し登山を開始。山頂の研究施設(旧・富士山測候所)に一泊後に下山した。この間、ポータブルタイプの測定器により、心拍数、血圧、動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定し、ベースライン時(120m地点)と山頂での就寝前・起床後に、心係数(心拍出量を体表面積で除した値)、1回拍出量を測定。またベースライン時と山頂での就寝前に採血を行い、乳酸値、pHなどを測定した。

     高山病の発症は、レイクルイーズスコア(LLS)という指標で評価した。これは、頭痛、胃腸症状、疲労・脱力、めまい・ふらつきという4種類の症状を合計12点でスコア化するもので、今回の研究では山頂での起床時に頭痛があってスコア3点以上の場合を高山病ありと定義した。

     11人中4人が高山病の判定基準を満たした。高山病発症群と非発症群のベースライン時のパラメーターを比較すると、高山病発症群の方が高齢であることを除いて(中央値42対26歳、P=0.018)、有意差のある項目はなかった。登山中に両群ともSpO2が約75%まで低下したが、その群間差は非有意だった。また、登山中や山頂で測定された心拍数、1回拍出量、乳酸値などのいずれも有意な群間差がなかった。唯一、心係数のみが以下のように有意差を認めた。

     高山病発症群の山頂での就寝前の心係数(L/分/m2)は中央値4.9、非発症群は同3.8であり、発症群の方が有意に高かった(P=0.04)。つまり、研究前の仮説とは反対の結果だった。心係数のベースライン値からの変動幅を見ると、睡眠前は高山病発症群がΔ1.6、非発症群がΔ0.2、起床後は同順にΔ0.7、Δ-0.2であり、いずれも発症群の変動幅の方が大きかった(いずれもP<0.01)。

     このほかに、LLSで評価した症状スコアは、高山病非発症群の7人中4人は睡眠により低下したのに対して、発症群の4人は全員低下が見られないという違いも示された。

     以上より著者らは、「山頂到着時の心係数が高いこと、およびベースライン時からの心係数の上昇幅が大きいことが、富士登山時の高山病発症に関連していた。心拍出量の高さが高山病のリスク因子である可能性がある」と結論付けている。ただし、高山病発症群は非発症群より高齢であったことを含め、パイロット研究としての限界点があることから、「高山病発症のメカニズムの解明にはさらなる研究が必要」としている。

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    HealthDay News 2023年5月22日
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  • ミトコンドリア超複合体の「見える化」で筋力を高める薬物を発見

     筋肉でエネルギーを産生する際に重要な「ミトコンドリア超複合体」の可視・定量化(見える化)に成功したとする、東京都健康長寿医療センター研究所の井上聡氏らの論文が、「Nature Communications」に1月25日掲載された。ミトコンドリア超複合体を増やして筋肉の持久力を高める薬剤も見つかったという。

     筋肉は運動のために大量のエネルギーを必要とし、そのエネルギーは細胞内小器官であるミトコンドリアによって作られている。ミトコンドリアの内部では「複合体」と呼ばれるタンパク質同士が結合して、さらに大きな「ミトコンドリア超複合体」という集合体を作ることで、より多くのエネルギーを産生している。ただ、これまでは生きた細胞(生体内)のミトコンドリア超複合体を観察することができず、研究の足かせとなっていた。そこで井上氏らは、まず、ミトコンドリア超複合体の可視化に取り組んだ。

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     ミトコンドリア超複合体の構成因子であるIとIVという複合体に、それぞれ緑色と赤色の蛍光タンパク質を連結したマウス由来の筋肉細胞を作製。この細胞は、IとIVが距離的に離れているときには単色で光るが、ミトコンドリア超複合体を形成して両者が近接すると、蛍光タンパク質同士も近づくためにエネルギーの移行が起こり、緑色で蛍光刺激すると赤色に光るという現象が生じる。この現象を、レーザー顕微鏡で観察することにより、生体内ミトコンドリア超複合体を定量的に観察すること、いわゆる「見える化」に成功した。

     次に、マウスの筋肉細胞を見える化し、ミトコンドリア超複合体を増やす薬物を探索。1,000種類を超える薬物で実験を繰り返した結果、リン酸化酵素阻害薬(SYK阻害薬)という薬物が、ミトコンドリア超複合体の量を増やし、エネルギー代謝を高める可能性のあることが明らかになった。

     続いて、SYK阻害薬をマウスの腹腔内に週2回投与。5週間後、生理食塩水を同様に投与したマウス(対照群)と比べると、筋肉のミトコンドリア超複合体の量が多く、筋持久力(懸垂持続時間、走行距離、走行速度)が高いという有意差が確認された。なお、SYK阻害薬を投与したマウスに、体重減少を含む悪影響は観察されなかった。また、筋肉量は対照群と有意差がなかったことから、筋持久力アップは筋肉の質が向上したことによるものと推察された。

     近年、加齢や疾患に伴い筋肉量や筋力の低下した状態である「サルコペニア」が、生活の質(QOL)低下や死亡リスク上昇の一因として問題になっている。著者らは、「本研究の成果は、加齢に伴う筋力の低下や筋疾患のメカニズムの解明と、その診断・治療薬開発の応用につながるばかりでなく、運動能力の向上に伴う健康増進、スポーツパフォーマンスの向上にも役立つと考えられる」と述べている。

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    治験・臨床試験についての詳しい説明

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    HealthDay News 2023年2月20日
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  • 健康経営と企業の業績の関連性

     労働者の健康を重視することで生産性の向上を期待するという「健康経営」が、実際に企業収益を押し上げている可能性を示唆するデータが報告された。滋賀医科大学社会医学講座公衆衛生学部門の矢野裕一朗氏らの研究によるもので、詳細は「Epidemiology and health」に9月23日掲載された。

     バブル崩壊以降続いている日本の競争力の低下の一因として、労働者の生産性の低さが指摘されている。労働者の生産性の向上には、健康で安心して働ける環境が必要と考えられることから、経済産業省は「健康経営」の普及を推進しており、例えば「健康経営銘柄」の選定などを行っている。ただし、従業員の健康への投資がその企業の業績向上に結び付いているのか否かは不明。矢野氏らは、経産省の健康経営に関する年次調査のデータと、企業が公表している財務指標との関連を調べるという手法で、この点を検討した。

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     調査対象は1,593社だった。その内訳は、2017年度の経産省調査と2017~2020年度の財務指標データの双方を得られた842社、および、2018年度経産省調査と2018~2020年度の財務指標データの双方を得られた751社。業種は、専門サービスが12.7%、電気通信12.4%、小売11.2%、金融サービス8.7%、卸売7.3%、電気製造5.9%、建設4.3%、化学4.1%、輸送機器3.8%、海運3.5%、食品3.3%など。これらの企業の従業員数は合計435万9,834人で平均年齢40.3±3.4歳、女性25.8%、勤続年数は14.2±4.9年だった。

     財務指標を基に従業員1人当たりの利益の増加が大きい上位25%の企業を“業績良好(=利益あり)”と定義し、それと関連性の強い健康経営調査の項目を抽出した上で、利益が上昇している企業を特定するためのモデルを作成。統計学的解析の結果、正確度0.997、精度0.993、再現性0.997という予測能の高いモデルを得られた。このモデルの中で、健康経営調査の各項目の重要度(企業利益ありに対する寄与度)をシャープレイ値(SHAP値)という指標で評価したところ、以下のように、健康経営指標と、従業員1人当たりの利益の増加との関連が明らかになった。なお、SHAP値は数値が大きいほど重要性が高いことを意味する。

     従業員1人当たりの利益の増加に最も強い関連のある健康経営指標は、現在の喫煙者の割合の低さであり、SHAP値は0.121だった。2位は従業員1人当たりの医療サービスコスト(SHAP値0.084)で、そのほかは、よく眠れる従業員の割合(同0.055)、定期的に運動する習慣がある従業員の割合(0.043)、1人当たりの年間福利厚生費(0.041)などだった。

     著者らは、本研究が観察研究であり因果関係の証明にはならないこと、例えば、企業業績が良好なために福利厚生に力を入れているという結果を表している可能性があることなどを、解釈上の限界点として挙げている。その上で、「企業従業員のライフスタイルに関連する健康リスク要因と、企業の収益性との間に関連があることが実証された。労働者の生産性を引き下げる健康上のリスクを特定して対処するという投資が、将来的な収益改善に貢献する可能性が想定される」と結論付けている。

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    HealthDay News 2022年12月15日
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  • 病院排水のオゾン処理で細菌と残留抗菌薬の不活化に成功

     病院内の排水貯留槽に含まれる一般細菌や、代謝により尿・便として排泄される残留抗菌薬をオゾン処理によって不活化するシステムの有効性が報告された。1m3の試験排水に対して20分の処理で多くの細菌が不活化され、40分の処理でほぼ全ての抗菌薬についても不活化可能であるという。東邦大学医学部一般・消化器外科/医療センター大橋病院副院長の渡邉学氏、大阪医科薬科大学の東剛志氏、国立感染症研究所の黒田誠氏らによる共同研究の成果が、国際科学誌「Antibiotics」に6月27日掲載された。

     感染症治療には抗菌薬が使用されるが、抗菌薬に対する耐性(antimicrobial resistance;AMR)を獲得した細菌が生まれ、治療困難な感染症の拡大が懸念され、世界中でAMR対策が推進されている。その手段としてこれまで、一般市民へのAMR対策の重要性の啓発活動や、医療現場での抗菌薬適正使用の推進などの措置がとられてきた。しかし、適正使用された抗菌薬であっても一部は薬効を持ったまま体外に排泄され、排水を経由して環境中に拡散している。

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     また、国内の水質汚濁防止に関する法律では、大腸菌群については下水道に流す前に排出量(濃度)を一定レベル以下に処理することを定めているが、その他の細菌や抗菌薬の濃度については定めがない。現状では、下水を介して環境中に排泄される薬剤耐性菌や抗菌薬が生態系に影響を及ぼし得るのかというリスク評価のデータは乏しく、今後の調査が重要である。また、環境に放出された薬剤耐性因子をそのままにしておくことで、新たな薬剤耐性菌を生み出してしまう懸念も警鐘されている。

     医療機関からの排水中の細菌や抗菌薬の濃度は、一般家庭などからの排水よりも高い傾向にあり、下水道に流入する前の処理によりそれらを取り除くことが可能であれば、新たなAMR対策手段となり得る。渡邉氏らはこのような背景のもと、東邦大学医療センター大橋病院の下水処理システムにオゾン処理装置を増設し、予備実験で排水中の細菌や抗菌薬を不活化する試みを実施した。病院施設に高度な排水処理システムを応用し、細菌や抗菌薬の不活化効果について科学的な評価を行った成果の報告は、本事業が初めてとのことだ。

     排水中の細菌や抗菌薬を不活化する方法は複数存在する。その中から、同院ではオゾン処理という方法に着目した。この方法には、化学薬品の添加が不要で細菌の不活化や環境汚染物質の除去が可能であり、脱色や脱臭効果にも優れているという特徴がある。ただし、その効果は実験室レベルでの小規模な検討にとどまっていて、病院の排水処理への適用はこれまで検討されていなかったという。

     オゾン処理後の排水を解析した結果、大半の細菌が20分で処理前の0.02%程度のレベルに不活化されることが明らかになった。ただし、病原性の低い環境細菌と想定されるRaoultella ornithinolyticaやPseudomonas putidaなどの一部の細菌は80分のオゾン処理後も若干検出され、オゾンに対する低感受性が認められた。著者らは、「これら一部の細菌は細菌自体が有する特徴としてオゾンに対する抵抗性を持っていると考えられ、環境中でAMRリザーバー(貯蔵庫)としての役割を果たす可能性があるかもしれず、今後注意深く見ていく必要がある」と述べている。

     抗菌薬については、国内での使用量の多い15種類についてオゾン処理の効果が検討され、40分のオゾン処理によって対象とした全ての抗菌薬の96~100%が除去された。セフジニル、レボフロキサシン、クロルテトラサイクリン、バンコマイシンについては10分以内に90%が除去された。また、アンピシリンとクラリスロマイシンは、20分後にも20〜22%検出されたが、40分後には96〜99%が除去された。

     以上の結果から著者らは、「ろ過や生物学的な前処理を行わず、病院排水に直接的なオゾン処理を行うことで、薬剤耐性菌と残留抗菌薬が同時にかつ効率的に不活化されることを明らかにした。どの病院からもある一定数の耐性菌が一般下水へ排出されていると推察され、社会的な対策の必要性が求められつつある。東邦大学医療センター大橋病院として排水浄化の取り組みを世界に先駆けて実施し、オゾン処理が効果的であることを実証した。これらの成果をもとに社会実装を視野に入れ、病気の治療にとどまらず、人々の健康や安全に責務のある病院としてさらなるクリーンな環境作りに貢献したい」と述べている。

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    HealthDay News 2022年8月1日
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  • 爪の変色が再入院リスクと独立して関連――国内単施設前向き研究

     入院患者の爪の色から、退院後の再入院リスクを予測可能であることを示すデータが報告された。爪の半月(非高齢者の大半に見られる爪の根元の白い部分)がなくなっているのに爪の色が白く変化している高齢者は、交絡因子を調整後も再入院リスクが有意に高いという。雲南市立病院地域ケア科診療科の太田龍一氏らの研究によるもので、研究成果が「Cureus」に4月19日掲載された。

     爪の色は、メカニズムの理解は不十分ながら、慢性疾患患者や低栄養状態では白く変化するケースのあることが知られている。爪の色は簡単に確認できる上に、変化した色は短期間では変わらないため、急性疾患患者の入院前の状態の推測や管理強化・予後予測の指標となる可能性もある。ただし、それらの関連の実態は明らかでない。太田氏らは、入院患者に見られる白い爪と再入院リスクとの関連について、単施設前向きコホート研究により検討した。

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     2020年4月~2021年3月に同院一般内科に入院した65歳超の患者から、爪白癬・欠損などのため評価不能の症例や院内死亡症例を除外した637人を検討対象とした。トレーニングを受けたスタッフが患者の爪の色を評価し、白く変化している群と変化していない群の2群に分類して、2021年6月30日まで追跡した。なお、第1指(親指)は高齢者でも半月が残っていることが多いため、評価の対象外とした。また、評価を行うスタッフは、患者の疾患名や病状の詳細を知らされていなかった。

     解析対象者637人の主な特徴は、平均年齢81.20±14.03歳、男性43.2%、BMI20.76、eGFR58.86mL/分/1.73m2、アルブミン3.55g/dL、ヘモグロビン11.93g/dL、退院時のFIMスコア(機能的自立度の指標)92.00、認知症18.1%など。入院中に158人(24.8%)が、爪が白く変化していると判定された。

     爪が白く変化している群とそうでない群を比較すると、前者は高齢で、BMI、アルブミン、ヘモグロビン、FIMスコアが有意に低く、チャールソン併存疾患指数、および認知症や脳血管疾患の有病率が有意に高いといった群間差が認められた。性別(男性の割合)やeGFR、および認知症・脳血管疾患以外の慢性疾患(心筋梗塞、心不全、糖尿病、COPD、肝疾患、腎疾患、がんなど)の有病率は有意差がなかった。

     追跡期間中に183人(28.7%)が再入院した。なお、同院は雲南地域の中核病院であり、同院退院後の患者は雲南市内の医療機関で継続的に管理され、再度入院が必要とされた全ての患者(転居者以外)が同院へ再入院していた。

     再入院率は、爪が白く変化している群41.1%、対照群24.6%であり、前者が有意に高かった(P<0.001)。Cox回帰分析の結果、心不全〔ハザード比(HR)1.53(95%信頼区間1.06~2.21)〕、がん〔HR1.52(同1.03~2.22)〕、認知症〔HR1.52(同1.03~2.25)〕とともに、爪が白く変化していること〔HR2.07(同1.45~2.97)〕が、それぞれ独立した再入院のリスク因子であることが分かった。反対に、初回入院時の在院日数が短いことや自宅退院は、再入院リスクの低さと関連していた。

     再入院の原因疾患としては、腎盂腎炎(18.0%)、心不全(16.9%)、肺炎(12.6%)、脳卒中(6.0%)、骨折(4.9%)などが多く見られた。また、再入院患者の4人に3人以上に当たる77.1%が退院後90日以内に再入院し、95.1%が180日以内に再入院していた。

     以上より著者らは、「さらなる研究が必要ではあるが、高齢入院患者の爪の色を評価することで、再入院リスクを予測できる可能性がある。爪の変色に関する情報を医療と介護のスタッフが共有することで、ケアの質を向上できるのではないか」と総括。また爪の変色の原因について、「毛細血管の血流障害などによる爪床の異常や物質の沈着といった機序が考えられるが詳細は不明であり、その解明も求められる」と付け加えている。

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    心不全のセルフチェックに関連する基本情報。最善は医師による診断・診察を受けることが何より大切ですが、不整脈、狭心症、初期症状の簡単なチェックリスト・シートによる方法を解説しています。

    心不全のセルフチェックに関連する基本情報

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    HealthDay News 2022年7月25日
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  • 長寿を望まないと短命になる?――日本人4万人、25年の縦断解析

     長生きを望まない人は実際に短命になってしまう可能性を示すデータが報告された。日本人約4万人を四半世紀にわたり追跡した結果であり、東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野の辻一郎氏らによる論文が「Journal of Epidemiology」に5月5日掲載された。

     この研究は、地域住民対象の疫学研究である「宮城県コホート研究」のデータを用いて行われた。宮城県コホート研究では、1990年に同県内の14市町村に住む40~64歳の住民全員5万1,921人を登録して、その後の健康状態を長期間追跡している。ベースライン時点で行ったアンケートで、「寿命についてどのように考えていますか」という質問に対して、「長いほどよい」「平均寿命ぐらいが良い」「平均寿命より短くてもよい」という回答から三者択一で選んでもらっていた。今回の研究では、その回答と実際の死亡リスクとの関連を調査した。

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     転居のため追跡不能となった人や、ベースライン時に脳卒中、心筋梗塞、がんの既往のあった人、アンケートに回答しなかった人などを除外し、最終的に3万9,902人の参加者(男性48.7%)を解析対象とした。そのうち33.1%が「長いほどよい」を選択し、「平均寿命程度」は54.7%、「短くてもよい」は12.2%だった。

     「短くてもよい」群は「長いほどよい」群に比較し、若年で、女性が多く、教育歴が長いという有意差が見られた。また、生活習慣に関しても、「短くてもよい」群は男女ともに、喫煙者率が高く、睡眠時間が短く、ウォーキングや朝食を食べる習慣が少ないという点で有意差があり、女性では習慣的飲酒者の割合も高かった。

     1990~2015年の25年間、87万688人年の追跡で、8,998人(22.6%)が死亡した。年齢、性別、婚姻状況、教育歴を調整後、「長いほどよい」群に比較し「短くてもよい」群の全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクは有意に高いことが明らかになった〔ハザード比(HR)1.12(95%信頼区間1.04~1.21)〕。追跡開始から最初の2年以内の死亡を除外した解析の結果もほぼ同様であり、ベースライン時点の健康状態が、希望寿命と死亡リスクとの関連に影響を及ぼしている可能性は低いと考えられた。

     死因別に検討すると、がん死〔HR1.14(同1.00~1.29)〕と自殺〔HR2.15(同1.37~3.38)〕による死亡リスクは、全死亡での検討結果と同様、「長いほどよい」群に比較し「短くてもよい」群の方が有意に高かった。一方、心血管死、肺炎による死亡、事故死については有意なリスク差が見られなかった。

     全死亡のリスクを、年齢、性別、婚姻状況、教育歴で層別化してサブグループ解析を行ったところ、性別を除き交互作用は全て非有意であり、結果に一貫性が認められた。性別に関しては、女性において全死亡リスクとの関連が非有意となった〔「長いほどよい」群に比較し「短くてもよい」群がHR1.04(同0.93~1.16)、交互作用P=0.049〕。

     媒介分析の結果、希望寿命と死亡リスクの関連のうち30.4%が生活習慣で説明できることが分かった。生活習慣をより細かく分けて検討すると、喫煙が両者の関連の17.4%を媒介し、その他、BMIが4.4%、歩行時間が4.1%、飲酒が3.8%、朝食欠食が3.8%と計算された。

     著者らによると、希望寿命と死亡リスクとの関連を前向きに検討した研究はこれまでに1件のみであり、その研究の対象は高齢者のみでサンプル数が少なく、また追跡期間が限られていて交絡因子もあまり考慮されていなかったという。それに対して本研究は、より多数の若年者層を長期間追跡し、多くの交絡因子を調整している点が特徴とのことだ。

     結論としては、「国内の一般住民対象前向きコホート研究から、希望寿命と全死亡リスクとの有意な関連が示された。この関連は、不健康な生活習慣によってある程度は説明可能だが、他の要因は不明であり、より詳細な研究が必要とされる」と述べられている。

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  • 抗菌薬の使用量と下水中の濃度からの推計値が一致

     下水中の抗菌薬の濃度から、各薬剤の使用実態を推測可能なことが分かった。大阪医科薬科大学薬学部の東剛志氏、国立国際医療研究センターの小泉龍士氏、松永展明氏、大曲貴夫氏らが、厚生労働省「環境中における薬剤耐性菌及び抗微生物剤の調査法等の確立のための研究」及び日本医療研究開発機構(AMED)「環境中の薬剤耐性菌のモニタリングによる院内感染リスクの早期探知と環境負荷軽減策の開発に係る研究」の一環として、同大学医学部、相愛大学人間発達学部、国立国際医療研究センターとの共同研究により行った成果であり、「Antibiotics」4月号に論文が掲載された。研究グループではこの技術を、抗菌薬による環境負荷の把握や薬剤耐性(AMR)対策に役立てられるのではないかと述べている。

     これまでにも、下水中から抗菌薬や薬剤耐性菌が検出されることが報告されている。下水中のそれらの濃度の高い状態が続いた場合、抗菌薬の環境への拡散により生態系に影響が及ぶことが懸念される。また、新たな薬剤耐性菌の出現リスクが高まる可能性も考えられる。その対策を確立する第一歩として、東氏らは下水中の抗菌薬の濃度を測定し、その値から各薬剤の使用実態の把握が可能かを検討した。

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     研究に使用した下水サンプルは、淀川水系に位置する下水を処理している施設から季節ごとに通年で採取した。検討した抗菌薬は、アンピシリン、クラリスロマイシン、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、テトラサイクリン、バンコマイシンなど国内の臨床現場で使用されている10種類。それらの下水中の濃度を測定した上で、製薬メーカーが公表している売上高、厚労省「薬事工業生産動態統計」に収載されている出荷量、および厚労省「レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)」の処方量という3種類の数値との関連を検討した。

     下水中から検出されたのは、検討した10種類の抗菌薬のうち7種類であり、濃度は11ng/L~4.3μg/Lの範囲だった。検出されなかった3種類の抗菌薬は、アンピシリン、セフジニル、セフポドキシムプロキセチルであり、全てβ-ラクタム系抗菌薬だった。著者らによると、β-ラクタム構造を持つ抗菌薬は環境中で分解されやすいことに起因している可能性が考えられるという。

     厚労省のデータから把握した各抗菌薬の出荷量と処方量は類似しており、有意差がなかった。また、出荷量、処方量ともに、下水中濃度からの推測使用値との比の対数値が1前後に集約し、これらはよく一致していた。10種類の抗菌薬の推測使用量と出荷量や処方量との間には、正の相関が見られた(出荷量とはr=0.72、処方量とはr=0.79)。

     ただし、製薬メーカーが公表している売上高は、厚労省データから把握した出荷量や処方量、および下水中濃度からの推測使用量に比べて全体的に低値だった。例えば、クラリスロマイシンは推測使用量の約5分の2、バンコマイシンは約10分の1、レボフロキサシンは約50分の1程度だった。これは、これら3剤が多数のメーカーから供給されており、製剤別売上高を公表していないメーカーが多いためと考えられるという。

     これらの結果を基に著者らは、「国内で一般的に用いられている抗菌薬の使用量を、下水中の抗菌薬の濃度から高い精度で推測できることが明らかになった。抗菌薬の過剰な使用が環境に影響を及ぼすことを示唆する研究報告が増えつつある現在、そのリスク評価や対策立案の際に、本手法が有用となり得るのではないか」と結論付けている。

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  • ICU治療を受けた患者の4人に1人が失業――国内多施設共同研究

     集中治療室(ICU)での治療を受けた患者は、退院後に職を失いやすいことを示すデータが報告された。治療を受ける前に職に就いていて、退院後に自宅生活へ復帰できた人の24.1%が、1年後に失業状態にあるという。失業リスクに関連する因子も明らかになった。札幌市立大学看護学部成人看護学の卯野木健氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS ONE」に3月18日掲載された。

     ICUで治療を受けた患者は、職場復帰が困難である実態が既に報告されている。その理由として、退院後も身体的な機能障害やメンタルヘルス不調が継続・発症しやすいこと、離職期間が長期に及ぶケースが多いことなどが指摘されている。ただし、国内では十分な調査がまだ行われておらず、ICU入室に伴う失業の実態やそれに関連する因子が明らかになっていない。卯野木氏らは、多施設共同研究「SMAP-HoPe研究」のサブ解析により、この点の詳細な検討を行った。

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     SMAP-HoPe研究は、集中治療後症候群(ICU退室後に身体・認知機能、メンタルヘルスへ影響が生じている状態)の実態把握のため、国内12のICU施設が参加して実施された研究。2019年10月~2020年7月に3泊以上ICUに滞在し、ICU退室から1年後に自宅で生活しており、入院前には職を有していた18歳以上の成人328人を解析対象とした。

     解析対象者の平均年齢は中央値64歳(四分位範囲52~72)、男性86%であり、55.5%はICU緊急入室患者で占め、重症度スコアのAPACHE IIは中央値14点(同10~19)。入院前の就業状況は、フルタイムが47.6%、パートタイム21.6%、自営業30.8%だった。ICU退室1年後の追跡調査では、就労状況のほかに、主観的認知機能(集中力と記憶力に関する質問へのリッカートスコアで評価)、家計の状況(入院前に比較し「良い」「悪い」「変化なし」の三択)、うつレベル(HADSスコア)、身体機能(EQ-5D-5Lスコア)を評価した。

     ICU退室の1年後、24.1%が失業していた。失業者は有職者に比べて高齢で(年齢中央値が69対62歳、P<0.01)、ICU入室中の重症度が高かった(APACHE IIスコアが16対13、P<0.001)。一方、ICU入室の理由には有意な群間差がなかった(P=0.183)。

     入院前のフルタイム勤務者で1年後に失業していたのは19.9%であるのに対して、入院前のパートタイム勤務者は46.5%が失業していた。家計の状況については、1年後の有職者では81.9%が入院前から不変であり、18.0%が悪化、失業者では48.1%が不変で51.9%が悪化と回答した。入院前より好転したとの回答は両群ともに0%だった。

     多変量解析から、ICU退室1年後に失業状態にあることに、高齢、入院前の就労形態、うつレベルの高さという3つの因子が独立して関連していることが明らかになった。オッズ比(OR)は以下のとおり。1歳高齢であるごとにOR1.06(95%信頼区間1.03~1.08)、入院前のフルタイム勤務者に対してパートタイムはOR2.28(同1.16~4.48)、自営業はOR0.27(同0.12~0.60)、HADSスコア11以上でOR1.13(同1.05~1.23)。性別や認知機能、身体機能は有意な関連がなかった。

     なお、感度分析のため、新型コロナパンデミックの影響を考慮してICU入室期間がパンデミック前であった患者に限定した解析と、定年の影響を考慮して60歳以下の人を除外した解析を実施。その結果、年齢に関しては有意性が消失したが、うつレベルの高さは引き続き、失業状態にあることと独立して有意に関連していた。

     以上より著者らは、「ICU入室前に職を有していた患者の24.1%が、ICU退室から1年後に失業しており、うつ状態は失業と有意に関連していた。ICUから生存退室した患者については、その後の雇用状況とメンタルヘルスのフォローアップと適切なサポートが必要と考えられる」と結論付けている。

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    HealthDay News 2022年5月23日
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  • 育児休業を取った父親は赤ちゃんへの拒絶感が強い?――国内ネット調査

     父親が育児休業を取得することは、父子のボンディング(親の子どもに対する情緒的な絆)の強化につながらず、かえってマイナスの影響が生じてしまう可能性のあることを示唆する結果が報告された。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究結果であり、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に4月2日掲載された。

     本年4月に育児・介護休業法が改正され、男性の育児休業取得がより強く推奨されるようになった。しかし、父親の育休取得と子どもとの絆との関連は明らかになっていない。米国では良い影響が生まれるとの報告がある一方で、ドイツからは負の影響の懸念が報告されている。藤原氏らは、全国規模で実施されたインターネット調査「日本におけるCOVID-19問題による社会・健康格差評価研究(JACSIS研究)」のデータを用いて、この点に関する検討を行った。

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     JACSIS研究の回答者の中から、2歳未満の子どもがいて、妻(パートナー)が現在妊娠中ではないなどの条件を満たす1,194人の父親を解析対象とした。子どもとの絆の強さは、「日本語版赤ちゃんへの気持ち質問票(MIBS-J)」という指標で評価した。MIBS-Jは、「赤ちゃんをいとおしいと思う」、「赤ちゃんのためにしなくてはいけないことがあるのに、どうすれば良いかわからない時がある」などの10項目の質問からなる。合計30点満点で、得点が高いほど赤ちゃんへの否定的な感情が強いことを示している。また、下位尺度として「愛情の欠如」と「怒りと拒絶」の2項目を評価可能。

     このほか共変量として、年齢、教育歴、就労状況、世帯収入、子どもの人数と年齢、心理的ストレス(K6スコア)、祖父母(回答者の親)の子育て支援状況、里帰り出産か否かなどを質問した。

     解析対象者の33.5%が育児休業を取得していた。育児休業取得群と非取得群を比べると、平均年齢はどちらも約35歳で差はなかった。共変量として把握した前記の項目のうち、祖父母からの支援ありの割合が、育児休業取得群(58.0%)より非取得群(71.0%)の方が高いという違いがあったものの(P<0.001)、その他の因子は全て有意差がなかった。

     祖父母からの支援の有無を含む共変量の影響を統計的に調整した結果、以下のように、育児休業取得群の方がMIBS-Jの総合スコアが高く(赤ちゃんへの否定的な感情が強く)、下位尺度の「怒りと拒絶」のスコアが高いことが明らかになった。MIBS-J総合スコアはβ=0.51(95%信頼区間0.06~0.96)、「怒りと拒絶」のスコアはβ=0.26(同0.03~0.49)と有意差を認めたが、「愛情の欠如」のスコアは有意差を認めなかった。また、子どもの年齢(6カ月単位で4群に分類)の違いは、MIBS-Jスコアに影響を及ぼしていなかった。

     父親の育児休業取得が赤ちゃんに対する拒絶感を強めてしまう可能性が示されたわけだが、著者らは既報研究を基にそのメカニズムを3つにまとめている。具体的には、父親の子育てに関する自信の欠如、育児休業中に孤独感を抱きやすいこと、育児休業を取得することの罪悪感が、理由として想定されるとのことだ。論文の結論では、これらの考察の上で、「育児休業を取得して子どもと長期間過ごすことは、ふだん仕事に専念している父親にとって、依然として困難な経験となり得る。育児休業取得前に育児教室への参加を促すなどの対策が必要ではないか」と提言している。

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    HealthDay News 2022年5月9日
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