• 体調不良のまま働くタクシー運転手の交通事故リスク

     体調不良を抱えたまま勤務する「プレゼンティーズム」は、欠勤するよりも大きな損失につながるとして注目されている。新たに日本のタクシー運転手を対象とした研究が行われ、プレゼンティーズムの程度が大きいほど交通事故リスクが高まることが明らかとなった。産業医科大学産業生態科学研究所環境疫学研究室の藤野善久氏、大河原眞氏らによる前向きコホート研究の結果であり、「Safety and Health at Work」に4月16日掲載された。

     これまでに著者らは救急救命士を対象とした研究を行い、プレゼンティーズムの程度が大きいこととヒヤリハット事例発生との関連を報告している。今回の研究では、救急医療と同様に社会的影響の大きい交通事故が取り上げられた。その背景として、タクシー運転手は不規則な運転経路、時間厳守へのプレッシャーなどから事故を起こしやすいことや、車内で長時間を過ごすため運動不足や腰痛につながりやすく、睡眠や健康の状態も悪くなりやすい労働環境にあることが挙げられている。

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     著者らは今回の対象を福岡県のタクシー会社に勤務するタクシー運転手とし、2022年6月のベースライン調査時、産業医科大学が開発した「WFun」(Work Functioning Impairment Scale)という指標を用いてプレゼンティーズムを評価した。WFunは7つの質問(「ていねいに仕事をすることができなかった」など)により労働機能障害を判定するもので、その得点からプレゼンティーズムの程度を「問題なし」「軽度」「中等度以上」に分類した。2023年2月に追跡調査を行い、回答時点から過去3カ月間の擦り傷や軽い接触など(会社に報告していないものも含む)の件数を「軽微な交通事故」として評価した。

     運転時間が週に10時間未満だった人などを除き、428人を解析対象とした。年齢中央値は67(四分位範囲60~72)歳、男性の割合は93.2%。プレゼンティーズムの程度は、問題なしが343人(80%)、軽度が72人(17%)、中等度以上が13人(3%)だった。

     1件以上の軽微な交通事故の発生割合は、プレゼンティーズムの程度が問題なしの人では16%、軽度の人では17%、中等度以上の人では23%だった。性別、年齢、運転経験の影響を統計的に調整した上で、交通事故とプレゼンティーズムとの関連を調べた結果、プレゼンティーズムの程度が大きいほど、軽微な交通事故のリスクが高くなることが明らかとなった(傾向性P=0.045)。

     今回の研究に関連して著者らは、これまで、突然の意識不明や死亡につながる脳血管疾患や心疾患などの重大な疾患が注目されてきたが、これらを原因とする交通事故の割合は、職業運転手による交通事故のうちの一部でしかないと説明。体調不良などによる交通事故は過少報告されている可能性が高く、見過ごされがちであることを指摘している。また、タクシー運転手の給与体系の多くが歩合制であることも体調不良のまま勤務してしまう要因となっていることを挙げ、「交通事故防止のため、職業運転手に対する社会経済的支援を強化し、健康管理を優先することが重要だ」と述べている。

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    HealthDay News 2024年5月27日
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  • 持ち家と公的・民間賃貸住宅、死亡リスクが低いのは?

     住宅は健康や生死を左右するかもしれない。国内9市町村における高齢者4万人以上のデータを用いた研究で、公的な賃貸住宅に住む人は、民間の賃貸住宅に住む人と比べて死亡リスクが低いことが明らかとなった。また、死亡リスクが最も低いのは持ち家であることも示された。これは東京大学先端科学技術研究センターの古賀千絵氏らによる研究の結果であり、「Scientific Reports」に3月30日掲載された。

     住宅には持ち家と賃貸住宅があるが、賃貸住宅はさらに民間の賃貸住宅と公的な賃貸住宅に分けられる。公的な賃貸住宅には、UR都市機構(旧公団)が供給する住宅、都道府県や市町村による公営・公社の住宅が含まれる。住宅と健康の関係についてはこれまでに国内外でさまざまな研究が行われているものの、日本における住宅の種類の違いが死亡リスクに及ぼす影響は明らかにされていなかった。そこで古賀氏らは、日本老年学的評価研究(JAGES)のデータを用いて、日常生活動作が自立した65歳以上の高齢者4万4,007人(男性47.3%)を対象に、追跡期間9年間(2010~2019年)の死亡リスクを分析した。

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     対象者のうち、持ち家に住む人は3万7,761人(85.8%)で最も多かった。民間の賃貸住宅に住む人は2,280人、公的な賃貸住宅は2,497人で、その他(社宅や寮など)が586人だった(不明883人)。9年間で合計1万638人(24.2%)が死亡していた。

     社会人口統計学的要因(年齢、性別、婚姻状況、所得、教育歴、最長の職業など)、健康状態(うつ、生活習慣病、がんなど)、社会的状態(スポーツや趣味への参加、社会的サポート)、環境要因(居住地の人口密度、居住歴)の影響を統計的に調整した上で、死亡率のハザード比を算出した。その結果、死亡リスク(持ち家との比較)は、民間の賃貸住宅で1.45倍(95%信頼区間1.34~1.58)、公的な賃貸住宅で1.17倍(同1.07~1.27)高かった。すなわち、公的な賃貸住宅に住む人は、民間の賃貸住宅に住む人と比べて、9年間の死亡リスクが28%低いことが明らかとなった。

     以上のように、民間の賃貸住宅と比べて、公的な賃貸住宅に住む高齢者の方が死亡リスクは有意に低いという結果が得られたが、これは諸外国の研究結果とは異なるものだったという。この点について古賀氏らは、JAGESの別調査から、公的な賃貸住宅の中ではUR都市機構が開発した大規模な団地に住む人が多いと考えられることに言及。このような住宅はコミュニティの育成を目指した「近隣住区論」をベースに、学校などの公共施設、商店、緑地や公園、オープンスペースなど、周辺環境が計画的に配置されており、近隣環境が健康行動に影響を及ぼしたのではないかと説明する。

    その上で古賀氏らは、「公的な賃貸住宅で死亡リスクが低い要因を明らかにすることは、健康長寿社会の実現に向けた住宅政策や街づくりの検討に役立つ可能性がある」と話す。また、今回の研究では考慮されていない要因(対象者の資産、住宅の改修歴、エアコンの有無など)を挙げ、住環境と死亡リスクの関連やそのメカニズムについて、「今後も引き続き検証したい」としている。

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    HealthDay News 2024年7月9日
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  • 年齢や婚姻状況で異なる、「世帯の人数」と心理的苦痛の関係

     日本の全国調査データを活用して、年齢・性別や婚姻状況により、世帯の人数と心理的苦痛の関係が異なるかどうかを調べる研究が行われた。その結果、若い世代や未婚者では、世帯の人数が少ないほど心理的苦痛の強い人が多いという関係が認められた。奈良県立医科大学県民健康増進支援センターの冨岡公子氏らによる研究結果であり、「Frontiers in Public Health」に3月11日掲載された。

     一人暮らしや少人数の世帯は増加の一途をたどっている。2024年4月には「孤独・孤立対策推進法」が施行され、孤独や孤立への総合的な対策が必要とされている。これまでにも世帯の人数とがんや認知症、幸福感、メンタルヘルスなどとの関連が研究されているが、世帯の人数が及ぼし得る影響は、年齢や性別、配偶者の有無などにより異なる可能性がある。

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     そこで著者らは、厚生労働省による2019年の「国民生活基礎調査」のデータを用いて、世帯の人数と心理的苦痛との関係を詳細に分析した。「K6」という尺度で評価された「こころの状態」の結果で、合計得点が13点以上の場合を「心理的苦痛が強い」と定義。世帯の人数は5人以上、3~4人、2人、1人に分類し、年齢層、性別、婚姻状況ごとに調査した。

     20歳未満の人などを除外した結果、研究対象者は40万5,560人(男性19万3,346人、女性21万2,214人)となった。心理的苦痛が強い人の割合は、男性3.6%、女性4.7%と有意な男女差が認められた。年齢層ごとにみると、男女とも、心理的苦痛が強い人は25~29歳で最も多く、30~60歳で減少、65~74歳で最も少なく、75歳以降で再び増加していた。

     次に、世帯の人数と心理的苦痛との関連を検討するため、社会経済状況や生活習慣、現病歴などの影響を調整した上でロジスティック回帰分析を行った。その結果、世帯の人数が少ないほど心理的苦痛の強い人が多いという有意な量反応関係が、男性で20~59歳、女性では20~39歳の年齢層で認められた(全て傾向性P<0.001)。すなわち、5人世帯と比べたオッズ比(95%信頼区間)は、3~4人、2人、1人世帯の順に、20~39歳の男性では1.09(0.97~1.23)、1.33(1.13~1.56)、1.96(1.64~2.34)、40~59歳の男性では1.02(0.90~1.16)、1.17(1.02~1.36)、1.52(1.28~1.81)、20~39歳の女性では0.98(0.88~1.08)、1.40(1.22~1.60)、1.78(1.50~2.11)だった。一方、これより上の年齢層では、同様の関係は認められなかった。

     性別と婚姻状況で層別化すると、男女とも未婚者でのみ、同様に世帯の人数が少ないほど心理的苦痛の強い人が多かった(男女とも傾向性P<0.001)。5人世帯と比べたオッズ比(95%信頼区間)は、同順に、男性では1.16(0.999~1.35)、1.46(1.22~1.75)、1.89(1.58~2.26)、女性では1.02(0.89~1.17)、1.37(1.16~1.63)、1.64(1.37~1.96)だった。

     今回の結果について著者らは、若年層は高齢者と比べて地域社会とのつながりが希薄であり、少人数世帯の場合に孤立や孤独を感じやすいと説明。一方、特に60~74歳の女性は、世帯の人数が2~4人の場合、5人以上や一人暮らしよりも心理的苦痛の強い人が多かったことに言及し、婚姻状況により家事や介護の負担に差が生じやすいことを付け加えている。

     以上から著者らは、因果関係は示されていないとした上で、「世帯の人数が少ないほど心理的苦痛の強い人が多いことを示す量反応関係が、性別に関係なく、若い世代と未婚者で認められた」と結論。「高齢者だけでなく若年者にも、単身世帯だけでなく少人数世帯にも目を向ける必要がある」と述べている。

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    HealthDay News 2024年5月7日
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  • 「社会とのつながり」が死亡や要介護のリスクに影響

     人と交流する機会など、社会とのつながりが減少し、社会的に虚弱な状態にあることを「社会的フレイル(social frailty)」という。新たな研究の結果、この社会的フレイルにより、死亡のリスクは1.96倍、要介護などの機能障害が発生するリスクは1.43倍に上昇することが明らかとなった。徳島大学大学院医歯薬学研究部の後藤崇晴氏らによる研究であり、「Scientific Reports」に2月10日掲載された。

     社会的フレイルや社会的孤立は高齢期に引き起こされやすいが、一人暮らしや、経済的困窮などの社会的問題とも関係するとされる。また社会的フレイルは、うつ状態や認知機能の低下などの「精神・心理的フレイル」、運動能力や筋力などが衰える「身体的フレイル」にも影響を及ぼす。これまでにフレイルに関して多くの研究が報告されているものの、社会的フレイルと健康状態との関連について、体系的な分析は行われていなかった。

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     そこで著者らは、文献データベースを用いた検索およびハンドサーチにより、社会的フレイルと総死亡(全死因による死亡)または機能障害との関連が研究された英語の論文を収集した。機能障害に関しては、介護保険の利用開始や日常生活活動(ADL)の低下などにより機能障害の発生が評価された研究を対象とした。

     その結果、社会的フレイルと総死亡に関する研究が6件(前向きコホート研究5件、後ろ向きコホート研究1件)抽出された。これらは2013年~2022年に発表され、3件が日本の研究だった。6件のうち4件は、社会的フレイルは総死亡と有意に関連すると報告していたが、2件では有意な関連は報告されなかった。その他に、総死亡に加えて機能障害についても評価した日本の前向きコホート研究(2018年)は、社会的フレイルが総死亡および機能障害の有意なリスク因子であることを示していた。

     社会的フレイルと機能障害との関連については、2014年~2022年に発表された研究が8件(前向きコホート研究4件、横断研究4件)抽出され、そのうち3件が日本の研究だった。8件中1件は、社会的フレイルは手段的ADL(IADL)の障害に影響を与えないとしていた。残りの7件は、社会的フレイルがADLまたはIADLと有意に関連することを示していた。

     次に、総死亡に関する研究6件のメタアナリシス(統合解析)を行った結果、社会的フレイルにより総死亡のリスクが1.96倍(ハザード比1.96、95%信頼区間1.20~3.19)有意に上昇することが明らかとなった。ただし、これらの研究間の異質性(ばらつき)は高かった。社会的フレイルと機能障害との関連については、2件のハザード比、3件のオッズ比を統合し、それぞれ1.43(95%信頼区間1.20~1.69)、2.06(同1.55~2.74)という結果が得られた。これらの研究間の異質性は低かった。

     著者らは、以上のシステマティックレビューとメタアナリシスの結果から、「社会的フレイルは総死亡および機能障害のリスクと有意に関連する」と結論付けている。また、高齢者では社会的フレイルの頻度が8.4%~11.1%と報告されていることに言及し、「社会的フレイルに関する議論は極めて重要だ」と指摘している。

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  • 健康問題による生産性低下の要因に男女差

     従業員が何らかの健康問題や症状を抱えて出勤し、出勤時の生産性が低下している状態を「プレゼンティーイズム(presenteeism)」という。今回、プレゼンティーイズムと睡眠、喫煙や飲酒との関係が新たに調査され、男女間で異なる結果が得られた。飲酒ついては、女性では正の関連、男性では負の関連が見られたという。鳥取大学医学部環境予防医学分野の研究グループによる研究であり、「Journal of Occupational Health」に12月14日掲載された。

     病気などで欠勤することを「アブセンティーイズム(absenteeism)」といい、健康経営の課題となっている。しかし、それと比べて、健康問題を抱えながら出勤する「プレゼンティーイズム」の方が、従業員の生産性の低下(健康関連コスト)は大きいことが報告されている。その重要性が増していることから著者らは、プレゼンティーイズムと主観的な睡眠の質、喫煙、飲酒との関連について、男女差に着目して横断研究を行った。

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     鳥取県の1つの地方自治体の職員に対する2015年の質問紙調査のうち、713人(男性57.8%)のデータが用いられた。対象者は、生産性の測定ツール(WHO-HPQ)による質問「あなたの過去4週間の全体的なパフォーマンスをどのように評価しますか?」に、10段階で回答。それを100点満点(0点が最低、100点が最高のパフォーマンス)に換算し、40点以下をプレゼンティーイズム(自己評価による絶対的プレゼンティーイズム)と定義した。

     主観的な睡眠の質に関しては、過去30日間の全体的な睡眠の質を尋ねる質問への回答を基に、「良い」と「悪い」に分類。また、飲酒および喫煙に関する質問への回答に基づき、対象者の状況を「非飲酒」「元飲酒」「時々飲酒」「現在飲酒(毎日)」および「非喫煙」「元喫煙」「時々喫煙」「現在喫煙(毎日)」にそれぞれ分類した。

     その結果、プレゼンティーイズムに該当した人は174人(24.4%)であり、そのうち男性は102人(24.8%)、女性は72人(23.9%)で、有意な男女差はなかった。年齢層ごとの割合は、30歳未満が33.0%(32人)、30~39歳が29.7%(44人)、40~49歳が21.7%(51人)、50歳以上が20.2%(47人)だった。

     また、対象者の状況については、睡眠の質が悪い人は314人(44.0%)で、男性が190人(46.1%)、女性が124人(41.2%)。現在飲酒者は182人(25.5%)で、男性が145人(35.2%)、女性が37人(12.3%)。現在喫煙者は、男性が117人(28.4%)、女性は4人(1.3%)のみだった。

     ロジスティック回帰分析の結果、プレゼンティーイズムと睡眠の質が悪いこととの正の関連が、全体(オッズ比1.70、95%信頼区間1.18~2.44)と男性(同1.85、1.12~3.05)で認められた。女性では現在飲酒(同3.49、1.36~8.92)との正の関連が見られた。反対に、負の関連を示した要因は、全体では50歳以上(同0.50、0.27~0.93)、男性では現在飲酒(同0.43、0.20~0.92)、女性では40~49歳(同0.24、0.09~0.66)だった。

     以上の結果から、プレゼンティーイズムと睡眠の質との関連は、特に男性で顕著だった。また飲酒は、女性ではプレゼンティーイズムと正の関連、男性では負の関連を示す可能性が示唆された。著者らは、因果関係は示されていないとした上で、「プレゼンティーイズムと関連する要因は男女で異なり、従業員の生産性向上に向けて取り組む際は、男女差を考慮する必要がある」と結論付けている。

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  • 漢方薬による偽アルドステロン症、高血圧や認知症と関連

     漢方薬は日本で1500年以上にわたり伝統的に用いられているが、使用することにより「偽アルドステロン症」などの副作用が生じることがある。今回、日本のデータベースを用いて漢方薬の使用と副作用報告に関する調査が行われ、偽アルドステロン症と高血圧や認知症との関連が明らかとなった。また、女性、70歳以上などとの関連も見られたという。福島県立医科大学会津医療センター漢方医学講座の畝田一司氏らによる研究であり、詳細は「PLOS ONE」に1月2日掲載された。

     偽アルドステロン症は、血圧を上昇させるホルモン(アルドステロン)が増加していないにもかかわらず、高血圧、むくみ、低カリウムなどの症状が現れる状態。「甘草(カンゾウ)」という生薬には抗炎症作用や肝機能に対する有益な作用があるが、その主成分であるグリチルリチンが、偽アルドステロン症の原因と考えられている。現在、保険が適用される漢方薬は148種類あり、そのうちの70%以上に甘草が含まれている。

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     今回の研究では、「医薬品副作用データベース(JADER)」を用いて、漢方薬による偽アルドステロン症と関連する臨床的要因が検討された。同データベースには、患者背景、使用薬、有害事象に関する自己報告データが含まれている。2004年4月から2022年11月までの期間に報告された有害事象から、保険適用の漢方薬148種類に関する報告を抽出。不完全な報告データを除外して、有害事象のデータ2,471件(偽アルドステロン症210件、他の有害事象2,261件)が解析対象となった。

     解析の結果、偽アルドステロン症では他の有害事象と比べて、漢方薬に含まれる甘草の投与量が有意に多く(平均3.3対1.5g/日)、漢方薬の使用期間が有意に長いことが判明した(中央値77.5対29.0日)。偽アルドステロン症の報告で最もよく使用されていた漢方薬は、「芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)」(90件)、「抑肝散(ヨクカンサン)」(47件)、「六君子湯(リックンシトウ)」(12件)、「補中益気湯(ホチュウエッキトウ)」(10件)などだった。

     さらに、偽アルドステロン症と関連する因子を検討した結果、女性(オッズ比1.7、95%信頼区間1.2~2.6)、70歳以上(同5.0、3.2~7.8)、体重50kg未満(同2.2、1.5~3.2)、利尿薬の使用(同2.1、1.3~4.8)、認知症(同7.0、4.2~11.6)、高血圧(同1.6、1.1~2.4)との有意な関連が認められた。また、甘草の1日当たりの投与量(同2.1、1.9~2.3)および漢方薬の14日以上の使用(同2.8、1.7~4.5)も、偽アルドステロン症と有意に関連していた。

     著者らは、今回の研究は自己報告のデータを対象としており、過少報告の可能性や臨床的背景の情報が限られることなどを説明した上で、「漢方薬による偽アルドステロン症の実臨床における関連因子が明らかになった」と結論付けている。ただし、今回の研究では抽出された関連因子と偽アルドステロン症との因果関係については検証できず、今後の課題だという。著者らはまた、関連因子のうち、高血圧を特定できたことの意義は大きいとしている。さらに、「複数の因子を持つ患者に対して、甘草を含む漢方薬が14日以上処方される場合は、偽アルドステロン症を予防するために注意深い経過観察が必要である」と述べている。

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    HealthDay News 2024年2月13日
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  • 富士登山で高山病になる人とならない人の違い

     富士登山で高山病になった人とならなかった人の血圧、心拍数、乳酸、動脈血酸素飽和度、心係数などを比較した、大阪大学医学部救急医学科の蛯原健氏らの研究結果が、「Journal of Physiological Anthropology」に4月13日掲載された。測定した項目の中で有意差が認められたのは、心係数のみだったという。

     毎年20万人前後が富士登山に訪れ、その約3割が高山病を発症すると報告されている。高山病は一般に標高2,500mを超える辺りから発症し、主な症状は吐き気や頭痛、疲労など。多くの場合、高地での最初の睡眠の後に悪化するものの、1~2日の滞在または下山により改善するが、まれに脳浮腫や肺水腫などが起きて致命的となる。

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     高山病のリスク因子として、これまでの研究では到達高度と登山のスピードの速さが指摘されている一方、年齢や性別については関連を否定するデータが報告されている。また、心拍数や呼吸数の変化、心拍出量(1分間に心臓が全身に送り出す血液量)も、高山病のリスクと関連があると考えられている。ただし、富士登山におけるそれらの関連は明らかでない。蛯原氏らは、高地で心拍出量が増加しない場合に低酸素症(組織の酸素濃度が低下した状態)となり、高山病のリスクが生じるというメカニズムを想定し、以下のパイロット研究を行った。

     研究参加者は、年に1~2回程度、2,000m級の山を登山している11人の健康なボランティア。全員、呼吸器疾患や心疾患の既往がなく、服用中の薬剤のない非喫煙者であり、BMI25未満の非肥満者。早朝に山梨県富士吉田市(標高120m)から車で登山口(同2,380m)に移動し登山を開始。山頂の研究施設(旧・富士山測候所)に一泊後に下山した。この間、ポータブルタイプの測定器により、心拍数、血圧、動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定し、ベースライン時(120m地点)と山頂での就寝前・起床後に、心係数(心拍出量を体表面積で除した値)、1回拍出量を測定。またベースライン時と山頂での就寝前に採血を行い、乳酸値、pHなどを測定した。

     高山病の発症は、レイクルイーズスコア(LLS)という指標で評価した。これは、頭痛、胃腸症状、疲労・脱力、めまい・ふらつきという4種類の症状を合計12点でスコア化するもので、今回の研究では山頂での起床時に頭痛があってスコア3点以上の場合を高山病ありと定義した。

     11人中4人が高山病の判定基準を満たした。高山病発症群と非発症群のベースライン時のパラメーターを比較すると、高山病発症群の方が高齢であることを除いて(中央値42対26歳、P=0.018)、有意差のある項目はなかった。登山中に両群ともSpO2が約75%まで低下したが、その群間差は非有意だった。また、登山中や山頂で測定された心拍数、1回拍出量、乳酸値などのいずれも有意な群間差がなかった。唯一、心係数のみが以下のように有意差を認めた。

     高山病発症群の山頂での就寝前の心係数(L/分/m2)は中央値4.9、非発症群は同3.8であり、発症群の方が有意に高かった(P=0.04)。つまり、研究前の仮説とは反対の結果だった。心係数のベースライン値からの変動幅を見ると、睡眠前は高山病発症群がΔ1.6、非発症群がΔ0.2、起床後は同順にΔ0.7、Δ-0.2であり、いずれも発症群の変動幅の方が大きかった(いずれもP<0.01)。

     このほかに、LLSで評価した症状スコアは、高山病非発症群の7人中4人は睡眠により低下したのに対して、発症群の4人は全員低下が見られないという違いも示された。

     以上より著者らは、「山頂到着時の心係数が高いこと、およびベースライン時からの心係数の上昇幅が大きいことが、富士登山時の高山病発症に関連していた。心拍出量の高さが高山病のリスク因子である可能性がある」と結論付けている。ただし、高山病発症群は非発症群より高齢であったことを含め、パイロット研究としての限界点があることから、「高山病発症のメカニズムの解明にはさらなる研究が必要」としている。

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    HealthDay News 2023年5月22日
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  • ミトコンドリア超複合体の「見える化」で筋力を高める薬物を発見

     筋肉でエネルギーを産生する際に重要な「ミトコンドリア超複合体」の可視・定量化(見える化)に成功したとする、東京都健康長寿医療センター研究所の井上聡氏らの論文が、「Nature Communications」に1月25日掲載された。ミトコンドリア超複合体を増やして筋肉の持久力を高める薬剤も見つかったという。

     筋肉は運動のために大量のエネルギーを必要とし、そのエネルギーは細胞内小器官であるミトコンドリアによって作られている。ミトコンドリアの内部では「複合体」と呼ばれるタンパク質同士が結合して、さらに大きな「ミトコンドリア超複合体」という集合体を作ることで、より多くのエネルギーを産生している。ただ、これまでは生きた細胞(生体内)のミトコンドリア超複合体を観察することができず、研究の足かせとなっていた。そこで井上氏らは、まず、ミトコンドリア超複合体の可視化に取り組んだ。

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     ミトコンドリア超複合体の構成因子であるIとIVという複合体に、それぞれ緑色と赤色の蛍光タンパク質を連結したマウス由来の筋肉細胞を作製。この細胞は、IとIVが距離的に離れているときには単色で光るが、ミトコンドリア超複合体を形成して両者が近接すると、蛍光タンパク質同士も近づくためにエネルギーの移行が起こり、緑色で蛍光刺激すると赤色に光るという現象が生じる。この現象を、レーザー顕微鏡で観察することにより、生体内ミトコンドリア超複合体を定量的に観察すること、いわゆる「見える化」に成功した。

     次に、マウスの筋肉細胞を見える化し、ミトコンドリア超複合体を増やす薬物を探索。1,000種類を超える薬物で実験を繰り返した結果、リン酸化酵素阻害薬(SYK阻害薬)という薬物が、ミトコンドリア超複合体の量を増やし、エネルギー代謝を高める可能性のあることが明らかになった。

     続いて、SYK阻害薬をマウスの腹腔内に週2回投与。5週間後、生理食塩水を同様に投与したマウス(対照群)と比べると、筋肉のミトコンドリア超複合体の量が多く、筋持久力(懸垂持続時間、走行距離、走行速度)が高いという有意差が確認された。なお、SYK阻害薬を投与したマウスに、体重減少を含む悪影響は観察されなかった。また、筋肉量は対照群と有意差がなかったことから、筋持久力アップは筋肉の質が向上したことによるものと推察された。

     近年、加齢や疾患に伴い筋肉量や筋力の低下した状態である「サルコペニア」が、生活の質(QOL)低下や死亡リスク上昇の一因として問題になっている。著者らは、「本研究の成果は、加齢に伴う筋力の低下や筋疾患のメカニズムの解明と、その診断・治療薬開発の応用につながるばかりでなく、運動能力の向上に伴う健康増進、スポーツパフォーマンスの向上にも役立つと考えられる」と述べている。

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    HealthDay News 2023年2月20日
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  • 健康経営と企業の業績の関連性

     労働者の健康を重視することで生産性の向上を期待するという「健康経営」が、実際に企業収益を押し上げている可能性を示唆するデータが報告された。滋賀医科大学社会医学講座公衆衛生学部門の矢野裕一朗氏らの研究によるもので、詳細は「Epidemiology and health」に9月23日掲載された。

     バブル崩壊以降続いている日本の競争力の低下の一因として、労働者の生産性の低さが指摘されている。労働者の生産性の向上には、健康で安心して働ける環境が必要と考えられることから、経済産業省は「健康経営」の普及を推進しており、例えば「健康経営銘柄」の選定などを行っている。ただし、従業員の健康への投資がその企業の業績向上に結び付いているのか否かは不明。矢野氏らは、経産省の健康経営に関する年次調査のデータと、企業が公表している財務指標との関連を調べるという手法で、この点を検討した。

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     調査対象は1,593社だった。その内訳は、2017年度の経産省調査と2017~2020年度の財務指標データの双方を得られた842社、および、2018年度経産省調査と2018~2020年度の財務指標データの双方を得られた751社。業種は、専門サービスが12.7%、電気通信12.4%、小売11.2%、金融サービス8.7%、卸売7.3%、電気製造5.9%、建設4.3%、化学4.1%、輸送機器3.8%、海運3.5%、食品3.3%など。これらの企業の従業員数は合計435万9,834人で平均年齢40.3±3.4歳、女性25.8%、勤続年数は14.2±4.9年だった。

     財務指標を基に従業員1人当たりの利益の増加が大きい上位25%の企業を“業績良好(=利益あり)”と定義し、それと関連性の強い健康経営調査の項目を抽出した上で、利益が上昇している企業を特定するためのモデルを作成。統計学的解析の結果、正確度0.997、精度0.993、再現性0.997という予測能の高いモデルを得られた。このモデルの中で、健康経営調査の各項目の重要度(企業利益ありに対する寄与度)をシャープレイ値(SHAP値)という指標で評価したところ、以下のように、健康経営指標と、従業員1人当たりの利益の増加との関連が明らかになった。なお、SHAP値は数値が大きいほど重要性が高いことを意味する。

     従業員1人当たりの利益の増加に最も強い関連のある健康経営指標は、現在の喫煙者の割合の低さであり、SHAP値は0.121だった。2位は従業員1人当たりの医療サービスコスト(SHAP値0.084)で、そのほかは、よく眠れる従業員の割合(同0.055)、定期的に運動する習慣がある従業員の割合(0.043)、1人当たりの年間福利厚生費(0.041)などだった。

     著者らは、本研究が観察研究であり因果関係の証明にはならないこと、例えば、企業業績が良好なために福利厚生に力を入れているという結果を表している可能性があることなどを、解釈上の限界点として挙げている。その上で、「企業従業員のライフスタイルに関連する健康リスク要因と、企業の収益性との間に関連があることが実証された。労働者の生産性を引き下げる健康上のリスクを特定して対処するという投資が、将来的な収益改善に貢献する可能性が想定される」と結論付けている。

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    HealthDay News 2022年12月15日
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  • 病院排水のオゾン処理で細菌と残留抗菌薬の不活化に成功

     病院内の排水貯留槽に含まれる一般細菌や、代謝により尿・便として排泄される残留抗菌薬をオゾン処理によって不活化するシステムの有効性が報告された。1m3の試験排水に対して20分の処理で多くの細菌が不活化され、40分の処理でほぼ全ての抗菌薬についても不活化可能であるという。東邦大学医学部一般・消化器外科/医療センター大橋病院副院長の渡邉学氏、大阪医科薬科大学の東剛志氏、国立感染症研究所の黒田誠氏らによる共同研究の成果が、国際科学誌「Antibiotics」に6月27日掲載された。

     感染症治療には抗菌薬が使用されるが、抗菌薬に対する耐性(antimicrobial resistance;AMR)を獲得した細菌が生まれ、治療困難な感染症の拡大が懸念され、世界中でAMR対策が推進されている。その手段としてこれまで、一般市民へのAMR対策の重要性の啓発活動や、医療現場での抗菌薬適正使用の推進などの措置がとられてきた。しかし、適正使用された抗菌薬であっても一部は薬効を持ったまま体外に排泄され、排水を経由して環境中に拡散している。

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     また、国内の水質汚濁防止に関する法律では、大腸菌群については下水道に流す前に排出量(濃度)を一定レベル以下に処理することを定めているが、その他の細菌や抗菌薬の濃度については定めがない。現状では、下水を介して環境中に排泄される薬剤耐性菌や抗菌薬が生態系に影響を及ぼし得るのかというリスク評価のデータは乏しく、今後の調査が重要である。また、環境に放出された薬剤耐性因子をそのままにしておくことで、新たな薬剤耐性菌を生み出してしまう懸念も警鐘されている。

     医療機関からの排水中の細菌や抗菌薬の濃度は、一般家庭などからの排水よりも高い傾向にあり、下水道に流入する前の処理によりそれらを取り除くことが可能であれば、新たなAMR対策手段となり得る。渡邉氏らはこのような背景のもと、東邦大学医療センター大橋病院の下水処理システムにオゾン処理装置を増設し、予備実験で排水中の細菌や抗菌薬を不活化する試みを実施した。病院施設に高度な排水処理システムを応用し、細菌や抗菌薬の不活化効果について科学的な評価を行った成果の報告は、本事業が初めてとのことだ。

     排水中の細菌や抗菌薬を不活化する方法は複数存在する。その中から、同院ではオゾン処理という方法に着目した。この方法には、化学薬品の添加が不要で細菌の不活化や環境汚染物質の除去が可能であり、脱色や脱臭効果にも優れているという特徴がある。ただし、その効果は実験室レベルでの小規模な検討にとどまっていて、病院の排水処理への適用はこれまで検討されていなかったという。

     オゾン処理後の排水を解析した結果、大半の細菌が20分で処理前の0.02%程度のレベルに不活化されることが明らかになった。ただし、病原性の低い環境細菌と想定されるRaoultella ornithinolyticaやPseudomonas putidaなどの一部の細菌は80分のオゾン処理後も若干検出され、オゾンに対する低感受性が認められた。著者らは、「これら一部の細菌は細菌自体が有する特徴としてオゾンに対する抵抗性を持っていると考えられ、環境中でAMRリザーバー(貯蔵庫)としての役割を果たす可能性があるかもしれず、今後注意深く見ていく必要がある」と述べている。

     抗菌薬については、国内での使用量の多い15種類についてオゾン処理の効果が検討され、40分のオゾン処理によって対象とした全ての抗菌薬の96~100%が除去された。セフジニル、レボフロキサシン、クロルテトラサイクリン、バンコマイシンについては10分以内に90%が除去された。また、アンピシリンとクラリスロマイシンは、20分後にも20〜22%検出されたが、40分後には96〜99%が除去された。

     以上の結果から著者らは、「ろ過や生物学的な前処理を行わず、病院排水に直接的なオゾン処理を行うことで、薬剤耐性菌と残留抗菌薬が同時にかつ効率的に不活化されることを明らかにした。どの病院からもある一定数の耐性菌が一般下水へ排出されていると推察され、社会的な対策の必要性が求められつつある。東邦大学医療センター大橋病院として排水浄化の取り組みを世界に先駆けて実施し、オゾン処理が効果的であることを実証した。これらの成果をもとに社会実装を視野に入れ、病気の治療にとどまらず、人々の健康や安全に責務のある病院としてさらなるクリーンな環境作りに貢献したい」と述べている。

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    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年8月1日
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