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9月 19 2024 妊娠中のチーズ摂取が子どもの発達に好影響?
日本の大規模研究データを用いて、妊娠中の発酵食品の摂取と、子どもの3歳時点の発達との関連を調べる研究が行われた。その結果、妊婦の発酵食品の摂取量が多いことは子どもの発達の遅れのリスク低下と関連し、この関連は、特にチーズで強いことが明らかとなった。富山大学医学部小児科の平井宏子氏らによる研究であり、「PLOS ONE」に6月21日掲載された。
母親の腸内細菌叢は、新生児の腸内細菌叢の構成に影響し、さまざまな微生物が産生する神経伝達物質の作用を通じて、神経系に影響を及ぼすと考えられる。著者らは過去の研究で、妊娠中に母親が摂取する発酵食品(味噌、納豆、ヨーグルト、チーズ)と、子どもの1歳時点の発達との関係を調査し、妊娠中の発酵食品の摂取が子どもの発達に有益な影響を及ぼす可能性を報告している。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。今回の研究で著者らは、日本全国規模の出生コホート研究である「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」のデータ(リクルート期間:2011年1月から2014年3月)を用いて、妊娠中の発酵食品の摂取と、3歳時点の子どもの発達との関係を調査した。「食事摂取頻度調査票」を用いて、妊娠中の味噌、納豆、ヨーグルト、チーズの摂取量を算出した。子どもの3歳時点の発達は、「ASQ-3」という指標を母親に回答してもらい、5つの発達領域(コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人・社会)を評価した。解析対象者は、母子6万910組だった。
妊娠中の発酵食品の1日当たりの摂取量を四分位で4群(Q1~Q4)に分類し、妊婦の背景因子を調整した上で、3歳時点の発達との関連を多変量ロジスティック回帰で解析した。その結果、チーズの摂取量は、Q1群(0~0.7g)と比べ、Q2群(1.3~2.0g)、Q3群(2.1~4.3g)、Q4群(5.0~240.0g)で、5つの領域全てにおいて、発達の遅れのリスク低下と関連していた。また、味噌のQ4群(147~2,063g)とヨーグルトのQ4群(94~1,440g)は、コミュニケーション領域でのみ、発達の遅れのリスク低下と関連していた。これらの関連については、摂取していた母親から生まれた子どもでは、リスクが低いという有意な傾向が認められた。一方、納豆については、摂取量と発達との関連は認められなかった。
今回の研究の結論として著者らは、「妊娠中にチーズを摂取することと、子どもの3歳時点における発達の遅れのリスクが逆方向の関連を有することが明らかになった」としている。また、発酵食品の種類により異なる結果が得られたことに関しては、栄養成分などが発酵食品ごとに異なり、健康促進効果も異なると考えられることなどに言及。今後さらなる研究が必要とした上で、「発酵食品の摂取により妊婦の腸内環境を改善することは、子どもの発達に有益な影響を及ぼす可能性がある」と述べている。
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9月 19 2024 主食・主菜・副菜をとる頻度と栄養素摂取量の関係
主食・主菜・副菜を組み合わせた食事をとる頻度が、さまざまな栄養素の習慣的な摂取量とどのように関係するかを詳細に調べる研究が行われた。その結果、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度は栄養素摂取量の適切さと関連し、その頻度が低いほど、たんぱく質やビタミンなど、いくつかの栄養素の摂取量が低いこと、習慣的な摂取状況が不足の可能性の高い栄養素の数が多いことが示された。神戸学院大学栄養学部の鳴海愛子氏らによる研究であり、「Nutrients」に5月26日掲載された。
食事バランスを考える料理区分として、「主食」はごはん・パン・麺など、「主菜」は魚・肉・卵・大豆・大豆製品を主材料とする料理、「副菜」は野菜・いも・海藻・きのこを主材料とする料理とされる。健康日本21(第三次)では、「主食・主菜・副菜を組み合わせた食事が1日2回以上の日がほぼ毎日の者の割合」を増やすことが目標とされている。一方、これらと習慣的な栄養素摂取状況の適切度との関連はこれまで検討されてこなかった。加えて、食事習慣は他の生活習慣とも関連し、例えば、定期的に運動している人ほど食事の質は高い。食事の内容や頻度と栄養素摂取量との関係は、生活習慣を含め他の要因の影響も考慮に入れて検討する必要がある。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。著者らは今回、無作為に抽出した30~69歳の日本人を対象とする横断研究を行い、調査票を用いて、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度や、直近1カ月間の食事内容などを調査し、栄養素摂取量を算出した。解析に必要なデータの得られた対象者は331人(平均年齢48.8±10.2歳、男性62.8%)だった。
対象者のうち、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事が1日2回以上の日が「ほぼ毎日」だった人は132人(39.9%)、「週に4~5日」は65人(19.6%)「週に2~3日」は74人(22.4%)、「週に1回以下」は60人(18.1%)だった。「ほぼ毎日」の人は、女性、既婚者の割合が高く、年齢も高かった。一方、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度は、BMI、教育歴、世帯年収、喫煙の有無、1日の歩行時間、睡眠時間、飲酒頻度とは関連していなかった。
たんぱく質の摂取量の不足の確率が50%以上である人の割合を比較したところ、「ほぼ毎日」の人では31.8%、「週に4~5日」は33.8%、「週に2~3日」は47.3%、「週に1回以下」は56.7%であり、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度が少ないほど摂取量が不足の可能性が高い者が多い傾向が認められた(傾向性P<0.01)。この傾向は、ビタミンB2、B6、葉酸、ビタミンCについても同様に認められた。また、摂取量が不足の確率50%以上である栄養素の数(平均値)が、「ほぼ毎日」の人では2.0、「週に4~5日」は2.1、「週に2~3日」は2.7、「週に1回以下」は3.1であり、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度が少ないほど習慣的な摂取状況が不足の可能性が高い栄養素の数が多い傾向が認められた(傾向性P<0.01)。一方、頻度にかかわらず、食物繊維の摂取量が生活習慣病予防のための摂取量の下限値未満である人(全体で86.1%)と食塩の摂取量が過剰の人(同98.5%)の割合は高かった。
今回の研究結果について著者らは、「高齢者の低栄養の予防や、若い女性のやせに対する介入など、栄養不足を予防するための介入に役立つ可能性がある」と述べている。また、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度が低い人ほど海藻、魚介類、卵の摂取量が少なかったことや、頻度にかかわらず食物繊維や塩分の摂取量が適正でない人が多かったことを挙げ、適切な食材選択などについて、さらなる研究が必要だとしている。
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9月 19 2024 ICU入室前のソーシャルサポートは退室後の抑うつと関連
集中治療室(ICU)で治療を受けた患者を対象とする単施設前向きコホート研究の結果、ICU入室前のソーシャルサポートが少ないほど、ICU退室後の抑うつが生じやすいことが明らかとなった。駒沢女子大学看護学科の吉野靖代氏らによる研究であり、「BMJ Open」に6月19日掲載された。
ICU在室中・退室後、退院後に生じる認知・身体機能の障害やメンタルヘルスの問題は、集中治療後症候群(post-intensive care syndrome;PICS)と呼ばれる。集中治療の進歩により患者の生存率は向上している一方で、PICSによりQOLが低下し、元の生活に戻ることのできない患者も多い。メンタルヘルスに関しては、がん患者や心疾患患者を対象とした研究で、ソーシャルサポートと抑うつの軽減との関連が報告されている。ただ、ICU患者におけるソーシャルサポートとICU退室後のメンタルヘルスに関しては、研究結果が一貫していなかった。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。そこで著者らは今回、2020年12月から2022年6月の期間に、国内1施設のICU(内科・外科8床)に2日間以上在室した患者で、中枢神経疾患や精神疾患などの患者を除いた153人を対象とし、ICU入室前のソーシャルサポート(ICU入室2日後から退室2週後の間に調査)と、ICU退室3カ月後の心的外傷後ストレス障害(PTSD)症状、不安、抑うつ症状との関連を検討した。ソーシャルサポートは「Duke Social Support Index(DSSI-J)」、PTSD症状は「Impact of Event Scale-Revised(IES-R)」、不安と抑うつ症状は「Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)」という自記式質問票を用いて評価した。
ICU退室3カ月後の追跡調査データの得られた解析対象患者は115人であり、年齢中央値は74.0歳(四分位範囲64.5~80.0歳)、男性が61人(53.0%)だった。患者の73.9%が予定手術のため入院し、57.3%が心臓手術のためICUに入室した。ICU在室日数の中央値は7日(四分位範囲5~8日)だった。ICU退室3カ月後、PTSDの疑いのある人の割合は11.3%、不安症状のある人は14.0%、抑うつ症状のある人は24.6%だった。
PTSD症状、不安、抑うつ症状について、説明変数をソーシャルサポート尺度とし、年齢、性別、教育年数を調整した多変量線形回帰分析を行った。その結果、PTSD症状および不安症状の重症度とソーシャルサポートに関連は認められなかった。しかし、抑うつ症状に関しては、ソーシャルサポート(β=-0.018、95%信頼区間-0.029~-0.006、P=0.002)は、抑うつ症状の重症度と独立して関連することが明らかとなった。また、抑うつ症状とソーシャルサポートとの関連には性差が認められ、男性の方が関連は強かった(交互作用P=0.056)。
今回の研究結果から著者らは、「ICU入室前のソーシャルサポートは、ICU退室後の抑うつ症状と関連するが、PTSD症状とは関連しなかった」と総括している。女性は抑うつと関連していた一方で、ソーシャルサポートが少ない男性は女性よりも抑うつ症状を生じやすいことなどを指摘し、「ICU入室前のソーシャルサポートが少ない患者は、ICU退室後の抑うつ症状に注意する必要がある」と述べている。
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9月 19 2024 糖尿病黄斑浮腫へのSGLT2阻害薬使用で注射回数減
糖尿病黄斑浮腫患者に対するSGLT2阻害薬の使用は、ステロイド薬のトリアムシノロンアセトニド(TA)注射頻度の減少と関連しており、非侵襲的かつ低コストの補助療法となる可能性があるとの研究結果が発表された。君津中央病院糖尿病・内分泌・代謝内科の石橋亮一氏と千葉大学眼科、糖尿病・代謝・内分泌内科、人工知能(AI)医学による研究チームによる研究であり、「Journal of Diabetes Investigation」に6月14日掲載された。
増殖糖尿病網膜症による失明は、近年減少傾向ではあるが、糖尿病黄斑浮腫は、中高年の社会生活の質を低下させる重要な視力障害の原因となっている。糖尿病黄斑浮腫の第一選択薬は抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の硝子体内注射だが、眼球への頻回の注射と、高額な医療費が患者の負担となり、また奏功しない患者の存在も次第に明らかとなり、ステロイドテノン嚢下注射(STTA)なども選択される。ただし、TA投与も侵襲的な局所注射療法であり、眼圧上昇などの特有の副作用がある。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。一方、2型糖尿病などに広く用いられている経口薬のSGLT2阻害薬は、糖尿病黄斑浮腫への治療効果が報告されている。著者らの過去の研究では、抗VEGF薬投与歴のある糖尿病黄斑浮腫患者において、SGLT2阻害薬の使用が抗VEGF薬の投与頻度の減少と関連することを明らかにした。
著者らは今回の研究では、糖尿病黄斑浮腫へのTA投与に着目し、SGLT2阻害薬の有効性を評価するため、日本の保険請求データベースを用いた後ろ向きコホート研究を行った。糖尿病黄斑浮腫を合併する糖尿病患者を対象とし、他の眼疾患(加齢黄斑変性、網膜静脈閉塞症、脈絡膜新生血管など)への抗VEGF薬投与歴のある患者などは除外した。2014年以降のSGLT2阻害薬または他の糖尿病治療薬の使用開始日を指標日とし、指標日以降のTAのテノン嚢下または硝子体への投与頻度などを解析した。
傾向スコアマッチングを行い、SGLT2阻害薬使用群1,206人(平均年齢54±9歳、男性63%)と非使用群1,206人(同54±10歳、61%)が選択された。平均追跡期間はSGLT2阻害薬使用群が2.3±1.5年(2,727人年)、非使用群が3.4±2.1年(4,141人年)だった。観察開始時点で糖尿病関連眼疾患を合併していた患者は、SGLT2阻害薬使用群で852人(71%)、非使用群で858人(71%)、抗VEGF薬投与歴のある患者は同順に46人(3.8%)、15人(1.2%)、TA投与歴のある患者は55人(4.6%)、56人(4.6%)だった。
TAの投与頻度は、SGLT2阻害薬使用群で1,000人年当たり63.8回、非使用群で同94.9回だった。生存時間解析を行ったところ、SGLT2阻害薬は、初回のTA投与(ハザード比0.66、95%信頼区間0.50~0.87)、2回目のTA投与(同0.53、0.35~0.80)、3回目のTA投与(同0.44、0.25~0.80)が必要となるリスクをそれぞれ有意に低下させることが明らかとなった。さらに、さまざまな臨床背景によりサブグループ解析を行った結果、SGLT2阻害薬によるTAの投与頻度の減少効果は一貫して認められた。また硝子体手術の頻度も初回は2群間で差はなかったものの、2回目で有意に減少していた(同0.51、0.29~0.91)。
以上の結果から著者らは、「SGLT2阻害薬は、糖尿病黄斑浮腫に対する新たな非侵襲的かつ低コストの補助療法となる可能性がある」と結論付けている。SGLT2阻害薬の効果の基礎となるメカニズムとしては、局所代謝の改善、虚血の改善、浮腫の軽減などが考えられると説明した上で、SGLT2阻害薬の併用は糖尿病黄斑浮腫の発症予防などの報告もされていることから、より早期の糖尿病黄斑浮腫でより有効な可能性を指摘し、今後さらなる研究が必要だとしている。
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糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。