• 抑うつ症状と仮面高血圧に関連あり

     大規模な横断研究から、診察室の血圧は正常でも家庭で測定した血圧は高値を示す「仮面高血圧」と抑うつ症状には関連があることが分かったと、東北メディカル・メガバンク機構予防医学・疫学部門の寳澤篤氏らが「Hypertension Research」に10月31日発表した。抑うつ症状は仮面高血圧の危険因子の一つである可能性が示されたとしている。

     高血圧の中でも仮面高血圧の患者は、正常血圧の人と比べて心血管疾患リスクが高く、仮面高血圧は心血管疾患の危険因子の一つだとされている。しかし、その診断には家庭血圧測定が必要なため、見過ごされやすく、適切な治療を受けていない可能性が高い。また、これまでの研究で、仮面高血圧のリスク因子として、男性、喫煙習慣、糖尿病、治療中の高血圧、診察室血圧で正常高値などが挙げられている。さらに、不安や抑うつ、ストレスなどの精神状態も血圧に影響を与える可能性が報告されている。そこで、寳澤氏らは今回、抑うつ症状と仮面高血圧の関連を評価する横断研究を実施した。

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     この研究は、東北メディカル・メガバンク計画地域住民コホート調査から2013~2016年に宮城県で実施したベースライン調査データを用い、研究センターで測定した血圧が正常血圧〔収縮期血圧(SBP)140mmHg未満かつ拡張期血圧(DBP)90mmHg未満〕だった成人男女6,705人(平均年齢55.7±13.7歳、女性74.9%)を対象に行われた。参加者には、自宅で1日2回(朝・晩)血圧と心拍数を2週間測定してもらった。抑うつ症状の評価には、うつ病自己評価尺度(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale;CES-D)日本語版を用いた。仮面高血圧は、研究センターでは正常血圧かつ家庭高血圧の基準(SBP 135mmHg以上またはDBP 85mmHg以上)を満たす場合と定義した。

     参加者のうち、男性では18.4%(1,685人中310人)、女性では27.7%(5,020人中1,384人)が抑うつ症状を有していた。男女別に、年齢を調整した上で抑うつ症状の有無と血圧の関連を解析したところ、抑うつ症状のあるグループでは、抑うつ症状のないグループに比べて朝および晩の家庭血圧が有意に高かった(男性:朝のSBP 129.0mmHg対127.0mmHg、晩のSBP 126.0mmHg対124.0mmHg、女性:同順に121.0mmHg対119.5mmHg、117.7mmHg対116.2mmHg)。研究センターで測定した血圧には、男女とも抑うつ症状の有無で差は見られなかった。

     また、解析の結果、男女ともに、抑うつ症状のあるグループでは、抑うつ症状のないグループと比べて仮面高血圧の有病率が高いことが分かった。多変量解析によるオッズ比は、男性では1.72(95%信頼区間1.26~2.34)、女性では1.30(同1.06~1.59)と、その傾向は男性の方が強かった。

     以上から、著者らは「抑うつ症状と仮面高血圧には関連があり、抑うつ症状は仮面高血圧の危険因子の一つである可能性がある。このことから、抑うつ症状がある人では、家庭血圧測定を行うことで仮面高血圧の早期発見、早期治療に有用な可能性が示唆された」と結論。ただ、今回は横断研究だったため、今後、さらなる研究で因果関係を検証していきたいと付言している。

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  • 夜7時以降に温泉に入る人には高血圧患者が少ない――別府市民1万人の調査

     温泉入浴の習慣がある人には高血圧が少ないことが明らかになった。国内最大規模の温泉郷を有する別府市市民を対象とする、九州大学別府病院内科の山崎聡氏らの研究によるものであり、結果の詳細は「Scientific Reports」に11月14日掲載された。入浴時間帯別に解析すると、夜7時以降に温泉に入る習慣のある人で、高血圧該当者率の有意な低下が観察されたという。

     高血圧は日本の国民病とも言われるほど多い病気で、50歳以上の男性と60歳以上の女性の6割以上が高血圧に該当すると報告されている。一方、温泉入浴については古くからさまざまな健康上のメリットが報告されてきている。そこで山崎氏らは、2011年に別府で実施された、温泉入浴や疾患既往歴に関するアンケート調査の結果を用いて、温泉入浴と高血圧との関連を検討した。

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     このアンケートは、別府市民から無作為に抽出した2万人に対して回答協力を依頼。本研究ではそのうち65歳以上の高齢者1万428人の回答を解析対象とした。そのうち、高血圧の既往があると回答した人は4,001人(38.3%)だった。なお、調査時点で別府市に居住していた高齢者数は3万4,465人。

     単変量解析の結果、85歳以上は有意に高血圧の該当者率が高く〔65~69歳を基準とするオッズ比(OR)1.460(95%信頼区間1.230~1.740)〕、女性は有意に低かった〔OR0.923(同0.852~0.999)〕。併存疾患との関連については、痛風(OR1.860)、脂質異常症(OR1.650)、脳卒中(OR1.620)、不整脈(OR1.610)、腎疾患(OR1.520)、糖尿病(OR1.460)の既往のある人では高血圧該当者率が有意に高かった。反対に、慢性肝炎(OR0.656)の既往者は該当者率が有意に低かった。がんやうつ病、虚血性心疾患、喘息、膠原病との関連は非有意だった。

     温泉入浴の習慣との関連では、入浴時間が10~30分未満の群で高血圧該当者率が有意に低く〔10分未満を基準として10~19分はOR0.832、20~29分はOR0.765〕、30分以上では非有意だった。また入浴の時間帯については、13~19時に入浴する群では該当者率が有意に高く〔9時前に入る群を基準としてOR1.220〕、反対に19時以降に入浴する群では有意に低く(OR0.840)、9~13時に入る群は非有意だった。温泉の泉質については、高血圧該当者率と有意な関連のある泉質は特定されなかった。

     続いて、単変量解析で有意だった因子を説明変数とする多変量解析を施行。その結果、高血圧該当者率に独立して関連する因子として、85歳以上〔65~69歳を基準としてOR1.410(95%信頼区間1.170~1.680)〕に加え、単変量解析で有意だった疾患既往歴は全て有意性が保たれていた。入浴習慣関連では、19時以降に入浴する群で有意に低いオッズ比が観察され〔OR0.850(同0.768~0.940)〕、入浴時間の長さや入浴頻度、温泉入浴歴などは非有意だった。

     本研究について著者らは、疾患既往歴が自己申告によること、高血圧の治療の詳細が不明なこと、横断研究であり因果関係は不明であることなどの限界点を挙げている。その上で、「夜7時以降の温泉入浴は、高齢者の高血圧該当者率の低さと有意に関連している。高血圧治療における夜間の温泉入浴の有用性を検証する無作為化比較試験が期待される」と述べている。

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  • 毎日コーヒーを飲む高血圧患者は血管の機能が良好

     コーヒー摂取習慣のある高血圧患者は、血管の内皮と平滑筋の機能が良好であることを示すデータが報告された。広島大学病院未来医療センターの東幸仁氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrients」に6月29日掲載された。

     適量のコーヒー摂取には健康上のさまざまなメリットのあることが報告されているが、高血圧の治療に対する有益性の研究結果は一貫性がない。東氏らはこの点について、血管内皮機能と血管平滑筋機能の面から検討を加えた。

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     動脈血管の最も内側の層に当たる内膜の内皮細胞は、血管を拡張する一酸化窒素(NO)を産生するなどの役割を担い、中膜の平滑筋は血管のしなやかさに関与している。動脈硬化の初期段階では内皮機能が低下し、続いて平滑筋機能が低下してくる。これらを測定することで、血管が狭くなるなどの形態学的な変化や臓器障害が現れる前に、動脈硬化のリスクを把握でき早期介入が可能となる。

     一般に内皮機能は、上腕(二の腕)の血流を一時的に駆血(遮断)し、それを開放した時に血流の刺激を受けた内皮細胞がNOを産生することで起こる血管拡張反応(flow-mediated vasodilation;FMD)で評価する。測定結果は、ベースライン(駆血前)の血管径を基準に開放後の血管径を比較してパーセントで表す。一方の平滑筋機能は、ニトログリセリン投与による血管拡張反応(nitroglycerine-induced vasodilation;NID)で評価し、やはりベースラインからの血管径の変化の割合で結果を表す。いずれも数値が大きい方が、内皮や平滑筋の機能が良好と判定される。

     研究の対象は、2016年4月~2021年8月に同大学病院で健診を受けた高血圧患者462人。血管拡張作用のある硝酸薬が処方されている患者、NYHA分類III以上の心不全患者、コーヒー摂取習慣に関する情報のない患者は除外されている。FMDとNID測定値への影響を避けるため、研究参加者には一晩の絶食のほか、検査の12時間前からは、アルコール、カフェイン(コーヒーなど)、抗酸化ビタミン、喫煙を控えてもらった。

     研究参加者の主な特徴は、年齢65±13歳、男性59.7%、BMI24.4±3.8で、血圧は130±17/79±12mmHgであり、糖尿病患者が29.2%、心血管疾患既往者が20.6%、喫煙者(現喫煙者と前喫煙者の合計)が54.7%含まれていた。コーヒー摂取習慣のある患者が84.6%で、その平均摂取量は1日2杯だった。コーヒー摂取習慣の有無で比較すると、摂取習慣のある群は、男性の割合、クレアチニン、心血管疾患既往者の割合が低く、LDL-コレステロールと糖尿病の有病率が高いという有意差があり、年齢やBMIなど、その他の指標は有意差がなかった。

     FMDは全体の平均が3.2±2.9%、NIDは11.0±5.4%であった。コーヒー摂取習慣の有無別に見ると、FMD(2.6±2.8対3.3±2.9%、P=0.04)、NID(9.6±5.5対11.3±5.4%、P=0.02)ともに、摂取習慣のある群の方が有意に高値だった。

     次に、FMDの三分位で3群に分け、第1三分位群(FMD1.6%未満)を内皮機能障害と定義。ロジスティック回帰分析により内皮機能に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、収縮期血圧、喫煙、脂質異常症・糖尿病・心血管疾患の既往)を調整後、習慣的なコーヒー摂取群では内皮機能障害該当者が有意に少ないことが分かった〔オッズ比(OR)0.55(95%信頼区間0.32~0.95)〕。

     NIDの第1三分位群(NID8.4%未満)を平滑筋機能障害と定義して解析した結果も同様に、習慣的なコーヒー摂取群では平滑筋機能障害該当者が有意に少なかった〔OR0.50(同0.28~0.89)〕。コーヒーの摂取量との用量反応関係を解析した結果、1日に0.5~2.5杯(約100~500mL)の範囲で、内皮・平滑筋機能障害のオッズ比が最も低いことが分かった。

     著者らは本研究が単施設での横断研究であること、コーヒー摂取者でも海外からの報告に比べて摂取量が少なく、大量摂取した場合にマイナスの影響が生じる可能性が不明であることなどを限界点として挙げた上で、「適量のコーヒー摂取は高血圧患者の血管内皮機能と平滑筋機能にメリットをもたらす可能性がある」と結論付けている。また、その機序として、カフェインに含まれているポリフェノールであるクロロゲン酸による抗酸化作用、カフェインによる内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性上昇などが考えられるとの考察を加えている。

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    心不全のセルフチェックに関連する基本情報。最善は医師による診断・診察を受けることが何より大切ですが、不整脈、狭心症、初期症状の簡単なチェックリスト・シートによる方法を解説しています。

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    HealthDay News 2022年8月10日
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  • どの栄養素を「いつ」取るかで血圧に差が出る――早大

     ナトリウム(塩分)の摂取量が多いと血圧が高くなりやすいことは広く知られているが、新たな研究から、ナトリウムの多い食事をいつ摂取するかによって、血圧への影響が異なる可能性が報告された。早稲田大学先端生命医科学センターの柴田重信氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Nutrition」に3月4日掲載された。朝食のタンパク質量が多いことや、昼食の食物繊維量が多いことと、血圧の低さとの有意な関連なども明らかになった。

     栄養学では長年、摂取する栄養素の量と健康との関連が研究されてきたが、近年、栄養素を「いつ」摂取するかという点も重要であることが分かり、「時間栄養学」と呼ばれる研究が活発に行われている。特に血圧は、朝から日中は高く、夕方から夜間は低下するという日内変動があり、栄養素の摂取タイミングの違いが血圧へ異なる影響をもたらす可能性が考えられ、動物実験からはそれを裏付けるデータが報告されている。ただし、ヒトではそのような視点での研究がまだほとんど行われていない。柴田氏らは、(株)Askenのモバイルヘルスアプリ「あすけん」の利用データを解析して、この点を検討した。

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     「あすけん」はユーザーが記録した食事内容を分析し、改善点をアドバイスするアプリであり、主に体重管理目的で利用されている。「あすけん」で解析した栄養素摂取量は、従来から行われている解析方法の結果と強く相関する(r=0.80)ことが報告されている。今回の検討では、「あすけん」利用者の中で、1カ月間にわたり1日3回の食事と間食のデータが記録されており、血圧値や身体活動習慣などに関するアンケートに回答した2,402人(平均年齢45.95歳、男性29.4%)を解析対象とした。

     血圧に関しては、収縮期血圧が110mmHg未満、111~120mmHg、121~130mmHg、131~140mmHg、141~150mmHg、151mmHg以上という6つのカテゴリーに分けて1~6にスコア化して評価した。なお、降圧薬服用者は解析対象から除外されている。栄養素摂取量に関しては、1カ月間の平均値を解析に用いた。

     結果について、まず性別で比較すると、年齢、BMI、身体活動量は男性の方が有意に高値であり、クロノタイプ(朝型か夜型か)は女性において夜型が有意に多かった。年齢とBMIは男性・女性ともに血圧と有意な正の相関があり、身体活動量は男性の血圧と有意な負の相関があった。

     続いて、重回帰分析にて、年齢、性別、BMI、身体活動量、クロノタイプの影響を調整後に、朝食、昼食、夕食、および間食の栄養素摂取量と血圧との関連を解析。その結果、以下のような有意な相関が認められた。

     まず、昼食のNa/K比(ナトリウム摂取量を、血圧を下げるように働くカリウムの摂取量で除した値)は、血圧と有意に正相関していた(β=0.072、P=0.001)。間食のNa/K比も血圧と正の相関があった(β=0.046、P=0.022)。一方、朝食や夕食のNa/K比は、血圧と有意な関連がなかった。

     摂取エネルギー量と血圧との相関は夕食においてのみ有意であり、正の相関が認められた(β=0.100、P<0.0001)。三大栄養素のうち、タンパク質は朝食のみ有意な負の相関(β=-0.046、P=0.027)、脂質は夕食のみ正の相関があった(β=0.059、P=0.007)。炭水化物の摂取量はいずれの食事に関しても、血圧との有意な関連がなかった。

     このほか、昼食の食物繊維と血圧との有意な負の相関なども認められた(β=-0.048、P=0.026)。食事と一緒に飲むアルコールの摂取量については、3食どのタイミングであっても、血圧との有意な関連がないことも分かった。

     著者らは、「本研究の対象がモバイルアプリユーザーに限られているため、結果の一般化には追試が必要」と解釈上の限界点を挙げた上で、「ナトリウムやカリウムなどの特定の栄養素を摂取するタイミングを変更することで、高血圧発症を抑制できる可能性がある」と結論付けている。

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    HealthDay News 2022年5月16日
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  • 日本食1皿の塩分量はどのくらい?――献立単位で減塩を達成するヒント

     穀物を主食として数品のおかずで構成されている日本の家庭料理は、栄養バランスを取りやすい。この優れた特徴を生かしながら塩分摂取量を減らすためのヒントとなる研究結果が、「Journal of Nutritional Science」に12月15日掲載された。ノートルダム清心女子大学人間生活学部食品栄養学科の今本美幸氏らによる研究で、著者らは「従来の介入法とは異なる、新たな減塩指導法として応用できるのではないか」と述べている。

     減塩指導や疾患啓発などによって、日本人の塩分摂取量は漸減してきたが、近年は10g/日前後で下げ止まりしている。これまでの減塩指導は主として、食材選択や味付け、調理方法のテクニックの指導であり、何をどの程度食べれば良いのかが分かりにくい傾向があった。これに対して今回の研究では、一般的な家庭料理の1皿に含まれる塩分量を明らかにし、どのような料理の組み合わせであれば塩分過多になりにくいのかを示すことを試みた。

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     今本氏らは以前、地域住民を対象とする研究で、尿中塩分排泄量を自己測定することによって塩分摂取量が減ることを報告している。今回の研究は、その時の調査データを二次的に解析したもの。79人の一般成人が1カ月間にわたり日々の食事内容を記録するという研究に参加。そのうち尿中塩分排泄量を15日以上測定していた60人を本研究の解析対象とした。対象者の主な特徴は、平均年齢62歳(四分位範囲50~74)、女性75%、BMI24.0であり、高血圧患者が52%、慢性腎臓病患者が6%含まれており、研究開始時点の尿中塩分排泄量は9.2g/日(同7.1~11.4)だった。

     食事記録を基に、主食である穀物は白飯、カレーや丼などのご飯もの、パン、ラーメン、その他に分類、副食は肉/魚料理などの主菜、野菜料理などの副菜、その他の料理は乳製品、果物、みそ汁、みそ汁以外の汁物、漬物、菓子類に分類した。通常、パンとみそ汁を組み合わせて食べることがないように、主食の穀物の種類によってその他の料理のカテゴリーがほぼ決まることから、4種類の穀物がそれぞれ主食であるときの一食の塩分摂取量を、尿中塩分排泄量から推算。また、上記の料理カテゴリーごとの塩分摂取量も推算した。

     解析の結果、1回の食事での塩分摂取量は、主食にどの穀物を選択した場合でも、または穀物を含まない献立でも、3g前後であることが分かった(主食が白飯の場合2.9g、カレーや丼などのご飯ものでは2.8g、パンでは2.6g、ラーメンでは2.9g、うどんやそば等の麺類では2.8g、主食なしでは3.1g)。一方、料理カテゴリー別に1皿(1杯)の塩分摂取量を比較すると、主食のうちラーメンは3.2g、うどんやそば等の麺類は2.2g、パンは1.9gであり、主菜は1.5g、副菜は0.9gであった。また、みそ汁は1.4g、みそ汁以外の汁物は1.5g、漬物は0.7gだった。

     調査期間全体の塩分摂取量のうち、35%は主菜(魚/肉料理)で占められており、19%は副菜(野菜料理)が占めていた。なお、主食の穀物からの塩分摂取量は30%を占め、その内訳はパンが10%、カレーや丼などのご飯もの9%、ラーメン3%、うどんやそば等の麺類6%などだった。その他は、みそ汁が11%、みそ汁以外の汁物が2%、漬物が3%。

     4種類の穀物の摂取頻度を説明変数、主菜・副菜の摂取量を目的変数とする回帰分析の結果、栄養バランスにとって重要な主菜は、白飯を主食として選んだ時に0.31皿分増えることが分かった。また、主菜と同様に栄養バランスに大切な副菜は、主食が白飯の時に0.43皿分増加していた。一方、主食としてラーメンを選択した時は、主菜が0.48皿分減り、副菜は0.22皿分減ることが分かった。このほか、パンを選んだ時に乳製品の摂取が増えること、穀物の摂取と果物の摂取は関連がないことなども示された。

     著者らは、「本研究は日本の家庭の食事における1皿ごとの塩分量を明らかにした初の試み」と位置付け、「他の集団で検証を重ねた上で、日本食の栄養バランスと減塩を両立させるための包括的な食事ガイドを確立できるのではないか」と期待を述べている。

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    HealthDay News 2022年3月7日
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