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4月 13 2021 女性の喫煙本数と心理的苦痛が有意に関連――奈良県立医大
タバコを吸う女性は吸わない女性より心理的苦痛を強く感じていて、さらに喫煙本数が多い女性ほどその傾向が強いことを示すデータが報告された。一方、男性ではこのような関連は見られないという。奈良県立医科大学県民健康増進支援センターの冨岡公子氏らの研究によるもので、詳細は「Harm Reduction Journal」に3月4日掲載された。
喫煙は修正可能な早期死亡の最大のリスク因子であるとともに、不安やうつなどの心理的苦痛の高さと関連することが知られている。ただしこの関連における性差や年齢の影響については十分検討されていない。そこで冨岡氏らは、厚生労働省「国民生活基礎調査」の匿名データを用いて、この点を検討した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。解析対象は、2013年の同調査の20歳以上の回答者から、要介護認定を受けている人や、医療・福祉施設に入院・入居中の人を除いた地域住民7万1,182人(男性3万3,925人、女性3万7,257人)。全体を、喫煙歴なし、元喫煙者、現喫煙者(1日の喫煙本数10本以下、同11~20本、同21本以上)という5群に分類し、心理的苦痛との関連を比較した。
心理的苦痛は、K6という尺度(心理的ストレスを含む何らかの精神的な問題の程度を表す指標。点数が高いほど精神的な問題がより重い可能性があるとされている)を用いて評価し、13点以上の場合を「心理的苦痛が強い」と判定した。その結果、男性の3.5%、女性の4.5%が13点以上であり、女性の方が有意にその割合が高かった(カイ二乗検定、P<0.001)。喫煙や心理的苦痛に影響を及ぼし得る因子(婚姻状況、教育歴、就労状況、家計支出、慢性疾患の現病歴など)を調整変数、喫煙レベルを説明変数とし、多重ロジスティック回帰モデルを用いて、「心理的苦痛が強い」に対する調整オッズ比(OR)を算出した。
性別に層化解析した結果、女性においては、調整OR(95%信頼区間)は、喫煙歴なしを基準とすると、元喫煙者が1.22(0.92~1.63)、1日の喫煙本数10本以下の現喫煙者が1.52(1.25~1.84)、11~20本の現喫煙者が1.75(1.46~2.09)、21本以上の現喫煙者が2.22(1.59~3.10)であり、現喫煙者は「心理的苦痛が強い」に対するORが有意に高く、かつ喫煙レベルが高いほど「心理的苦痛が強い」人が多くなる量反応関係が認められた(傾向性P<0.001)。
一方、男性においては、喫煙レベルと「心理的苦痛が強い」との量反応関連はなく(傾向性P=0.700)、21本以上の現喫煙者のみ「心理的苦痛が強い」に対するORが有意に高くなっていた(調整OR1.32、95%信頼区間1.07~1.64)。量反応関係における性別の交互作用は有意であった(交互作用P<0.001)。
続いて年齢層別に解析すると、どの年齢層でも、喫煙本数が多いほど「心理的苦痛が強い」に該当する人が多くなることが分かった。具体的には、各年齢層の傾向性P値が、20~44歳は0.008、45~64歳は0.006、65歳以上は0.007であり、量反応関係における年齢の交互作用は見られなかった(交互作用P=0.409)。
著者らは本研究を、「喫煙歴の有無および喫煙本数と心理的苦痛の関連を、性・年齢別に検討した初の研究」と述べている。また横断研究のため因果関係は不明ながらも、女性においてのみ有意な関連が認められた背景として以下の考察を加えている。
まず、女性は男性に比較して喫煙に対する中枢神経系への影響が大きく現れるという、生物学的な相違の存在する可能性が、先行研究から示唆されているという。また、日本はジェンダーギャップが大きい国であり、ジェンダーギャップは日本人女性の精神的健康に悪影響を与えている可能性がある。さらには、欧米諸国に比較し日本は喫煙率の性差が大きく、女性は喫煙することで男性よりも社会的不承認を経験しやすく、精神的健康に悪影響を与えている可能性があるとしている。
結論として、「日本のタバコ対策において、精神的不調を呈している女性に対して精神的ケアと禁煙支援の充実が必要である」と述べている。
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6月 04 2020 受動喫煙でも糖尿病リスクが上昇――JPHC研究
喫煙が糖尿病発症リスクを上昇させることは知られている。しかし本人がタバコを吸わなくても身近に喫煙者がいると、受動喫煙のため糖尿病発症リスクが高くなることが分かった。国立がん研究センターなどの多目的コホート(JPHC)研究グループの研究によるもので、詳細は「Journal of Diabetes Investigation」3月30日オンライン版に掲載された。
今回の研究は、1990年と1993年に全国9カ所の保健所管轄区域に住んでいた、タバコを吸わず糖尿病のない40~69歳の女性2万5,391人を対象に行われた。アンケート調査により、同居する配偶者の喫煙状況、および職場や公共スペースでの受動喫煙の頻度を把握し、糖尿病新規発症との関連を検討した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。配偶者の喫煙状況は、過去にもタバコを吸ったことがない「非喫煙者」が6,569人(25.9%)、以前は吸っていた「過去喫煙者」が6,390人(25.2%)、現在も吸っている「現喫煙者」が1万2,432人(49.0%)だった。配偶者が過去喫煙者である女性は他群よりも高齢で無職の割合が高く、配偶者が現喫煙者である女性は余暇時間に身体活動をしていない割合が高かった。
追跡開始から最初の5年間で334人、次の5年間で374人が新たに糖尿病を発症した。配偶者が非喫煙者の女性に比較して、1日40本以上喫煙する配偶者を持つ女性は、年齢調整後の糖尿病発症オッズ比(OR)が1.40(95%信頼区間1.01~1.95)で、有意に高リスクであることが分かった。
調整因子として年齢のほかに追跡期間、BMI、高血圧、親の糖尿病歴、余暇時間の身体活動、コーヒー・アルコール摂取、居住地域を追加すると、この関連の強さはやや低下したが(OR1.34、95%信頼区間0.96~1.87)、配偶者の喫煙本数が多いほど糖尿病発症リスクが高くなるという有意な傾向が認められた(傾向性P=0.02)。
次に、職場や公共スペースでの受動喫煙の頻度と糖尿病発症リスクの関連を検討した。研究対象全体の解析では、毎日受動喫煙の機会があると回答した女性は、受動喫煙の機会がないと回答した女性に比べ、OR1.16(95%信頼区間0.96~1.40)だった。仕事を持っている女性に解析対象を絞ると、ORは1.23(同0.995~1.53)に上昇した。
研究グループでは、「わが国は男性の喫煙率が女性よりも高く、タバコを吸わない女性であっても家庭で配偶者から受動喫煙の影響を受けている場合のあることが考えられる。家族の健康を守るためにも、ヘビースモーカーの男性は、まず毎日吸うタバコの本数を減らし、その後の禁煙へつなげることが望まれる」と述べている。
なお、受動喫煙で糖尿病発症リスクが上昇するメカニズムについては、「はっきりしたことは分かっていないが、これまでの研究から能動喫煙によりインスリン抵抗性や血糖上昇が誘導されることが示されており、受動喫煙でも同じことが起きていると考えられる」としている。
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糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。
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2月 23 2019 喫煙者は肥満度に関係なく死亡リスクが高い 厚生労働科学研究班の報告
日本人男女の大規模データを解析したところ、死亡リスクが最も低いBMIは22.0~24.9であることが、東北大学東北メディカル・メガバンク機構個別化予防・疫学分野教授の寳澤篤氏らの研究グループの検討で示唆された。これらの関連は年齢や喫煙習慣の有無による影響はみられなかったが、現在喫煙している人はたとえ理想体重であっても、喫煙歴のないどのBMI群の人よりも死亡リスクは高いことも明らかになった。詳細は「Journal of Epidemiology」11月3日オンライン版に掲載された。
死亡率とBMIの間にはU字型の関係があることが知られているが、死亡リスクが最も低い適正体重は明らかになっていない。また、特にBMIが低い人では、喫煙習慣がこれらの関連に強い影響を及ぼすことも報告されているが、エビデンスは確立していない。そこで、寳澤氏らは今回、日本人を対象に実施した13件のコホート研究の参加者を対象に、最も死亡リスクが低い適正体重と喫煙習慣による影響について検討する観察研究を実施した。
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お近くの治験情報を全国から検索できます。対象は、国内13件の前向きコホート研究の個人データを統合した、大規模なメタ解析研究であるEPOCH-JAPAN(Evidence for Cardiovascular Prevention From Observational Cohorts in Japan)に参加した40~89歳の男女計17万9,987人(平均年齢58.7歳、男性11万1,705人、平均BMIは23.3)。1987~1995年のベースラインから平均9.8年間追跡した。
その結果、対象者全体の解析では、全死亡リスクとBMIとの間にはU字型の関係が認められ、BMIが21.0以下あるいは29.0以上の場合に全死亡リスクの有意な上昇がみられた。また、全死亡リスクはBMIが22.0~24.9の場合に最も低いことも明らかになった。喫煙習慣がないなど特に健康な参加者でも同様の結果が認められた。
さらに、BMIと全死亡リスクの関連に年齢や性、喫煙習慣の有無による影響はみられなかった。しかし、BMIが18.9未満または30.0以上で喫煙歴がない人に比べて、喫煙者は理想的なBMIでも死亡リスクは上回っていることも分かった。
以上の結果から、寳澤氏らは「喫煙者の死亡リスクは、最も死亡リスクが小さいBMI群であっても非喫煙者の全てのBMI群を上回っていた。BMI値にかかわらず、喫煙習慣は死亡リスクの上昇をもたらすことから、体型維持のための喫煙は論外であり、今後さらに禁煙対策を強化していくことが求められる」と述べている。
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2月 25 2018 「加熱式たばこは低リスク」の主張、米FDA諮問委は否定
米国では加熱式たばこ“iQOS(アイコス)”は他の国のように広く販売されることにはならないかもしれない。米食品医薬品局(FDA)の諮問委員会は1月25日、大手たばこ企業のフィリップモリス社が販売を申請していたiQOSについて、「通常のたばこ製品と比べてたばこ関連の疾患リスクが低い製品」として販売するという同社案が退けられたことを明らかにした。
iQOSはたばこの葉を高温で加熱することで発生する蒸気を吸入して楽しむ加熱式たばこ(heat-not-burn tobacco devices)の一つで、さまざまなフレーバーの液体(リキッド)を加熱して発生した蒸気を吸う電子たばこ製品(e-cigarettes)とは異なる。
iQOSは既に30カ国で販売されているが、米国ではまだ加熱式たばこは販売されていない。
FDAの諮問委員会は今回、フィリップモリス社によるiQOSの販売申請について協議を行ったが、「通常のたばこ製品と比べてたばこ関連の疾患リスクが低い製品」とする同社の主張は否定された。一方、「iQOSは通常のたばこ製品と比べて喫煙者がさらされる有毒な物質の量が少ない」とする同社の主張については諮問委員会でも認められたという。
これによって同社が米国でiQOSを販売する道は残されたが、他の国と比べるとかなり制約がある中での販売となる可能性が高い。喫煙に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
お近くの治験情報を全国から検索できます。FDAは今回の諮問委員会の協議結果を踏まえ、数カ月以内にiQOSの承認の可否を決定する見通しだ。
FDAは諮問委員会の勧告に従う義務はないが、諮問委員会の協議結果に基づいた判断が下されることが多い。なお、加熱式たばこによる健康への影響について検討した研究は少ないが、昨年(2017年)「PLOS ONE」10月11日オンライン版にわずか数年で加熱式たばこへの関心が急速に高まった日本の状況を浮き彫りにした研究論文が掲載されている。
この論文の筆頭著者で米ペンシルベニア大学ウォートン校公衆衛生学のTheodore Caputi氏は「加熱式たばこによる健康への影響について、われわれはまだ十分な知識を持ち合わせていない。
この状況は公衆衛生上、極めて危険だ」と警鐘を鳴らしている。Caputi氏らの論文によると、日本では加熱式たばこの販売が開始された2015年に加熱式たばこ関連ワードのグーグル検索数が1,400%以上増加し、その後2017年までに約3,000%増加した。
現在も日本では1カ月当たりの加熱式たばこ関連ワードの検索数は約750万件に上るという。Caputi氏は「(米国で)加熱式たばこの販売が開始される前に、こうした製品に関する情報が不十分であることを消費者にも認識してもらう必要がある」と指摘。
「たばこは回避できるはずの死亡の主な原因の一つとして知られ、公衆衛生における影響力は甚大だ。
このことを考慮すると、情報が不十分な中で消費者が気軽に加熱式たばこを手に取ることができるような状況は望ましくない」との見解を示している。この研究論文の共著者で米サンディエゴ州立大学公衆衛生学のJohn Ayers氏は「残念ながら、加熱式たばこによる健康への影響については明らかにされていない。
われわれの研究は、ただ加熱式たばこが日本で熱狂的に支持されるようになったことを明らかにしたに過ぎない」と説明。その上で「加熱式たばこに興味を持つ米国民が日本の10分の1程度であったとしても、数百万人もの国民がこうした製品を買い求めることになる」と指摘している。
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