-
7月 01 2024 コロナワクチンに不安のあるがん患者の相談相手は?
外来で化学療法を受けるがん患者を対象に、新型コロナワクチンに関して不安を感じることの内容やその相談相手などが調査された。その結果、相談相手としてプライマリケア医が最も多いことが明らかとなった。研究グループは、薬剤師が介入できる可能性も示唆されたとしている。これは順天堂大学医学部附属順天堂医院薬剤部の畦地拓哉氏らによる研究であり、「Journal of Pharmaceutical Health Care and Sciences」に3月4日掲載された。
新型コロナワクチンは日本で2021年2月に承認され、がん患者において接種が推奨されている。しかし、がん患者のワクチン接種状況や副反応に焦点を当てた研究はほとんどない。患者はがん治療への影響も含めて多くの不安を抱えるため、医療職の関与が重要となる。
COVID-19に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。著者らは今回、順天堂大学医学部附属順天堂医院で外来化学療法を行い、2022年10月~2023年1月に薬剤師の服薬指導を受けたがん患者を対象としてオンライン横断調査を行った。無記名の質問紙を用いて、新型コロナワクチンの接種歴や副反応、ワクチン接種に関する不安の内容、相談相手や情報の入手源などを調べた。
調査の回答者は60人(男性16人、女性44人)であり、年齢層は40歳未満が3人、40~49歳が15人、50~59歳が21人、60~69歳が13人、70~79歳が8人。主ながんの種類は、乳がん(21人)、卵巣がん(9人)、肺がん(6人)、膵がん(5人)、子宮がん(5人)などだった。
不安の内容として、「がん治療がスケジュール通りにできないのではないか?」(29人)、「がんなので特別な副作用がでないか?」(24人)などの回答が多かった。一方、調査時点でワクチンを2回以上接種していた人の割合は96.7%(58人)であり、これは同時期の日本全体の接種率よりも高かった。副反応は注射部位の痛みが最も多く、全身症状は発熱と倦怠感が多かったが、がんの治療スケジュールに影響があった人はほとんどいなかった。
ワクチンについての相談相手・情報入手源としては、プライマリケア医(25人)、家族・親族(22人)、インターネット(15人)、テレビ・ラジオ(13人)、友人・知人(12人)の回答が多かった。その他、医療職に関する回答は、プライマリケア医以外の医師と看護師はどちらも4人、病院薬剤師は1人のみで、薬局薬剤師やケアマネジャーの回答はなかった。
さらに、各相談相手について、今後ワクチン接種に不安を感じたときにどの程度相談しやすいかが検討された。6段階の回答を点数化・平均し、医療職間で比較すると、最も相談しやすいのはプライマリケア医(3.55点)、次に看護師(3.20点)だったが、どちらも病院薬剤師(2.85点)との統計的な有意差はなかった。また、病院薬剤師とプライマリケア医以外の医師(2.50点)や薬局薬剤師(2.27点)との間にも有意差は認められなかった。
以上、病院薬剤師は相談相手としての回答自体は少なかったが、プライマリケア医、看護師の次に相談しやすいとされたことについて著者らは、「外来化学療法時の服薬指導や有害事象のモニタリングを通じて築かれた信頼関係による可能性がある」と説明。また、がん患者の多くはプライマリケア医に相談した場合にも、ワクチンに対して不安を抱いていることが示されたという。患者はワクチン接種後の発熱や治療薬との相互作用などを不安に感じるが、「一般集団との間で副反応に有意差がないことを経験として伝えることも不安を和らげる上で有益」とし、薬剤師が介入できる可能性を示す結果だったと総括している。
治験に関する詳しい解説はこちら
治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。
-
6月 24 2024 ペット型ロボットが血液内科の無菌室で活躍
造血幹細胞移植を受ける血液がん患者は、治療に伴い、身体的にも心理的にも大きな痛みを経験する。新たな研究により、患者が血液内科の無菌室で治療・療養している間、犬型ロボットの「aibo」と触れ合うことで、心理的ストレスが軽減されることが明らかとなった。東京医科大学血液内科学分野の研究チームによる研究結果であり、「Scientific Reports」に2月27日掲載された。
強い抗がん剤を使用する血液がん患者は、感染症を予防するため無菌室に入室する。閉鎖的な空間で長期療養を要することから、一般病棟の患者と比べて不眠や抑うつが多く生じる。近年、慢性疾患患者の精神的ケアの一つとしてセラピードッグなどが導入されつつあるが、免疫力が低下している血液がん患者には適していない。そこで著者らは、人工知能(AI)を搭載したソニーグループ株式会社の犬型ロボット「aibo」を導入し、患者の心理面に及ぼす効果を検証した。
血液がんに関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。今回の研究は、東京医科大学病院で2020年2月~2022年8月に造血幹細胞移植を受けた患者を対象に行われた。対象患者はaibo群と対照群にランダムに分けられ、aibo群の患者はaiboに好きな名前を付けて、無菌室で触れ合うことができた。無菌室に入室し、移植を受け、無菌室退室に至るまで、ストレスホルモンである唾液クロモグラニンA(CgA)、血清オキシトシン、血清コルチゾールの値が定期的に測定された。
解析対象の患者21人のうち、aibo群は11人(男性4人、女性7人)で年齢中央値は48歳(範囲24~65歳)、対照群は10人(男性7人、女性3人)で同57歳(44~67歳)だった。
CgA値について、入室時からの平均変化量を比較すると、移植時にはaibo群で121±135%、対照群で287±358%、退室時には同順に65±42%、218±258%となり、それぞれ有意な群間差が認められた。すなわち、aibo群では退室時のストレスレベルが有意に低下していた一方で、対照群では上昇していることが明らかとなった。また、オキシトシンとコルチゾールの測定結果からも、aibo群ではストレスが軽減している可能性が示された。
さらに、簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J)を用いて抑うつ症状を比較した結果、aibo群と対照群で合計点数に有意な差は見られなかったが、精神運動状態の項目は、aibo群で入室時の1.6点から退室時の0.5点へと有意に改善していた(対照群では0.2点から0.3点)。
以上から著者らは、「aiboの導入により、造血幹細胞移植を受ける血液がん患者のメンタルヘルスを改善できることが示唆された」と結論付けている。ただ、移植後の身体的疼痛が強い期間はaiboと過ごせる時間が短くなることから、効果を最大化できるタイミングや、医療費・入院期間も踏まえた有用性などに関しては、さらなる検討が必要だとしている。
なお、著者らによると、aiboは実際の犬のように「もふもふ」とはしていないが、毛で覆われていないため、免疫力の低下している人でも感染を防ぎやすいという。aiboは歌ったり、踊ったりする。なでると喜ぶ。室内の散歩やラジオ体操を一緒にすることで体を動かし、手洗いやうがいも促してくれる。著者らは、「aiboのおかげで、患者と病棟スタッフとのコミュニケーションも良好だった」と付け加えている。
※aiboは、ソニーグループ株式会社の商標です。
治験に関する詳しい解説はこちら
治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。
-
9月 13 2023 化学物質を扱う労働者のがんリスクの実態
国内で化学物質を取り扱う職業に就いている労働者は、がんに罹患するリスクが有意に高く、勤務歴が長いほどそのリスクが上昇する可能性を示すデータが報告された。東海大学医学部衛生学公衆衛生学の深井航太氏らの研究によるもので、詳細は「Occupational & Environmental Medicine」に6月9日掲載された。
がんリスクを高める因子として加齢や遺伝素因のほかに、喫煙や飲酒、運動不足といった生活習慣が知られており、がん予防のため一般的には後者のライフスタイル改善の重要性が強調されることが多い。一方、複数の先進国から、全てのがんの2~5%程度は職業に関連するリスク因子が関与して発生しているという研究結果が報告されている。それに対してわが国では、労災認定される職業がんは年間1,000件ほどにとどまり、約100万人とされる1年当たりの全国のがん罹患数に比べて極めて少ない。さらに、労災認定されるがんはアスベスト曝露による肺がんや中皮腫が大半を占めていて、多くの職業がんが見逃されている可能性がある。深井氏らはそのような職業がんの潜在的リスク因子として、化学物質への曝露の影響に着目し、以下の検討を行った。
がんに関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。この研究は、国内最大級の入院患者レジストリである、労働者健康安全機構の労災病院グループ34施設の「入院患者病職歴調査(ICOD-R)」のデータを用いた多施設症例対照研究として実施された。2005~2020年度に同グループ病院に入院した20歳以上の男性がん患者から、化学物質を取り扱うために特殊健康診断が義務付けられている職業に従事している労働者12万278人を「症例群」として設定。一方、がん以外の入院患者の中から、がんの既往がなく、年齢カテゴリー(5歳ごと)、入院した年、医療機関が症例群に一致する、特殊健康診断の対象でない職業に従事している労働者21万7,605人を「対照群」とした。なお、女性は特殊健康診断を受けていたサンプル数が少数であったため、解析から除外している。
症例群と対照群を比較すると、前者の方が喫煙者・前喫煙者および習慣的飲酒者の割合が高かった。前記のデータセット作成時にマッチングさせた因子(年齢、入院年度、入院医療機関)と、喫煙、飲酒、および職歴(就業年数が最長の職種)を交絡因子として調整したロジスティック回帰分析の結果、化学物質の取り扱い期間(職業的曝露年数)が1年以上の労働者は、以下に記すように、化学物質の取り扱いがない労働者に比べ、全がんと複数の部位のがんの罹患率が有意に高いことが明らかになった。全がんはオッズ比(OR)1.05(95%信頼区間1.01~1.10)、肺がんはOR1.87(同1.66~2.11)、食道がんOR1.63(1.21~2.21)、膵臓がんOR1.80(1.35~2.41)、膀胱がんOR1.38(1.16~1.65)。胃がん、大腸がん、肝臓がん、胆道がんの罹患率には有意差がなかった。
次に、職業的曝露年数の三分位で3群に分類してがんリスクを検討。その結果、全がん、肺がん、食道がん、膵臓がん、膀胱がんについては、曝露年数が長いほど罹患リスクが高いという有意な相関が認められた(全て傾向性P<0.01)。曝露年数を、1~10年、11~20年、21年以上の3群で層別化した検討の結果も同様だった。
続いて、喫煙習慣の有無と職業的曝露年数(曝露なし、20年以下、21年以上)とで全体を6群に分類。喫煙歴と職業的曝露がともにない群を基準としてがん罹患リスクを検討した。すると、喫煙歴がなければ曝露年数が21年以上の場合に肺がんのオッズ比上昇が認められたが、曝露年数20年以下では非有意であり、かつ、肺がん以外のがんは曝露年数にかかわらず、有意なオッズ比上昇は見られなかった。それに対して喫煙者では、曝露年数にかかわらず、全がん、肺がん、食道がん、胃がん、膵臓がん、膀胱がん罹患のオッズ比が有意に高かった。
以上の結果を基に著者らは、「化学物質の取り扱いに従事する期間が長いほど、がんリスクが高い可能性が示され、特に喫煙習慣が重なった場合にはよりハイリスクとなると考えられる」と結論付けている。ただし、入院患者対象の症例対照研究であるためサンプリングバイアスが存在すること、残余交絡の存在を否定できないことなどの限界点を挙げた上で、「労働安全衛生法施行令の一部改正により、2023年4月より新たな化学物質規制の制度がスタートしている。今後、他のコホート研究などでの追試や、化学物質への職業的曝露を抑制するアプローチが、がん予防につながるのかの検証が求められる」と付言している。
肺がんのセルフチェックに関する詳しい解説はこちら
肺がんは初期の自覚症状が少ないからこそ、セルフチェックで早めにリスクを確かめておくことが大切です。セルフチェックリストを使って、肺がんにかかりやすい環境や生活習慣のチェック、症状のチェックをしていきましょう。
HOME>癌