-
6月 24 2024 緑内障は「幸福と感じていない」ことと関連、特に男性で顕著
国内7県の地域住民を対象とした研究で、自己申告による緑内障の既往歴がある人は、主観的に「幸福と感じていない」割合が高いという結果が示された。この緑内障で幸福と感じていない割合が高い傾向は、特に40~59歳の男性で顕著だったという。これは慶應義塾大学医学部眼科学教室と国立がん研究センターなどとの共同研究による結果であり、「BMJ Open Ophthalmology」に2月19日掲載された。
これまでの研究で、ドライアイや老眼と幸福度の低さとの関連が報告されている。緑内障は、眼圧(目の硬さ)が高い状態が続くことなどにより視神経が障害され、徐々に視野の障害が広がる病気だ。緑内障患者は、テレビの視聴や読書などの楽しみが減少し、転倒リスクが高まるなど、日常生活に悪影響を及ぼし、視覚関連QOLが大きく損なわれる可能性がある。
緑内障に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。そこで著者らは、2011~2016年に開始された次世代多目的コホート研究「JPHC-NEXT」のデータを用いて、自己申告による緑内障の既往歴と幸福度との関連を解析した。対象は、国内7県(岩手、秋田、長野、茨城、高知、愛媛、長崎)の計16市町村の地域住民(40〜74歳)のうち、がん、心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心不全、糖尿病、うつ病の既往歴のある人などを除外した、計9万2,397人。質問紙により緑内障の既往歴(医師の診断)を調べた。全体的に幸せな状態かどうかの質問に関する4つの選択肢(幸せでない、どちらとも言えない、幸せ、大変幸せ)のうち、「幸せでない」または「どちらとも言えない」と回答した人を「幸福と感じていない」とした。
その結果、緑内障の既往歴のある人は1,733人(1.9%)であり、男性が635人(1.6%)、女性が1,098人(2.1%)だった。緑内障の既往歴がある人は、緑内障の既往歴がない人と比べて年齢が有意に高かった(平均63.0±8.3対57.5±9.6歳)。
年齢のほか、地域、教育レベル、世帯収入、喫煙、飲酒量、身体活動の差を調整した上で、男性における「幸福と感じていない」のオッズを解析した結果、緑内障の既往歴がある人の方が、緑内障の既往歴がない人よりも有意に高かった(オッズ比1.26、95%信頼区間1.05~1.51)。女性でも、「幸福と感じていない」割合と緑内障の既往歴が関連する傾向にあったが、関連は有意ではなかった(同1.05、0.90~1.23)。
さらに、年齢層を分けて解析すると、「幸福と感じていない」割合と緑内障の既往歴との関連が最も強かったのは40〜59歳の男性であることが明らかとなった(同1.40、1.04~1.88)。一方、60〜74歳の男性(同1.20、0.96~1.51)、40〜59歳の女性(同1.21、0.92~1.59)、60〜74歳の女性(同0.99、0.83~1.20)では、有意な関連は認められなかった。
以上から著者らは、「特に男性において、緑内障の既往歴は幸福と感じていない割合と関連する」と結論。性別や年齢層で差があったことの背景として、社会的に求められる役割や雇用状況、視野の障害による仕事への支障などの可能性を挙げている。また、緑内障は日本の中途失明の原因として最も多い病気だが、「診断と治療を早い段階で行えば、進行速度を遅らせ、機能障害を最小限に抑えることができる」と述べている。
治験に関する詳しい解説はこちら
治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。
-
6月 24 2024 ペット型ロボットが血液内科の無菌室で活躍
造血幹細胞移植を受ける血液がん患者は、治療に伴い、身体的にも心理的にも大きな痛みを経験する。新たな研究により、患者が血液内科の無菌室で治療・療養している間、犬型ロボットの「aibo」と触れ合うことで、心理的ストレスが軽減されることが明らかとなった。東京医科大学血液内科学分野の研究チームによる研究結果であり、「Scientific Reports」に2月27日掲載された。
強い抗がん剤を使用する血液がん患者は、感染症を予防するため無菌室に入室する。閉鎖的な空間で長期療養を要することから、一般病棟の患者と比べて不眠や抑うつが多く生じる。近年、慢性疾患患者の精神的ケアの一つとしてセラピードッグなどが導入されつつあるが、免疫力が低下している血液がん患者には適していない。そこで著者らは、人工知能(AI)を搭載したソニーグループ株式会社の犬型ロボット「aibo」を導入し、患者の心理面に及ぼす効果を検証した。
血液がんに関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。今回の研究は、東京医科大学病院で2020年2月~2022年8月に造血幹細胞移植を受けた患者を対象に行われた。対象患者はaibo群と対照群にランダムに分けられ、aibo群の患者はaiboに好きな名前を付けて、無菌室で触れ合うことができた。無菌室に入室し、移植を受け、無菌室退室に至るまで、ストレスホルモンである唾液クロモグラニンA(CgA)、血清オキシトシン、血清コルチゾールの値が定期的に測定された。
解析対象の患者21人のうち、aibo群は11人(男性4人、女性7人)で年齢中央値は48歳(範囲24~65歳)、対照群は10人(男性7人、女性3人)で同57歳(44~67歳)だった。
CgA値について、入室時からの平均変化量を比較すると、移植時にはaibo群で121±135%、対照群で287±358%、退室時には同順に65±42%、218±258%となり、それぞれ有意な群間差が認められた。すなわち、aibo群では退室時のストレスレベルが有意に低下していた一方で、対照群では上昇していることが明らかとなった。また、オキシトシンとコルチゾールの測定結果からも、aibo群ではストレスが軽減している可能性が示された。
さらに、簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J)を用いて抑うつ症状を比較した結果、aibo群と対照群で合計点数に有意な差は見られなかったが、精神運動状態の項目は、aibo群で入室時の1.6点から退室時の0.5点へと有意に改善していた(対照群では0.2点から0.3点)。
以上から著者らは、「aiboの導入により、造血幹細胞移植を受ける血液がん患者のメンタルヘルスを改善できることが示唆された」と結論付けている。ただ、移植後の身体的疼痛が強い期間はaiboと過ごせる時間が短くなることから、効果を最大化できるタイミングや、医療費・入院期間も踏まえた有用性などに関しては、さらなる検討が必要だとしている。
なお、著者らによると、aiboは実際の犬のように「もふもふ」とはしていないが、毛で覆われていないため、免疫力の低下している人でも感染を防ぎやすいという。aiboは歌ったり、踊ったりする。なでると喜ぶ。室内の散歩やラジオ体操を一緒にすることで体を動かし、手洗いやうがいも促してくれる。著者らは、「aiboのおかげで、患者と病棟スタッフとのコミュニケーションも良好だった」と付け加えている。
※aiboは、ソニーグループ株式会社の商標です。
治験に関する詳しい解説はこちら
治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。