• 社会的な役割の喪失が心不全患者の予後悪化に独立して関連

     社会的フレイルの状態にある心不全患者は死亡や心血管イベントのリスクが高く、特に、自分が周囲の人に必要とされていないと感じている場合は、よりリスクが高くなることを示すデータが報告された。札幌医科大学附属病院リハビリテーション部の片野唆敏氏、同院看護部の渡辺絢子氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Cardiovascular Medicine」に12月20日掲載された。

     近年、「心不全パンデミック」と称されるほど、心不全患者の増加が問題となっている。心不全は心機能が低下する病気ではあるが、その予後を規定する因子は心機能だけでなく、特に高齢患者の場合は栄養状態や併存疾患、周囲のサポート体制などの多くが関係しており、フレイル(ストレス耐性が低下した要介護予備群)もその因子の一つとされている。

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     フレイルは、身体的フレイル、認知的フレイル、社会的フレイルなどに分類される。それらのうち、親しい人や地域社会との絆が弱い状態である「社会的フレイル」が、身体的・認知的フレイルに先行して現れる可能性を指摘する研究報告がある。ただし、心不全患者での社会的フレイルの頻度や予後への影響は不明。片野氏らの研究はこの点を明らかにしようとするもの。

     この研究は、札幌医科大学附属病院での単施設後方視的コホート研究として実施された。2015年3月~2020年12月の同院の心不全入院患者のうち、65歳以上で、心臓リハビリテーションを含む多科・多職種による集学的治療が行われ、退院後6カ月以上の追跡が可能だった310人を解析対象とした。社会的フレイルは既報研究に基づき、「前年と比べて外出頻度が減ったか?」、「友人に会いに出かけることがあるか?」、「自分が友人や家族の役に立っていると感じているか?」などの五つの質問のうち、二つ以上に否定的な回答をした場合に、該当すると判定した。主要評価項目は、追跡期間中の全死亡(あらゆる原因による死亡)と心不全の悪化による再入院で構成される複合エンドポイントとした。

     解析対象310人の主な特徴は、年齢が中央値79歳(四分位範囲72~84)、女性46%、左室駆出率(LVEF)は中央値51.1%(同35.2~63.5)。NYHA心機能分類はII(階段を上る時などに症状が現れる)が59%、III(わずかな身体活動でも症状が現れる)が36%で、LVEFが維持された心不全(HFpEF)が54%、LVEFが低下した心不全(HFrEF)が30%。また42%はベースライン以前の心不全入院歴があった。社会的フレイルの該当者は、188人(61%)だった。

     1.93±0.91年の追跡で、64人(21%)にエンドポイントが発生した。予後に影響を及ぼし得る交絡因子(年齢、性別、NYHA心機能分類、NT-proBNP、eGFRcys、ベースライン以前の心不全入院、併存疾患、栄養状態、身体的フレイル、歩行速度、握力など)を調整したCox比例ハザードモデルでの解析の結果、社会的フレイルは複合エンドポイント発生の独立したリスク因子であることが明らかになった〔ハザード比(HR)2.01(95%信頼区間1.07~3.78)〕。

     次に、社会的フレイルを判定するための五つの質問に対するそれぞれの回答で全体を二分し、カプランマイヤー法でイベント発生率の推移を検討。その結果、「自分が友人や家族の役に立っていると感じているか?」、または「友人に会いに出かけることがあるか?」の答えが「いいえ」である場合は、イベント発生率が有意に高いことが明らかになった(いずれもP<0.01)。

     続いて、前述のCox比例ハザードモデルに五つの質問のそれぞれの回答を追加した解析を施行。すると、社会的な役割の喪失を意味する「自分が友人や家族の役に立っていると感じるか?」に「いいえ」と答えた群でのみ、イベント発生リスクの有意な上昇が認められ〔HR2.23(同1.33~3.75)〕、「友人に会いに出かけることがあるか?」の回答が「いいえ」の場合はわずかに非有意だった〔HR1.86(0.99~3.47)〕。

     Cox比例ハザードモデルで交絡因子としたパラメーターに、社会的フレイルに該当するか否かという情報を追加してイベント発生を予測すると、予測能(cNRI)が有意に上昇することも明らかになった。また、「自分が友人や家族の役に立っていると感じるか?」という質問に対する答えを追加した場合は、社会的フレイルの該当の有無を追加した場合よりもさらに大きくcNRIが上昇した。加えて、この質問に対する回答は、身体的フレイルや認知的フレイルの評価指標である、日常生活動作(バーゼル指数)、歩行速度、握力、認知機能(Mini-Cog)と有意に関連していることも分かった。

     以上より著者らは、「社会的フレイルに該当することに加え、社会的な役割を喪失することは、高齢心不全患者の全死亡や再入院のリスク上昇と関連しており、ケアやサポートにおける社会的な絆の重要性を示唆している」と結論付けている。

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    HealthDay News 2023年3月20日
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  • 自分の歩行速度は速いと感じる人は心不全リスクが低い

     非高齢者の主観的な歩行速度が、心不全発症や心血管疾患の初回イベントのリスク判定に有用とする研究結果が報告された。同世代の他者よりも歩行速度が速いと感じている人は、交絡因子を調整後にも有意にリスクが低いという。東京大学医学部附属病院循環器内科の金子英弘氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に7月8日掲載された。

     歩行速度が心不全などの予後と関連があることは既に知られている。ただしその関連を示した研究の多くは、心不全や心血管疾患を発症後の患者または高齢者を対象に行われており、一次予防の対象である非高齢者での知見はほとんどない。さらに、正確な歩行速度の判定には時間やコストの負担が少なくない。現在、心不全患者が急増していて一次予防の重要性が高まる中、非高齢者集団を対象に簡便にリスクを評価できるツールが求められている。

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     金子氏らは、60以上の保険団体の健診および医療費請求データを用いて、主観的な歩行速度と心不全発症や心血管疾患イベント発生との関連を検討した。2005年1月~2020年4月の医療費請求データベースから、心不全・心筋梗塞・狭心症・脳卒中・腎不全の既往者、年齢20歳未満、および解析に必要なデータの欠落者を除外した265万5,359人〔年齢中央値45歳(四分位範囲38~53)、男性55.3%〕を対象とした。主観的な歩行速度は、健康診断の際の「同世代の他者より歩行速度が速いと思うか?」との質問で判定。この質問に対して46.1%が「はい」と答えていた。

     平均1,180±906日の追跡期間中に、5万991人(1.9%)において心不全の診断が記録された。年齢、性別、喫煙・運動習慣、肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症で調整後、歩行速度が速い群は遅い群よりも心不全発症リスクが9%有意に低いことが示された〔ハザード比(HR)0.91(95%信頼区間0.90~0.93)〕。同様に、心筋梗塞〔HR0.90(同0.86~0.95)〕、狭心症〔HR0.94(0.92~0.95)〕、脳卒中〔HR0.94(0.92~0.96)〕のいずれについても、歩行速度が速い群の方が有意に低リスクだった。

     感度分析として実施した、歩行速度に影響を及ぼす可能性のある末梢動脈疾患の既往を調整因子に加えた解析や、追跡期間が1年以上の対象者に絞り込んだ解析でも、同様の結果が得られた。なお、年齢や性別、併存疾患の有無などでの層別解析の結果、高血圧や糖尿病を有する場合、歩行速度が速い群での心不全リスクがより低いという、有意な交互作用が認められた。

     以上を基に論文には、「主観的な歩行速度の速さは、一般人口における心不全や心血管イベントリスクの低さと関連していることが示された。一次予防を目的としたスクリーニングに主観的な歩行速度が有効である可能性がある」と述べられている。なお、歩行速度と心不全などとの関連のメカニズムに関しては、歩行速度が全身の身体機能の指標という側面があり、骨格筋量や筋力も歩行速度に反映されることや、炎症や酸化ストレスと歩行速度が相関するという報告があるとし、それらが疾患リスクの高低として現れる可能性を指摘している。

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    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年9月20日
    Copyright c 2022 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
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