• 熱中症に伴う急性腎障害の早期検出に適したマーカーは?――自衛隊富士病院

     熱中症に伴う急性腎障害(AKI)の検出能を、複数の尿バイオマーカーで比較検討した研究結果が報告された。5種類のバイオマーカーの中でL-FABPのクレアチニン補正値のみが、AKIの有無による有意差が見られ、かつ、血清クレアチニンやシスタチンCと有意に正相関したという。防衛医科大学校病院腎臓内分泌内科の後藤洋康氏らの研究によるもので、詳細は「Nephrology, Dialysis, Transplantation」に5月2日掲載された。

     気候温暖化の影響で近年、夏季の熱中症の多発が社会的問題になっている。熱中症に伴いAKIを発症することがあり、それが急性転帰に影響を及ぼしたり、回復後に慢性腎臓病(CKD)へ移行する可能性があるため、AKIの速やかな診断と介入が求められる。そこで後藤氏らは、5種類の腎機能の尿バイオマーカーを用いて、熱中症関連AKIの診断能を比較した。

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     この研究は、2020年5~9月に自衛隊富士病院を受診した熱中症患者を対象とする、前向き観察研究として行われた。なお、同院は陸上自衛隊東富士演習場に近く、自衛隊員や地域住民に利用されている。

     前記期間の熱中症患者は、6月以降の湿球黒球温度(暑さ指数)の上昇と一致して増加し、8月11~20日にピークに達し計50人だった。このうち6人はデータ欠落のため除外。残り44人を解析対象とした。この44人の熱中症重症度(2015年日本救急医学会ガイドラインに基づく分類)は、I度(現場での応急処置と経過観察で対応)が9人、II度(外来で対応)が24人、III度(入院が必要)が11人であり、この3群で年齢や性別(男性の割合)、BMI、ヘマトクリット、および水分摂取量やふだんの運動量などは有意差がなかった。腎機能に影響を及ぼし得る健康リスク因子(高血圧、糖尿病)の保有者は、III度の1名のみだった。

     血清クレアチニン1.2mg/dL以上を腎障害と定義すると、熱中症重症度I度では該当者がなかったが、II度では3人が該当し、入院を要さないと判断された熱中症患者でも、12.5%はAKIが生じていると考えられた。さらにIII度では、半数以上(54.6%)の6人が該当した。これらの腎障害該当者は、1~7日の追跡中に腎機能の有意な改善(血清クレアチニンが0.3mg/dL以上低下)が認められた。

     本研究で検討された尿バイオマーカーは、KIM-1、NGAL、L-FABP、NAG、β2-MGという5種類であり、尿クレアチニン(Cr)の補正値で診断能を検討した。その結果、腎障害の有無で有意差が認められたのは、L-FABP/Crのみだった。またL-FABP/Crは、腎機能の評価指標である血清クレアチニン(r=0.60、P<0.0001)や血清シスタチンC(r=0.49、P<0.001)の双方と、有意な正の相関関係が認められた。なお、KIM-1/Crは血清シスタチンCとのみ、有意に正相関していた(r=0.66、P<0.0001)。他の3種類のマーカーは、血清クレアチニンやシスタチンCとの有意な関連がなかった。

     著者らは、解析対象者の大半(90.9%)が男性であることやサンプルサイズが小さいことなどの限界点を挙げた上で、「本研究により、中等度の熱中症でさえAKIにつながる可能性のあることが示された。尿中L-FABPは熱中症に伴うAKIの診断や重症度の把握に有用と考えられる。尿中KIM-1は、熱中症に伴う腎機能の低下を検出できる可能性がある」と結論付けている。

     なお、L-FABPは「肝臓型脂肪酸結合蛋白(liver-type fatty acid binding protein)」の略で、腎臓の近位尿細管にストレスが生じた時に発現が増加する。腎機能の指標である血清クレアチニンやシスタチンCが明らかに上昇する前段階でのAKIやCKDの早期診断マーカーとして期待されている。

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    HealthDay News 2022年7月11日
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