• 白血球高値は高LDL-C血症の独立したリスク因子――国内の縦断的研究

     白血球数が高いことが、悪玉コレステロール(LDL-C)が高いことの独立したリスク因子であることを示すデータが報告された。福岡大学医学部衛生・公衆衛生学教室の奥津翔太氏、有馬久富氏らの研究結果であり、詳細は「Scientific Reports」に5月22日掲載された。

     高LDL-C血症は心血管疾患(CVD)の確立されたリスク因子であり、LDL-Cを下げることでCVDリスクが低下することも、確固たるエビデンスにより支持されている。LDL-C上昇につながる要因としては、加齢、肥満、運動不足、トランス脂肪酸の過剰摂取などが知られている。近年、これらに加えて白血球数が高いことも、LDL-C上昇と関連がある可能性が報告されているが、いまだ明確になっていない。奥津氏らは、一般住民の健診データを用いた縦断的研究により、この点について検討した。

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     解析には、長崎県壱岐市で行われたアテローム性動脈硬化症と慢性腎臓病に関する疫学調査(ISSA-CKD研究)のデータを用いた。2008~2017年の間に健診を2回以上受けていて、縦断的な解析が可能な30歳以上の人のうち、ベースライン時(初回の健診時)に高LDL-C血症でなく、白血球数などのデータ欠落のない3,312人を解析対象とした。なお、高LDL-C血症はLDL-C140mg/dL以上または脂質低下薬の処方で定義した。

     平均4.6年の追跡で698人が高LDL-C血症を新たに発症。1,000人年当たりの罹患率は46.8だった。ベースラインの白血球数の四分位数で4群に分けると、第1四分位群は1,000人年当たり38.5、第2四分位群は47.7、第3四分位群は47.3、第4四分位群は52.4であり、白血球数が高いほど高LDL-C血症の罹患率が高いという有意な関連が認められた(傾向性P=0.012)。

     次に、解析結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、喫煙・飲酒・運動習慣、肥満、高血圧、糖尿病)の影響を調整後、第1四分位群を基準として他群の罹患率を比較。すると、第2四分位群は非有意ながら〔ハザード比(HR)1.24(95%信頼区間0.99~1.54)〕、第3四分位群〔HR1.29(同1.03~1.62)〕と第4四分位群〔HR1.39(同1.10~1.75)〕は有意にハイリスクであり、ベースラインの白血球数と高LDL-C血症罹患率との間に、粗解析と同様、有意な正の関連が認められた(傾向性P=0.006)。

     続いて、年齢(65歳未満/以上)、性別、肥満の有無、喫煙・運動習慣の有無、糖尿病の有無で層別化して解析。その結果、いずれについても交互作用は非有意であり、白血球数と高LDL-C血症罹患率との正の関連は、一貫したものだった。

     以上より論文の結論は、「日本人の一般成人において、白血球数が高いことと高LDL-C血症リスクの高さとの関連が認められた」とまとめられている。著者らによると、白血球数と高LDL-C血症との関連を示すエビデンスはこれまで主としてアジア人を対象とする研究から示されてきていて、その理由として「食習慣の違いなどによって、アジア人は欧米人より総じて炎症レベルが低いことが関与している可能性がある」としている。ただし、この点の確認のために多くの人種/民族での同様の研究が必要とされ、また、白血球数が高いことを根拠とする治療介入の強化がCVD転帰の改善に結びつくのかという点も、今後の研究課題として挙げている。

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  • 家屋の断熱性が高いと冬の朝の交感神経活性化が抑制される可能性

     断熱性の高い家に住むと、気温が最も低下する冬の朝方であっても、交感神経の活性化が起きにくい可能性を示唆するデータが報告された。研究参加者に断熱性の高いモデルハウスに宿泊してもらい、自宅環境との差を検討するという、大阪大学大学院医学系研究科健康発達医学寄附講座の中神啓徳氏らが行った研究の結果であり、詳細は「Hypertension Research」に10月13日掲載された。研究参加者の全員が、モデルハウス宿泊時に睡眠時間が長くなるという変化も認められたという。

     寒い冬の朝には脳卒中などの心血管イベントが起こりやすいことが知られている。その理由として、低温に反応して交感神経が活性化され、血圧や心拍数などが上昇することが挙げられる。屋内の温度が低いことに加えて、暖房されている部屋とそうでないスペースとの温度の格差も、そのような交感神経活性の変化に関係していると考えられる。よって、屋内全体の暖かさを保つことが、寒い季節の心血管イベント抑制につながる可能性がある。中神氏らの研究では、この条件にマッチする家屋として、断熱性の高いモデルハウス(木造2階建て)が用いられた。

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     研究参加者8人(男性と女性各4人)を2群に分け、1群はモデルハウスで2日間滞在した後、自宅で2日間過ごしてもらい、他の1群は逆の順序で試行するという、クロスオーバー法により検討。家屋内の居間と寝室、洗面所にサーモセンサーを設置して、温度の変化を経時的に計測した。また研究参加者には、心拍数、交感神経活性(LF/HF比)、身体活動状況なども把握できる携帯型心電計を身に着けて過ごしてもらった。

     自宅滞在条件およびモデルハウス滞在条件のいずれについても、滞在2日目のデータを解析対象とした。その結果、まず室温については、モデルハウスではどのスペースでも20℃以上に保たれていた。それに対し自宅は全体的に低温であり、寝室で6.3℃を記録したケースも認められた。スペースによる室温の差も大きかった。

     心拍数や心電図所見、交感神経活性については、8人全員の平均としては条件間に有意差は認められなかった。ただし、4人の参加者は自宅滞在条件での起床直後に、交感神経の急な活性化が生じたことが観察された。また、睡眠時間は全ての参加者が、自宅よりモデルハウス滞在時の方が長いという結果が得られた。これは、モデルハウスの室温が睡眠に適していたためと考えられた。これらの結果は、快適な室温が冬季に生じる交感神経の活性化を緩和する可能性があることを示唆している。

     世界保健機関(WHO)は、風邪などの予防のために室内の温度を18℃以上に保つことを推奨している。それに対して日本の冬季の家屋内は、居間が平均16.8℃、寝室は12.8℃という報告があり、WHOの推奨よりも低い。一方、海外では、例えば英国は同順に19.3℃、18.3℃であり、米国ニューヨークは居間で23.3℃というデータがある。一般的に寒さの厳しい国ほど屋内を暖房する傾向がみられ、それによって冬季の超過死亡(何らかの原因により通常の予測を超える死亡者数の上昇)が抑制されることも報告されている。

     著者らは、「本研究は探索的な研究であって、サンプル数が小さいことなどの限界点があり、明確な結論を導き出すことはできない」とした上で、「冬季の自宅内での心血管イベントを防ぐには、適切な室温を維持する工夫が必要ではないか」と述べている。

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    HealthDay News 2023年1月10日
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  • BMIと心血管疾患による院内死亡率との関連――日本人150万人のデータ解析

     心筋梗塞や心不全、脳卒中などの6種類の心血管疾患(CVD)による院内死亡率とBMIとの関連を、日本人150万人以上の医療データを用いて検討した結果が報告された。低体重は全種類のCVD、肥満は4種類のCVDによる院内死亡リスクの高さと、有意な関連が見られたという。神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科先端医学分野の山下智也氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に11月7日掲載された。

     肥満が心血管代謝疾患などのリスク因子であることは広く知られており、肥満是正のための公衆衛生対策が長年続けられている。その一方、高齢者では肥満が死亡リスクに対して保護的に働くことを示すデータもあり、この現象は「肥満パラドックス」と呼ばれている。ただし、肥満の健康への影響は人種/民族により大きく異なると考えられることから、わが国でのエビデンスが必要とされる。そこで山下氏らは、日本循環器学会の患者レジストリ「循環器疾患診療実態調査(JROAD)」を用いて、日本人のBMIと急性心血管疾患による院内死亡率との関連を検討した。

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     JROADには、循環器専門医研修施設に認定されている全国1,086の病院から、2012~2019年度に合計502万464人の入院患者のデータが記録されていた。このうち、院内死亡率を算出するという目的のため、再入院の記録のある患者を除外。また、既往歴を含む患者情報が正確に記録されていない可能性があるため、入院期間が1日以下の患者も除外。その他、20歳未満の患者や、疾患別の症例数が10件以下の施設からの報告などを除外した。最終的な解析対象患者数は、急性心不全27万7,489人、急性心筋梗塞30万7,295人、急性大動脈解離9万6,114人、虚血性脳卒中58万8,382人、脳内出血20万1,243人、くも膜下出血6万2,420人だった。

     低体重や肥満の判定は、世界保健機関(WHO)によるアジア人の基準に基づき、18.5未満を低体重、18.5~23未満を普通体重、23~25未満を過体重、25~30未満をI度肥満、30以上をII度肥満と分類した。なお、6種類のCVDの全てで、年齢とBMIの逆相関が認められた。また、全てのCVDで経年的に平均BMIが増加していたが、平均BMI値が22~24の範囲を超えることはなかった。

     院内死亡率との関連の解析に際しては、年齢と性別を調整する「モデル1」、および、モデル1の調整因子に高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病、慢性呼吸器疾患、心房細動などを加えた「モデル2」の2パターンで検討した。普通体重を基準とする解析の結果、低体重はモデル1・2のいずれでも、6種類全てのCVDによる院内死亡リスクが有意に高いという関連が認められた。一方、過体重やI度肥満ではCVDの種類によっては、普通体重よりも低リスクのケースも見られた。モデル2の解析結果は以下の通り。

     急性心不全は、低体重(OR1.41)で有意に高リスク、過体重(OR0.93)とI度肥満(OR0.91)では有意に低リスク、II度肥満は有意な関連がなかった。

     急性心筋梗塞は、低体重(OR1.27)で有意に高リスク、過体重は有意な関連がなく、I度肥満(OR1.17)やII度肥満(OR1.65)は有意に高リスクだった。

     急性大動脈解離は、低体重(OR1.23)、過体重(OR1.10)、I度肥満(OR1.34)、II度肥満(OR1.83)であり、普通体重に比べて全BMIカテゴリーが有意に高リスクだった。

     虚血性脳卒中は、低体重(OR1.45)で有意に高リスク、過体重(OR0.86)とI度肥満(OR0.88)は有意に低リスクであり、II度肥満は有意な関連がなかった。

     脳内出血は、低体重(OR1.18)で有意に高リスク、過体重(OR0.93)は有意に低リスク、I度肥満(OR1.05)やII度肥満(OR1.26)は有意に高リスクだった。

     くも膜下出血は、低体重(OR1.17)で高リスク、過体重は有意な関連がなく、I度肥満(OR1.27)やII度肥満(OR1.44)は有意に高リスクだった。

     著者らは、「全国規模の観察研究により、CVD患者の院内死亡率とBMIとの関連が明らかになり、低体重は全ての種類のCVD院内死亡リスクの高さと関連があって、肥満は心不全と虚血性脳卒中以外のCVD院内死亡リスクの高さと関連があった。この知見は、BMIに焦点を当てた公衆衛生対策の政策立案に寄与し得るのではないか」と総括している。

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    肥満という言葉を耳にして、あなたはどんなイメージを抱くでしょうか?
    今回は肥満が原因となる疾患『肥満症』の危険度をセルフチェックする方法と一般的な肥満との違いについて解説していきます。

    肥満症の危険度をセルフチェック!一般的な肥満との違いは?

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    HealthDay News 2022年12月12日
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  • 日本人男性では米飯が心血管死リスクを下げる?

     日本人男性では、米の摂取量が多い方が心血管疾患による死亡リスクが低いという、有意な関連のあることが報告された。岐阜大学大学院医学系研究科疫学・予防医学の和田恵子氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrients」に5月30日掲載された。なお、女性ではこの関連は認められないとのことだ。

     日本人は欧米人より心血管疾患リスクが低いことが古くから知られている。日本人の主食は米であり、その消費量は欧米よりはるかに高い。これまで、米の摂取量と心血管死リスクとの関連を前向きに解析した研究の結果は一致しなかった。和田氏らは岐阜県高山市で行われている「高山スタディ」のデータを用いて、主食としての米の摂取量と心血管死リスクとの関連を、日本でよく食べられる他の主食であるパンや麺と比較しながら検討した。これら3つの主食と関連する食事パターンについても検討した。

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     高山スタディは同市の住民対象コホート研究であり、1992年9月に35歳以上の住民(入院患者以外)、3万1,552人が参加した。今回の研究では、登録時に食事摂取頻度に関する質問票に回答し、心血管疾患の既往のなかった2万9,079人(男性45.9%)を解析対象とした。

     ベースライン時の米摂取量の四分位で性別ごとに4群に分けると、男性は米の摂取量が少ない群で、糖尿病や高血圧の既往者が多く、身体活動量が少なく、飲酒量や食物繊維、塩分の摂取量が多い傾向があった。女性の米摂取量が少ない群は、教育歴が長く、飲酒やコーヒーの摂取量、および食物繊維と塩分の摂取量が多い傾向があった。

     また、男性と女性の双方で、米摂取量は大豆製品と海藻の摂取量と正の相関があり、肉と卵の摂取量とは負の相関が見られた。一方、パンの摂取量は果物や乳製品の摂取量と正の相関があり、大豆製品の摂取量とは負の相関があった。麺の摂取量は、いも類、肉類、魚介類、卵の摂取量と正の相関があった。

     2008年10月1日までの追跡(平均14.1年)で、1,685人(男性46.2%)の心血管死が発生。米摂取量の第1四分位群(米摂取量が最も少ない下位25%)を基準に、他群の年齢調整後の心血管死リスクを比較すると、第3四分位群はハザード比(HR)0.77(95%信頼区間0.62~0.96)、第4四分位群はHR0.81(同0.66~0.99)であり、米摂取量が多いほど心血管死リスクが低いという有意な関係が認められた(傾向性P=0.004)。

     調整因子に、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、糖尿病・高血圧の既往、婚姻状況、教育歴、コーヒー・塩分摂取量を加えても、この関連は引き続き有意だった(傾向性P=0.013)。さらに、追跡開始から最初の2年以内の心血管死を除外した解析の結果も同様であり〔第4四分位群でHR0.77(同0.60~0.98)、傾向性P=0.012〕、ベースライン時点の健康状態が結果に影響を及ぼしている可能性は低いと考えられた。

     一方、パンの摂取量は男性の心血管死リスクと有意な関連がなかった。麺の摂取量は調整因子が年齢のみの場合、摂取量が多いほど心血管死リスクが高いという関連が見られたが(傾向性P=0.034)、前記の全ての因子で調整後は有意性が消失した。

     女性に関しては、米、パン、麺のいずれの摂取量も、心血管死リスクとの有意な関連が認められなかった。

     以上より著者らは、「米の摂取量が多いことが日本人男性の心血管死リスクの低さと関連している」と結論付けている。この背景として、「米摂取量が、健康的な食品とされる大豆や海藻の摂取量と正相関していることの影響が考えられる」という。ただし、「それらの摂取量を調整後にもなお、心血管死リスクの低さとの有意な関連が維持されており、米に含まれている食物繊維やビタミンB6が男性の心血管リスクに対して保護的に働くのではないか」との考察が加えられている。

     なお、女性ではこの関連が有意でないことに関しては、「男性は米摂取量と菓子摂取量が逆相関するのに対して女性では正相関することや、米や炭水化物の高摂取と糖尿病や脂質代謝異常との関連が女性は男性より大きく表れることなどの影響ではないか」と述べられている。

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    HealthDay News 2022年7月19日
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  • Life’s Simple 7の理想項目を1つ増やすと蛋白尿リスクが1割低下

     心血管疾患リスク因子の該当数が、蛋白尿の出現と有意に関連していることが分かった。東京大学医学部循環器内科の金子英弘氏らが全国規模の健診データを解析した結果、明らかになった。リスク因子を1年で1つ減らすと、蛋白尿出現リスクが1割低下するという。研究の詳細は「American Journal of Nephrology」に3月8日掲載された。

     蛋白尿は腎機能低下の指標であるだけでなく、心血管疾患(CVD)のリスクとも関連しており、CVDを防ぐには血糖や血圧などのコントロールに加えて、蛋白尿を陰性に保つことが重要と考えられている。他方、米国心臓協会(AHA)はCVDリスク抑制のために、7つの生活習慣関連因子をCardiovascular Health Metrics(Life’s Simple 7)としてまとめ、啓発活動を続けている。ただし、この7因子が日本人の蛋白尿リスクと関連するかは不明であった。

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     金子氏らはこの点を明らかにするため、健診受診者データを用いた観察コホート研究を実施した。検討対象は、2005~2016年に健診を受け、4年以内に再度健診を受けていた成人86万5,087人〔年齢中央値46歳(四分位範囲40~54)、男性60.7%〕。初回健診時に尿蛋白が陽性(1+以上)だった人や透析既往者などは除外されている。

     AHAが掲げる7因子に基づいて、以下のようにCardiovascular Health(CVH)Metricsをカウント。血圧120/80mmHg未満、総コレステロール200mg/dL未満、空腹時血糖値100mg/dL未満(いずれも未治療状態での測定値)、BMI25未満、非喫煙、習慣的運動(30分の運動を週に2回以上または1日あたり1時間以上の歩行)、健康的食習慣(朝食の欠食が週に3回未満)。これらをCVH metricsとして、その該当数と蛋白尿の出現リスクとの関連を検討した。

     解析対象者のCVH該当数は、中央値5(四分位範囲3~6)だった。CVHの該当数が2個未満の群、3~4個の群、5個以上の群という3群に分けると、該当数が多い群ほど若年で女性が多いという有意差が見られた。

     4年間の追跡で、4万1,474人(4.8%)に蛋白尿が出現した。年齢と性別の影響を調整後、前記のベースライン時のCVH該当数による3群で比較すると、該当数が多い群ほど、蛋白尿出現リスクが低かった。具体的には、2個未満の群を基準として3~4個の群はオッズ比(OR)0.61(95%信頼区間0.59~0.63)、5個以上の群はOR0.45(同0.43~0.46)だった(傾向性P<0.001)。

     7つのCVH因子を個別に検討すると、以下に記すように、総コレステロールを除く全てが蛋白尿出現リスクの低さと有意に関連していた。BMI25未満でOR0.70、空腹時血糖100mg/dL未満でOR0.74、非喫煙でOR0.80、血圧120/80mmHg未満でOR0.81、健康的食習慣でOR0.82、習慣的運動でOR0.95(いずれもP<0.001)。

     また、ベースライン時のCVH該当数が1つ多いごとに、蛋白尿出現リスクが2割低くなるという有意な関連の存在が明らかになった〔OR0.81(同0.80~0.82)〕。さらに、ベースライン時から1年間でCVH該当数が1つ増えると蛋白尿出現リスクが1割低下するという、生活習慣改善の有意な効果も認められた〔OR0.90(同0.89~0.92)〕。

     著者らは本研究を、「CVH metricsと蛋白尿出現の関係を示した初の研究」と位置付けている。結論としては、「ベースラインでのCVH metricsの該当数が多いほど蛋白尿出現リスクが低く、また、追跡期間中にCVH metrics該当数が増えることが蛋白尿出現リスクの低下と関連していた。この結果は、修正可能な生活習慣関連因子の重要性を示唆しており、蛋白尿抑制における生活療法の可能性を示すものと言える」とまとめている。

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    HealthDay News 2022年4月18日
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