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7月 19 2024 コロナ禍の行動制限により市民のAED使用が減少
コロナ禍の行動制限は、市民による自動体外式除細動器(automated external defibrillator;AED)の使用にも影響を及ぼした。2020~2021年の新型コロナウイルス感染症によるパンデミック中、AEDを用いた一般市民による除細動(public access defibrillation;PAD)の実施率が低下し、院外心停止(医療機関外での心肺停止)患者の転帰が悪化していたことが示された。これは新潟医療福祉大学救急救命学科の大松健太郎氏らによる研究であり、「BMJ Open」に4月8日掲載された。
バイスタンダー(救急現場に居合わせた人)が一次救命処置(basic life support;BLS)でAEDを使用することにより、電気ショックの対象となる院外心停止患者の神経学的転帰(心停止蘇生後の脳障害)が改善する。そのため多くの市民が集まる公共の場などではAEDの設置が推奨されている。一方、パンデミック中にPAD実施率が低下したことを示す研究も報告されている。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。著者らは今回、パンデミックによる影響を詳細に検討するため、2016年1月~2021年12月の総務省消防庁による院外心停止患者のデータと救急搬送に関するデータを用いて、後ろ向きコホート研究を行った。新生児や住宅での心停止などを除いた計22万6,182人の院外心停止患者を対象として、PAD実施率および神経学的に良好な1カ月生存率を調査した。また、AED設置が推奨されている場所とそれ以外の場所での分析も行った。
院外心停止全体に占める住宅外での院外心停止の割合は、パンデミック前(2016~2019年)は33.7%だったのが、パンデミック中(2020~2021年)はわずかに低下して31.9%だった。パンデミック前、住宅外の院外心停止は冬季に少なく、夏季に多いという季節的傾向が見られた。パンデミックが月ごとの傾向に及ぼした影響を分析した結果、パンデミック中にPAD実施率は低くなり、主として1年目の最初の緊急事態宣言時および2年目を通して低かったことが明らかとなった(交互作用P<0.001)。PAD実施率の低下と相関して、神経学的に良好な1カ月生存率も低下していた(R=0.612、P=0.002)。
また、パンデミックによるPAD実施率の低下への影響は、AEDの設置が推奨されている場所では有意(交互作用P=0.033)である一方、それ以外の場所では有意ではない(交互作用P=0.175)という結果も得られた。さらに、パンデミック中、バイスタンダーによるBLS(心肺蘇生またはPAD実施)の5分以上の遅れが増加していることも示され、この遅れはAEDの設置が推奨されていない場所の方が顕著だった。
以上から著者らは、「長期の度重なる行動制限が行われたパンデミック中、住宅外でPADなどのBLS行動に混乱が生じ、院外心停止患者の転帰が悪化していた」と結論。結果に関連して、感染対策の観点から消防署などが実施するBLS講習の回数や規模が縮小され、地域でBLSを行う人の数が減少していたことなどを説明している。その上で、「BLS訓練の維持、AEDの最適な配置、十分な訓練を受けた市民に心停止の発生場所を伝えるシステムの確立が不可欠だ」と述べている。
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6月 05 2024 コロナ後遺症は月経異常、QOLやメンタルヘルスに影響
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染した人のうち、約3人に1人が悩まされるといわれる「コロナ後遺症(Long COVID)」。新たに、コロナ後遺症のある18~50歳の女性を対象とする研究が行われた。その結果、約20%の女性がさまざまな月経異常を訴え、それに伴いQOLやメンタルヘルスが悪化していることが明らかとなった。岡山大学病院 総合内科・総合診療科の櫻田泰江氏、大塚文男氏らによる研究であり、詳細は「Journal of Psychosomatic Obstetrics and Gynecology」に1月25日掲載された。
コロナ後遺症の症状は多岐にわたり、オミクロン株の流行期には、倦怠感、頭痛、不眠が増加傾向であると報告されている。また、女性の健康に焦点を当てた最近の研究では、COVID-19の流行が女性の月経にさまざまな悪影響を及ぼしていることなども示されている。そこで著者らは、日本人の女性を対象として、コロナ後遺症としての月経異常の臨床的特徴を明らかにする研究を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。この研究は、岡山大学病院のコロナ・アフターケア外来を2021年2月15日~2023年3月31日に受診した、コロナ後遺症の女性患者(18~50歳)を対象に行われた。コロナ後遺症の定義は、感染から4週間以上にわたり何らかの症状が持続している状態とした。患者の診療記録より、月経情報、健康関連QOL、抑うつ症状、ホルモン検査などの臨床データが解析された。
研究対象の女性223人のうち、月経異常を訴える女性は44人(19.7%、年齢中央値42.5歳)で、月経異常のない女性(同38歳)よりも有意に年齢が高かった。44人中34人(77.3%)は、オミクロン株の流行期(2022年1月以降)に感染していた。月経異常の中で最も多い症状は月経周期の不順(63.6%)であり、次いで月経痛の悪化(25%)、過多月経(20.5%)、更年期症状(18.2%)、月経前症候群(15.9%)などの症状が見られた。
また、月経異常のある女性では月経異常のない女性に比べて、倦怠感(75対58.1%)や抑うつ気分(9.1対1.1%)を伴う人の割合が有意に高かった。さらに、健康関連QOLの評価指標(FASおよびEQ-5D-5L)による評価では、月経異常のある女性の方が、倦怠感やQOLが有意に悪化していた。
ホルモン検査では、月経異常のある女性の方が、血清コルチゾール値(中央値8.5対6.7μg/dL)が有意に高かった。その他の検査結果に有意差はなかったものの、月経異常のある女性の方が、血清卵胞刺激ホルモン(FSH)値(同28.7対8.3mIU/mL)は高く、血清エストラジオール(E2)値(同12対17.95pg/mL)は低い傾向が認められた。
研究結果について著者らは、「コロナ後遺症は日本人女性の月経にも影響を及ぼし、QOLとメンタルヘルスの悪化につながるというエビデンスを提供するものである」と結論付けている。コルチゾール値が高かったことに関しては、月経異常などによるストレス状態が存在し、視床下部-下垂体-性腺軸を介してE2の産生障害につながる可能性を指摘。月経状態は心身の状態に影響を及ぼし得ることから、「正常な月経状態を維持することは重要である」と総括している。
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6月 05 2024 医学生の英語力、コロナ禍のオンライン授業で向上
2020年のコロナ禍以降、オンライン教育が取り入れられてきた。今回、新たな研究で、医学部2年生の英語力に関するオンライン教育の効果が検証された。その結果、「対面授業」と比べて、「オンライン授業」や「オンラインと対面の併用授業」を受けた医学生の英語力は向上していたという。北海道大学大学院医学研究院 医学教育・国際交流推進センターの高橋誠氏らによるこの研究は、「BMC Medical Education」に1月17日掲載された。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにより、大学や医療機関における教育は混乱に陥った。現場では「オンライン授業」に切り替えることで教育活動を維持してきたが、オンライン教育が医学教育に及ぼした影響については、まだ十分に解明されていない。そこで著者らは、北海道大学医学部における医学英語のコースを受講した大学2年生の成績を3年分調査し、オンライン教育の影響を検証した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。同コースでは毎年4~7月に、計15回の授業が行われた。全てが対面授業だった2019年、オンライン授業のみの2020年、オンラインと対面が半分ずつ併用された2021年の各年、受講した医学部2年生のうち計321人が対象となった。医学のための英語として、医学用語、問診・診察、根拠に基づいた医療(EBM)などの内容が、日本語と英語で指導された。
まず、コース前後に質問紙を用いて、リーディング、ライティング、リスニング、スピーキングのスキルを主観的に評価した。また、客観的な評価項目を3つ設定。1つ目は「医学用語」として、各授業の前後で知識を評価。2つ目の「EBM」は、学生を6~7人のグループに分け、「The New England Journal of Medicine」誌の論文を読んで分析し、最新の医学情報を抽出する方法を指導。コース終了後に、レポート提出、論文の要約、ポスター作成、ポイントの口頭発表を課した。3つ目の「最終試験」では、コース終了後に筆記試験を実施した。
解析対象の学生は、2019年が106人(女性19人)、2020年が104人(同19人)、2021年が111人(同27人)だった。各年で、女性の割合や、大学入学試験の英語の点数に有意差はなかった。主観的評価の結果、コース開始時に比べて、「対面授業」の2019年はリスニングとスピーキングの2つが有意に向上した。「オンライン授業」の2020年は、有意に向上していたのはライティングのみだった。「併用授業」の2021年には、リーディング、ライティング、リスニング、スピーキングの全てのスキルが有意に向上していた。
客観的な評価項目のうち、「医学用語」と「EBM」は、各年とも成績が有意に向上し、授業形態による違いは認められなかった。「最終試験」については、各年の平均点(100点満点)が2019年は78.6±8.8、2020年は82.8±8.2、2021年は79.7±12.1だった。すなわち、「オンライン授業」の方が、「対面授業」や「併用授業」よりも点数が有意に高かった。ただし、「対面授業」と「併用授業」の間では、点数の差は有意ではなかった。
著者らは研究論文の考察において、特筆すべきこととして、オンラインと対面の併用授業で全ての英語スキルが向上したことを挙げている。また今後、医学英語の他にも、多くの臨床前コースを対象とした大規模な研究が必要とした上で、「オンライン授業や併用授業による教育は、対面授業に劣らず効果的だった」と総括している。
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1月 29 2024 パンデミック中、妊娠合併症と出産の転帰の一部が悪化
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック期間中、妊娠合併症と出産の転帰の一部は悪化していたことが判明した。日本の100万件以上の出産データを調査した結果、パンデミックにより妊娠高血圧や胎児発育不全、新生児の状態などに影響が見られたという。獨協医科大学医学部公衆衛生学講座の阿部美子氏らによる研究結果であり、「Scientific Reports」に11月29日掲載された。
パンデミックによる影響については国際的にも多く研究されており、死産の増加や妊産婦のメンタルヘルスの悪化などが報告されてきた。しかし、パンデミックの状況や国・地域の制限レベルなどにより、その影響は異なるだろう。日本でのパンデミックと妊娠や出産の転帰に関しては検討結果が限られており、日本全国レベルでの大規模な研究が必要とされていた。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。そこで阿部氏らの研究グループは、日本産科婦人科学会(JSOG)が管理する全国データから、2016~2020年の妊娠・出産のデータを用いて、パンデミックによる影響を評価した。妊娠合併症については、妊娠高血圧と胎児発育不全を調査。出産の転帰は、分娩時の妊娠週数、出生体重、新生児のアプガースコア7点未満の有無(7点未満は新生児仮死の可能性を示唆する)、死産などを調査した。これらに対するパンデミックの影響は、胎児数(単胎妊娠と多胎妊娠)による影響を考慮し、分けて検討された。
解析された妊娠・出産のデータは、パンデミック前(2016~2019年)が95万5,780件、パンデミック中(2020年)が20万1,772件だった。また、この5年間の単胎妊娠は108万4,724件、多胎妊娠は7万2,828件だった。この間、出産年齢が高い人(35歳以上)の割合は徐々に増加し、他の年齢層(20~34歳、19歳以下)の割合は減少していた。
妊娠合併症に関して比較すると、パンデミック前よりもパンデミック中の方が増加していた。関連因子(出産年齢、出産地域、妊娠前のBMI、不妊治療、胎児発育不全)による影響を調整した検討の結果、単胎妊娠では妊娠高血圧が有意に増えており(調整オッズ比1.064、95%信頼区間1.040~1.090)、多胎妊娠では胎児発育不全が有意に増えていた(同1.112、1.036~1.195)。
出産の転帰についても同様に比べると、単胎妊娠では、早産(同0.958、0.941~0.977)と低出生体重(同0.959、0.943~0.976)は有意に減少していた一方で、アプガースコア7点未満の新生児は、生後1分(同1.030、1.004~1.056)と生後5分(同1.043、1.002~1.086)の両方で有意に増加していた。新生児死亡や死産および妊産婦死亡に関しては、有意な影響は見られなかった。また、多胎妊娠では、これらの出産の転帰に対する有意な影響は認められなかった。これらの結果は、各年に含まれた分娩施設の影響を考慮した感度分析でも同様の傾向を示した。
結果を受けて著者らは、2021年以降の傾向が分析できていないことなどに言及した上で、「日本において、パンデミック中に妊娠合併症と分娩の転帰は悪化した」と結論付けている。パンデミック初期、感染者数はまだわずかであったにもかかわらずこのような転帰の悪化を認めたことに対し、著者らは、パンデミック初期から見られた自宅待機などの行動の変化、情報の混乱、社会的恐怖などによる影響を挙げ、「日本のように強制力のない制限であっても、パンデミック時の社会変化が、妊娠の転帰に悪影響を及ぼす可能性を示唆している」と述べている。
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12月 05 2023 パンデミック中の自損行為による救急搬送の実態――大阪府でのデータ解析
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中の自損行為による大阪府での救急搬送の実態が報告された。年齢別の解析で、20歳代では2020年の自損行為による搬送数がパンデミック前よりも有意に増加していたという。大阪大学医学部附属病院高度救命救急センターの中尾俊一郎氏らの研究結果であり、詳細は「BMJ Open」に9月12日掲載された。
パンデミック下で行われた外出自粛や会食の制限などは、感染拡大抑止には一定の効果があったと考えられるが、一方で人々のメンタルヘルスに負の影響を与えた可能性が指摘されている。また、パンデミック中に発生した非正規雇用者の解雇なども、同じような影響を及ぼしたと考えられる。加えて海外からは、パンデミック中に自損行為の発生率が上昇したとする研究結果が報告されている。これらを背景として中尾氏らは、国内でもパンデミックの発生後に自損行為による救急搬送件数が増加していた可能性を想定し、大阪府全域の救急搬送に関する情報を集約している「大阪府救急搬送支援・情報収集・集計分析システム(ORION)」のデータを用いた検討を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。パンデミック発生以前の2018年から2021年までの4年間で、自損行為(救急隊員の報告に基づく搬送理由であり、自殺企図かどうかは考慮されていない)による救急搬送患者が1万1,839人記録されていた。このうち、診療を受けなかった患者やデータ欠落者を除外した1万843人〔年齢中央値38歳(四分位範囲25~53)、女性69.0%〕を解析対象とした。主要評価項目は、パンデミック前の2018年を基準とする救急搬送の発生率比(IRR)とし、搬送から21日以内の死亡を副次的な評価項目とした。
救急搬送患者の全体的な傾向として、年齢層は20代が25.0%を占め最も多く、救急要請場所は自宅が82.6%と大半を占めており、時間帯別では18~24時が32.3%と最多だった。また、月別では7月(9.4%)や9月(9.3%)が多く、反対に2月(7.1%)や4月(7.2%)は少なかった。なお、年齢中央値の年次推移を見ると、2018年から順に40歳、39歳、38歳、36歳と、若年化する傾向が認められた(傾向性P=0.002)。
10万人年当たりの搬送件数は30.7であり、この年次推移を見ると2018年から順に29.4、30.5、31.8、31.2と経時的に上昇する傾向が認められた(傾向性P=0.013)。しかし、交絡因子(年齢層、性別、発生月)を調整すると、自損行為による救急搬送の発生率比はいずれの年も統計学的な有意差を認めなかった。
次に、この結果を2018年を基準として年齢層別に解析。すると20代ではパンデミック初年に当たる2020年に、交絡因子を調整後の発生率比(aIRR)が有意に上昇していたことが明らかになった〔aIRR1.117(同1.002~1.245)〕。なお、20代でもパンデミック前の2019年や2021年はaIRRの有意な変化がなく、また20代以外の年齢層ではいずれの年も有意な変化がなかった。
医療機関に搬送後の経過は、入院治療が4,766人(44.0%)、入院を要さずに帰宅が4,907人(45.3%)であり、1,170人(10.8%)は搬送後に死亡が確認されていた。入院を要した4,766人の21日後転帰は、退院が3,785人(79.4%)、入院中が405人(8.5%)で、576人(12.1%)が死亡だった。副次的評価項目として設定していた21日以内の死亡は、搬送後に死亡確認された患者を加えて1,746人であり、死亡率〔搬送者数に対する全死亡(あらゆる原因による死亡)者の割合〕は16.1%だった。この死亡率の年次推移に関しては、交絡因子の調整の有無にかかわらず、2018年から有意な変化が認められなかった。
以上を基に著者らは、「2020年には、自損行為による救急搬送患者の最多年齢層である20代の搬送が有意に増加していた。パンデミック自体とそれに伴う社会環境の変化が、若年者のメンタルヘルスに負の影響を及ぼしていた可能性がある」と総括。また、「本研究の結果は、若年世代への精神的サポートを強化する施策立案に有用な知見となり得るのではないか」と付け加えている。
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11月 28 2023 日本人COVID-19患者で見られる肥満パラドックス
日本人では、肥満は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスク因子ではない可能性を示唆するデータが報告された。肥満ではなく、むしろ低体重の場合に、COVID-19関連死のリスク上昇が認められるという。下関市立市民病院感染管理室の吉田順一氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Medical Sciences」に9月11日掲載された。
古くから「肥満は健康の敵」とされてきたが近年、高齢者や心血管疾患患者などでは、むしろ太っている人の方が予後は良いという、「肥満パラドックス」と呼ばれる関連の存在が知られるようになってきた。COVID-19についても同様の関連が認められるとする報告がある。ただし、それを否定する報告もあり、このトピックに関する結論は得られていない。吉田氏らは2020年3月3日~2022年12月31日までの同院の入院COVID-19患者のデータを用いて、この点について検討した。
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入院後29日目までに死亡が確認された患者は32人(2.9%)であり、COVID-19による死亡が20人、細菌性肺炎7人、心血管イベント3人、および敗血症性ショック、尿路感染症が各1人だった。年齢と性別の影響を調整後に、BMI別に死亡者数をプロットすると、死亡者数のピークはBMI11~15の範囲にあり、BMI22にも小さなピークが認められた。多変量解析から、死亡リスク低下に独立した関連のある因子として、BMI19.6超(P<0.001)とレムデシビルの使用(P=0.040)という2項目が特定された。反対に、年齢72.5歳超(P<0.001)、化学療法施行中(P=0.001)、NLR3.65超(P=0.001)は、死亡リスクの上昇と有意に関連していた。
IRCが施行されていたのは37人(3.3%)だった。年齢と性別の影響を調整後に、BMI別にIRC施行者数をプロットすると、BMI11~25の範囲で施行者数の増加が認められた。多変量解析から、IRC施行リスクの上昇と有意な関連のある因子として、年齢72.5歳超(P=0.031)、デキサメタゾンの使用(P=0.002)、NLR3.65超(P=0.048)が特定された。IRC施行リスクの低下と有意な関連のある因子は抽出されなかった。
著者らは、BMI19.6以下がCOVID-19患者の全死亡リスク増大に独立した関連があるという結果を基に、「日本人COVID-19患者で認められる肥満パラドックスは、BMI高値が保護的に働くというよりも、BMI低値の場合にハイリスクである結果として観察される現象ではないか」との考察を述べている。また、レムデシビルが死亡リスク低下の独立した関連因子である一方、デキサメタゾンがIRC施行リスク上昇の独立した関連因子であったことについては、「サイトカインストームに伴う呼吸不全にデキサメタゾンが使用された結果であり、同薬がIRC施行リスクを高めるわけではない」と解説している。
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11月 20 2023 コロナ緊急事態宣言は国内大学生の抑うつレベルに影響を及ぼさなかった?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下での大学生の抑うつレベルの推移を解析した結果、計4回発出された緊急事態宣言は、大学生の抑うつレベルに有意な影響を及ぼしていなかった可能性を示すデータが報告された。むしろ、4月の新年度のスタートが、大学生の抑うつレベルに影響を与えていることが確認されたという。名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学分野の白石直氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of General Psychiatry」に10月10日掲載された。
大学生の抑うつ状態にある割合は、一般人口に比べて高いことが知られている。例えば一般人口におけるうつ病の有病率は13%という報告があるのに対して、大学生では32%という報告が見られる。COVID-19パンデミックが人々に強いストレスを与えたことが多くの研究から明らかになっており、大学生のうつレベルもより高まっていた可能性が考えられる。白石氏らは、緊急事態宣言発出時に講義がリモートで行われるなど特異な環境にあったタイミングで、大学生の抑うつレベルが特に上昇していたのではないかとの仮説の下、以下の研究を行った。学年度が切り替わる新年度のタイミングの抑うつレベルへの影響も、併せて検討した。
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HCT参加者は、介入期間は毎週、追跡期間は4週ごとにPHQ-9という指標(27点満点でスコアが高いほど抑うつ症状が強いと判定される)により、抑うつレベルの経時的な変化が評価された。なお、研究参加の適格基準は、年齢が18~39歳の大学生または大学院生でスマートフォンを所有していること。PHQ-9スコアが15点以上または10~14点で希死念慮がある学生、およびメンタルヘルス上の問題のため受療中の学生は除外されている。6件のコホート全体の参加者数は1,626人であり、平均年齢は21.5歳で男子学生がやや少なかった(性比0.74)。
研究ではまず、パンデミック下の緊急事態宣言に着目した検討が行われた。4回の緊急事態宣言発出後に顕著なPHQ-9スコアの上昇が認められたのは、2020年度後期コホートにおける28~32週時点(3回目の緊急事態宣言発出後)のみであり、24週目が5.3点であるのに対して28週目は5.8点、32週目は6.0点と推移していた。ただ、各年度の後期にスタートしたコホートの28~32週は、翌年の4月ごろに該当する。よってこのタイミングでのPHQ-9スコアの上昇は、緊急事態宣言発出の影響のみでなく、新年度がスタートした直後であることの影響も考えられた。
次に、前期スタートのコホート3件(1,104人)、後期スタートの3件(522人)をそれぞれ統合して全体を2群に分け、PHQ-9スコアの推移を解析。その結果、前期スタート群のPHQ-9スコアは、全期間を通して4週ごとに0.02点(95%信頼区間―0.03~―0.01)ずつ有意に低下していた(P=0.008)。それに対して後期スタート群では、中断時系列分析により、新年度スタート時期の28週目までは4週ごとに0.07点(同0.02~0.11)ずつ上昇する傾向が見られた(P=0.12)。ところが、その傾向は急に中断され、28週目時点で0.60点(0.42~0.78)抑うつレベルが悪化したことが推定された(P<0.001)。28週を超えると4週ごとに0.16(―0.21~―0.10)ずつ低下していた(P=0.003)。
以上の結果から著者らは、「当初の仮説に反して、緊急事態宣言発出による大学生のうつレベル上昇は確認されなかった。一方で学年度が切り替わるタイミングで、大学生のメンタルに大きなストレスが加わることが示唆された」と総括している。
なお、COVID-19パンデミックが大学生のメンタルヘルスを悪化させたとする国内発の先行研究が複数存在する。緊急事態宣言発出の影響に焦点を当てた今回の研究が、それらとは異なる解釈が可能な結果となった理由について、以下のような考察が述べられている。先行研究では同一対象への継続的な調査でなく、パンデミック後の調査にはメンタルへの影響を強く感じた学生がより積極的に回答していた可能性があり、また、調査を行うタイミングが年度替わりを考慮せずに設定されていたことの影響もあるのではないかとのことだ。一方、本研究にも、交絡因子の調整が十分でないことや、新年度のスタートは花粉症の時期であるため、その症状がメンタルに影響を及ぼしていた可能性も否定できないといった限界点があるとしている。
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11月 13 2023 パンデミックで急性アルコール中毒による救急搬送が有意に減少――高知県のデータ
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの最中に、急性アルコール中毒による救急搬送件数が有意に減少していたことが明らかになった。住民の飲酒量が多いことで知られる高知県のデータを解析した結果であり、高知大学医学部環境医学の南まりな氏、災害・救急医療学の宮内雅人氏らによる論文が、「Alcohol」に9月20日掲載された。
COVID-19パンデミックにより人々の生活が一変し、それにより救急搬送される患者の傾向にも変化が生じている。例えば交通事故による外傷が減り、ストレスが発症に関与しているたこつぼ心筋症が増えたことなどが報告されている。一方、飲酒行動に関しては、飲食店の時短営業や入店制限などによる飲酒機会の減少と、ストレス負荷による自宅での飲酒量の増大という相反する影響が考えられるが、南氏らが2020年春というパンデミック初期に高知県で行った研究では、急性アルコール中毒による救急搬送が減少していたことが明らかになっている。今回の研究では、パンデミックが長期化した以降もそのような傾向が継続しているのか否かを検証した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。この研究には、高知県救急医療・広域災害情報システム「こうち医療ネット」のデータが用いられた。2019~2021年の救急搬送の記録12万49件のうち、データ欠落、および急性アルコール中毒患者が発生していない10歳未満と80歳以上を除外した6万2,138件を解析対象とした。このうち926件(1.5%)が急性アルコール中毒によるものだった。
年次推移を見ると、2019年は2万2,289件中412件(1.9%)が急性アルコール中毒によるもので、2020年は1万9,775件中268件(1.4%)、2021年は2万74件中246件(1.2%)だった。全体として、急性アルコール中毒による救急搬送は、性別で比較した場合は男性に多く(66.1%)、年齢層では20代が最も多くを占めていた(37.2%)。
ポアソン回帰モデルにて、2019年を基準とする急性アルコール中毒による救急搬送件数の発生率比(IRR)を検討すると、2020年はIRR0.78(95%信頼区間0.67~0.91)と有意に低く、2021年もIRR0.73(同0.63~0.86)であり有意に低値だった。つまり、パンデミック初期に認められた急性アルコール中毒による救急搬送件数の減少は、パンデミックが長期化した2年目にも継続していたことが明らかになった。
著者らは本研究について、救急搬送以外の手段で受診した急性アルコール中毒患者も存在する可能性があること、県民の酒量が多く飲酒に寛容な高知県での調査であり、解釈の一般化が制限されることなどの留意点を挙げている。ただし後者については、「研究の限界点であると同時に、特異な飲酒文化で得られた貴重なデータでもある」と述べている。また、「パンデミックによって急性アルコール中毒による救急搬送が減少したという事実は、換言すれば、パンデミック以前の人々の飲酒行動に問題があったことを示唆している」との考察を加えている。
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11月 07 2023 侵襲的⼈⼯呼吸を要したCOVID-19患者は退院半年後も健康状態が不良
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が重症化してICUで長期にわたる侵襲的⼈⼯呼吸(IMV)を要した患者は、退院後6カ月経過しても、身体的な回復が十分でなく、不安やふさぎ込みといった精神症状も高率に認められることが明らかになった。名古屋大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学分野の春日井大介氏らの研究結果であり、詳細は「Scientific Reports」に9月4日掲載された。
IMVの離脱後には身体的・精神的な後遺症が発生することがある。COVID-19急性期にIMVが施行された患者にもそのようなリスクのあることが、既に複数の研究によって明らかにされている。ただし、それらの研究の多くはICU退室または退院直後に評価した結果であり、かつ評価項目が限られており、COVID-19に対するIMV施行後の長期にわたる身体的・精神的健康への影響は不明。春日井氏らは、同大学医学部附属病院ICUに収容されたCOVID-19患者を対象とする前向き研究により、この点を検討した。
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解析対象者の主な特徴は、年齢中央値60歳(四分位範囲52~66)、男性85.9%で、ICU患者の重症度の指標であるSOFAは同10(8~11)、APACHE IIは21(19~24)、IMV施行期間は9日(6~15)だった。IMV施行期間9日以下/超で二分し比較すると、年齢、男性の割合、BMI、基礎疾患有病率、SOFA、APACHE II、および腎機能、炎症マーカー、凝固マーカーなどには有意差はなかった。ただし、IMV施行期間9日超の群(以下、長期IMV群)は、体外式膜型人工肺(ECMO)や気管切開の施行率と、肺のダメージを表すKL-6が高く、鎮静期間が長いという有意差があった。
ICU退室時点の状態を比較すると、長期IMV群は、MRCという全身の筋力を評価するスコアが低く(60点満点で51対60点)、握力が弱い(10.6対18.0kg)という有意な群間差が見られた。抑うつや痛み、倦怠感などの9種類の身体的・精神的症状を評価するESASというスコアには、有意差がなかった。
退院時の状態については、MRCスコアはICU退室時と同様に長期IMV群の方が有意に低かった(56対60点)。一方、ICU退室時には有意差がなかったESASスコアは、長期IMV群が高値で有意な群間差が認められた〔90点満点で17対4点(ESASはスコアが高いほど状態が良くないことを意味する)〕。
退院6カ月後の状態は、EQ-5D-5LというアンケートとEQ-VASという指標で評価。その結果、EQ-5D-5Lでは5項目の評価項目(移動の程度、身の回りの管理、普段の活動、痛み/不快感、不安/ふさぎ込み)のうち、痛み/不快感を除く4項目は全て長期IMV群の方が不良であることを示し、総合評価(0.025~1の範囲で評価)にも有意差が存在した〔0.82対0.89(P=0.023)〕。また、0~100の範囲で健康状態を自己評価するEQ-VASでも有意差が確認された〔80対90(P=0.046)〕。
著者らは、「本研究には、単一施設の研究でありサンプル数が十分でないといった限界点がある」とした上で、「COVID-19急性期に長期間IMVを要した患者は退院時に十分回復しておらず、さらに6カ月後にも健康状態の改善が不十分だった。重症COVID-19患者に対しては長期間のフォローアップと、積極的かつ学際的な治療アプローチが必要と考えられる」と述べている。
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10月 25 2023 Long COVIDの倦怠感・ME/CFSにフェリチン高値が関与?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)急性期以降に症状が遷延する、いわゆる「long COVID」における筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に、高フェリチン血症が関与している可能性を示唆するデータが報告された。岡山大学学術研究院医歯薬学域総合内科学の大塚勇輝氏、山本幸近氏、大塚文男氏らの研究結果であり、詳細は「Journal of Clinical Medicine」に7月18日掲載された。
Long COVID患者の多くが倦怠感を呈するが、その一部は、強い症状のために日常生活にも支障が生じて、ME/CFSに類似した状態に移行することがある。一般人口におけるME/CFSの有病率は1%未満であるのに対して、long COVID患者では16.8%に上るというデータもある。ME/CFSの原因として、感染症、免疫応答の異常、内分泌機能不全などが想定されているが詳細は未解明であり、臨床医にとってME/CFSの診断は容易でない。Long COVID患者のME/CFSに何らかの特徴を見いだせれば、それを手掛かりとしてME/CFSの診断・治療へとつなげられる可能性が広がる。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。一方、COVID-19の急性期ではその重症度とフェリチンとの間に関連があり、long COVIDでもフェリチンの上昇が臨床的特徴の一つになり得ることが示唆されている。フェリチンは鉄貯蔵のマーカーだが、感染症や炎症によって高値となることも知られている。これらの知見を背景として大塚氏らは、岡山大学病院総合内科・総合診療科のコロナ・アフターケア(CAC)外来の患者データを用いて、フェリチン値を含めた臨床検査指標とME/CFSとの関連を横断的に解析した。
解析対象は、2021年2月22日~2022年5月31日のCAC外来受診者312人から、COVID-19罹患後4週間未満のlong COVIDの診断基準を満たさない患者、COVID-19罹患以前から高フェリチン血症だった患者などを除外した234人。このうち139人(59.4%)が倦怠感を訴え、さらにその中の50人はME/CFSの診断基準を満たした。95人(40.6%)は倦怠感を訴えていなかった。なお、ME/CFSは、国内外で用いられている3種類の診断基準を全て満たす場合と定義した。
ME/CFS群、ME/CFSの基準を満たさないが倦怠感のある群(非ME/CFS群)、倦怠感なし群を比較すると、年齢や性別の分布、BMI、COVID-19急性期の重症度には有意差がなかった。ただし、COVID-19罹患から受診までの期間は有意差があり、ME/CFS群が最も長く中央値128日、倦怠感なし群は106日、非ME/CFS群は最も短く73日だった。6種類の自覚症状評価スケールの評価結果は全て、ME/CFS群が最も重度であり、非ME/CFS群、倦怠感なし群の順に軽度となることを示していた。
血液検査値に着目すると、貧血の有無や重症度を表すヘモグロビン、炎症マーカーのCRPや白血球数、凝固マーカーのDダイマーやフィブリノゲン、腎機能、肝機能、アルブミンなどの検査値には有意差は認められず、フェリチンのみME/CFS群が有意に高値であった(ME/CFS群は中央値193.0、非ME/CFS群98.2、倦怠感なし群86.7μg/L)。またフェリチン値は、6種類の自覚症状評価スケールのうち3種類(FASという倦怠感評価スケールなど)のスコアとの有意な相関も認められた。なお、フェリチン値を性別で比較すると女性の方が低値だが、ME/CFS群と非ME/CFS群との比較では、女性で群間差がより顕著で(中央値68.9対43.8μg/L)、男性は群間差が非有意となった。
このほか、内分泌学的検査からは、成長ホルモン(GH)がME/CFS群は倦怠感なし群より有意に低いこと(0.22対0.37ng/mL)、インスリン様成長因子I(IGF-I)とフェリチン値との間に有意な負の相関(r=-0.328)があることなどが示された。
これらの結果を総括して著者らは、「long COVIDに伴うME/CFSの特徴としてフェリチン高値が特定された」と結論付けている。なお、フェリチンは感染症や炎症で上昇するが、本研究の対象はCOVID-19罹患から長期間経過後であること、およびフェリチン以外の炎症マーカーは上昇していないこと、さらにCOVID-19急性期の重症度とME/CFSリスクとの間に関連がないことなどから、「急性期の炎症が遷延しているだけとは言いにくく、long COVIDに伴う鉄代謝への影響や、高血圧、睡眠障害、抑うつ、ホルモン分泌の変化などが病態に関連している可能性がある」との考察が加えられている。
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