• パンデミック中、妊娠合併症と出産の転帰の一部が悪化

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック期間中、妊娠合併症と出産の転帰の一部は悪化していたことが判明した。日本の100万件以上の出産データを調査した結果、パンデミックにより妊娠高血圧や胎児発育不全、新生児の状態などに影響が見られたという。獨協医科大学医学部公衆衛生学講座の阿部美子氏らによる研究結果であり、「Scientific Reports」に11月29日掲載された。

     パンデミックによる影響については国際的にも多く研究されており、死産の増加や妊産婦のメンタルヘルスの悪化などが報告されてきた。しかし、パンデミックの状況や国・地域の制限レベルなどにより、その影響は異なるだろう。日本でのパンデミックと妊娠や出産の転帰に関しては検討結果が限られており、日本全国レベルでの大規模な研究が必要とされていた。

    COVID-19に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     そこで阿部氏らの研究グループは、日本産科婦人科学会(JSOG)が管理する全国データから、2016~2020年の妊娠・出産のデータを用いて、パンデミックによる影響を評価した。妊娠合併症については、妊娠高血圧と胎児発育不全を調査。出産の転帰は、分娩時の妊娠週数、出生体重、新生児のアプガースコア7点未満の有無(7点未満は新生児仮死の可能性を示唆する)、死産などを調査した。これらに対するパンデミックの影響は、胎児数(単胎妊娠と多胎妊娠)による影響を考慮し、分けて検討された。

     解析された妊娠・出産のデータは、パンデミック前(2016~2019年)が95万5,780件、パンデミック中(2020年)が20万1,772件だった。また、この5年間の単胎妊娠は108万4,724件、多胎妊娠は7万2,828件だった。この間、出産年齢が高い人(35歳以上)の割合は徐々に増加し、他の年齢層(20~34歳、19歳以下)の割合は減少していた。

     妊娠合併症に関して比較すると、パンデミック前よりもパンデミック中の方が増加していた。関連因子(出産年齢、出産地域、妊娠前のBMI、不妊治療、胎児発育不全)による影響を調整した検討の結果、単胎妊娠では妊娠高血圧が有意に増えており(調整オッズ比1.064、95%信頼区間1.040~1.090)、多胎妊娠では胎児発育不全が有意に増えていた(同1.112、1.036~1.195)。

     出産の転帰についても同様に比べると、単胎妊娠では、早産(同0.958、0.941~0.977)と低出生体重(同0.959、0.943~0.976)は有意に減少していた一方で、アプガースコア7点未満の新生児は、生後1分(同1.030、1.004~1.056)と生後5分(同1.043、1.002~1.086)の両方で有意に増加していた。新生児死亡や死産および妊産婦死亡に関しては、有意な影響は見られなかった。また、多胎妊娠では、これらの出産の転帰に対する有意な影響は認められなかった。これらの結果は、各年に含まれた分娩施設の影響を考慮した感度分析でも同様の傾向を示した。

     結果を受けて著者らは、2021年以降の傾向が分析できていないことなどに言及した上で、「日本において、パンデミック中に妊娠合併症と分娩の転帰は悪化した」と結論付けている。パンデミック初期、感染者数はまだわずかであったにもかかわらずこのような転帰の悪化を認めたことに対し、著者らは、パンデミック初期から見られた自宅待機などの行動の変化、情報の混乱、社会的恐怖などによる影響を挙げ、「日本のように強制力のない制限であっても、パンデミック時の社会変化が、妊娠の転帰に悪影響を及ぼす可能性を示唆している」と述べている。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2024年1月29日
    Copyright c 2024 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • パンデミック中の自損行為による救急搬送の実態――大阪府でのデータ解析

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中の自損行為による大阪府での救急搬送の実態が報告された。年齢別の解析で、20歳代では2020年の自損行為による搬送数がパンデミック前よりも有意に増加していたという。大阪大学医学部附属病院高度救命救急センターの中尾俊一郎氏らの研究結果であり、詳細は「BMJ Open」に9月12日掲載された。

     パンデミック下で行われた外出自粛や会食の制限などは、感染拡大抑止には一定の効果があったと考えられるが、一方で人々のメンタルヘルスに負の影響を与えた可能性が指摘されている。また、パンデミック中に発生した非正規雇用者の解雇なども、同じような影響を及ぼしたと考えられる。加えて海外からは、パンデミック中に自損行為の発生率が上昇したとする研究結果が報告されている。これらを背景として中尾氏らは、国内でもパンデミックの発生後に自損行為による救急搬送件数が増加していた可能性を想定し、大阪府全域の救急搬送に関する情報を集約している「大阪府救急搬送支援・情報収集・集計分析システム(ORION)」のデータを用いた検討を行った。

    COVID-19に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     パンデミック発生以前の2018年から2021年までの4年間で、自損行為(救急隊員の報告に基づく搬送理由であり、自殺企図かどうかは考慮されていない)による救急搬送患者が1万1,839人記録されていた。このうち、診療を受けなかった患者やデータ欠落者を除外した1万843人〔年齢中央値38歳(四分位範囲25~53)、女性69.0%〕を解析対象とした。主要評価項目は、パンデミック前の2018年を基準とする救急搬送の発生率比(IRR)とし、搬送から21日以内の死亡を副次的な評価項目とした。

     救急搬送患者の全体的な傾向として、年齢層は20代が25.0%を占め最も多く、救急要請場所は自宅が82.6%と大半を占めており、時間帯別では18~24時が32.3%と最多だった。また、月別では7月(9.4%)や9月(9.3%)が多く、反対に2月(7.1%)や4月(7.2%)は少なかった。なお、年齢中央値の年次推移を見ると、2018年から順に40歳、39歳、38歳、36歳と、若年化する傾向が認められた(傾向性P=0.002)。

     10万人年当たりの搬送件数は30.7であり、この年次推移を見ると2018年から順に29.4、30.5、31.8、31.2と経時的に上昇する傾向が認められた(傾向性P=0.013)。しかし、交絡因子(年齢層、性別、発生月)を調整すると、自損行為による救急搬送の発生率比はいずれの年も統計学的な有意差を認めなかった。

     次に、この結果を2018年を基準として年齢層別に解析。すると20代ではパンデミック初年に当たる2020年に、交絡因子を調整後の発生率比(aIRR)が有意に上昇していたことが明らかになった〔aIRR1.117(同1.002~1.245)〕。なお、20代でもパンデミック前の2019年や2021年はaIRRの有意な変化がなく、また20代以外の年齢層ではいずれの年も有意な変化がなかった。

     医療機関に搬送後の経過は、入院治療が4,766人(44.0%)、入院を要さずに帰宅が4,907人(45.3%)であり、1,170人(10.8%)は搬送後に死亡が確認されていた。入院を要した4,766人の21日後転帰は、退院が3,785人(79.4%)、入院中が405人(8.5%)で、576人(12.1%)が死亡だった。副次的評価項目として設定していた21日以内の死亡は、搬送後に死亡確認された患者を加えて1,746人であり、死亡率〔搬送者数に対する全死亡(あらゆる原因による死亡)者の割合〕は16.1%だった。この死亡率の年次推移に関しては、交絡因子の調整の有無にかかわらず、2018年から有意な変化が認められなかった。

     以上を基に著者らは、「2020年には、自損行為による救急搬送患者の最多年齢層である20代の搬送が有意に増加していた。パンデミック自体とそれに伴う社会環境の変化が、若年者のメンタルヘルスに負の影響を及ぼしていた可能性がある」と総括。また、「本研究の結果は、若年世代への精神的サポートを強化する施策立案に有用な知見となり得るのではないか」と付け加えている。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2023年12月4日
    Copyright c 2023 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • 日本人COVID-19患者で見られる肥満パラドックス

     日本人では、肥満は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスク因子ではない可能性を示唆するデータが報告された。肥満ではなく、むしろ低体重の場合に、COVID-19関連死のリスク上昇が認められるという。下関市立市民病院感染管理室の吉田順一氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Medical Sciences」に9月11日掲載された。

     古くから「肥満は健康の敵」とされてきたが近年、高齢者や心血管疾患患者などでは、むしろ太っている人の方が予後は良いという、「肥満パラドックス」と呼ばれる関連の存在が知られるようになってきた。COVID-19についても同様の関連が認められるとする報告がある。ただし、それを否定する報告もあり、このトピックに関する結論は得られていない。吉田氏らは2020年3月3日~2022年12月31日までの同院の入院COVID-19患者のデータを用いて、この点について検討した。

    COVID-19に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     解析対象は1,105人でほぼ全員(99.3%)が日本人であり、半数(50.1%)が男性だった。主要評価項目は入院から29日以内の全死亡(あらゆる原因による死亡)とし、副次的評価項目として侵襲的呼吸管理(IRC)の施行を設定。年齢、性別、BMI、体表面積、ワクチン接種の有無、レムデシビル・デキサメタゾンの使用、化学療法施行、好中球/リンパ球比(NLR)などとの関連を解析した。なお、IRCは酸素マスクによる5L/分以上での酸素投与にもかかわらず、SpO2が93%未満の場合に施行されていた。また、年齢、BMI、NLRなどの連続変数は、ROC解析により予後予測のための最適な値を算出した上で、年齢は72.5歳、BMIは19.6、NLRは3.65をカットオフ値とした。

     入院後29日目までに死亡が確認された患者は32人(2.9%)であり、COVID-19による死亡が20人、細菌性肺炎7人、心血管イベント3人、および敗血症性ショック、尿路感染症が各1人だった。年齢と性別の影響を調整後に、BMI別に死亡者数をプロットすると、死亡者数のピークはBMI11~15の範囲にあり、BMI22にも小さなピークが認められた。多変量解析から、死亡リスク低下に独立した関連のある因子として、BMI19.6超(P<0.001)とレムデシビルの使用(P=0.040)という2項目が特定された。反対に、年齢72.5歳超(P<0.001)、化学療法施行中(P=0.001)、NLR3.65超(P=0.001)は、死亡リスクの上昇と有意に関連していた。

     IRCが施行されていたのは37人(3.3%)だった。年齢と性別の影響を調整後に、BMI別にIRC施行者数をプロットすると、BMI11~25の範囲で施行者数の増加が認められた。多変量解析から、IRC施行リスクの上昇と有意な関連のある因子として、年齢72.5歳超(P=0.031)、デキサメタゾンの使用(P=0.002)、NLR3.65超(P=0.048)が特定された。IRC施行リスクの低下と有意な関連のある因子は抽出されなかった。

     著者らは、BMI19.6以下がCOVID-19患者の全死亡リスク増大に独立した関連があるという結果を基に、「日本人COVID-19患者で認められる肥満パラドックスは、BMI高値が保護的に働くというよりも、BMI低値の場合にハイリスクである結果として観察される現象ではないか」との考察を述べている。また、レムデシビルが死亡リスク低下の独立した関連因子である一方、デキサメタゾンがIRC施行リスク上昇の独立した関連因子であったことについては、「サイトカインストームに伴う呼吸不全にデキサメタゾンが使用された結果であり、同薬がIRC施行リスクを高めるわけではない」と解説している。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2023年11月27日
    Copyright c 2023 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • コロナ緊急事態宣言は国内大学生の抑うつレベルに影響を及ぼさなかった?

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下での大学生の抑うつレベルの推移を解析した結果、計4回発出された緊急事態宣言は、大学生の抑うつレベルに有意な影響を及ぼしていなかった可能性を示すデータが報告された。むしろ、4月の新年度のスタートが、大学生の抑うつレベルに影響を与えていることが確認されたという。名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学分野の白石直氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of General Psychiatry」に10月10日掲載された。

     大学生の抑うつ状態にある割合は、一般人口に比べて高いことが知られている。例えば一般人口におけるうつ病の有病率は13%という報告があるのに対して、大学生では32%という報告が見られる。COVID-19パンデミックが人々に強いストレスを与えたことが多くの研究から明らかになっており、大学生のうつレベルもより高まっていた可能性が考えられる。白石氏らは、緊急事態宣言発出時に講義がリモートで行われるなど特異な環境にあったタイミングで、大学生の抑うつレベルが特に上昇していたのではないかとの仮説の下、以下の研究を行った。学年度が切り替わる新年度のタイミングの抑うつレベルへの影響も、併せて検討した。

    COVID-19に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     この研究は、大学生のメンタルヘルス上の問題を、モバイルアプリを用いた認知行動療法(CBT)で予防し得るかを検証するために、パンデミック前からスタートしていた無作為化比較試験「ヘルシーキャンパストライアル(HCT)」のデータを二次的に解析するという手法で行われた。HCTでは、国内5大学の学生が参加し、2018年度後期(秋)に最初のコホートが設定され、その後、2019年度前期(春)/後期(秋)、2020年度前期/後期、2021年度後期という計6件のコホートが組まれた。各コホートの最初の8週間はアプリを用いたCBTによる介入が行われ、その後52週目まで(スタートから1年間)は追跡期間とされた。

     HCT参加者は、介入期間は毎週、追跡期間は4週ごとにPHQ-9という指標(27点満点でスコアが高いほど抑うつ症状が強いと判定される)により、抑うつレベルの経時的な変化が評価された。なお、研究参加の適格基準は、年齢が18~39歳の大学生または大学院生でスマートフォンを所有していること。PHQ-9スコアが15点以上または10~14点で希死念慮がある学生、およびメンタルヘルス上の問題のため受療中の学生は除外されている。6件のコホート全体の参加者数は1,626人であり、平均年齢は21.5歳で男子学生がやや少なかった(性比0.74)。

     研究ではまず、パンデミック下の緊急事態宣言に着目した検討が行われた。4回の緊急事態宣言発出後に顕著なPHQ-9スコアの上昇が認められたのは、2020年度後期コホートにおける28~32週時点(3回目の緊急事態宣言発出後)のみであり、24週目が5.3点であるのに対して28週目は5.8点、32週目は6.0点と推移していた。ただ、各年度の後期にスタートしたコホートの28~32週は、翌年の4月ごろに該当する。よってこのタイミングでのPHQ-9スコアの上昇は、緊急事態宣言発出の影響のみでなく、新年度がスタートした直後であることの影響も考えられた。

     次に、前期スタートのコホート3件(1,104人)、後期スタートの3件(522人)をそれぞれ統合して全体を2群に分け、PHQ-9スコアの推移を解析。その結果、前期スタート群のPHQ-9スコアは、全期間を通して4週ごとに0.02点(95%信頼区間―0.03~―0.01)ずつ有意に低下していた(P=0.008)。それに対して後期スタート群では、中断時系列分析により、新年度スタート時期の28週目までは4週ごとに0.07点(同0.02~0.11)ずつ上昇する傾向が見られた(P=0.12)。ところが、その傾向は急に中断され、28週目時点で0.60点(0.42~0.78)抑うつレベルが悪化したことが推定された(P<0.001)。28週を超えると4週ごとに0.16(―0.21~―0.10)ずつ低下していた(P=0.003)。

     以上の結果から著者らは、「当初の仮説に反して、緊急事態宣言発出による大学生のうつレベル上昇は確認されなかった。一方で学年度が切り替わるタイミングで、大学生のメンタルに大きなストレスが加わることが示唆された」と総括している。

     なお、COVID-19パンデミックが大学生のメンタルヘルスを悪化させたとする国内発の先行研究が複数存在する。緊急事態宣言発出の影響に焦点を当てた今回の研究が、それらとは異なる解釈が可能な結果となった理由について、以下のような考察が述べられている。先行研究では同一対象への継続的な調査でなく、パンデミック後の調査にはメンタルへの影響を強く感じた学生がより積極的に回答していた可能性があり、また、調査を行うタイミングが年度替わりを考慮せずに設定されていたことの影響もあるのではないかとのことだ。一方、本研究にも、交絡因子の調整が十分でないことや、新年度のスタートは花粉症の時期であるため、その症状がメンタルに影響を及ぼしていた可能性も否定できないといった限界点があるとしている。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2023年11月20日
    Copyright c 2023 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • パンデミックで急性アルコール中毒による救急搬送が有意に減少――高知県のデータ

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの最中に、急性アルコール中毒による救急搬送件数が有意に減少していたことが明らかになった。住民の飲酒量が多いことで知られる高知県のデータを解析した結果であり、高知大学医学部環境医学の南まりな氏、災害・救急医療学の宮内雅人氏らによる論文が、「Alcohol」に9月20日掲載された。

     COVID-19パンデミックにより人々の生活が一変し、それにより救急搬送される患者の傾向にも変化が生じている。例えば交通事故による外傷が減り、ストレスが発症に関与しているたこつぼ心筋症が増えたことなどが報告されている。一方、飲酒行動に関しては、飲食店の時短営業や入店制限などによる飲酒機会の減少と、ストレス負荷による自宅での飲酒量の増大という相反する影響が考えられるが、南氏らが2020年春というパンデミック初期に高知県で行った研究では、急性アルコール中毒による救急搬送が減少していたことが明らかになっている。今回の研究では、パンデミックが長期化した以降もそのような傾向が継続しているのか否かを検証した。

    COVID-19に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     この研究には、高知県救急医療・広域災害情報システム「こうち医療ネット」のデータが用いられた。2019~2021年の救急搬送の記録12万49件のうち、データ欠落、および急性アルコール中毒患者が発生していない10歳未満と80歳以上を除外した6万2,138件を解析対象とした。このうち926件(1.5%)が急性アルコール中毒によるものだった。

     年次推移を見ると、2019年は2万2,289件中412件(1.9%)が急性アルコール中毒によるもので、2020年は1万9,775件中268件(1.4%)、2021年は2万74件中246件(1.2%)だった。全体として、急性アルコール中毒による救急搬送は、性別で比較した場合は男性に多く(66.1%)、年齢層では20代が最も多くを占めていた(37.2%)。

     ポアソン回帰モデルにて、2019年を基準とする急性アルコール中毒による救急搬送件数の発生率比(IRR)を検討すると、2020年はIRR0.78(95%信頼区間0.67~0.91)と有意に低く、2021年もIRR0.73(同0.63~0.86)であり有意に低値だった。つまり、パンデミック初期に認められた急性アルコール中毒による救急搬送件数の減少は、パンデミックが長期化した2年目にも継続していたことが明らかになった。

     著者らは本研究について、救急搬送以外の手段で受診した急性アルコール中毒患者も存在する可能性があること、県民の酒量が多く飲酒に寛容な高知県での調査であり、解釈の一般化が制限されることなどの留意点を挙げている。ただし後者については、「研究の限界点であると同時に、特異な飲酒文化で得られた貴重なデータでもある」と述べている。また、「パンデミックによって急性アルコール中毒による救急搬送が減少したという事実は、換言すれば、パンデミック以前の人々の飲酒行動に問題があったことを示唆している」との考察を加えている。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2023年11月13日
    Copyright c 2023 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • 侵襲的⼈⼯呼吸を要したCOVID-19患者は退院半年後も健康状態が不良

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が重症化してICUで長期にわたる侵襲的⼈⼯呼吸(IMV)を要した患者は、退院後6カ月経過しても、身体的な回復が十分でなく、不安やふさぎ込みといった精神症状も高率に認められることが明らかになった。名古屋大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学分野の春日井大介氏らの研究結果であり、詳細は「Scientific Reports」に9月4日掲載された。

     IMVの離脱後には身体的・精神的な後遺症が発生することがある。COVID-19急性期にIMVが施行された患者にもそのようなリスクのあることが、既に複数の研究によって明らかにされている。ただし、それらの研究の多くはICU退室または退院直後に評価した結果であり、かつ評価項目が限られており、COVID-19に対するIMV施行後の長期にわたる身体的・精神的健康への影響は不明。春日井氏らは、同大学医学部附属病院ICUに収容されたCOVID-19患者を対象とする前向き研究により、この点を検討した。

    COVID-19に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     2021年3~9月に同院ICUにてIMVが24時間以上施行された患者から、18歳未満、気管挿管がなされなかった患者、ICU死亡などを除外した64人を研究対象とした。なお、酸素投与量が4L/分未満となった時点で、ICUからCOVID-19一般病棟に転棟されていた。64人全員についてICU退室時に身体機能と精神症状が評価された上、32人は退院時にもそれらが評価された。さらに全員に対して退院6カ月後に、健康状態を確認するためのアンケートを郵送し、42人から回答を得た。

     解析対象者の主な特徴は、年齢中央値60歳(四分位範囲52~66)、男性85.9%で、ICU患者の重症度の指標であるSOFAは同10(8~11)、APACHE IIは21(19~24)、IMV施行期間は9日(6~15)だった。IMV施行期間9日以下/超で二分し比較すると、年齢、男性の割合、BMI、基礎疾患有病率、SOFA、APACHE II、および腎機能、炎症マーカー、凝固マーカーなどには有意差はなかった。ただし、IMV施行期間9日超の群(以下、長期IMV群)は、体外式膜型人工肺(ECMO)や気管切開の施行率と、肺のダメージを表すKL-6が高く、鎮静期間が長いという有意差があった。

     ICU退室時点の状態を比較すると、長期IMV群は、MRCという全身の筋力を評価するスコアが低く(60点満点で51対60点)、握力が弱い(10.6対18.0kg)という有意な群間差が見られた。抑うつや痛み、倦怠感などの9種類の身体的・精神的症状を評価するESASというスコアには、有意差がなかった。

     退院時の状態については、MRCスコアはICU退室時と同様に長期IMV群の方が有意に低かった(56対60点)。一方、ICU退室時には有意差がなかったESASスコアは、長期IMV群が高値で有意な群間差が認められた〔90点満点で17対4点(ESASはスコアが高いほど状態が良くないことを意味する)〕。

     退院6カ月後の状態は、EQ-5D-5LというアンケートとEQ-VASという指標で評価。その結果、EQ-5D-5Lでは5項目の評価項目(移動の程度、身の回りの管理、普段の活動、痛み/不快感、不安/ふさぎ込み)のうち、痛み/不快感を除く4項目は全て長期IMV群の方が不良であることを示し、総合評価(0.025~1の範囲で評価)にも有意差が存在した〔0.82対0.89(P=0.023)〕。また、0~100の範囲で健康状態を自己評価するEQ-VASでも有意差が確認された〔80対90(P=0.046)〕。

     著者らは、「本研究には、単一施設の研究でありサンプル数が十分でないといった限界点がある」とした上で、「COVID-19急性期に長期間IMVを要した患者は退院時に十分回復しておらず、さらに6カ月後にも健康状態の改善が不十分だった。重症COVID-19患者に対しては長期間のフォローアップと、積極的かつ学際的な治療アプローチが必要と考えられる」と述べている。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2023年11月6日
    Copyright c 2023 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • Long COVIDの倦怠感・ME/CFSにフェリチン高値が関与?

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)急性期以降に症状が遷延する、いわゆる「long COVID」における筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に、高フェリチン血症が関与している可能性を示唆するデータが報告された。岡山大学学術研究院医歯薬学域総合内科学の大塚勇輝氏、山本幸近氏、大塚文男氏らの研究結果であり、詳細は「Journal of Clinical Medicine」に7月18日掲載された。

     Long COVID患者の多くが倦怠感を呈するが、その一部は、強い症状のために日常生活にも支障が生じて、ME/CFSに類似した状態に移行することがある。一般人口におけるME/CFSの有病率は1%未満であるのに対して、long COVID患者では16.8%に上るというデータもある。ME/CFSの原因として、感染症、免疫応答の異常、内分泌機能不全などが想定されているが詳細は未解明であり、臨床医にとってME/CFSの診断は容易でない。Long COVID患者のME/CFSに何らかの特徴を見いだせれば、それを手掛かりとしてME/CFSの診断・治療へとつなげられる可能性が広がる。

    COVID-19に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     一方、COVID-19の急性期ではその重症度とフェリチンとの間に関連があり、long COVIDでもフェリチンの上昇が臨床的特徴の一つになり得ることが示唆されている。フェリチンは鉄貯蔵のマーカーだが、感染症や炎症によって高値となることも知られている。これらの知見を背景として大塚氏らは、岡山大学病院総合内科・総合診療科のコロナ・アフターケア(CAC)外来の患者データを用いて、フェリチン値を含めた臨床検査指標とME/CFSとの関連を横断的に解析した。

     解析対象は、2021年2月22日~2022年5月31日のCAC外来受診者312人から、COVID-19罹患後4週間未満のlong COVIDの診断基準を満たさない患者、COVID-19罹患以前から高フェリチン血症だった患者などを除外した234人。このうち139人(59.4%)が倦怠感を訴え、さらにその中の50人はME/CFSの診断基準を満たした。95人(40.6%)は倦怠感を訴えていなかった。なお、ME/CFSは、国内外で用いられている3種類の診断基準を全て満たす場合と定義した。

     ME/CFS群、ME/CFSの基準を満たさないが倦怠感のある群(非ME/CFS群)、倦怠感なし群を比較すると、年齢や性別の分布、BMI、COVID-19急性期の重症度には有意差がなかった。ただし、COVID-19罹患から受診までの期間は有意差があり、ME/CFS群が最も長く中央値128日、倦怠感なし群は106日、非ME/CFS群は最も短く73日だった。6種類の自覚症状評価スケールの評価結果は全て、ME/CFS群が最も重度であり、非ME/CFS群、倦怠感なし群の順に軽度となることを示していた。

     血液検査値に着目すると、貧血の有無や重症度を表すヘモグロビン、炎症マーカーのCRPや白血球数、凝固マーカーのDダイマーやフィブリノゲン、腎機能、肝機能、アルブミンなどの検査値には有意差は認められず、フェリチンのみME/CFS群が有意に高値であった(ME/CFS群は中央値193.0、非ME/CFS群98.2、倦怠感なし群86.7μg/L)。またフェリチン値は、6種類の自覚症状評価スケールのうち3種類(FASという倦怠感評価スケールなど)のスコアとの有意な相関も認められた。なお、フェリチン値を性別で比較すると女性の方が低値だが、ME/CFS群と非ME/CFS群との比較では、女性で群間差がより顕著で(中央値68.9対43.8μg/L)、男性は群間差が非有意となった。

     このほか、内分泌学的検査からは、成長ホルモン(GH)がME/CFS群は倦怠感なし群より有意に低いこと(0.22対0.37ng/mL)、インスリン様成長因子I(IGF-I)とフェリチン値との間に有意な負の相関(r=-0.328)があることなどが示された。

     これらの結果を総括して著者らは、「long COVIDに伴うME/CFSの特徴としてフェリチン高値が特定された」と結論付けている。なお、フェリチンは感染症や炎症で上昇するが、本研究の対象はCOVID-19罹患から長期間経過後であること、およびフェリチン以外の炎症マーカーは上昇していないこと、さらにCOVID-19急性期の重症度とME/CFSリスクとの間に関連がないことなどから、「急性期の炎症が遷延しているだけとは言いにくく、long COVIDに伴う鉄代謝への影響や、高血圧、睡眠障害、抑うつ、ホルモン分泌の変化などが病態に関連している可能性がある」との考察が加えられている。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2023年10月23日
    Copyright c 2023 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • COVID-19の影響で日本人の死亡率が東日本大震災以来の増加

     日本人の年齢調整死亡率は年々低下が続いていたが、2021年には増加に転じたことが明らかになった。主な要因は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、循環器疾患、老衰による死亡の増加だという。国立がん研究センターがん対策研究所データサイエンス研究部の田中宏和氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Open」に8月31日掲載された。

     日本人の死亡率(死亡者数が人口に占める割合)は高齢化のために年々上昇している。その一方で、高齢化の影響を統計学的に取り除いた年齢調整死亡率(ASMR)は、社会環境や生活習慣の改善、医療の充実などの影響を受けて、年々低下してきている。ASMRが上昇した近年での数少ない例外は、東日本大震災のあった2011年だった。

    COVID-19に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     COVID-19パンデミックにより、医療現場の混乱が発生し、社会環境や生活習慣、受療行動などが大きく変化したため、日本以外の多くの先進国では2020年の段階で平均寿命の短縮が報告された。ただし2020年時点では国内の感染拡大の規模が諸外国より抑制されていたことから、日本人の平均寿命は短縮しなかった。ところが2021年には、国内のCOVID-19患者数が2020年の6倍以上に増加し、ASMRに顕著な影響が生じた可能性が考えられる。これを背景として田中氏らは、厚生労働省「人口動態統計」のデータを用いて1995~2021年の日本人のASMRの推移を検討した。

     統計解析の結果、2020年までASMRはマイナスが続いていたが、2021年は男性が前年比2.07%増、女性は2.19%増であり、東日本大震災以来10年ぶりに増加に転じていたことが分かった。死因別に見た場合、COVID-19による10万人当たりのASMRは、男性は2020年が3.8であったものが2021年には17.5となり、女性は同順に1.5から7.7と上昇していた。

     COVID-19以外には、循環器疾患と老衰などによる増加が、ASMRの上昇に寄与していた。循環器疾患死の増加について著者らは、COVID-19罹患が血栓イベントのリスクを押し上げるという直接的な要因と、心筋梗塞や脳卒中の発作時の救急搬送の遅延のため、タイムリーな治療を受けられないケースが発生したという間接的な要因が考えられるとしている。また、老衰死の増加については、パンデミック中に在宅死が増えたと考えられ、在宅死では老衰死と判定されやすかったのではないかとの考察が述べられている。

     一方、がん、肺炎、不慮の事故による死亡は減少していた。肺炎による死亡の減少は、COVID-19感染抑止対策の副次的な効果であり、不慮の事故による死亡の減少は、外出自粛による交通事故などの減少が寄与した可能性があるとのことだ。

     論文の結論には、「日本ではCOVID-19パンデミックにもかかわらず、2020年もASMRの低下傾向が続いていたが2021年には約2%の上昇が観察され、これはCOVID-19、老衰、循環器疾患などに起因するものだった。2021年は日本の死亡率の推移の転換点となったのではないか」と述べられている。また、2022年の国内のCOVID-19患者数はさらに急増したことから、「ASMRに対するインパクトはより大きくなっている可能性がある」としている。

     なお、9月15日に発表された2022年の「人口動態統計(確定数)」では、日本人の死亡者数が2年連続で過去最高となったことが報告されている。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先1リンク先2厚生労働省「令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況」

    HealthDay News 2023年10月16日
    Copyright c 2023 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。

  • 感染対策の体温報告や出張制限は「不当な扱い」と捉えられがち――CORoNaWork研究

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中に職場で実施された対策の中で、毎日の体温測定の結果報告や出張制限などは、労働者から「不当な扱い」と捉えられがちだったことが分かった。産業医科大学第2内科の塚原慧太氏、同大学環境疫学研究室の藤野善久氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Occupational and Environmental Medicine」に7月7日掲載された。著者らは、「パンデミックが長期化して職場では対策疲れが生じている。Withコロナとなった今、労働者にあまり負担をかけずに持続可能な感染対策を策定する必要があり、本研究の結果を生かせるのではないか」と語っている。

     この研究は、同大学が行っている「COVID-19流行下における労働者の生活、労働、健康に関する調査(CORoNaWork研究)」の一環として実施された。CORoNaWork研究はインターネットアンケートによる全国規模の前向きコホート研究で、ベースラインデータは2020年12月の国内第3波の時期に取得されている。今回の研究では、その1年後に当たる2021年12月の第6波で行われた追跡調査のデータが解析された。アンケートの内容は、毎日の体温測定結果の報告、出張の制限、リモートワークの推奨など9項目の対策について、「勤務先で実施しているか?」、および、「感染対策の目的で、職場で不当な扱いを受けたことがあるか?」などの質問項目で構成されていた。

    COVID-19に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     解析対象者数は1万8,170人(平均年齢48.5±9.8歳、男性57.2%)で、56.4%が既婚であり、職種はデスクワーク中心が51.4%と最多であって、対人応対中心が24.5%、身体労働中心が24.1%。年収は500万円未満が38.5%、500~700万円未満21.3%、700~900万円未満17.2%、900万円以上が23.0%。勤務先の従業員数は10人未満が23.6%、10~50人未満が16.3%、50~1,000人未満が34.9%、1,000人以上が25.2%。教育歴は専門学校・短大・大学卒以上が72.9%、高校卒が25.8%、中学卒が1.3%。

     職場で行われていた感染対策の実施率は、高いものから順に、「マスク着用」77.1%、「体調不良時の出勤自粛」73.5%、「接待などの制限」69.6%、「毎日の体温測定結果の報告」61.8%、「パーテーション設置、机の配置の変更などの環境整備」56.9%、「対面での面談の制限」53.3%、「出張の制限」52.9%、「訪問の制限」44.3%、「リモートワークの推奨」29.3%。

     「職場で不当な扱いを受けた」と回答したのは、全体の1.5%に当たる276人だった。そのように回答した労働者の勤務先の感染対策実施率は、上記9項目全て、全体平均より高値だった。

     次に、9項目の感染対策それぞれについて、それを実施していない職場の労働者を基準とし、対策を実施している職場の労働者が「不当な扱いを受けた」と回答するオッズ比(OR)を検討。交絡因子(年齢、性別、職種、勤務先の従業員数、収入、教育歴、婚姻状況)を調整後、毎日の体温測定結果の報告〔OR1.43(95%信頼区間1.02~2.02)〕や、訪問の制限〔OR1.43(同1.02~2.01)〕という対策の実施は、有意なオッズ比上昇と関連していた。また、出張の制限はわずかに非有意ながら、オッズ比は1.45(同0.99~2.10)と高かった。

     一方、接待などの制限〔OR0.52(0.35~0.79)〕と、体調不良時の出勤自粛〔OR0.62(0.42~0.90)〕は、オッズ比の有意な低下と関連していた。そのほかの対策は有意な関連がなかった。

     以上より著者らは、「職場での感染対策の中には、労働者の負担を増やすものと減らすものがある。この知見は、感染症拡大リスクが存在する状況において、労働者が心身ともに健康な状態で働く環境を整備するために有用と考えられる」と述べている。なお、毎日の体温測定が不当な扱いと捉えられやすいことの理由として、「勤務時間外で自宅にいる時に、しかも多忙な朝に勤務先の指示に従い体温を測定して、その結果を報告しなければいけないことが、ストレスとなりやすいのではないか」との考察が加えられている。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2023年10月2日
    Copyright c 2023 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • アジア人の肥満は重症COVID-19転帰不良のリスク因子でない可能性――多施設共同研究

     アジア人の肥満は、人工呼吸器を要する重症新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者において、転帰不良のリスク因子ではないことを示唆するデータが、国内多施設共同研究の結果として報告された。東京医科大学病院救命救急センターの下山京一郎氏らによる論文が、「Scientific Reports」に7月24日掲載された。

     COVID-19パンデミックの比較的初期の段階で、肥満が重症化リスク因子の一つであると報告された。しかし重症化して人工呼吸器を要した患者において、肥満が予後に影響を与えるのかは未解明であった。また、アジア人においては大規模なコホート研究がされておらず、知見がより少ない。これを背景として下山氏らは、国内のCOVID-19治療に関するレジストリである「J-RECOVER」のデータを用いた過去起点コホート研究により、ICUに収容され人工呼吸器を要した患者の転帰に肥満が関与しているか否かを検討した。J-RECOVERは国内66施設が参加して実施され、2020年1~9月に退院したCOVID-19症例4,700件の診療報酬包括評価(DPC)データや治療転帰などの情報が登録されている。

    COVID-19に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     解析対象は、ICUにて侵襲的機械換気(IMV)が施行されていた580人から、BMIデータが記録されている477人とした。またアジア人の肥満の影響を検討するという目的から、アジア人以外は除外している。

     この477人の年齢は中央値67歳(四分位範囲56~75)、男性78.4%、BMI中央値25.0(22.3~28.1)であり、BMI25未満の非肥満群が242人(50.7%)、BMI25以上の肥満群が235人(49.3%)。各群のBMI中央値は、非肥満群22.4、肥満群28.2だった。

     肥満の有無で比較すると、年齢は肥満群のほうが若年で(中央値61対70歳、P<0.001)、糖尿病が多い(33.2対22.7%、P=0.014)という有意差が見られた。ただし、両群ともにチャールソン併存疾患指数(CCI)が中央値0、ICU患者の重症度の指標であるSOFAスコアは4、ICU滞在期間13日で、いずれも同等であり、慢性腎臓病、心不全の有病率も有意差がなかった。

     主要評価項目として検討した院内死亡は、非肥満群が71人(29.3%)、肥満群は49人(20.9%)であり、肥満群の方が少なかった(P=0.035)。単変量解析の結果、肥満は院内死亡との有意な負の関連が見られた〔オッズ比(OR)0.634(95%信頼区間0.417~0.965)〕。ただし、説明変数に年齢、性別、CCIを加えた多変量解析では単変量解析で見られた負の関連は消失し、肥満は院内死亡との関連は見られなかった〔OR1.150(同0.717~1.840)〕。

     副次的評価項目として検討した体外式膜型人工肺(VV-ECMO)の施行は、非肥満群が38人(15.7%)、肥満群は52人(22.1%)であり有意差がなかった(P=0.080)。単変量解析の結果、肥満は有意な関連因子でなく〔OR1.530(同0.960~2.420)〕、多変量解析の結果も非有意だった〔OR1.110(同0.669~1.830)〕。

     著者らは、本研究が後方視的解析であることなどの限界点を述べた上で、「国内のICUにてIMVを要したCOVID-19患者では、肥満は院内死亡リスクと関連がないことが示された。肥満を有することは重症COVID-19転帰不良のリスク因子ではないのではないか」と結論付けている。

     なお、欧米での一部の先行研究と異なる結果となった理由について、アジア人の肥満は欧米人ほどBMIが高くなく、本研究においても肥満群のBMIは中央値28.2であって欧米の過体重の範囲にあるという相違の影響を、考察として指摘している。また、肥満群のほうが若年であったこと、および、パンデミック当初に肥満が重症化リスク因子であると報告されていたため、肥満患者に対してより早期に積極的な治療が行われていた可能性の関与も考えられるという。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2023年9月19日
    Copyright c 2023 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。