• 経頭蓋磁気刺激療法でlong COVIDの精神症状改善の可能性――国内パイロット研究

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急性期以降に症状が遷延している、いわゆるlong COVIDの精神症状に対して、経頭蓋磁気刺激療法を施行したパイロット研究の結果が報告された。抑うつ症状や倦怠感、認知機能を改善する可能性が示されたという。慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室特任准教授(新宿・代々木こころのラボクリニック副院長/東京横浜TMSクリニック技術顧問)の野田賀大氏らの研究によるもので、詳細は「Asian Journal of Psychiatry」3月発行号に掲載された。

     Long COVIDでは、筋肉や関節の痛み、しびれ、頭痛、倦怠感などの身体症状のほかに、抑うつ、不眠、ブレインフォグ(頭がぼんやりして記憶力などが低下した状態)などの精神症状が現れやすく、これらに対する治療法はいまだ確立されていない。一方、精神疾患の治療法として、磁気エネルギーによって脳内に微弱な電流を起こす「経頭蓋磁気刺激療法(TMS)」のエビデンスが蓄積されてきており、難治性うつ病に対しては保険診療として行われている。野田氏らは、long COVIDの精神症状に対するTMSの有用性と安全性を検討した。

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     この研究は、都内でTMSを行っているクリニック2施設のlong COVID外来患者を対象とするケースシリーズ研究として実施された。研究参加の主な適格条件は、PCR検査が陽性で、COVID-19罹患後に初めてうつ病または不安障害の診断基準を満たす状態となり、TMS治療を希望する20~70歳の患者であることなど。一方、除外基準として、神経変性疾患などの器質的疾患、原発性睡眠障害、双極性障害、統合失調症、てんかん、インプラントやペースメーカーの使用、妊婦などが設定されていた。評価項目は、うつ病の重症度(MADRS)、抑うつ症状(PHQ-9)、パフォーマンスステータス(PS)、認知機能(PDQ-D-5)などで、TMS施行前とTMSを20回試行した後でこれらの変化を検討した。

     研究参加者は23人で、平均年齢38.2±11.7歳、女性13人で、COVID-19急性期に入院を要していた患者が7人であり、long COVIDの主訴は慢性疲労が12人、認知機能障害が11人。そのほかに大半の患者が、軽症以上の抑うつ症状も有していた。COVID-19罹患からTMS施行までの期間は48.6±30.2週だった。

     では結果だが、MADRSはTMS施行前が21.2±7.0、施行後は9.8±7.8、PHQ-9は同順に12.9±4.7、8.2±4.6、PSは5.4±1.6、4.2±1.8、PDQ-D-5は10.0±5.2、6.3±4.7であり、いずれも有意に改善していた(全てP<0.0001)。サブ解析の結果、男性は女性より抑うつ症状がより大きく改善したこと、COVID-19急性期の入院の有無やワクチン接種歴は有効性に有意な影響を及ぼしていないことなどが明らかになった。

     著者らは、本研究が小規模なパイロット研究であり、盲検化されていないこと、長期予後を評価していないことなど、多くの限界点があるとした上で、「難治性うつ病の治療に用いられているTMSが、long COVIDの精神症状の改善にも有用である可能性を、初めて示すことができた」と総括し、大規模な無作為化比較試験の必要性を述べている。

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    HealthDay News 2023年4月2日
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  • 独身者はCOVID-19罹患後に抑うつや記憶障害が現れやすい――大分県での調査

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急性期を乗り切った後にも、独身者は抑うつや記憶障害が現れやすいことを示唆するデータが報告された。特に、COVID-19急性期の症状が軽症だった人や40歳代の人で、配偶者の有無でのリスク差が大きいという。大分大学医学部呼吸器・感染症内科学の小宮幸作氏らの研究によるもので、詳細は「Respiratory Investigation」3月号に掲載された。

     COVID-19の急性期を脱した後にも長期間さまざまな症状が続くことが知られており、「post-COVID-19」または「long COVID」などと呼ばれている。Post-COVID-19のリスクに関連のある因子として、急性期の重症度の高さ、性別(女性)、社会経済的地位の低さなどとともに、婚姻状況(独身)が挙げられている。ただし、post-COVID-19に伴うメンタルヘルス症状と婚姻状況の関連は十分明らかになっていない。小宮氏らは、大分県と連携し、この点に的を絞った研究を行った。

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     大分県内の医療機関でpost-COVID-19の治療を受けた20~80歳の患者2,116人に無記名のアンケートへの回答を依頼。791人から回答を得て、データに不備のあるものを除外した749人(女性53%)の回答を解析対象とした。このうち72%は「配偶者がいる」と回答。なお、別居状態の人は配偶者ありとした。

     COVID-19急性期の重症度を世界保健機関(WHO)の定義に基づき分類すると、軽症が82%を占め、中等症は13%、重症が5%だった。患者の希望により入院したものの酸素投与の必要がなかった患者は軽症に分類した。

     COVID-19感染から1カ月後に見られた症状として、倦怠感、呼吸困難、集中力低下、抑うつ、味覚障害、不眠、記憶障害などが多く挙げられた。これらの症状を、婚姻状況別に比較。すると、抑うつの見られる患者の割合は、配偶者あり群18%、なし群26%であり、後者の方が有意に高かった(P=0.019)。そのほかの症状については、婚姻状況による有意差がなかった。

     次に、COVID-19急性期の重症度別に、抑うつと記憶障害を有する割合を解析すると、どちらも重症だった患者でそれらの訴えが多く見られた。ただし、婚姻状況の違いで顕著な差が見られたのは軽症だった患者群のみだった。具体的には、急性期に軽症だった患者で抑うつを訴える割合は、配偶者あり群15%、なし群25%と、後者の方が有意に高かった(P=0.006)。また急性期に軽症だった患者では、記憶障害を訴える割合も同順に5%、9%であって、非有意ながら後者で高かった(P=0.071)。

     続いて年齢層別に解析すると、40歳代の記憶障害を訴える割合は、配偶者あり群7%、なし群26%であり、後者の方が有意に高かった(P=0.007)。40歳代で抑うつを訴える割合も同順に22%、39%であって、非有意ながら後者が高値だった(P=0.061)。40歳代以外の世代では、配偶者の有無による顕著な差は認められなかった。

     以上より著者らは、「COVID-19急性期に軽症で独身の患者には、心理的サポートが必要ではないか」と結論付けている。なお、40歳代で婚姻状況による差が顕著であるという結果について、「この世代はメンタルヘルスの問題が発生しやすい年齢であり、社会や職場などで多くの責任を担っていることなどのために、孤独な状況の影響を強く受けるのではないか」との考察を加えている。

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    HealthDay News 2023年3月6日
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  • eGFR30未満でもレムデシビルの安全性に影響なし――国内単施設での後方視的研究

     腎機能が低下している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者に対するレムデシビルの安全性を検討した研究結果が報告された。eGFR30mL/分未満と以上の患者群を比較した結果、死亡率や有害事象発生率に有意差はなかったという。公立陶生病院薬剤部の梅村拓巳氏らによる研究であり、詳細は「Healthcare」に11月17日掲載された。

     レムデシビルはCOVID-19治療薬として世界的に使用されている抗ウイルス薬。ただし、添加剤のスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンナトリウム(SBECD)の尿細管への蓄積により、腎機能の低下が促される可能性があるとの理由で、重度の腎機能障害患者への投与は推奨されていない。レムデシビルを用いた臨床試験の対象者も多くの場合、腎機能が低下している患者が除外されているため、腎機能低下症例での安全性に関する情報はいまだ十分でない。しかし実臨床では、腎機能が低下しているCOVID-19患者であっても同薬が必要とされることが少なくない。このような背景のもと梅村氏らは、同院入院患者での後方視的症例対照研究により、同薬の安全性を検討した。

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     2020年3月~2022年4月に同院で入院治療を受けレムデシビルが投与されていたCOVID-19患者から、18歳未満、腎代替療法を行っている患者、および解析に必要なデータの欠落者を除外。残った227人の中に、eGFR30mL/分未満の重度腎機能障害患者が23人含まれていた。傾向スコアによって、年齢、性別、COVID-19重症度(WHO分類)、重症化リスク因子(BMI30以上、高血圧、糖尿病、心・脳血管疾患、免疫不全、慢性肝疾患、慢性肺疾患、がんの既往など)、および腎毒性のある薬剤の処方状況をマッチングさせたeGFR30mL/分以上の患者を抽出し、各群23人のデータセットを作成した。

     主要評価項目として、レムデシビル投与開始から30日以内の死亡を設定。そのほかに、同薬投与終了から48時間後までの急性腎障害(AKI)、肝機能障害、貧血、血小板減少症などの有害事象の発生状況を比較した。

     レムデシビル投与開始から30日以内の死亡は、両群ともに3人(13%)であり有意差がなかった〔リスク比(RR)1.00(95%信頼区間0.18~5.56)〕。死因については、eGFR30mL/分未満群の2人はCOVID-19関連死であり、1人は細菌性肺炎に関連するものだった。eGFR30mL/分以上群はCOVID-19関連死が2人、重度の脱水に関連する死亡が1人だった。

     有害事象に関しては、AKIはeGFR30mL/分未満群では発生せず、eGFR30mL/分以上群では1件発生〔RR1.05(同0.96~1.14)〕、肝機能障害は同順に2件と1件が発生し〔RR0.48(同0.04~5.66)〕、いずれも有意差がなかった。さらに、貧血や血小板減少症の発生率も有意差がなかった。なお、eGFR30mL/分未満群でもレムデシビル投与開始後に血清クレアチニン(sCr)値が急に上昇するような症例は認められず、投与開始後のsCrは時間経過に伴い徐々に低下する傾向が見られた。

     著者らは本研究が単施設での後方視的研究であること、レムデシビル投与に伴う腎機能低下のリスク要因とされるSBECDのレベルを測定していないことなどを限界点として挙げた上で、「腎機能障害の有無は、レムデシビルによるCOVID-19治療の安全性にほとんど影響を及ぼしていなかった。本研究の結果は、重度腎機能障害を有するCOVID-19患者の治療選択肢の判断において重要な意義を持つのではないか」と述べている。

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    HealthDay News 2023年2月6日
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  • 日本人long COVIDの特徴は?

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症、いわゆる「long COVID」の日本人での実態が報告された。症状としては倦怠感や抑うつなどが多く、女性や就労が制限されている人および非就労者でパフォーマンスの低下が顕著だという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Clinical Medicine」に10月31日掲載された。

     COVID-19罹患者のlong COVID発症率は25~60%とされており、研究対象によって大きな差がある。また、性別や年齢、就労状況、教育歴などの属性との関連も検討されていて、それらが関連ありとする研究と関連なしとする研究が混在している。加えてこれまでに報告されている研究は主として海外で行われたものであり、国内発のデータは少ない。日本は他国よりもCOVID-19の有病率と死亡率が低く、long COVIDの実態も海外とは異なる可能性が考えられる。これらを背景として藤原氏らは、日本人のlong COVIDの特徴の把握を試みた。

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     解析対象は、2020年1月6日~2021年10月2日に都内の外来診療所(ヒラハタクリニック)を受診したlong COVID患者のうち、COVID-19発症から28日以上経過後に持続、または発症した症状のある1,898人から、解析に必要なデータが欠落していた7人を除外した1,891人。平均年齢は37.8±12.2歳で、女性が59.7%を占め、受診の時期は、パンデミック第1波が1.8%、2波が5.9%、3波が41.8%、4波が18.2%、5波が32.2%。ワクチン接種が完了しているのは3.1%だった。

     Long COVIDの症状による日常生活動作への影響を、パフォーマンスステータス(PS)スコアという10点満点の指標で評価すると、平均3.1±2.4点だった。なおPSは、日常生活への影響が全くない場合は0点、終日臥床し全介助状態のいわゆる“寝たきり”の場合は10点と判定する。平均点に近い3点は、症状のために仕事を月に数日休む必要がある状態に当たる。実際、解析対象者のうち罹患前と同様に就労しているのは23.7%に過ぎず、14.2%は勤務時間を短縮して就労していて、20.9%は休職中か退職・解雇後だった(そのほか、8.3%は非就労、32.8%は不明)。

     訴える症状の数は平均8.4±3.2種類であり、頻度の高い症状は、倦怠感(90.3%)、抑うつ(81.2%)、ブレインフォグ〔頭がぼんやりして記憶力などが低下した状態(76.2%)〕、頭痛(71.2%)、呼吸困難(68.9%)、不眠症(63.8%)、動悸(61.7%)、体の痛み(60.6%)、嗅覚障害(52.4%)、食欲不振(50.6%)、味覚障害(45.2%)、脱毛(44.8%)などだった。

     PSスコアが6点(週の50%以上を休息している場合)以上をPSが特に低下した状態と定義すると、24.0%が該当。年齢や性別、受診時期(パンデミック第何波に当たるか)、ワクチン接種状況、就労状況などを調整後に、PS6点以上であることと関連する因子を検討すると、女性〔β=0.27(95%信頼区間0.08~0.47)〕、時短勤務者〔通常勤務者を基準にβ=1.59(95%信頼区間1.27~1.91)〕、休職中または退職・解雇後〔同3.64(3.35~3.93)〕、非就労〔同1.67(1.22~2.21)〕が有意な関連因子として抽出された。

     発現している症状も調整因子に加えた場合、多くの個々の症状が有意な因子として抽出され(倦怠感β=1.11、抑うつβ=0.47など)、女性については有意性が消失した。ただし前記の就労状況に関する三つの状態は全て、引き続きPSが低いことと有意な関連が認められた。

     著者らは、「女性はlong COVID罹患時にPSが低下しやすいことが示唆され、就労状況とPSとの有意な関連も認められた」と結論を述べるとともに、「日本のlong COVID患者の特徴の全体像を把握するためには、さらなる研究が必要」としている。

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    HealthDay News 2023年1月10日
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  • パンデミック下での職場いじめと精神的苦痛や希死念慮の実態――全国オンライン調査

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下で実施された、職場いじめと労働者のメンタルヘルスの実態に関する調査の結果が報告された。労働者の15%が職場いじめに遭っていたこと、在宅勤務の開始は職場いじめに遭う確率を下げるものの、男性では精神的苦痛や希死念慮の増加につながっていたことなどが明らかになった。神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科の津野香奈美氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Open」に11月2日掲載された。

     職場でのいじめは労働者のメンタルヘルスに悪影響を及ぼすことが想定されるが、その実態は明らかになっていない。また、COVID-19パンデミックに伴い人々の生活はそれまでと一変し、特に労働者では雇用環境の悪化や在宅勤務の開始などにより、新たなメンタルヘルスへの負荷が加わったと考えられる。津野氏らはこれらの点について、COVID-19パンデミックの社会・医療への影響を把握するために実施された大規模調査「JACSIS(Japan COVID-19 and Society Internet Survey)研究」のデータを解析し検討した。

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     JACSIS研究は、国内でのパンデミック第2波から第3波の合間にあたる2020年8~9月にwebを用い、性別、年齢、居住地を人口構成に一致させた上で無作為に抽出された調査パネルに回答を依頼し実施された。2万8,000人が回答した時点で受付を締切り。本研究では無職の人や不自然な回答を除外して、有職者1万6,384人を解析対象とした。その主な特徴は、平均年齢45.7±13.8歳、男性58.6%であり、経営者が5.7%、管理職12.3%、管理職以外の正社員44.0%、契約または派遣社員8.7%、アルバイト18.7%など。業種は製造業が16.8%で最も多く、その他は全て10%未満だった。

     「パンデミックに伴い身体的負荷が増えたか?」に「はい」と答えた人が20.7%で、心理的負荷については33.1%が「増えた」と回答した。26.5%の人は在宅勤務を行っており、そのうちの8.4%はパンデミックに伴い在宅勤務を開始し、18.1%はパンデミック前から行っていた。「2020年4月から半年間で職場いじめに遭ったか?」との質問には14.9%が「はい」と回答し、17.9%は「職場いじめを目撃した」と答えた。また、8.8%は精神的苦痛が重度と判定され(K6という評価スコアが24点中13点以上)、11.5%は過去半年間に「死にたいと思ったことがある」と回答した。

     職場いじめに遭った人の特徴を、性別、年齢、居住地、婚姻状況、教育歴、世帯収入、職位・業種・企業規模・勤務内容、うつ病の既往歴などの交絡因子を調整して解析。すると、以下の有意な関連因子が浮かび上がった。男性(該当者率が女性より+32%)、若年(65歳未満は65歳以上より+64~171%)、低収入(世帯収入600万円未満は1000万円以上より+16~82%)、経営者(アルバイトより+76%)、管理職(同+40%)、管理職以外の正社員(同+27%)、身体的負荷の増加(増加なしに比べて+40%)、心理的負荷の増加(同+21%)。その一方、パンデミック後に在宅勤務を開始した人は、職場いじめの該当者率が有意に低かった(-19%)。

     次に、職場いじめに遭遇したことと重度の精神的苦痛および希死念慮との関連を、前記と同様の交絡因子を調整して検討。すると、自分がいじめに遭った場合には、重度の精神的苦痛に該当する割合が184%、希死念慮を有する割合が113%、それぞれ有意に多いことが分かった。さらに自分が職場いじめに遭わなくても、その場面を目撃しただけで、同順に90%、41%、それぞれ該当者率が有意に高いことが示された。

     続いて、重度の精神的苦痛や希死念慮に関連する因子を性別に検討したところ、男性では、パンデミック後に在宅勤務を開始したことが、有意な関連因子の一つとして抽出された(重度の精神的苦痛は+20%、希死念慮は+23%)。女性ではこの関連は非有意だった。

     論文の考察の中で著者らは、本研究結果のうち注目すべき点として、女性より男性、非正規雇用者よりも正社員や管理職・経営者の方が、より多くの職場いじめに遭遇していた点を挙げている。これらは以前の研究報告にはあまり見られない結果であり、パンデミックにより状況が変化した可能性があるという。その背景として、「パンデミックに伴う勤務環境の変化への不満が、職位がより高い人に向けられた可能性があること、職位が高い人に女性よりも男性が多いことが影響しているのではないか」と推測している。

     結論は、「職場でのいじめやメンタルヘルスの問題を減らすには、以前から明らかになっていたリスク因子を有する労働者だけでなく、ハンデミックに伴う環境の変化の影響を受けている労働者にも焦点を当てる必要がある」とまとめられている。

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    HealthDay News 2022年12月5日
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  • 日本人では重症COVID-19にもレムデシビルが有効の可能性

     ICU入室を要する重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者にも、抗ウイルス薬のレムデシビルが有効であることを示すデータが報告された。発症9日以内に同薬が投与されていた場合に、死亡リスクの有意な低下が観察されたという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Medical Virology」に9月23日掲載された。

     COVID-19に対するレムデシビルの有効性はパンデミックの早い段階で報告されていた。同薬は現在までに流行した全ての変異株に有効とされてきており、世界保健機関(WHO)のCOVID-19薬物治療に関するガイドラインの最新版でも、軽症患者への使用が推奨されている。ただし重症患者での有効性のエビデンスが少なく、同ガイドラインでも条件付きの推奨にとどまっている。

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     他方、日本国内では機械的人工呼吸や体外式膜型人工肺(ECMO)を要するような重症COVID-19患者の死亡率が、他国よりも低いことが報告されている。このような日本の医療環境下であれば、海外とは異なる治療戦略が有効な可能性も考えられる。これを背景として藤原氏らは、同大学病院の医療記録を用いて、重症患者でのレムデシビルの有効性を後方視的に検討した。

     解析対象は、2020年4月~2021年11月に同院に入院しICU入室を要した患者のうち、新型コロナウイルス検査が陽性のCOVID-19患者で、ステロイド治療が行われた168人。このうち131人(78%)は、観察開始日(入院日または発症日のどちらか遅い日)に高流量酸素または人工呼吸器による治療を受けていた。

     解析対象者168人中、96人は発症9日以内にレムデシビルが投与され、37人は発症10日目以降に同薬が投与されていた。他の35人には同薬が投与されていなかった。全期間の院内死亡率は19.0%であり、前記の3群で比較すると、同順に10.4%、16.2%、45.7%だった。なお、解析対象期間の2020年4月~2021年11月は、パンデミック第1波から第5波に相当するが、院内死亡率については大きな違いはなかった。

     入院日、併存疾患数、腎機能・肝機能障害、酸素需要量、胸部CT検査による肺炎の重症度などの交絡因子を調整したCox回帰モデルで、レムデシビルが投与されていなかった群を基準として院内死亡率を比較。その結果、同薬を発症9日以内に投与されていた群では院内死亡率が9割低いことが示された〔ハザード比(HR)0.10(95%信頼区間0.025~0.428)〕。一方、発症10日目以降に同薬が投与されていた群では、有意な死亡率低下は観察されなかった〔HR0.42(同0.117~1.524)〕。

     重症のCOVID-19患者ではレムデシビルの有効性が認められないとするこれまでの研究の多くは、アジア人以外の人種での研究だった。一方、今回の研究の解析対象は大半が日本人であり、日本人以外(対象の4.8%)も全てアジア人だった。著者らは、「アジア人種の重症COVID-19患者にはレムデシビルが有効である可能性を、実臨床で示すことができた意義は大きい」と述べている。

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    HealthDay News 2022年11月14日
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  • 肥満はCOVID-19に伴う血栓症リスクに影響なし?――CLOT-COVID研究

     肥満は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症化のリスク因子ではあるものの、COVID-19に伴う血栓症リスクへの影響は統計的に有意でないとするデータが報告された。三重大学医学部付属病院循環器内科の荻原義人氏らの研究であり、詳細は「Journal of Cardiology」に8月28日掲載された。

     肥満は入院患者に発生する血栓症のリスク因子であることが以前から知られている。またCOVID-19が血液の凝固異常を引き起こし血栓症のリスクを上げることも、既に明らかになっている。ただし、肥満がCOVID-19に伴う血栓症のリスク因子であるか否かは明らかにされていない。荻原氏らはこの点について、COVID-19患者の血栓症や抗凝固療法に関する国内16施設の共同研究「CLOT-COVID研究」のデータを後方視的に解析し検討した。

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     CLOT-COVID研究には2021年4~9月のCOVID-19入院患者2,894人が登録されており、BMIデータのない患者と18歳未満の未成年を除外した2,690人を解析対象とした。国際的な基準であるBMI30以上を肥満と定義すると17%が該当した。

     肥満群は非肥満群に比較して若年で(平均47対55歳、P<0.01)、高血圧、糖尿病の有病率が高いという有意差が見られた。一方、性別(男性の割合)、入院時のDダイマー、静脈血栓塞栓症(VTE)や大出血の既往者の割合などには有意差がなかった。また、肥満群はCOVID-19の重症度が高く(P=0.02)、血栓症に対するヘパリンなど抗凝固薬の予防的投与が行われていた割合も高かった(55%対42%、P<0.01)。

     入院中の血栓症は、54件(2.0%)発生していた。その内訳は、VTE(画像検査などで確認された肺塞栓症、深部静脈血栓症)が最も多く39件であり血栓症の72%を占めていた。ほかには、動脈血栓イベント(心筋梗塞、虚血性脳卒中など)が12件、その他の血栓症が6件だった。大出血イベントは56件(2.1%)、全死亡は145人(5.4%)だった。

     肥満群と非肥満群の血栓症発生率を比較すると、同順に2.6%、1.9%であり有意差はなく(P=0.39)、VTEは2.2%、1.3%(P=0.15)、大出血2.4%、2.0%(P=0.59)、全死亡4.4%、5.6%(P=0.29)であり、いずれも有意差がなかった。その一方で、全死亡および機械的人工換気または体外式膜型人工肺(ECMO)の施行で構成される複合エンドポイントの発生率は、20.1%、15.0%(P<0.01)で肥満群の方が高かった。

     年齢、性別、高血圧・糖尿病・心疾患・呼吸器疾患・活動性がんの影響を調整したロジスティック回帰分析の結果、非肥満群に対する肥満群の血栓症のオッズ比(OR)は1.39(95%信頼区間0.68~2.84)となり、肥満による有意なリスク上昇は示されなかった。一方、全死亡や機械的人工換気、ECMOの複合エンドポイントはOR1.85(同1.39~2.47)であり、肥満が有意なリスク因子と考えられた。

     著者らは、本研究の限界点として、ワクチン接種状況が把握されていないこと、COVID-19に対する治療や抗凝固薬予防投与が各医師の裁量で決定されていたこと、肥満該当者が少なかったことなどを挙げた上で、「肥満はCOVID-19の重症度と関連があるものの、COVID-19に伴う血栓症の発症とは有意な関連がなかった」と結論付けている。なお、本研究以外にも、VTEを発症したCOVID-19患者はBMI高値だがCOVID-19の重症度も高いとする国内の既報研究があることから、「COVID-19に伴う血栓症はCOVID-19の重症度の高さに関連するものであり、肥満に起因するものではないのではないか」との考察を加えている。

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    肥満という言葉を耳にして、あなたはどんなイメージを抱くでしょうか?
    今回は肥満が原因となる疾患『肥満症』の危険度をセルフチェックする方法と一般的な肥満との違いについて解説していきます。

    肥満症の危険度をセルフチェック!一般的な肥満との違いは?

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    HealthDay News 2022年11月7日
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  • COVID-19感染リスクを過小/過大評価する人の特徴――高齢日本人での検討

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患するリスクを過小評価しがちな人と、その反対に過大評価しがちな人の特徴が明らかになった。京都大学大学院医学研究科社会疫学分野の竹村優太氏らが、日本人高齢者を対象に行った調査の結果であり、詳細は「SSM – Population Health」9月号に掲載された。

     COVID-19対策には適切なリスク評価が重要であり、リスクを過小評価する楽観的認識は、予防対策の軽視による感染リスクの上昇につながりかねない。反対にリスクを過大評価する悲観的認識は、精神的ストレスによる健康上の問題につながりかねない。高齢者はCOVID-19罹患率が高く重症化しやすいため、楽観/悲観的認識に基づく予防対策の差異の影響が、より大きく現れる可能性がある。そこで竹村氏らは、日本人高齢者を対象とする調査を行い、COVID-19罹患リスクを過小/過大評価しやすい人の特徴の把握を試みた。

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     この研究は、全国の自治体が参加して行われている「日本老年学的評価研究(JAGES)」の一環として実施された。2020年11月30日~2021年2月8日に、11の市区町村から65歳以上で要介護認定を受けていない一般住民2万4,613人を無作為に抽出し、調査協力を依頼。1万8,238人(74.1%)から回答を得た。データ欠落者などを除外し、1万8,045人を解析対象とした。解析対象者の主な特徴は、平均年齢75.7±6.5歳、女性52.5%で、70%以上が何らかの慢性疾患を有しており、86.5%は日常生活に介助を必要としない自立した生活を送っていた。

     「緊急事態宣言期間中(2020年4~5月)、あなた自身が新型コロナウイルスに感染する可能性はどの程度あると感じていましたか」との質問に四者択一で回答してもらった。回答の割合は、「まったくない」が8.8%、「あまりない」37.5%、「多少ある」42.9%、「かなりある」7.1%となった(無回答など3.7%)。1つ目を選んだ人を楽観的、4つ目を選んだ人を悲観的と定義し、2つ目および3つ目を選んだ人を対照群として、多項ロジスティック回帰分析により、楽観/悲観的認識と関連のある因子を検討した。

     まず、基本的な属性との関連については、年齢が高いほど楽観的認識が強いという関連があった〔オッズ比(OR)1.05〕。ただし、年齢と悲観的認識との関連は非有意だった。性別や配偶者の有無は、楽観/悲観的認識の双方と関連がなかった。

     社会経済的要因については、教育歴が長いことは楽観的認識の弱さと関連し(OR0.72~0.76)、悲観的認識とは関連がなかった。主観的な所得の高さは楽観的認識の強さと関連し(OR1.10)、悲観的認識とは関連がなかった。有職者であることは悲観的認識の強さと関連し(OR1.81)、楽観的認識とは関連がなかった。

     自己申告による慢性疾患のうち、糖尿病患者は楽観的認識が強く(OR1.11)、心疾患患者は楽観的認識が弱かった(OR0.72)。また、呼吸器疾患患者は悲観的認識が強かった(OR1.54)。脳卒中やがんは楽観/悲観的認識ともに、有意な関連がなかった。老年期うつ病評価尺度(GDS15)で評価したうつレベルの高さは、楽観的認識の弱さ(OR0.69~0.73)、悲観的認識の強さ(OR1.37~1.91)の双方と関連していた。

     居住地域の社会的な絆の強さは悲観的認識の弱さと関連し(OR0.94)、楽観的認識とは関連がなかった。そばに相談相手がいることは楽観的認識の弱さと関連し(OR0.82)、悲観的認識とは関連がなかった。ボランティアやスポーツ、趣味などの社会参加の頻度は、楽観/悲観的認識ともに有意な関連がなかった。

     行動をとる上で最も参考にしていた情報ツールとの関連については、テレビのニュース番組を参考にしていた人は楽観的認識が弱く(OR0.79)、悲観的認識が強かった(OR1.22)。テレビの情報番組を参考にしていた人は楽観的認識が弱く(OR0.84)、悲観的認識とは関連がなかった。インターネット情報を参考にしていた人は悲観的認識が強く(OR1.22)、楽観的認識とは関連がなかった。行政から発信される情報を参考にしていた人は楽観的認識が弱く(OR0.94)、悲観的認識とは関連がなかった。医療スタッフを参考にしていた人は悲観的認識が強く(OR1.60)、楽観的認識とは関連がなかった。家族や友人の情報を参考にしたことは、楽観/悲観的認識ともに有意な関連がなかった。

     以上、一連の結果を基に著者らは、「高齢、教育歴が短い、経済的に恵まれている、および糖尿病といった因子を持つ人はCOVID-19罹患リスクを過小評価する傾向がある。これらの人に対しては、感染リスクを強調して伝えるべきかもしれない。一方、うつ傾向のある人や有職者はリスクを過大評価する傾向があり、感染予防対策をしっかり行えばあまり不安がらなくても良いといったアドバイスが必要かもしれない」とまとめている。

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    HealthDay News 2022年10月3日
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  • パンデミック中に糖尿病患者の受診頻度が有意に減少

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに伴い、定期的に受診していた糖尿病患者の受診や処方頻度が有意に減少したことが明らかになった。特に女性患者に、より大きな変化が認められるという。福岡大学医学部衛生・公衆衛生学教室の前田俊樹氏らの研究によるもので、詳細は「Medicine」に7月22日掲載された。

     COVID-19パンデミック発生後に外来受診者数が減少したことについては、既に複数の報告がある。ただしそれらの研究の多くは、パンデミック前後での受診者数を比較したものであり、パンデミック以前から定期的に受診をしていた患者の受療行動の変化を検討した研究は少ない。糖尿病は受診中断が疾患コントロールの悪化につながり、合併症リスクを押し上げるという疾患特性があるため、患者の受療行動の変化の把握が重要と言える。そこで前田氏らは、糖尿病診療にかかわる医療費請求データを縦断的に解析して、この点を検討した。

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     研究に用いたデータは、都内の運輸業関連健康保険組合の2017年10月~2020年9月の医療費請求情報。2019年度時点の被保険者8万4,907人のうち、3,753人に血糖降下薬が処方されており、このうち前記の追跡期間に切れ目なく保険に加入していたのは3,014人だった。その中より2017年度中に1~3カ月おき、もしくは年に4回以上受診の上、血糖降下薬が処方された1,118人を研究対象とした。

     パンデミック前からの経時的な変化を把握するため6カ月ごとに期間を区切り、2018年10月~2019年3月(1期)、2019年4~9月(2期)、2019年10月~2020年3月(3期)、および、緊急事態宣言が発出されパンデミック第1波に当たる2020年4~9月(パンデミック期)という、計4期に分けて比較した。なお、パンデミックの第1波は、患者数はわずかであったものの、COVID-19の感染力や死亡リスクが明らかでなく、また治療法が確立されておらずワクチンもなかったことから、医療も含めて社会の混乱が大きかった。

     2018年10月時点での研究対象者の特徴は、平均年齢56.2±8.6歳、女性22.3%、被保険者83.5%(被扶養者16.5%)で、平均月収37.00±1.87万円だった。

     受診・処方の間隔が3カ月以上空いた場合を「受診・処方の遅延」と定義してその発生状況を見たところ、パンデミック前は1期が52件、2期63件、3期73件、パンデミック期は152件であり、発生率はパンデミック前が5.6%、パンデミック期は11.2%と有意差が見られた(P<0.001)。年齢、性別、被保険者/被扶養者、月収、季節による受診間隔の変動、および処方内容を調整後も、パンデミック期は受診・処方の遅延が約3.7倍多く発生していた〔調整オッズ比(aOR)3.68(95%信頼区間2.24~6.04)〕。感度分析のため、受診・処方の間隔が4カ月以上空いた場合で検討した結果からも、同様の関係が確認された〔aOR4.95(同2.54~9.66)〕。

     次に、年齢(平均値の57歳で二分)、性別、被保険者/被扶養者、月収(平均値の37万円で二分)、処方薬の種類などで層別化したサブグループ解析を施行。その結果、性別でのみ有意な交互作用が認められ、女性患者で受診・処方の遅延がより多く発生していた〔男性はaOR2.65(95%信頼区間1.55~4.52)、女性はaOR19.31(同5.24~71.15)、交互作用P=0.013〕。なお、57歳以上や被扶養者は非有意ながら、受診・処方の遅延の発生が多い傾向があった。

     著者らは、本研究ではHbA1cやBMIなどの臨床検査データを利用し得なかったこと、ワクチン普及後には状況が変化している可能性があることなど、解釈上の留意点を挙げた上で、「定期的に受診を継続していた糖尿病患者に、COVID-19パンデミックが及ぼした影響が明らかになった。受診・処方の遅延は女性患者でより多く発生していた」と結論付けている。また、「パンデミックにより発生した受診・処方の遅延が、糖尿病合併症罹患率をはじめとする臨床転帰に及ぼす影響を引き続き観察していく必要がある」と述べている。

     なお、男性に比較して女性にパンデミックの影響が強く表れていることの理由について、著者らは「不明」としながらも、「女性は男性よりリスク回避行動をとる傾向があること、女性は被扶養者であることが多いため、産業医からの受診継続の働きかけが届きにくいことなどが背景にあるのではないか」と考察している。

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    糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。

    糖尿病のセルフチェックに関連する基本情報

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    HealthDay News 2022年9月5日
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  • ガイドライン改訂とパンデミックで日本人の血圧はどう変わった?

     健診データを用いて、2015~2020年度に日本人の血圧がどのように変化したかを解析した結果、2019年のガイドライン改訂や2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響が確認されたとする論文が報告された。東北医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学教室の佐藤倫広氏らの研究結果であり、詳細は「Hypertension Research」に6月20日掲載された。

     近年の日本では国民の血圧に影響を与え得る二つの出来事があった。一つは2019年に日本高血圧学会がガイドラインを改訂し、75歳未満の成人の降圧目標を以前の140/90mmHg未満から130/80mmHg未満(いずれも診察室血圧)に引き下げたこと。もう一つは2020年のCOVID-19パンデミックで、生活様式の変化やストレスが、人々の血圧に影響を及ぼしている可能性が指摘されている。佐藤氏らは、健康保険組合および国民健康保険の健診データを用いた後ろ向きコホート研究によって、一般住民の血圧の変化を調べた。

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     2015~2020年度に定期健診を複数回受診していて、血圧の変化を把握可能な15万7,510人(平均年齢50.9±12.3歳、男性67.5%)を解析対象とした。後期高齢者医療制度の対象である75歳以上は含まれていない。解析対象者は、高血圧治療を受けていない男性が56.2%、同女性が27.9%、高血圧治療を受けている男性が11.0%、同女性4.9%で構成されていた。

     まず、ガイドライン改訂前までの2015~2018年度の変化を、季節による血圧の影響を除外するため健診を受けた月を調整して検討した結果、収縮期血圧は前記の4群の全てで有意な上昇が観察された。血圧に影響を及ぼし得る季節以外の交絡因子(年齢、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、腎疾患・虚血性心疾患・脳血管疾患の既往、および血清脂質・血糖・肝機能関連指標などの健診で把握可能な全ての因子と時間依存性共変量)を調整すると、高血圧治療を受けている男性のみ、2015~2018年度にかけて有意な収縮期血圧の低下が観察された。一方でその他の3群の収縮期血圧は、いずれも有意に上昇していた(治療を受けていない女性は+0.33mmHg、同男性は+0.15mmHg、治療を受けている女性は+0.43mmHg、同男性は-0.24mmHgの変化)。

     次に、ガイドライン改訂の影響を調べるため、2018年度と2019年度の差を見ると、前記の全交絡因子を調整したモデルでは、高血圧治療を受けていない女性を除く3群で、有意な収縮期血圧の低下が認められた(治療を受けていない男性は-0.16mmHg、治療を受けている女性は-1.01mmHg、同男性は-0.25mmHgの変化)。治療を受けていない女性は有意な変化が認められなかった。

     続いて、パンデミックの影響を調べるため、2019年度と2020年度の差を前記の全交絡因子を調整したモデルで見ると、全群で有意な収縮期血圧の上昇が認められた(治療を受けていない女性は+2.13mmHg、同男性は+1.62mmHg、治療を受けている女性は+1.82mmHg、同男性は+1.06mmHgの変化)。

     まとめると、日本人の血圧は、2019年のガイドライン改訂後にわずかに低下し、2020年のパンデミック後に収縮期血圧が1~2mmHg程度上昇していた。パンデミックによる血圧の上昇について著者らは、「一般住民で認められたこの血圧上昇幅は、米国からの報告とほぼ一致している。一人一人で見ればわずかな変化と言えるかもしれないが、全国規模では合併症罹患率などに大きな影響を及ぼす可能性がある」と述べている。

     また、パンデミック後の血圧上昇幅が、男性よりも女性で大きいことの背景として、「パンデミックが女性に対して、より大きな精神的ストレスを与えていることを表しているのではないか」との考察を加えている。

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