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8月 10 2023 コロナ禍の大学生のメンタルへの影響は2021年時点の4年生が最大
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの大学生のメンタルヘルスへの影響を、学年別に検討した結果が報告された。2021年時点の4年生に、メンタルヘルスへの影響が最も強く現れていたという。岐阜大学保健管理センターの堀田亮氏らの研究によるもので、詳細は「Psychiatry Research」7月号に掲載された。
日常生活を急変させたCOVID-19パンデミックが、人々のメンタルヘルスに大きな影響を与えたことについて、多くの研究報告がなされている。ただし、大学生のメンタルヘルスへの影響を経時的かつ学年別に比較検討した研究は見られない。一方、岐阜大学では毎年、全学生を対象に健康状態のオンライン調査を実施している。堀田氏らは今回そのデータを用いて、大学2~4年生のパンデミックによるメンタルヘルスへの影響を詳細に検討した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。解析対象は6,441人(平均年齢20.27歳、男性48.8%)で、2~4年生がほぼ3分の1ずつを占めていた。調査の実施時期は各年の2月で、2020年は国内ではまだパンデミックに至っておらず、大学では平常の講義が行われていた。2021年はリモート講義が行われている時期で、2022年は正常に回復する段階での調査だった。
メンタルヘルス状態の評価には、大学生の心理カウンセリングのために開発された指標(CCAPS)の日本語版を用いて、過去2週間の状態をオンラインで回答してもらった。解析は、8領域のサブスケール(抑うつ、全般性不安、社会不安、食事関連の懸念、家族関係のストレス、飲酒習慣、学業ストレス、敵意)について実施。回答者が「全く当てはまらない」~「かなり当てはまる」の5段階から選択した結果を、0~4点のリッカートスコアとして判定し、スコアが高いほどストレスをより強く感じていると判断した。
調査年・学年別に解析した結果、2~4年生の全てにおいて、2021年は2020年よりCCAPSのサブスケールのスコアが総じて高く、2022年にはやや低下するという傾向が認められた。ただし、飲酒習慣を表すスコアは、いずれの学年でも2020年が最も高値であった。この点について著者らは、飲酒行動につながりやすいサークル活動やイベント開催は、2020年の春以降に減少したためではないかとの考察を述べている。
なお、2年生では食事関連の懸念が2022年、家族関係のストレスは2020年に最高値であり、3年生では食事関連の懸念が2022年に最高値という、一部の例外的な変化が認められた。ただし、4年生については飲酒習慣を除く全てのサブスケールのスコアが、2021年に最高値であり、2020年や2022年のスコアとの比較で有意差が認められた。また、2021年の4年生のスコアは、2年生や3年生よりも高値であった。例えば、2021年の抑うつスコアは2年生が0.89±0.73、3年生0.94±0.77であるのに対して4年生は1.11±0.83であり、全般性不安も同順に0.97±0.71、1.00±0.74、1.16±0.75だった。
以上に基づき著者らは、「2021年に大学2~4年生の全てでメンタルヘルスの悪化が観察され、上級学年でその傾向が強く、特に4年生で顕著だった」と結論付けている。また、本研究は「大学生の学年別にパンデミック前後の影響を比較検討した初の研究」であり、「上級学年の大学生のメンタルヘルスを適切にサポートするための公衆衛生プログラム策定に向けた基礎データとなり得る」と述べている。
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7月 31 2023 Long COVIDは頭痛の有無でQOLが異なる
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)急性期以降にさまざまな症状が遷延している状態、いわゆる「long COVID」の病状を、頭痛に焦点を当てて詳細に検討した結果が報告された。頭痛を有する患者はオミクロン株流行以降に増加したこと、年齢が若いこと、生活の質(QOL)がより大きく低下していることなどが明らかになったという。岡山大学大学院医歯薬学総合研究科総合内科学分野の大塚文男氏の率いる診療・研究チームによるもので、「Journal of Clinical Medicine」に5月18日掲載された。
この研究は、岡山大学病院総合内科・総合診療科に設けられている、コロナ・アフターケア(CAC)外来を2021年2月12日~2022年11月30日に受診した患者から、研究参加への不同意、年齢が10歳未満、データ欠落などに該当する人を除外した482人を対象とする、後方視的観察研究として行われた。Long COVIDは、COVID-19感染から4週間以上経過しても何らかの症状が持続している状態と定義した。
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その一方、COVID-19罹患の時期を比較すると、頭痛なし群はデルタ株以前の流行時に罹患した患者が53.9%と過半数を占めていたのに対して、頭痛あり群ではオミクロン株出現以降に罹患した患者が61.1%を占めていた(P<0.05)。また、頭痛なし群ではCOVID-19罹患から平均84日後にCAC外来を受診していたが、頭痛あり群では約2週間早く外来紹介されていた(P<0.01)。
頭痛以外の症状の有病率を比べると、以下に挙げるように、頭痛あり群の方が有病率の高い症状が複数認められた(以下の全てがP<0.05)。倦怠感(76.1対54.7%)、不眠症(36.2対14.9%)、めまい(16.8対5.7%)、発熱(9.7対3.8%)、胸痛(5.3対1.1%)。一方、嗅覚障害の有病率は、頭痛あり群の方が有意に低かった。
次に、さまざまな症状の主観的評価指標〔抑うつ症状(SDS)、胃食道逆流症(FSSG)、倦怠感(FAS)〕のスコアを見ると、それらのいずれも、頭痛あり群で症状が有意に強く現れていることを示しており、QOLの評価指標(EQ-5D-5L)は頭痛あり群の方が有意に低かった(P<0.01)。
続いて、EQ-5D-5Lスコア0.8点未満をQOL障害と定義して、多変量解析にて独立して関連する症状を検討。その結果、最もオッズ比(OR)の高い症状は頭痛であることが明らかになった〔OR2.75(95%信頼区間1.55~4.87)〕。頭痛のほかには、しびれ〔OR2.64(同1.33~5.24)〕、倦怠感〔OR2.57(1.23~5.34)〕、不眠症〔OR2.14(1.24~3.70)〕などがQOL低下と独立した関連があり、反対に嗅覚障害は唯一、負の有意な関連因子として抽出された〔OR0.47(0.23~1.00)〕。
著者らは本研究の限界点として、単一施設での後方視的研究であるため解釈の一般化が制限されること、頭痛の臨床像が詳しく検討されていないことなどを挙げている。その上で、「頭痛はlong COVIDの最も深刻な症状の一つであり、単独で出現することもあれば、ほかの多くの症状と併存することもある。頭痛がほかの症状の主観的評価に悪影響を及ぼす可能性もあり、long COVIDの治療に際しては頭痛への対処も優先すべきではないか」とまとめている。
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7月 19 2023 国内COVID-19入院患者の精神症状の実態――不眠やせん妄は重症度と相関
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院患者では、ほかの呼吸器疾患患者よりも精神症状発現率が高く、また一部の症状はCOVID-19重症度と相関することが明らかになった。九州大学大学院医学研究院精神病態医学の中尾智博氏らの研究によるもので、詳細は「Brain, Behavior, & Immunity – Health」5月号に掲載された。
COVID-19の後遺症、いわゆるlong COVIDでは倦怠感などの身体症状に加えて、抑うつや不安などの精神症状が高頻度に現れることが知られている。一方、COVID-19急性期の精神症状については大規模研究の報告が限られている。これを背景として中尾氏らは、福岡県内の9病院のDPC(診療報酬包括評価)データおよび精神科カルテデータを用いた解析から、COVID-19入院患者に発生する精神症状の実態の把握を試みた。
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36.1%に対して入院中に睡眠薬、11.2%に抗うつ薬、5.8%に抗不安薬が処方され、27.6%には抗うつ薬や抗不安薬およびその他の向精神薬が併用されていた。睡眠薬の処方に関連する因子を多変量解析で検討すると、年齢〔オッズ比(OR)1.03〕、糖尿病(OR1.53)、慢性腎臓病(OR1.59)が独立した因子として抽出された。また、向精神薬の処方に関連する因子の多変量解析からは、年齢(OR1.04)、糖尿病(OR1.29)、認知症(OR1.88)が有意な正の関連因子、BMIが18~25であることは有意な負の関連因子(BMI18未満と比較してOR0.56)として抽出された。
次に、入院中に精神科の介入を要した患者221人(8.1%)に着目し、この患者群をCOVID-19の重症度で分類(厚生労働省の診療の手引き第6版に基づく分類)すると、不眠やせん妄は重症度が高いほど出現頻度が高いという有意な関連が認められた。一方、不安の出現頻度はCOVID-19重症度との関連が見られなかった。
続いて、インフルエンザ入院の患者データを用いて、傾向スコアマッチングにより年齢や性別の分布、併存疾患有病率が一致する各群211人から成るデータセットを作成。両群の薬剤処方状況を比較すると、睡眠薬の処方率はインフルエンザ群が25.1%、COVID-19群が41.7%であり、後者に対して有意に多く処方されていた(P<0.001)。抗不安薬については同順に3.3%、7.6%でやはり後者で高かったが、群間差はわずかに非有意だった(P=0.054)。抗うつ薬は7.1%、10.9%だった(P=0.174)。
同様に、インフルエンザ以外の急性気道感染症と診断されていた患者データを用いて、性別の分布、併存疾患有病率が一致する各群1,656人から成るデータセットを作成(年齢はCOVID-19群の方が若年で有意差あり)。両群を比較すると、睡眠薬の処方率は急性気道感染症群37.0%、COVID-19群40.5%でやはり後者の方が有意に高く(P=0.039)、抗うつ薬についても同順に9.6%、12.9%で後者の方が高かった(P=0.003)。一方、抗不安薬は7.7%、5.9%であり、前者の方が高かった(P=0.039)。
これらの結果から論文の結論は、「COVID-19入院患者は不眠や抑うつ、不安が発症しやすく、他の呼吸器感染症より向精神薬の処方率が高かった。一部の精神症状はCOVID-19の重症度と相関していた。COVID-19は既存の感染症より精神機能へ与える影響が大きいと考えられる」とまとめられている。また考察として、「COVID-19の急性期に発症する精神症状とlong COVIDの精神症状が連続したものである可能性もある」と述べ、この点についての今後の検討の必要性を指摘している。
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7月 14 2023 小学生のコロナ感染リスクに近隣の社会経済環境が関連――大阪市での研究
自宅周辺の社会経済環境と、小学生の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染リスクとの関連が報告された。高学歴者の多い環境で暮らす小学生は感染リスクが低く、卸売・小売業の従事者が多い環境の小学生は感染リスクが高いという。同志社大学大学院スポーツ健康科学研究科の大石寛氏(大学院生)、同大学スポーツ健康科学部の石井好二郎氏らの研究の結果であり、詳細は「Children」に4月30日掲載された。
居住地域の社会経済環境とCOVID-19感染リスクとの間に有意な関連があることは、既に複数の研究から明らかになっている。ただしそれらの研究の多くは海外で行われたものであり、またCOVID-19重症化リスクの低い小児を対象とした研究は少ない。日本は子どもの相対的貧困率が高いこと、および、当初は低いとされていた子どものCOVID-19感染リスクもウイルスの変異とともにそうでなくなってきたことから、国内の子どもたちを対象とした知見が必要とされる。これを背景として石井氏らは、大阪市内の公立小学校の282校の「学区」を比較の単位とする研究を行った。なお、大阪市内には生活保護受給率が全国平均の3倍を上回る地区が複数存在している。
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COVID-19に感染した小学生の数を目的変数、社会経済環境関連の指標を説明変数とし、共変量で調整後の解析で、大学卒業者が多く住んでいる学区では小学生のCOVID-19罹患率が有意に低いという負の相関が認められた〔罹患率比(IRR)0.95(95%信頼区間0.91~0.99)〕。一方、卸売・小売業従事者が多い学区では小学生のCOVID-19罹患率が有意に高いという正の相関が確認された〔IRR1.17(同1.06~1.29)〕。他者との対面の必要性の高いそのほかの職業従事者の割合やADIは、小学生のCOVID-19罹患率との有意な関連がなかった。
パンデミックの波ごとに解析した場合も、自宅近隣に卸売・小売業従事者が多いことは第4・5波で、小学生のCOVID-19罹患率と正の相関が認められた。また、解析対象とした第2~5波の中で最も罹患率の高かった第5波では、医療・社会福祉関連業の従事者が多い学区でも正の相関が見られ〔IRR1.16(1.05~1.28)〕、反対に大学卒業者が多い学区では負の相関が見られた〔IRR0.94(0.90~0.99)〕。このほかに第2波では、宿泊・飲食業の従事者が多い学区で小学生の感染リスクが3倍近く高かったことが分かった〔IRR2.85(1.33~6.43)〕。
以上より著者らは、「自宅近隣の社会経済環境が小学生のCOVID-19感染リスクと関連していることが明らかになった。特に、卸売・小売業従事者が多い地区で罹患率が高く、高学歴者が多い地区は罹患率が低い」とまとめている。また、ADIが有意な関連因子として抽出されなかったことから、「感染防止行動に必要な情報の収集、理解、評価とその実践につながる地域住民の実行力が、社会経済的な格差の有無にかかわらず、その地区の子どもたちのCOVID-19感染リスクを押し下げる可能性がある」と考察。「われわれの研究結果は、COVID-19感染リスクの地域格差を是正するための公衆衛生政策に有用な情報となり得る」と付け加えている。
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