国内COVID-19入院患者の精神症状の実態――不眠やせん妄は重症度と相関
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院患者では、ほかの呼吸器疾患患者よりも精神症状発現率が高く、また一部の症状はCOVID-19重症度と相関することが明らかになった。九州大学大学院医学研究院精神病態医学の中尾智博氏らの研究によるもので、詳細は「Brain, Behavior, & Immunity – Health」5月号に掲載された。
COVID-19の後遺症、いわゆるlong COVIDでは倦怠感などの身体症状に加えて、抑うつや不安などの精神症状が高頻度に現れることが知られている。一方、COVID-19急性期の精神症状については大規模研究の報告が限られている。これを背景として中尾氏らは、福岡県内の9病院のDPC(診療報酬包括評価)データおよび精神科カルテデータを用いた解析から、COVID-19入院患者に発生する精神症状の実態の把握を試みた。
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2020年1月~2021年9月に、4件の大学病院、3件の国立病院機構病院、および公立病院、民間病院各1件に入院したCOVID-19患者数は2,743人(平均年齢53.7±22.7歳、女性44.3%)だった。なお、COVID-19以外の呼吸器感染症が併存している患者は除外されている。
36.1%に対して入院中に睡眠薬、11.2%に抗うつ薬、5.8%に抗不安薬が処方され、27.6%には抗うつ薬や抗不安薬およびその他の向精神薬が併用されていた。睡眠薬の処方に関連する因子を多変量解析で検討すると、年齢〔オッズ比(OR)1.03〕、糖尿病(OR1.53)、慢性腎臓病(OR1.59)が独立した因子として抽出された。また、向精神薬の処方に関連する因子の多変量解析からは、年齢(OR1.04)、糖尿病(OR1.29)、認知症(OR1.88)が有意な正の関連因子、BMIが18~25であることは有意な負の関連因子(BMI18未満と比較してOR0.56)として抽出された。
次に、入院中に精神科の介入を要した患者221人(8.1%)に着目し、この患者群をCOVID-19の重症度で分類(厚生労働省の診療の手引き第6版に基づく分類)すると、不眠やせん妄は重症度が高いほど出現頻度が高いという有意な関連が認められた。一方、不安の出現頻度はCOVID-19重症度との関連が見られなかった。
続いて、インフルエンザ入院の患者データを用いて、傾向スコアマッチングにより年齢や性別の分布、併存疾患有病率が一致する各群211人から成るデータセットを作成。両群の薬剤処方状況を比較すると、睡眠薬の処方率はインフルエンザ群が25.1%、COVID-19群が41.7%であり、後者に対して有意に多く処方されていた(P<0.001)。抗不安薬については同順に3.3%、7.6%でやはり後者で高かったが、群間差はわずかに非有意だった(P=0.054)。抗うつ薬は7.1%、10.9%だった(P=0.174)。
同様に、インフルエンザ以外の急性気道感染症と診断されていた患者データを用いて、性別の分布、併存疾患有病率が一致する各群1,656人から成るデータセットを作成(年齢はCOVID-19群の方が若年で有意差あり)。両群を比較すると、睡眠薬の処方率は急性気道感染症群37.0%、COVID-19群40.5%でやはり後者の方が有意に高く(P=0.039)、抗うつ薬についても同順に9.6%、12.9%で後者の方が高かった(P=0.003)。一方、抗不安薬は7.7%、5.9%であり、前者の方が高かった(P=0.039)。
これらの結果から論文の結論は、「COVID-19入院患者は不眠や抑うつ、不安が発症しやすく、他の呼吸器感染症より向精神薬の処方率が高かった。一部の精神症状はCOVID-19の重症度と相関していた。COVID-19は既存の感染症より精神機能へ与える影響が大きいと考えられる」とまとめられている。また考察として、「COVID-19の急性期に発症する精神症状とlong COVIDの精神症状が連続したものである可能性もある」と述べ、この点についての今後の検討の必要性を指摘している。
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