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3月 10 2025 一人暮らしの認知症者は疎外されやすい?
認知症者に対する社会的距離は、認知症の行動および心理的症状(BPSD)を有する一人暮らしの患者でより大きくなることが示唆された。この研究は東京都健康長寿医療センター研究所の井藤佳恵氏らによるもので、研究結果の詳細は「PLOS One」に1月22日掲載された。
認知症者とその介護者は、疾患へのスティグマ(「先入観に基づいてレッテルをはり、偏見をもち、差別する」という、一連の心と行動)による社会的排除に直面している。スティグマは、病気そのものが引き起こす苦痛よりもさらに大きな苦痛をもたらすことがあり、深刻な人権侵害であると言われている。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。スティグマの研究では、スティグマを社会的距離(他の個人との望ましい親密さ、または距離の程度)で測定する方法がある。今回の井藤氏らの研究では、地域住民の認知症者に対する社会的距離がどのような要因によって変化するのかを検討した。
参加者は、オンライン調査会社に登録している国内、地域在住の40歳から90歳までの男女2,589人(平均年齢62.0±10.5歳、女性49.8%)である。この調査では、世帯形態、BPSDの有無の組み合わせが異なる4種類のビネットがあり、それぞれ80代の女性が正常老化から認知症を診断され、軽度、中等度、重度と進行していく様子が描かれていた(A〔家族と同居、BPSDなし〕、B〔家族と同居、BPSDあり〕、C〔独居、BPSDなし〕、D〔独居、BPSDあり〕)。参加者はいずれかひとつのビネットを受け取り、それぞれの病期で、社会的距離を測定するための質問に回答した。
その結果、全てのビネットで、認知症が進行するほど社会的距離が大きくなることが示された。また、すべての病期を通して、ビネットA「家族と同居、BPSDなし」の場合の社会的距離がもっとも小さく、ビネットD「独居、BPSDあり」の場合の社会的距離が最も大きかった。
社会的距離の差が最も大きかったビネットA「家族と同居、BPSDなし」とD「独居、BPSDあり」について、社会的距離に影響を与える要因を探索した。世帯収入、居住地域、認知症に関する知識、認知症患者との接触などを変数とする多変量分析を行った結果、軽度認知症段階では、「認知症に関する知識が多いこと」が社会的距離の縮小と関連していた(ビネットA〔95%信頼区間-0.28~-0.01、p=0.036〕、D〔同-0.26~-0.02、p=0.026〕)。「認知症患者との接触経験があること」は、認知症の全病期を通して、社会的距離の縮小と関連していた(ビネットA〔p=0.001~0.007〕、D〔p<0.001~p=0.006〕)。
井藤氏らは本研究について、「今回の結果は、スティグマに対する介入としての教育の有効性を示すと同時に、その限界をも示すものである。中等度以上の認知症者に対するスティグマに対しては、教育だけではなく適切な準備状況がある社会的接触が必要であり、特に、社会的排除のハイリスク群である、独居でBPSDを示す者に対する方策が重要」と述べている。また、著者らは本研究の限界について、「社会的望ましさのバイアスが働いた結果、参加者はスティグマを過小に報告した可能性がある」と付け加えている。
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軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。
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11月 20 2024 抗てんかん薬の早期処方が認知症リスクの低さと関連
抗てんかん薬が早期に処方されていた患者は、そうでない患者に比べて認知症発症リスクが低下する可能性を示唆するデータが報告された。横浜市立大学大学院医学研究科脳神経外科学の池谷直樹氏らが国内のレセプトデータを用いて行った解析の結果であり、「Alzheimer’s & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions」に9月10日、短報として掲載された。
アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患による認知症(変性性認知症)は、脳内でのアミロイドβやタウタンパク質の蓄積が主要な原因と考えられており、それらの変化は変性性認知症発症のかなり以前から生じていることが知られている。また、変性性認知症と関連しててんかん様の症状を来すことがあり、そのような病態に対しては抗てんかん薬が変性性認知症治療に対して現在使われている薬剤とは別の機序で、進行抑制に寄与する可能性が、基礎実験や小規模な症例報告で示されている。しかし、これまで大規模なデータを用いた研究で、その効果が示されたことがなかった。これを背景として池谷氏らはレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いたコホート研究を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。2014年8月と5年後の2019年8月の外来患者データから、年齢が55~84歳で、2019年時点でてんかんと診断されているが、2014年時点ではてんかんと診断されていない(=新たにてんかんを発症した)患者を抽出した上で、2014年時点で認知症と診断されている患者を除外。その患者群から、傾向スコアマッチングにより背景因子(年齢や性別、併存疾患)を調節し、抗てんかん薬の処方の有無が異なるデータセットを作成した。
評価項目は2019年時点での変性性認知症の診断とし、血管性認知症は評価対象から除外した。なお、データセットは2件作成され、主要解析(コホート1)には、新たにてんかんを発症し、2014年時点で抗てんかん薬が処方されていた患者を含め、抗てんかん薬早期処方の影響の評価を可能とした。二つ目のデータセット(コホート2)は感度分析に用いられ、2014年と2019年のいずれか、あるいは両時点でてんかんの診断がある患者を含めた。
コホート1は各群4,489人(両群ともに女性48.0%)であり、2019年時点で変性性認知症と診断された患者は、抗てんかん薬処方あり群が340人(7.6%)、処方なし群が577人(12.9%)であって、オッズ比(OR)0.533(95%信頼区間0.459~0.617)と、抗てんかん薬処方あり群において変性性認知症の診断が有意に少なかった。コホート2は各群2万3,953人(両群ともに女性48.3%)であり、2019年時点で変性性認知症と診断された患者は、抗てんかん薬処方あり群1,128人(4.7%)、処方なし群1,906人(8.0%)であって、OR0.556(同0.514~0.601)と、コホート1同様に抗てんかん薬処方あり群において変性性認知症の診断が有意に少なかった。
なお、探索的分析として、処方されていた抗てんかん薬のタイプ(広域スペクトルと狭域スペクトル)別に変性性認知症の診断率を比較した結果、明確な違いは認められなかった。
著者らは、NDBを用いた観察的横断研究であることを解釈上の留意点として述べた上で、「てんかん診断前の抗てんかん薬の使用はその後の変性性認知症の発症率の低さと関連していた。これは、てんかんの早期症状(脳波異常などを含む)を基に、認知症の発症を抑える目的で、抗てんかん薬を早期処方することを正当化する根拠となり得る」と結論付け、「前向き研究が必要とされる」と付け加えている。
なお、本研究結果は匿名レセプト情報等を基に、著者らが独自に解析・作成した結果であり、厚生労働省が作成・公表している統計等とは異なる。
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11月 10 2024 日本人の認知機能にはEPA/DHAに加えARAも重要―脳トレとの組合せでの縦断的検討
パズルやクイズなどの“脳トレ”を行う頻度の高さと、アラキドン酸(ARA)やドコサヘキサエン酸(DHA)という長鎖多価不飽和脂肪酸(LCPUFA)の摂取量の多さが、加齢に伴う認知機能低下抑制という点で、相加的に働く可能性を示唆するデータが報告された。また3種類のLCPUFAの中で最も強い関連が見られたのは、DHAやエイコサペンタエン酸(EPA)ではなくARAだという。サントリーウエルネス(株)生命科学研究所の得田久敬氏、国立長寿医療研究センター研究所の大塚礼氏らの研究結果であり、詳細は「Frontiers in Aging Neuroscience」に8月7日掲載された。
認知機能の維持には、食習慣や運動習慣、脳を使うトレーニング“脳トレ”などを組み合わせた、多面的なアプローチが効果的であると考えられている。ただ、それらを並行して行った場合の認知機能に対する影響を、縦断的に追跡した研究報告は少ない。得田氏らは、栄養関連で比較的エビデンスの多いLCPUFAと脳トレの組み合わせが、加齢に伴う認知機能低下を抑制するのではないかとの仮説の下、以下の検討を行った。
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2年間の追跡で、MMSEが2点以上低下した場合を「認知機能の低下」と定義すると、180人(19.9%)がこれに該当。認知機能が低下した群はそうでない群に比べて、高齢で教育歴が短く、ベースライン時点のMMSEが高いことのほかに、ARA摂取量が少ない(140対154mg/日、P=0.005)という有意差が認められた。EPAとDHAの摂取量は認知機能低下と有意な関連を認めなかった。また、性別の分布、喫煙、アルコール摂取量、身体活動量、BMI、基礎疾患有病率、および脳トレの頻度も有意差がなかった。
脳トレの頻度および3種類のLCPUFAの摂取量について、それぞれの三分位で3群に分け、交絡因子(年齢、性別、BMI、喫煙、アルコール摂取量、身体活動量、教育歴、収入、基礎疾患、抑うつ傾向、MMSEなど)を調整して、認知機能の低下との関連を検討すると、脳トレの頻度の高さ(傾向性P=0.025)と、ARA摂取量の多さ(傾向性P=0.006)が有意に関連していた。EPAやDHAの摂取量との関連は非有意だった。有意な関連の認められた脳トレ頻度の高低(週1回以上/未満)、および、ARA摂取量の多寡(中央値以上/未満)とで全体を4群に分けて、双方が少ない群を基準として認知機能の低下のオッズ比(OR)を算出した結果、他の3群は全てオッズ比が有意に低く、双方が多い群で最も低いオッズ比(OR0.415)が観察された(傾向性P=0.001)。
ところで、本研究ではEPAやDHAと認知機能低下との関連が非有意だったが、海外からはEPAやDHAも認知機能に対して保護的に働くことを示唆するデータが複数報告されている。この違いの理由として、日本人は魚の摂取量が多いため、EPAやDHAの平均摂取量が海外の報告より約3倍以上高いことの影響が考えられる。そこで、本研究の対象者のうち、EPA、DHAの摂取量が下位3分の1の人に絞り込んで、上記と同様のサブグループ解析を施行した。その結果、DHAについては摂取量が多いほど認知機能低下のオッズ比が低いという有意な関連が認められ(傾向性P=0.023)、かつ、脳トレ頻度と組み合わせた4群での比較でも、双方が多いことによる相加的な影響が認められた(傾向性P=0.025)。一方、EPAに関してはこの対象の解析でも、有意性が見られなかった。
著者らは、「脳トレ頻度の高さとARA摂取量が多いことの組み合わせは、高齢日本人の認知機能低下リスクを相加的に抑制する可能性がある。また、魚介類の摂取量が少ない高齢者では、DHAも同様に作用すると考えられる」と結論付けている。
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11月 07 2024 呼吸機能低下が認知機能低下に関連――SONIC研究
スパイロメトリーという機器による簡便な呼吸機能検査の結果が、高齢者の認知機能と関連のあることが報告された。大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻の橘由香氏、神出計氏らの研究結果であり、詳細は「Geriatrics & Gerontology International」に8月20日掲載された。著者らは、高齢者対象の保健指導に呼吸機能を鍛えるプログラムの追加を検討する必要性があるとしている。
認知機能低下の主要な原因は加齢だが、喫煙や大量飲酒、糖尿病や高血圧といった生活習慣病など、介入可能なリスク因子も存在する。また、潜在的なリスク因子の一つとして近年、呼吸機能の低下が該当する可能性が指摘されている。ただし、呼吸機能の簡便な検査法であるスパイロメトリーで評価できる範囲の指標が、高齢者の認知機能と関連しているのかという点は明らかになっていない。これを背景として橘氏らは、兵庫県の地域住民対象に行われている高齢者長期縦断研究(SONIC研究)のデータを用いた検討を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。解析対象は、73±1歳の419人(73歳群)と83±1歳の348人(83歳群)という二つの年齢層の集団。各群ともに約半数が女性であり(73歳群は50.1%、83歳群は51.4%)、認知症と診断されている人は除外されている。認知機能は、教育歴の影響が調整される尺度であるモントリオール認知機能尺度の日本語版(MoCA-J)を用いて評価。MoCA-Jは30点満点で、スコアが高いほど認知機能が良好であると判定する。
解析ではまず、スパイロメトリーによる最大呼気流量(PEF)の実測値と、年齢・性別・身長などが一致する人の平均に対する比(%PEF)から、気流制限の重症度を4段階に分類。ステージ1は%PEFが80%以上、ステージ2は50~80%未満、ステージ3は30~50%未満、ステージ4は30%未満としてMoCA-Jスコアを比較した。すると83歳群では、気流制限の程度が強いほどMoCA-Jスコアが低いという有意な関連が認められた(傾向性P=0.002)。73歳群でもその傾向があったが有意ではなかった。
次に、MoCA-Jが25点以下で定義した「軽度認知障害(MCI)」を従属変数とし、性別、喫煙歴、飲酒習慣、握力低値(男性26kg未満、女性18kg未満)、高血圧、糖尿病、脂質異常症、冠動脈心疾患、脳卒中、および気流制限(FEV1/FVCが70%未満)を独立変数としてロジスティック回帰分析を施行。なお、握力低値を独立変数に含めた理由は、呼吸には筋力が必要であり、握力が呼吸機能と独立して関連していることが報告されているためである。
解析の結果、83歳群では気流制限が、唯一の独立した正の関連因子として抽出された(オッズ比〔OR〕3.44〔95%信頼区間1.141~10.340〕)。反対に飲酒習慣は、MCIに対する唯一の保護的因子だった(OR0.37〔同0.189~0.734〕)。73歳群では性別(女性)が唯一の独立した正の関連因子であり(OR2.45〔同1.290~4.643〕)、保護的因子は特定されなかった。
続いて、年齢層と性別とで4群に分けた上で、それぞれの群におけるMCIに独立した関連因子を検討。その際、独立変数として気流制限以外は前記と同様に設定し、呼吸機能に関しては気流制限の有無に変えて、%VC、FEV1/FVC、%PEFという三つの指標を個別に加えて解析した。その結果、4群全てにおいて、%PEFが高いことがMCIのオッズ比低下と関連していた(男性は73歳群と83歳群の両群ともにOR0.98、女性は両群ともに0.99)。%PEF以外では、83歳群の女性において、%VC(年齢・性別・身長などが一致する人の平均に対する肺活量の比)のみ、有意な関連因子だった(OR0.98)。
著者らは、「われわれの研究結果は、%PEFの低下が地域在住高齢者の認知機能低下に関連していることを示唆している。また、喫煙歴はこの関連に影響を及ぼしていなかった。よって喫煙習慣の有無にかかわらず、高齢者の認知機能維持を目的とした保健指導プログラムに、呼吸機能訓練などを組み込むべきではないか」と総括。さらに、本研究ではスパイロメトリーを用いたが、「%PEFのみであれば患者自身が日常生活下で使用可能なピークフローメーターでも測定できる」とし、「%PEFの自己測定を、高齢者の呼吸機能の自己管理に加え、認知機能低下抑止のための行動変容にもつなげられるのではないか」とも付け加えている。
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10月 30 2023 太ったシェフのイラストを食事に添えると、認知症の人の食事量が増える
認知症の高齢者の食事摂取量を増やすユニークな方法が報告された。太ったシェフのイラストをトレイに添えておくと、完食をする人が増えるという。日本大学危機管理学部の木村敦氏、医療法人社団幹人会の玉木一弘氏らの研究結果であり、詳細は「Clinical Interventions in Aging」に9月1日掲載された。
認知症では食事摂取量が少なくなりがちで、そのためにフレイルやサルコペニアのリスクが高まり、転倒・骨折・寝たきりといった転帰の悪化が起こりやすい。認知症の人の食欲を高めて摂取量を増やすため、これまでに多くの試みが行われてきているが、有効性の高い方法は見つかっていない。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。一方、肥満者に減量を促す一つの手法として、食卓に健康を想起させる、例えばランニングシューズなどの画像を添えると、摂取量が減るという研究結果が報告されている。その際、研究参加者の大半は、自分の食欲が食卓に添えられている画像の影響を受けたとは気付いていないという。木村氏らは、減量とは反対に摂取量を増やすという目的にも、この手法を応用できるのではないかとの仮説を立て、以下の検討を行った。
研究対象は、都内の特別養護老人ホームに居住する認知症のある高齢者21人(アルツハイマー病6人、レビー小体型認知症2人、混合型認知症13人)。咀嚼・嚥下機能や視機能の低下、研究期間中に提供される食品へのアレルギーや不耐症のある人は除外されている。BMIは平均20.6±2.8で、1人の男性は25.4であり肥満に該当した。提供する食事は、BMIを含む健康指標を医師と管理栄養士が考慮して決定された。
研究期間は4週間で、各週の平日の昼食に調査を行った。最初の1週間はベースライン調査であり、特に画像を添えずに通常どおりに摂取してもらった。2週目は普通体型のシェフのイラストをトレイに添えて提供、3週目は太ったシェフのイラスト、4週目には花のイラストを添えた。イラストの大きさは150×100mm、紙の色は白で統一し、シェフや花のイラストの下に「食事を楽しみましょう」という文字を記した。なお、被験者が不安や混乱を来すリスクを避けるため、試行条件のランダム化は行わなかった。
評価項目は、完食した回数、および簡易栄養食欲調査票(SNAQ-J)で評価した主観的な食欲関連指標の変化。SNAQ-Jは、食欲や満腹感、食べ物の味などを5点満点で評価してもらうというもの。なお、被験者が完食したか否かは、研究目的・仮説を知らされていないケアスタッフが、目視で確認した。
では結果だが、まず完食回数は、1週目が2.8±1.9回、2週目は3.2±1.8回、3週目は3.5±1.8回、4週目は3.0±1.9回であり、分散分析から週ごとの完食回数に有意な差があることが明らかになった(P=0.031)。また、イラストを添えなかった1週目と、太ったシェフのイラストを添えた3週目との間には有意差が存在した。
SNAQ-Jについては、各下位尺度の中で、食欲や満腹感などは試行条件間の有意差がなかった。ただし食べ物の味については、1週目から順に、3.0±0.7、3.5±0.7、3.7±0.5、3.6±0.5であり、何らかのイラストを添えた3条件ではベースラインの1週目より有意に高値だった。
著者らは本研究を、「画像を利用して、認知症高齢者の体重減少と栄養失調を予防できる可能性を示した、初のパイロット研究」とし、「太ったシェフのイラストという、食欲に関連するステレオタイプの視覚情報が、摂食行動を刺激することが示唆された」と結論付けている。ただし、「試行順序をランダム化していないこと、食事摂取量を目視による完食回数のみで評価していて、摂取エネルギー量や摂取栄養素量への影響を評価していないことなど、いくつかの限界点があるため、今後のさらなる研究が求められる」と付け加えている。
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10月 25 2023 主観的な記憶力の低下が自動車事故リスクに独立して関連
主観的に記憶力が低下したと感じている高齢者は、客観的な認知機能低下の有無にかかわらず、自動車運転中の事故リスクが高い可能性を示すデータが報告された。国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センターの栗田智史氏らの研究であり、論文が「JAMA Network Open」に8月25日掲載された。
高齢期は、買い物や人に会いに行くなど、自立した生活を送る上では自身で車を運転できることが望ましいが、加齢とともに車の運転に必要な視聴覚機能や認知機能が低下し、自動車事故が発生しやすくなることが報告されている。そのため、事故リスクを早期に把握し、何らかの対策を取ることが重要と考えられる。国内では既に、高齢ドライバーの免許更新時に認知機能検査を実施し、認知症の疑いがないかを判定している。
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この研究は、国立長寿医療研究センターによる大規模コホート研究「National Center for Geriatrics and Gerontology-Study of Geriatric Syndromes(NCGG-SGS)」の横断データを用いて行われた。2015~2018年に愛知県大府市などで実施した高齢者機能健診に参加した65歳以上の高齢ドライバー1万2,475人(平均年齢72.6±5.2歳、女性43.1%)を解析対象とした。
主観的な記憶力は、「記憶に関して問題を抱えているか」、「以前より、物を置いた場所を忘れることが増えたか」、「親しい友人、知人の名前を忘れることがあるか」など5項目の質問に対して一つでも「はい」と回答した場合に「低下している」と判定した。歩行速度の低下は、NCGG-SGSのデータベースから算出した基準値により判定した。また、自動車事故は過去2年間の有無、ヒヤリハット経験は12項目について過去1年間の有無を評価した。このほか、同センターが作成した認知機能評価ツールを用いて、認知機能低下の有無を客観的に評価した。
解析は、主観的な記憶力の低下および歩行速度の低下の有無を組み合わせて全体を4群に分類して行った。4群の対象者特性を比較すると、眼疾患の既往、難聴、日中の過度な眠気は主観的記憶低下のみ群、MCR群(両方とも低下している群)において有意に多く、客観的認知機能低下については健常群(主観的認知機能の低下と歩行速度の低下がともにない群)、主観的記憶低下のみ群、歩行速度低下のみ群、MCR群の順で多く見られた。
結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、教育歴、眼疾患や難聴の有無、服薬数、睡眠時間、日中の眠気、客観的な認知機能低下の有無)の影響を調整したロジスティック回帰分析の結果、自動車事故、ヒヤリハット経験ともに、健常群を参照すると、主観的記憶低下のみ群、MCR群においてオッズ比が有意に増加した。具体的なオッズ比は、自動車事故に対しては主観的記憶低下のみ群がOR1.48(95%信頼区間1.27~1.72)、MCR群がOR1.73(同1.39~2.16)、ヒヤリハット経験に対しては同順にOR2.07(1.91~2.25)、OR2.13(1.85~2.45)であった。
これらの傾向は、4群をさらに客観的認知機能低下の有無により8群に分けて解析した場合においても同様であり、歩行速度のみ低下している群においては、客観的認知機能低下を伴う場合に自動車事故のオッズ比が有意に増加した。
これらの結果より、高齢ドライバーにおける主観的記憶低下、MCRの状態は、客観的に評価した認知機能低下の有無を問わず、過去の自動車事故、ヒヤリハット経験と関連することが示唆された。本研究は横断研究であり、主観的記憶低下、MCRの評価を自動車事故のリスク把握に適用できるかを検討するためには、縦断研究や主観的記憶力低下に伴う症状の探索により、本研究で得られた知見を確証する必要がある。
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ドラム演奏で認知症の重症度が分かる――東京大学先端科学技術研究センター
ドラムをたたく時の腕の上げ具合で、認知症の重症度を判定できる可能性が報告された。東京大学先端科学技術研究センターの宮﨑敦子氏らによるパイロット研究の結果であり、詳細は「Frontiers in Rehabilitation Sciences」に5月25日掲載された。著者らは、「この方法は簡便なだけでなく、既存の重症度評価ツールへの回答を拒否されるケースでも、ドラムたたきなら協力してもらえるのでないか」と述べている。
現在、認知症の重症度は、ミニメンタルステート検査(MMSE)といった評価指標を用いて判定することが多い。ただし、認知症が重度になるほど、そのような検査の必要性を理解しにくくなり、検査への協力を得られなくなることが増える。また視覚や聴覚に障害のある場合も、その施行が難しくなったり、判定結果が不確かになりやすい。

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一方、上肢の運動機能が認知症の重症度と関連しているとの既報研究がある。とはいえ上肢運動機能の評価にもハードルがある。そこで宮﨑氏らは、ドラム演奏中の腕の上げ具合によって、上肢運動機能を評価することを試みた。ドラム演奏には、スティックがドラムから跳ね返るためにほぼ筋力を使わずに行えること、リズム反応運動は認知症が重度になっても維持されていることが多いこと、ほかの人の動作の模倣が可能なため認知症の人にも何をすべきかが分かりやすいこと、などの長所がある。また同氏らは以前、ドラムをたたくことが認知機能の改善につながる可能性も報告している。
この研究の解析対象は埼玉県内の特別養護老人ホームの居住者16人〔平均年齢86歳(範囲72~100)、女性12人〕。MMSEは平均14.56±6.89点で、認知症の重症度は軽度(MMSEが21~26点)が4人、中等度(同11~20点)が8人、重度(10点以下)が4人だった。
参加者全員が輪になって座り、進行役の研究者が自分のドラムをたたきながらアイコンタクトや声掛けによって、ドラムたたきを促した。参加者は各自のペースでドラムをたたき始め、次第に周囲のリズムに合わせて、たたくスピードを変えていった。この間、腕時計型ウェアラブルセンサーにより、ドラムをたたく時に上肢がどれくらい高く上がっているか(挙上角度)と、たたくスピードを計測した。そのほか、認知機能と関連があり、かつ上肢運動機能に影響を及ぼし得る因子として、握力も測定した。
年齢、性別、握力、上肢の挙上角度、ドラムをたたくスピードという五つの因子と認知症の重症度(MMSEスコア)との関連を検討すると、それらの因子は相互の関連が少なく、それぞれが個別にMMSEスコアへ影響を及ぼしていることが分かった(分散拡大係数が全て5未満)。
次に、認知症の重症度判定に際して、それらのうちどの因子を用いた場合に、MMSEスコアをより正確に予測できるかを赤池情報量規準(AIC)という指標で検討。その結果、握力とともに上肢の挙上角度を予測モデルに組み入れた時に、最も予測能が高くなることが分かった(R2=0.6035、P=0.0009)。また、ドラムをたたくスピードはMMSEスコアとの関連が少なく、この手法による評価に影響がないことが確認された。
以上より著者らは、「ドラム演奏時の腕の挙上角度から、認知症の重症度を評価できる可能性が示された」と結論付けている。また、「この評価法は簡便、安価、安全であり、医療や介護現場で容易に用いることができる。さらに、ドラム演奏による上肢運動機能や認知機能の改善も期待できるのではないか」と語っている。
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認知症の人に配偶者の死を伝えるべきか?――ケアマネージャー対象調査
認知症の人の配偶者が亡くなった場合に、その事実を伝えるべきだろうか。また、伝えた場合や伝えなかった場合に、どのような問題が発生し得るのだろうか。このような疑問について、国内のケアマネージャーを対象に行った調査の結果が、「European Journal of Investigation in Health, Psychology and Education」に2月8日掲載された。東京大学医学部医学倫理学分野・秩父市立病院の加藤寿氏らの研究によるもの。
認知症の人に対しても自律的な人間として接し、患者本人の知る権利に配慮する必要がある。一方で、配偶者の死という人生で最大級のつらい出来事を知らされることで、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)が悪化したり、うつリスクが増大したり、記憶力低下のために配偶者の死という情報の伝達が繰り返されるという状況も起こり得る。介護の現場では、こうした問題への対応は、しばしばケアマネージャー(CM)がキーパーソンとなって判断されている。そこで加藤氏らは、2019年3~12月に国内で開催された介護関連学会の会場で、CM対象の質問紙調査を行った。

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質問紙は、3人の臨床医と24人のCMによるパイロット研究によって妥当性を確認した後に使用した。回答方法は自記式で匿名とした。707人に配布され、513人(72.6%)から回答を得られ、508人の回答を解析対象とした。75.8%が女性であり、7割以上が10年以上の経験を有していた。
CMの81.3%が、認知症の人の配偶者の死の経験を有していた。その中で、本人への配偶者の死の伝達(以下、情報開示)をした割合は、0~30%が28.1%、40~70%が30.5%、80~100%が34.9%であり、広い範囲に均等に分布していた。情報開示経験のある人の中で、BPSDの悪化に遭遇した経験のある割合は18.4%、うつ病悪化に遭遇した経験のある割合は26.0%だった。
次に、情報開示に関する考え方を問うと、「開示すべき」が39.6%、「開示した方が良い」が43.1%、「開示の必要はない」が14.4%、「開示しない方が良い」が1.2%となった。情報開示の際に考慮すべき事柄を複数回答で選択してもらうと、家族の意向(51.0%)、患者の知る権利(48.2%)、認知症のステージ(25.0%)、本人の性格(24.8%)、うつ病の有無(24.4%)、BPSDの有無(23.2%)、夫婦関係(20.1%)、家族構成(6.1%)、医療提供者の意見(5.3%)などとなった。また、家族が開示に否定的な場合の対応については、「家族の意向を尊重する」が38.6%、「開示のメリットとデメリットを伝えて再考を促す」が39.8%、「患者の知る権利を尊重して開示を提案・説得する」が15.4%だった。
続いて、認知症の人の配偶者の死の経験を有するCMを、情報を開示する頻度が高い(60%以上)群と低い(50%以下)群に二分した上で、属性や上記の質問への回答の傾向を検討。その結果、年齢や性別、CM経験年数に有意差はなく、また、配偶者の死の経験数、開示によるBPSDやうつ病の悪化に遭遇した経験を有する割合にも有意差が見られなかった。
ただし、情報開示の際に考慮すべき事柄として、「本人の性格」を挙げた割合は、開示頻度が高い群は21.7%であるのに対して、開示頻度が低い群は37.2%であり、後者で多く選択された(P=0.007)。同様に「BPSDの有無」を考慮する割合も17.1%、38.8%の順であり、開示頻度が低い群で高かった(P<0.001)。反対に「夫婦関係」を挙げた割合は、開示頻度が高い群が34.9%、開示頻度が低い群は19.8%であり、前者の群で高かった(P=0.007)。
著者らによると本研究は、認知症の人の配偶者の死の情報開示に関する初のCM対象調査だという。結論としては、「情報開示は家族の意向が反映されることが多いが、BPSDやうつ病悪化のリスクも考慮されているようだ。回答者の8割以上が開示に肯定的であるにもかかわらず、実際に開示する頻度はそこまで高くなかったことは、現場のジレンマを表しているのではないか」と総括されている。

軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。