• 太ったシェフのイラストを食事に添えると、認知症の人の食事量が増える

     認知症の高齢者の食事摂取量を増やすユニークな方法が報告された。太ったシェフのイラストをトレイに添えておくと、完食をする人が増えるという。日本大学危機管理学部の木村敦氏、医療法人社団幹人会の玉木一弘氏らの研究結果であり、詳細は「Clinical Interventions in Aging」に9月1日掲載された。

     認知症では食事摂取量が少なくなりがちで、そのためにフレイルやサルコペニアのリスクが高まり、転倒・骨折・寝たきりといった転帰の悪化が起こりやすい。認知症の人の食欲を高めて摂取量を増やすため、これまでに多くの試みが行われてきているが、有効性の高い方法は見つかっていない。

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     一方、肥満者に減量を促す一つの手法として、食卓に健康を想起させる、例えばランニングシューズなどの画像を添えると、摂取量が減るという研究結果が報告されている。その際、研究参加者の大半は、自分の食欲が食卓に添えられている画像の影響を受けたとは気付いていないという。木村氏らは、減量とは反対に摂取量を増やすという目的にも、この手法を応用できるのではないかとの仮説を立て、以下の検討を行った。

     研究対象は、都内の特別養護老人ホームに居住する認知症のある高齢者21人(アルツハイマー病6人、レビー小体型認知症2人、混合型認知症13人)。咀嚼・嚥下機能や視機能の低下、研究期間中に提供される食品へのアレルギーや不耐症のある人は除外されている。BMIは平均20.6±2.8で、1人の男性は25.4であり肥満に該当した。提供する食事は、BMIを含む健康指標を医師と管理栄養士が考慮して決定された。

     研究期間は4週間で、各週の平日の昼食に調査を行った。最初の1週間はベースライン調査であり、特に画像を添えずに通常どおりに摂取してもらった。2週目は普通体型のシェフのイラストをトレイに添えて提供、3週目は太ったシェフのイラスト、4週目には花のイラストを添えた。イラストの大きさは150×100mm、紙の色は白で統一し、シェフや花のイラストの下に「食事を楽しみましょう」という文字を記した。なお、被験者が不安や混乱を来すリスクを避けるため、試行条件のランダム化は行わなかった。

     評価項目は、完食した回数、および簡易栄養食欲調査票(SNAQ-J)で評価した主観的な食欲関連指標の変化。SNAQ-Jは、食欲や満腹感、食べ物の味などを5点満点で評価してもらうというもの。なお、被験者が完食したか否かは、研究目的・仮説を知らされていないケアスタッフが、目視で確認した。

     では結果だが、まず完食回数は、1週目が2.8±1.9回、2週目は3.2±1.8回、3週目は3.5±1.8回、4週目は3.0±1.9回であり、分散分析から週ごとの完食回数に有意な差があることが明らかになった(P=0.031)。また、イラストを添えなかった1週目と、太ったシェフのイラストを添えた3週目との間には有意差が存在した。

     SNAQ-Jについては、各下位尺度の中で、食欲や満腹感などは試行条件間の有意差がなかった。ただし食べ物の味については、1週目から順に、3.0±0.7、3.5±0.7、3.7±0.5、3.6±0.5であり、何らかのイラストを添えた3条件ではベースラインの1週目より有意に高値だった。

     著者らは本研究を、「画像を利用して、認知症高齢者の体重減少と栄養失調を予防できる可能性を示した、初のパイロット研究」とし、「太ったシェフのイラストという、食欲に関連するステレオタイプの視覚情報が、摂食行動を刺激することが示唆された」と結論付けている。ただし、「試行順序をランダム化していないこと、食事摂取量を目視による完食回数のみで評価していて、摂取エネルギー量や摂取栄養素量への影響を評価していないことなど、いくつかの限界点があるため、今後のさらなる研究が求められる」と付け加えている。

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    軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。

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    HealthDay News 2023年10月30日
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  • 一人暮らしでペットを飼っている人は、うつ病リスクが高い?

     ペットを飼っている独居者には、うつ症状のある人が多いことを示すデータが報告された。ペットのいない独居者よりも、そのような人の割合が高い可能性があるという。国立国際医療研究センター臨床研究センター疫学・予防研究部の三宅遥氏らの研究結果であり、詳細は「BMC Public Health」に9月11日掲載された。

     うつ病は各国で増加しており、世界的な公衆衛生上の問題となっている。抗うつ薬で寛解に至るのは患者の3分の1程度にとどまるため、うつ病の発症を予防する因子の特定は喫緊の課題である。これまでに行われた複数の研究からは、独居がうつ病のリスク因子の一つであることが示唆されている。一方で、家族の一員としても捉えられることもあるペットを飼育することが、独居によるうつ病リスクを押し下げるかどうかについて、詳細な検討はされていない。三宅氏らは、一人暮らしの人はうつ病リスクが高いとしても、ペットを飼育している場合は、その関連が減弱されるのではないかとの仮説を立て、同居家族やペットの有無別に、うつ症状のある人の割合を比較検討した。

     この研究は、同センターが中心となり国内の複数の企業が参加して行われている職域多施設研究(J-ECOHスタディ)の一環として、2018~2021年に実施された。大手企業5社の従業員のうち健診を受診した1万7,078人の中で、1万2,847人が本研究のためのアンケート調査に回答した。解析に必要なデータが不足している人を除外し、1万2,763人(平均年齢42.5±12.4歳、女性12.1%)を解析対象とした。

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     アンケートにより、同居家族やペットの有無を把握し、全体を以下の4群に分類した。同居者あり/ペットなし群(54.4%)、独居/ペットなし群(27.9%)、同居者あり/ペットあり群(16.5%)、独居/ペットあり群(1.2%)。また、うつ病のリスクは「うつ病自己評価尺度(CES-D)」で評価し、33点中9点以上の場合をうつ症状ありと判定した。

     まず、独居か否かで二分して比較すると、同居者あり群(9,050人)では27.1%がうつ症状ありと判定され、独居群(3,713人)でのその割合は39.9%だった。うつ病リスクに影響を及ぼし得る交絡因子(年齢、性別、喫煙・飲酒習慣、婚姻状況、教育歴、職位など)を調整後、同居者あり群を基準とした場合、独居群でのうつ症状ありの有病割合比(prevalence ratios;PR)は1.17(95%信頼区間1.09~1.26)と有意に高く、独居がうつ病のリスク因子であることが示唆された。

     次に、前記の4群ごとに、うつ症状ありと判定された人の割合を見ると、同居者あり/ペットなし群は26.9%、独居/ペットなし群は39.7%、同居者あり/ペットあり群は27.9%、独居/ペットあり群は44.2%だった。同居者あり/ペットなし群を基準として、前記同様の交絡因子を調整すると、独居/ペットなし群はPR1.17(1.08~1.26)と、うつ症状のある人が17%多く、さらに独居/ペットあり群はPR1.42(同1.18~1.69)であって42%多いという結果になった。なお、同居者あり/ペットあり群はPR1.03(同0.95~1.11)で、同居者あり/ペットなし群と統計学的に有意な差が認められなかった。

     これらの結果に基づき著者らは、「一人暮らしでのペットの飼育は、うつ症状を有する割合の高さと有意に関連しており、研究仮説は否定された」と結論付けている。また、ペットの飼育がメンタルヘルスに対してマイナスに働いてしまうメカニズムについて、先行研究を基に、「夜間のペットの行動によって睡眠が妨げられることなどが関係しているのではないか」との考察を加えている。

     なお、本研究の限界点として著者らは、横断的解析であるため因果関係は不明なこと、解析対象者に占める女性の割合が低いこと、ペットの種類や対象者本人が世話に関わる程度を評価していないことなどを挙げている。特に一番目の点については、うつ症状のある独居者が孤独感を紛らわすためにペットを飼っているという、因果の逆転を見ている可能性もあるとし、「独居者のうつ病リスクを抑制する介入手段の探索のため、さらなる研究が必要である」と述べている。

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    HealthDay News 2023年10月30日
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