• 禁煙後に体重が3kg以上増えると高血圧リスクが上昇

     禁煙後に体重が3kg以上増加すると、高血圧の発症リスクが有意に高くなることを示唆する研究結果が報告された。ただし、喫煙を継続していた場合は体重増加が3kg未満であっても、高血圧発症リスクが有意に高くなるという。日本医科大学衛生学公衆衛生学分野の大塚俊昭氏らの研究によるもので、詳細は「The American Journal of Medicine」に9月14日掲載された。

     タバコは言うまでもなく体に悪く、高血圧発症リスク因子でもあり、全ての喫煙者に禁煙が推奨される。しかし、禁煙によってニコチンの持つ空腹感抑制作用がなくなることや、味覚・嗅覚および胃粘膜の血流改善によって、食欲が高まることがあり、体重増加を介して禁煙による健康へのプラス作用を弱めてしまう可能性がある。その悪影響の一つとして、血圧の上昇が挙げられる。ただ、禁煙後の体重変化と高血圧リスクとの関連については、不明点が少なくない。大塚氏らは、日本人労働者の健診データを用いた縦断的解析により、この点を検討した。

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     解析対象は、国内精密機器開発メーカーの従業員のうち、健診データと高血圧発症を判定可能な情報がそろっている男性1万354人(平均年齢38.4±8.8歳)。ベースライン時点(2008~2009年)における高血圧既往者、過去喫煙者(喫煙歴があるが既に禁煙していた人)、追跡期間中の新規喫煙者、およびサンプル数不足のため女性は除外されている。

     全体の68.0%は喫煙歴がない「非喫煙群」であり、2.2%は2008~2009年の間に禁煙に成功した「新規禁煙群」で、残りの29.8%は喫煙を続けていた「喫煙継続群」だった。

     平均2.9±0.4年の追跡期間中に、1,032人(10.0%)が高血圧を発症した。発症率を喫煙状態別に見ると、非喫煙群は8.3%、新規禁煙群は12.4%、喫煙継続群は13.6%だった。交絡因子(年齢、BMI、飲酒・運動習慣、高血糖、脂質異常症、高尿酸血症、血圧カテゴリー、高血圧家族歴)を調整後、非喫煙群を基準とする高血圧発症オッズ比は、喫煙継続群は有意に高いものの(調整オッズ比〔aOR〕1.39〔95%信頼区間1.18~1.63〕)、新規禁煙群は非有意だった(aOR1.21〔同0.76~1.91〕)。

     次に、禁煙後の体重変化の影響を検討するため、追跡期間中の体重変化幅が+3kg以上/未満で分け、全体を6群に群分けした上で、非喫煙かつ体重変化が3kg未満の群(5,642人〔全体の54.5%〕)を基準とする解析を行った。前記同様の交絡因子を調整後、非喫煙群では体重が3kg以上増加した場合に高血圧発症率の上昇傾向を示したがわずかに非有意であり、新規禁煙群では体重が3kg以上増加していた場合のみ有意に上昇、喫煙継続群では体重の変化にかかわらず有意に上昇という結果が示された。

     各群の高血圧発症の調整オッズ比は以下の通り。非喫煙群で3kg以上体重が増えた人(1,405人〔全体の13.6%〕)はaOR1.27(0.99~1.62)、新規禁煙群で体重変化が3kg未満の人(169人〔同1.6%〕)はaOR0.90(0.52~1.58)、新規禁煙群で3kg以上体重が増えた人(56人〔0.5%〕)はaOR2.95(1.37~6.35)、喫煙継続群で体重変化が3kg未満の人(2,431人〔23.5%〕)はaOR1.35(1.13~1.61)、喫煙継続群で3kg以上体重が増えた人(651人〔6.3%〕)はaOR1.90(1.43~2.52)。

     著者らは、血圧に影響を及ぼし得る禁煙補助薬の処方状況が考慮されていないことなどを本研究の限界点として挙げた上で、「喫煙を継続した場合、および禁煙後に体重が3kg以上増加した場合に高血圧発症リスクが上昇すると考えられ、高血圧予防のため、現喫煙者に対する禁煙と禁煙後の体重管理が強く推奨される」と結論付けている。

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    HealthDay News 2024年11月11日
    Copyright c 2024 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
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  • 抗てんかん薬の早期処方が認知症リスクの低さと関連

     抗てんかん薬が早期に処方されていた患者は、そうでない患者に比べて認知症発症リスクが低下する可能性を示唆するデータが報告された。横浜市立大学大学院医学研究科脳神経外科学の池谷直樹氏らが国内のレセプトデータを用いて行った解析の結果であり、「Alzheimer’s & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions」に9月10日、短報として掲載された。

     アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患による認知症(変性性認知症)は、脳内でのアミロイドβやタウタンパク質の蓄積が主要な原因と考えられており、それらの変化は変性性認知症発症のかなり以前から生じていることが知られている。また、変性性認知症と関連しててんかん様の症状を来すことがあり、そのような病態に対しては抗てんかん薬が変性性認知症治療に対して現在使われている薬剤とは別の機序で、進行抑制に寄与する可能性が、基礎実験や小規模な症例報告で示されている。しかし、これまで大規模なデータを用いた研究で、その効果が示されたことがなかった。これを背景として池谷氏らはレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いたコホート研究を行った。

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     2014年8月と5年後の2019年8月の外来患者データから、年齢が55~84歳で、2019年時点でてんかんと診断されているが、2014年時点ではてんかんと診断されていない(=新たにてんかんを発症した)患者を抽出した上で、2014年時点で認知症と診断されている患者を除外。その患者群から、傾向スコアマッチングにより背景因子(年齢や性別、併存疾患)を調節し、抗てんかん薬の処方の有無が異なるデータセットを作成した。

     評価項目は2019年時点での変性性認知症の診断とし、血管性認知症は評価対象から除外した。なお、データセットは2件作成され、主要解析(コホート1)には、新たにてんかんを発症し、2014年時点で抗てんかん薬が処方されていた患者を含め、抗てんかん薬早期処方の影響の評価を可能とした。二つ目のデータセット(コホート2)は感度分析に用いられ、2014年と2019年のいずれか、あるいは両時点でてんかんの診断がある患者を含めた。

     コホート1は各群4,489人(両群ともに女性48.0%)であり、2019年時点で変性性認知症と診断された患者は、抗てんかん薬処方あり群が340人(7.6%)、処方なし群が577人(12.9%)であって、オッズ比(OR)0.533(95%信頼区間0.459~0.617)と、抗てんかん薬処方あり群において変性性認知症の診断が有意に少なかった。コホート2は各群2万3,953人(両群ともに女性48.3%)であり、2019年時点で変性性認知症と診断された患者は、抗てんかん薬処方あり群1,128人(4.7%)、処方なし群1,906人(8.0%)であって、OR0.556(同0.514~0.601)と、コホート1同様に抗てんかん薬処方あり群において変性性認知症の診断が有意に少なかった。

     なお、探索的分析として、処方されていた抗てんかん薬のタイプ(広域スペクトルと狭域スペクトル)別に変性性認知症の診断率を比較した結果、明確な違いは認められなかった。

     著者らは、NDBを用いた観察的横断研究であることを解釈上の留意点として述べた上で、「てんかん診断前の抗てんかん薬の使用はその後の変性性認知症の発症率の低さと関連していた。これは、てんかんの早期症状(脳波異常などを含む)を基に、認知症の発症を抑える目的で、抗てんかん薬を早期処方することを正当化する根拠となり得る」と結論付け、「前向き研究が必要とされる」と付け加えている。

     なお、本研究結果は匿名レセプト情報等を基に、著者らが独自に解析・作成した結果であり、厚生労働省が作成・公表している統計等とは異なる。

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    軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。

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    HealthDay News 2024年11月11日
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