-
7月 03 2023 労働時間の変化にかかわらず睡眠時間減少が心理的苦痛に関連――パンデミック下の調査
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下で行われた日本人対象の横断研究から、労働時間の増減にかかわらず、睡眠時間が減った場合に心理的苦痛が強くなる可能性が示された。産業医科大学環境疫学研究室の頓所つく実氏、藤野善久氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Psychology」に3月14日掲載された。
COVID-19パンデミックが人々のメンタルヘルスに大きな影響を及ぼしていることについては、既に多くの研究報告がある。ただし、その影響を労働時間および睡眠時間の変化と結びつけて検討した研究は数少ない。パンデミックの初期には、職業や勤務形態によって労働時間が減る場合と増える場合があった。また、睡眠時間が大きく変わった人も少なくないことが知られている。藤野氏らは、産業医科大学が行っている「COVID-19流行下における労働者の生活、労働、健康に関する調査(CORoNaWork研究)」の一環として、パンデミック下での労働時間と睡眠時間の変化と、心理的苦痛の変化との関連を検討した。
COVID-19に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。2020年12月20~26日(パンデミック第3波の最中)にインターネット調査を行い、2万5,762人の労働者(正社員のほかに派遣・契約社員、在宅勤務者、自営業者などは組み入れ、アルバイトは除外)から有効回答を得た。うつ病と診断されている人や極端な低体重者(30kg未満)などは除外されている。アンケートは、パンデミックの前後で労働時間と睡眠時間がどのように変化したかという質問と、過去30日間の心理的苦痛の程度を把握する「ケスラー6(K6)」という指標の質問で構成されていた。K6は6項目の質問に対して0~4点で回答し、合計24点満点のスコアで評価する。本研究では5点以上の場合を「軽度の心理的苦痛がある」と判定した。
アンケートの回答に基づき、全体を以下の九つのグループに分類。1.パンデミック後に、労働・睡眠時間がともに増加した群、2.労働時間は増加し睡眠時間は変化していない群、3.労働時間は増加し睡眠時間は減少した群、4.労働時間は変化せず睡眠時間が増加した群、5.労働・睡眠時間がともに変化していない群、6.労働時間は変化せず睡眠時間が減少した群、7.労働時間が減少し睡眠時間は増加した群、8.労働時間が減少し睡眠時間は変化していない群、9.労働・睡眠時間ともに減少した群。
解析結果に影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、治療中の病気、教育歴、居住地域(緊急事態宣言が発出された地域か否か)、婚姻状況、12歳未満の子どもの有無、家族と過ごす時間、通勤時間、業種、勤務先の従業員数、就業形態(テレワークの頻度)、職位、仕事上のストレス、経済状況など〕を統計学的に調整し、「軽度の心理的苦痛がある」オッズ比を算出した。
まず労働時間に着目すると、労働時間が増加した群は変化なしの群に比べて、軽度の心理的苦痛がある確率が有意に高かった〔オッズ比(OR)1.15(95%信頼区間1.03~1.28)〕。労働時間が減少した群は変化なしの群と有意差がなかった。次に、睡眠時間との関連を見ると、睡眠時間が減少した群は変化なしの群に比べて、軽度の心理的苦痛がある確率が2倍近く高かった〔オッズ比(OR)1.97(同1.79~2.18)〕。睡眠時間が増加した群は変化なしの群と有意差がなかった。
続いて、前記の5番目の「労働・睡眠時間がともに変化していない群」を基準として9群の比較を行った結果、労働時間の増加・減少・不変に関係なく睡眠時間が減少した場合に、軽度の心理的苦痛がある確率が有意に増加していたことが明らかになった。一方、労働時間が増加しても睡眠時間も増加した場合は、有意なオッズ比上昇が観察されなかった。
オッズ比の有意な上昇が認められた群は以下の通り。2番目の「労働時間は増加し睡眠時間は変化していない群」はOR1.24(1.08~1.43)、3番目の「労働時間は増加し睡眠時間は減少した群」はOR1.98(1.64~2.39)。6番目の「労働時間は変化せず睡眠時間が減少した群」はOR1.94(1.72~2.18)。9番目の「労働・睡眠時間ともに減少した群」はOR2.59(2.05~3.28)。なお、オッズ比の有意な低下が見られた群はなかった。
以上より著者らは、「労働時間にかかわりなく、睡眠時間の減少が心理的苦痛の主な要因である可能性が示された。パンデミックの初期段階での経済的困難を伴う労働時間の減少が睡眠時間の減少を引き起こし、その結果、心理的苦痛を増大させたのではないか」と述べている。また、「この知見は、労働者の良好なメンタルヘルス維持のための睡眠衛生の重要性を物語っている」と付け加えている。
治験に関する詳しい解説はこちら
治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。
-
8月 06 2020 糖尿病黄斑浮腫が透析で改善する
糖尿病黄斑浮腫のために低下している視力が、透析を始めると改善する可能性のあることが報告された。国内多施設共同研究の結果で、福井大学医学部眼科の高村佳弘氏らによる論文が、「Scientific Reports」5月8日オンライン版に掲載された。
糖尿病黄斑浮腫は、眼底の中央にあり視力を司る「黄斑」に浮腫(むくみ)が起き、視力が大きく低下してしまう糖尿病の合併症。同じように糖尿病の眼合併症の一つである網膜症は、治療の進歩により失明頻度が低下した一方で、黄斑浮腫に関しては効率の良い治療法の模索が続いている。
糖尿病黄斑浮腫に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。今回の研究では、新たに血液透析療法が開始された20歳以上の糖尿病黄斑浮腫患者70人、132眼を対象とし、黄斑部の網膜の厚さ(以下、網膜厚)と矯正視力(以下、視力)のデータを、1年にわたり後ろ向きに解析した。なお、70人中8人は、片眼に血管新生緑内障や牽引性網膜剥離を有していたため、対側眼のみを検討対象とした。
主な患者背景は、平均年齢58.91±10.37歳、男性66%、糖尿病罹病期間16.18±9.03年、HbA1c8.52±1.01%、eGFR6.08±2.76mL/分/1.73m2。透析開始前時点で118眼(89.4%)に黄斑浮腫が認められた。観察期間中に行われた眼科的治療は、抗VEGF薬またはステロイドの局所投与が7眼(6.8%)であり、他の93.2%には網膜厚や視力に直接影響する治療は施行されていなかった。
結果について、まず網膜厚の変化をみると、透析開始前は334.0±142.6μmだったものが、透析開始1カ月後には273.4±95.3μm、1年後は266.8±78.5μmで、有意に減少していた(すべての時点でP<0.0001)。ベースライン時の網膜厚が平均値よりも厚いケースに限って検討しても、373.2±149.5μmから1カ月後に285.5±102.5μm、1年後に268.5±68.7μmと有意な改善が認められた(すべての時点でP<0.0001)。また、網膜厚は両眼において同様の変化を示したことから、透析による全身状態の変化が網膜厚に影響を及ぼしたと考えられた。
次に視力の変化を見ると、透析開始前の0.353±0.365から1カ月後には0.318±0.426(P=0.0011)、1年後は0.258±0.361(P=0.0030)と有意に改善していた(logMAR視力のため数値の低下は視力改善を表す)。両眼のうち、ベースライン時の網膜厚が厚い眼のみに限った解析でも有意な改善が認められた。
ただし、透析開始前の視力が0.4以上と未満で群分けして解析したところ、0.4未満の群では有意な視力改善が得られていなかった。透析開始前視力が0.4未満の群でも網膜厚は透析によって有意に改善していたことから、透析開始時にすでに視力が悪い症例においては、透析の導入により浮腫が改善しても、良好な視力改善が得られない可能性が示された。
このほか、漿液性網膜剥離のある眼において特に網膜厚の改善幅が大きいこと、HbA1cやeGFR、BUN、血圧、血清脂質などの全身性因子の値に関係なく、透析により網膜厚や視力の改善が期待できることが分かった。
以上の結果から研究グループでは、「透析開始後、少なくとも1年間は、網膜厚や視力の改善効果が得られることが示された。透析開始前の視力が不良の場合、透析による視機能改善を期待できない可能性があることから、透析開始タイミングの判断に視力も考慮する必要があるかもしれない」とまとめている。また「この研究により、透析による全身状態の改善が、糖尿病黄斑浮腫の形態的、機能的改善に寄与することが示された」との考察を加えている。
糖尿病のセルフチェックに関する詳しい解説はこちら
糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。
HOME>Uncategorized